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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
敵は眼前にあり!
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第3話

「はぁ……何を言い出すかと思えば……貴方は本当に、王族としての教育を受けて来られたのですか?」


「な!?」


「分かりませんか? 分からないでしょうね。分かった上での発言でしたら、本当に救いようがない」


「き、貴様! 私を誰だと」

「貴方は、国家運営に準ずる生徒会運営において、人事を蔑ろにし、役員でもない人間の意見を重用し、専横を極めた阿呆だと自白したのですよ?」



 酒月さんを中心に閉じた世界に対し、不敬と言われても仕方ない舌鋒で切り捨てるキャストンさん。

 皆さん、彼の仰りように愕然とされていますが……多少は付き合いのある私は、これで理解させられてしまいました。


 つまり、この瞬間を以ってして、アーサー様を敬う必要は対外的にも失せた、という訳ですね……。



「な、何を言ってやがる! お前だって、役員でもないのに、そこの女を手伝っていたじゃねーか!!」



 ケイ様が、恐れと怯えとそれらを辛うじて抑えている敵愾心を込めて、何とか反論する。

 それにしても、侯爵家の三男という立場で、私を『そこの女』呼ばわりですか……。



「はぁ……自分達の主張も忘れる程度の頭しか持っていない輩は、もう黙っていてくれないか? それとも、生徒会の業務を放棄していたと君達が訴えるところのグレイシア様を手伝う……という画期的な方法があると言うのなら、是非とも拝聴したいところだが? あぁ、それとも、業務を放棄していたなんていうのは、第一王子の言いがかりだったという証言かな?」


「い、いや、それ、は……」


「ま、いずれにせよ、その指摘は見当ハズレもいい所だ。自分は生徒会室を不当に占拠され、生徒会業務を遂行するに当たって不備が生じた生徒会役員3名に対し、学園事務局を通じて新たな活動拠点として、学生自治監視機構の一室を提供したに過ぎない。役員は3名のみと、人手は足りないようだったが、それ以上協力する権限、及び権利は有していないので、それ以降に関しては与り知らぬ事」



 はい。部屋は用意して頂けましたが、キャストンさん自身は一切手伝ってくれませんでした。

 ですから、副会長であるランスロット様の権限で、正式な申請を経て数名、臨時に手伝ってもらったりもしましたが、キャストンさん自身は監視機構の所属という事で、その対象にはなっていません。



「では、先月、11月の4日に学園の女子寮で起こった盗難事件に関しては如何でしょう?」



 自陣営の旗色が悪い事を察したガラハッド君が、新たな事案をぶつけて流れを変えようとしてくる。



「その事件なら、現在も捜査が難航しており、今のままでは(・・・・・・)迷宮入りという事になるだろうね。それがどうかしたかい?」


「よくもまぁ、ぬけぬけと……その事件の被害に遭ったのは聖先輩です。無くなったのはアーサー殿下から贈られた指輪でした。そうですね、聖先輩」


「う、うん。アーサー様からもらった大事な指輪だったのに、失くしちゃってごめんね」


「聖が謝る事ではない。指輪くらい、また買ってやろう」



 かなり強引な話題転換であるにも拘らず、キャストンさんは鷹揚に受け応える。

 ガラハッド君が確認するように酒月さんに尋ねると、それをきっかけにアーサー様と二人の世界を構築し始めます。


 自分が矢面に立っているのに、この反応ではガラハッド君もちょっと思うところはあるようですが、とりあえずは気持ちを立て直したようで、更に続けます。



「実は、この事件の起こる3日前に、聖先輩は自室の鍵を紛失されています。そして、翌日に鍵は拾得物……落ちていた物を拾ったという事で届け出られました……グレイシア公爵令嬢のご友人である、アイリーン・アシュフォード侯爵令嬢によってです。これは、学園事務局に正式に提出されている書類にも記されています」



 アイリーン侯爵令嬢というのは、ゲームにおけるグレイシアの取り巻きAであり、兄の婚約者にしてガウェインルートにおけるメインの悪役令嬢です。

 生徒会の臨時役員として、手伝ってもらった一人でもあります。



「それで、君は何が言いたいのかな? まさか、天才魔法士にして、特待生という優秀な頭脳の持ち主であるガラハッド・エレイシスともあろう者が、そんな単純な理由で公爵家のご令嬢を疑っているのかい?」


「何を白々しい! そこの女が取り巻きを使って聖先輩の部屋の鍵を盗ませて複製。それを使い部屋に侵入して指輪を盗んだ。動機は単純、婚約者であるアーサー殿下が他の女に指輪を贈った事が許せなかったんだ!」



 そう断言して、まるで名探偵が謎を解いたかのように、得意気になって私を糾弾するガラハッド君。



「盗難事件があった事は知っておりますが、殿下が神子様に指輪をお贈りされていた事も、まして、アイリーンさんが落し物を拾っていた事も、今まで存じ上げておりませんでした」



 いえ、指輪を贈るイベントや、それが盗まれたというイベントが、ゲームにあった事は知っていますよ?

