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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
お正月すぺさる
33/103

「さぁ、コイバナのお時間です」

「は? 下戸の後輩を飲みに誘った挙句に割り勘とか、ただでさえ意味不明な上に何を言い出してやがりますか、この駄先輩は?」



 ただでさえ不細工な顔なのに、心底蔑んだ目で見てくる後輩。

 いやー、見慣れたはずなのに、何故か懐かしく感じる。



「いやいや、分かんなくねーよ? というか、割り勘は正統な取引の結果だろうが!」


「チッ。んで、なんでいつもの居酒屋で、野郎二人が恋話なんぞに花を咲かせにゃならんのです? 女子会ですか?」



 『いつもの』という狙ったとしか思えない名前の寂れた居酒屋で、俺は半分後輩の奢りであるビールを手に、後輩の山本は半分自腹のウーロン茶を手にしながら談笑……いや、罵りあう。



「バッカ、オメーそりゃ『年齢=彼女いない暦』の俺には話すネタがない一方、『年齢≠彼女いない暦』であるお前の話を一方的に聞くと言う、実にワンサイドゲームなネタだからじゃねーか」


「おっほぅ、下衆い。なんて自虐的で下種いチョイス。それは『ぷぎゃー』と指差して嗤ってあげれば成仏してくれますか?」



 はっはぁ、相変わらずむかつく後輩だ。

 まぁ、こいつとのこういうノーガードな殴り合いが楽しいんだけどな。



「黙れフラレ野郎が、俺様は崇高なる独身貴族なのだ。というか、ぶっちゃけ女は眺めるだけで十分。『女性社員がいないからうちの会社に就職した』まである俺様最強説」



 うん、自分で言ってて意味が分からない説だが、酒でテンションがちょっと上向いているが故の発言だ。

 許してもらいたい。あ、やっぱダメっすか? ダメっすよねー……。



「えぇい、古い話を蒸し返しよって。いいんですよ、後腐れなく別れたから。まぁ、『独身貴族最高説』には賛同しますが」



 え、そこを賛同しちゃうのかよ。

 俺も大概だが、お前も大概だなー……。



「でもさー、確かお前の元カノって、ストーカー被害にも遭ってたんだろ? それを真っ向から解決するとか、オットコ前な事までしたのにアッサリ乗り換えられるとか、ぶっちゃけ俺ならもっと荒れるけど?」



 何気にこの後輩、廃スペックなのである。

 性格は俺並に破綻しているし、容姿もこの通りアレではあるが、真っ当な人間では付き合い辛い事この上ない。

 ……おぅ、しまったこれでは褒めてないな。


 だが、地方大学に君臨していた、地元代議士のご長男様をサル山のボス猿から引き摺り下ろし、海外留学と言う名の高飛びに追い込むくらいの悪知恵は働くのである。

 正直に言うと、お前は悪魔か!? と言いたい……。



「まー……俺はこの容姿(ナリ)でしょ? 元々が高嶺の花過ぎたんで、むしろ収まるところに収まったという感じです」


「……さよけ」



 ま、そういう事にしておく。

 男には大なり小なりプライドってやつがあるもんだ。

 無意味だったり無価値だったり無駄だったり無用だったりするけど、失くしてしまう訳にもいかんのです。



「で、実際の所、なんでこんな話を振ったんです?」


「え? なんでだっけ?」



 えー……っと、なんでだったっけか?

 確か……。



「何か知らんが、俺みたいな下種に好意を寄せてくる女がいるんだわ。それがすっごい年下でな……」



 あれ? 俺が27+17で17歳だから、同い年だっけか? まぁ、どっちでもいいか。



「そのシチュエーションが、お前と似てるなーって思って、お前の話を聞きたかったんだよ」



 うん、多分、そう……だったと思う。



「え、なんすか? 結局、半額奢らされた上に惚気話を聴かされるんすか? え、これ罰ゲームか何か?」



 おー、言われてみると本当にそうだ。

 何コレ、マジウケる。



「ウケねーよ、堕先輩が」


「いやいや、人のモノローグにツッコミ入れるなよ!?」


「はいはい。んで、マジレスすると、付き合えば良いじゃないすか。いいとこのお嬢様で、結果的には先輩が助けたようなもんでしょ?」



 あれ、この後輩ものっそ軽い?!

 見た目鈍重そのものなのに、ものすんごい軽い!?



「うるせーよ!? ほっとけ! だって、他に言いようがないでしょうが? どうせ、『一度見捨てておきながら、好意を持たれたからって付き合うなんて下種いんじゃボケ! その娘が可哀相だから、バッサリ振って嫌われて来い!』とか言って欲しかったんでしょ?」


「うぇ!? あ、うん」



 やだ、この後輩鋭いッ!



「まー、俺も似たような事を考えて、最初は彼女を振りましたが……まぁ、結果はご覧の通り。一時はそういう仲になりました」



 そう告げる後輩は、グラスに残っていたウーロン茶を一気に呷った。



「でも、結果的には別れたんだろ?」



 対する俺の手には、半分以上残っているビール。

 生まれ変わってから、一度も飲んでいなかった懐かしい物の筈なのに、ペースが上がらない。



「そっすねー。でも、これは強がりとかでなく、付き合っておいて良かったと思ってますよ。何というか、まー……身も蓋もない言い方をすると、付き合わないのは『勿体無い』んですよ」


「もったいない?」


「そ。俺も先輩も、基本的には他人とつるむの大っ嫌いなぼっち野郎じゃないすか」



 俺もこいつも、他人とのコミュニケーションというのがヘタクソだった。



「こういう、気兼ねなくぶん殴り合えるってのもいいですが、所詮は同病相哀れんでいるだけ。野郎二人で傷の舐め合いとか、腐女子が喜ぶだけで誰も得しねーっす」



 俺もこいつも、やられたらやり返すというスタンスだったので、互いに言いたい放題罵り合った。



「俺達じゃ腐女子も喜ばねーよ」



 こんな風に、相手を気遣う必要のないやり取りは実にお手軽で、真っ当な社会性(コミュニケーション)からは遠ざかる一方だった。



「はっは。そんな中、向こうから近付いてきてくれたんだから、ぐだぐだ言わずに向き合ってダメ出しされてフラレて来い」


「フラレる前提かよ」


「当然でしょうが。自分でバッサリいく勇気がねーんなら、バッサリ切られる覚悟をするしかねーでしょうが? テメーのキタねーモン全部見せて、それでも受け入れてくださいって頭下げて、バッサリフラレて来い。ぷぎゃー」



 ぐぬぬ……。



「何も言わないけど、察して下さい。なーんてアホな事は通用しねーんすよ。ほら、分かったら行った行った」



 負け犬を追い払うかのように、シッシッと手を振る後輩。

 悔しいが、今回は……いや、結局毎回か?

 まぁ、何にせよ……俺の完全敗北らしい。





「……知らない天井……」



 とりあえず、お約束なので言ってみたが、当然知らない訳がなく、クレフーツ男爵家(実家)の俺の部屋の天井だ。



「ぐぬぅ……」



 途中から夢と気付いてはいたものの、随分と久し振りに見た後輩はやはりムカツク奴で、クッソ頼りになる奴だった。

 前世、事実上の奢りという、あのサシでの飲み会で、俺は会社の後輩であるあの変人と言葉の殴り合いに興じた。


 そこで得た知識、知恵、経験は、これまでの新しい人生で遺憾なく役立てさせてもらった。

 奢ってくれた上に役立つ知識をくれて、マジサンクス、山本!


 というか、初夢にお前が出てくるとか、どんだけ悪夢なんだ!!

 え、何? 俺、今年死ぬの? ってくらい、縁起悪ィな、おい。



「んぅ……」



 そして、妹よ、我が女神よ!