 ですが、それ以前に婚約者のいる身で他の女性に指輪を贈るって、この世界でもアウトですよ?



「ふん。そんな言い訳が通用するとでも? この学園は王侯貴族の子弟も通い、その寝食の場である寮も厳重な警備が施されている。鍵を複製しない限り、何の痕跡も残さずに他人の部屋に侵入するなんて事は出来ないんだ! そして、鍵を複製する事が出来たのは貴女方以外に」

「はいはい、それまで。では、まずこちらをご覧頂こうか」



 自論を熱く語るガラハッド君の台詞を途中で遮り、キャストンさんが懐から水晶玉のような物を取り出します。

 ……この流れは……おそらく、ここから彼の『暴虐』と『理不尽』が始まるのでしょうね……。



「ぐ……人が喋っていr」

「黙れ、蒙昧。聞くに堪えん。特待生という多大なる期待を背負った身でありながら、真実から目を背ける道化に成り果てた愚物が。先達が貴様の知らぬ技術を開陳してやろうというのだ、頭を垂れて傾聴しろ」


「んな?!」



 キャストンさんの全身から、物理的な力を伴った殺気が放たれます。これこそ、人外の化物(キャストンさん)の『暴虐』たる、『威圧(物理精神同時)』の力。

 その殺気を向けられた訳でもない私でさえ恐怖に身が竦み、風という形の余波がドレスの裾を揺らします。


 直接それを浴びたガラハッド君は……おそらく、斬り捨てられて亡骸を踏みつけられた自分の姿でも幻視できたんでしょう。完全に腰が砕けて座り込み、その表情は真っ青を通り越して真っ白です。


 ゲームのガラハッド君を攻略する上で、必須のイベントがあります。


 それは、幼い頃から大病を患う、彼の妹を救う事。彼女の治療に必要な薬の材料を、とあるダンジョン最深部まで取りに行くのを手伝うイベントです。

 キャストンさんも、妹であるフレアちゃんを大切にしているので、ガラハッド君には期待していたようですが……結果はご覧の通りでした。



「さて、だしたる水晶のようなこの珠。何を隠そうただの水晶なんてケチな代物ではありません。それでは、とくとご覧あれ……」



 キャストンさんが放った殺気により、しわぶきひとつ聴こえない静寂に包まれた会場の中で、張本人がおどけた口上を述べます。

 その手のひらの上には、先程取り出した水晶玉のような物が鎮座しています。大きさは指で摘める程度ですね。

 そして、その球体は光を放ち始め――



「キャストン様……それはいったい何ですの?」


「今ご覧頂いているのは、とある一室の扉の前の光景ですよ、グレイシア様。日時は11月1日の夕方……おや、丁度、盗難事件とやらがあったとされる時期ですね」


「いえ、そうではなく……いえ、それも疑問と言えば疑問なのですが、それよりも、その魔導具らしき物はいったい何なのですか?」



 映写機がフィルムをスクリーンに映し出すかのように、球体の放った光は、その少し上空に結像する。

 多分、ビデオカメラとか、そんな感じの機能を持った魔導具なのでしょうが、私も初めて目にするので尋ねてみました。



「あぁ、こちらでしたか? これは、指定した範囲の光景を記録する魔導具で、『見守る君』と申します。……ネーミングでお気付きかもしれませんが、妹が開発した魔導具です」



 魔導具というのは魔力によって動作する道具の総称です。

 そして、彼が開発した舞台効果魔法も音響魔法も、すべて妹であるフレアちゃんが開発した魔導具という事になっています。

 それというのも、キャストンさんは魔法が全く使えないという事になっているからです。


 この世界には魔法がありますが、それを実戦で使用できる人となると、そう多くはありません。

 逆に、生活魔法と呼ばれる、戦闘では用を成さないものの、日々の暮らしでは非常に役立つ魔法を使える者は多いです。


 戦闘魔法を行使できる者は、『光』『木』『火』『土』『金』『水』という6種の属性のうち、何れかの加護を受けており、生活魔法を行使できる者は『無属性』と呼ばれております。

 戦闘魔法と生活魔法の両方を行使できる者はほぼおりませんが、この世界の住人は一部の例外を除いて、どちらかの魔法を使う事が出来ます。


 キャストンさんは、本来であれば生活魔法を使う事の出来る『無属性』と呼ばれる層に属しているのですが、戦闘魔法は勿論、生活魔法さえ既存の物は使えません。


 そう、彼は既存の魔法を使えない代わりに、全く違う理論の魔法を編み出す事が出来るのです。これぞ、人外の化物(キャストンさん)の『理不尽』たる、『別理論の新技術』です。

 何故そんな事が出来るのかと問えば、彼は「それが俺のチートだから」としか教えてくれませんでした。


 結局の所、彼の開発した魔法は彼自身とフレアちゃんにしか使えず、魔導具という形に落とし込んだり、フレアちゃんがなんとか再編集して、キャストンさん以外でも使えるようにしたりしているようです。


 そうしている内に、兄は魔法を全く使えない落ちこぼれ、妹は次々に新魔法、新魔導具を開発する天才として評価されるようになってしまいました。

 フレアちゃんはその評価に大変思うところがあるようですが、キャストンさんはどこ吹く風と一向に気にしていません。



「因みに、この部屋が何方の部屋かと申しますと……」



 と、キャストンさんが言っている内に、魔導具の映し出す映像に酒月さんが映ります。

 映像の中の彼女は、虚空から鍵を出し、扉を開けて室内へと消えていきます。



「ご覧の通り、そこの神子殿のお部屋の前に配置している物でした」


「な!? ちょっと、私の部屋を盗撮していたの?!」



 自室の前を監視されていた事を知り、酒月さんが色めき立つ。



「おっと、誤解のないように。この『見守る君』は、神子殿の警護の為に、学園の死角を潰す(・・・・・・・・)ようにと、2年前に神聖教会からの強い要望で、学園内の至る所(・・・・・・・)に設置する運びとなったものです。また、王侯貴族の子弟が生活する学園の警備強化の為に、王国からも予算が出ております。無論、寮内の私室等、私的な空間は一切記録されないように配置されておりますので、皆様もご安心を」



 その言葉に、会場の皆さんも、安心出来るような出来ないような、そんな微妙な表情を浮かべられます。

 まぁ、知らない間に監視カメラが設置されていた訳ですから、プライベートエリアは映っていないとは言え、何を撮られているか分かった物ではありませんものね。


 とはいえ、国と教会の両方が共同して取り決めた事に、学生の身で異を唱えられる筈もありません。



「さて、今しがた皆様にもご覧頂いたように、この2年間、『見守る君』は神子殿の私室の前を文字通り見守り続けて参りました。無論、盗難事件があったとされる日にも」


「そ、そうだ、だったら、犯人m」

「黙れと言ったぞ、小僧。曲がりなりにも天才と称されたのなら、ここまでの俺の言葉から事実に辿り着け」



 あ、今のは私にも見えました。それほどに強烈な殺意が放たれ、刃となってガラハッド君を貫きました。

 ガラハッド君は心臓の辺りを手で押さえ、そのまま気を失いました。……死んではいませんよね?



「おい、エレイシス!」



 倒れこむガラハッド君を、トリスタン様が支えます。

 恐怖……いえ、畏怖の念が篭った瞳で、トリスタン様がキャストンさんを睨みます。



「ですが、先程も申し上げたように、この事件の捜査は難航しております。それは何故でしょう? 答えは簡単。この2年間で、一度たりとて、神子殿以外に鍵を使って、神子殿の私室に入室した者は記録されていないからです」



 そして、何事もなかったように口上を続けるキャストンさん。

 いえ、或いはそれは温情かもしれませんね。何せ、ガラハッド君は気を失った際に……これ以上の説明は、乙女として断固拒否致しますわ!


 何にせよ、そんな状態のガラハッド君を支えたトリスタン様は出来た殿方です。



「……それは、事実なのか、クレフーツ。見落としや、魔導具の故障はないのか?」


「……次は貴方ですか、リオネス殿。何故、貴殿はまだそんな所にいるのでしょうね? 貴方ほどの御仁なら、いい加減目が覚めても良い頃だと思うのですが? それとも、貴殿を過大評価をしていたのでしょうか? していたのでしょうね。ガッカリです。自分の人を見る目の無さに。それで、ご質問は以上ですか? 以上ですね。猪武者の貴方では、それ以上の質問なんて出来ませんよね?」



 とか思っていたのに、バッサリ斬り捨てましたわ、この人!?

 あぁ、トリスタン様が捨てられた子猫みたいにシュンと項垂れています……。


 トリスタン様は辺境伯家の次男で、亡くなられたお兄さんの代わりに継嗣となられた、正に謹厳実直を絵に描いたような武人です。はい、『謹厳実直』です。

 嘘塗れのあちら側にいて良い人ではないのですが……恋は盲目という事でしょうか?

拙い作品をここまでお読みくださり、ありがとうございます。

明日もこの時間に公開されますので、よろしければお待ち下さい。

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