 お兄ちゃん、お前にネグリジェはまだ早いなって思う。

 というか、もうじき16歳だと言うのに、兄のベッドに潜り込んでくるとか、どうかと思うよ?


 あ、だからと言って、彼氏とか連れてきたらコロコロしちゃうからアカンよ。

 そう思って頭を撫でてやると……。



「にゅふ~……」



 と、寝言で鳴くマイゴッデス。

 あー、もう、うちの妹世界一可愛いなぁ!

 因みに、男性部門世界一は我が弟ナリ!(但し、こちらは身内の贔屓目を認める)


 さて、そろそろ王城じゃ色々とケリが着いて、王子達の処遇を考える頃かな?

 前世の後輩にゃ報いてやれなかったし、こっちの後輩に還元するか。


 特待生として学園に戻る事はできないだろうけど、ガラハッドなら冒険者として十分やっていける実力はある。

 ジェシカ(姐御)あたりに任せれば、いいように面倒を見てくれるだろう。


 トリスタンも、辺境伯家の跡取りなんだから、無茶は周囲がさせんだろ。

 本人だって、流石にそれが分からないほど脳筋じゃないはず。


 一先ず、ガラハッドを説得する為に王城へ行って面会して……して……アイリーン嬢にも面会せんとあきまへんか?

 ぅー……いや、うん。きっと、気のせいだ。

 モテない男の自意識過剰だ。うん。大丈夫大丈夫、問題ない!


 そもそも、こんな冴えない男に……母親の遺伝子のおかげか、前世よりは格段に良いが……とにかく、フツーの男に、あんなトップクラス(モデル真っ青級)の美少女が惚れるとか、ないわー。

 第一、俺、アイリーン嬢には目の敵みたいに扱われていたし?

 責任感の強い子みたいだし、きっと自分が人身御供になります!的な協力姿勢なのだろう。うん、その筈だ。


 だから、夢に出てきた後輩よ。

 とりあえず、これで勘弁してくだ()い。

 まだ、そこまで覚悟決まらんとです。

あけましておめでとうございます。


拙い作品にここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。



初夢って、いつ見た物の事を言うんでしょうか?

1日の夜? 2日の夜?

この『夜』っていうのも具体的には何時頃?

1月1日の00:00以降って事?

それとも、1月1日の日没以降に寝て見た夢?


などなど、何日の何時に公開しようか迷ったので、とりあえずいつもと違う時間の予約投稿と相成りました。




今回の話はお気付きだとは思いますが、キャストンの視点で書かれています。

こういうピンポイントな話なら、世界観のネタバレには繋がらないので、本来あるべき形でお送りさせて頂きました。


「コイバナって言うから、ヒロインの赤裸々トークが展開すると思ったのに!」とお怒りの皆様、あざっす!

その怒りが作品の力となります。


お正月特番的なノリの、本編とはあまり関係ないと言いつつ、そこそこ関係ある話でした。


まぁ、ご覧の通り、キャストン・クレフーツの基本はアホです。

こやつがこのルートでここまでやってこれたのは、『後輩(但し、邪悪)』との付き合いで培われた物のおかげでした。

惜しむらくは、この後輩氏、どこぞの月の裏側にいるような『万能系後輩(但し、マジ邪悪)』のように可愛くはないという点か……。



ここまで、キャストンは楽勝ムードで進んできましたが、それはこの後輩氏や『愛の伝道師』によって鍛えられ、影に徹してこれた為というのが大きいです。

目に付かないところでは色々と苦労していましたし、取りこぼしも多いです……ガラハッドなんかはその最たるもの。

何せ、アホな上に面倒臭がりなので……。


そして、ヒーローとは遅れてやってくるもの!

次回より真打登場!

作者もシュガー吐きまくりです。

大丈夫だ、グレイシア。お前もちゃんと最終的には幸せになれるから。

兄離れの難しいフレアよりは、早く幸せになれるから……。



それでは皆様、本年もよろしくお願いします。

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