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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
宰相は辛いよ編
26/103

第6話 不穏な会議の始め方

大変お待たせしました。


今回は説明回的な話&爺さん大暴れ回です。

 件の舞踏会から一夜明け、王城の会議室には朝早くから重苦しい空気が立ち込めている。

 まぁ、それも無理からぬ事だ。

 何せ、この空間にいるのは加害者の親と、被害者の親族なのだから……。



「それで、年の瀬も迫ったこの忙しい時期に、何故我等は朝も早くからここに喚ばれたのでしょうか。宰相閣下」



 そう言って、威圧してきているのはこの国の軍務大臣であり、ブリタニア建国の頃から功のあるアシュフォード侯爵家の当主。オーガスト・アシュフォード殿だ。



「見たところ、皆主流派であるという点以外は、精々年頃の娘が身内にいるという程度で、これと言った共通点はないように見受けますが、如何なご用件でしょうか?」



 当然、喚び出された理由を知った上で尋ねており、ここで私が対応を誤ると、傘下の軍系貴族に檄文を送りつける……と、目が語っている。



「……この度は、愚息が皆様のお身内に狼藉を働き、誠に申し訳ありませんでした」



 故に、私が最初にとるべき行動は、潔く謝罪する事だ。



「アレには必ず相応の報いを受けさせます。ですので、まずはお身内を救う為に、どうか私の話を聞いて頂きたい。お願い致します」



 立ち上がり、首を差し出すかのように深く頭を下げる。

 隣の席では、エクトル侯爵も頭を下げている。


 これが、他国の使者や、反主流派の貴族相手であったならば、こちらに明確な非があっても立場の問題で頭を下げる訳にはいかないが、同じ主流派が相手である以上、頭を下げて誠意を見せるより他にない。



「……いいでしょう。私も、具体的な事情まではまだ知りませんし、娘の状態も把握できていません。是非とも聞かせて頂こうではありませんか」



 一先ず、喉元に突きつけられていた、目には見えない刃を収めてもらえた。


 私もエクトル侯爵も座り直し、愚息達の仕出かした事を説明していく。

 無論、一月以上前に、既にこの事態を掴んでいたなんて余計な事は言わない。


 そんな事を知れば、彼らは私以上に悩む事になるだろう。

 即ち、もっと早く助け出すべきではなかったのか、と……。


 神聖教会の教えのせいで、貴族といえども恋愛結婚が主流となっているが、それでも貴族の結婚相手には家格の釣り合いが求められる。

 当然、親は子供の連れてきた結婚相手の事を調べる。

 その時、こんな事件の被害者だったと知られれば、ほぼ確実にその結婚は反対される事となる。


 そして、貴族の娘が結婚できないというのは、世間から非常に厳しい目で見られる。

 あのバカ騒ぎを隠れ蓑にせず、早期に事を解決するというのは、自分の娘以外にもそんな境遇を強要させるという事なのだ。


 それでも悩んでしまうのが親というものである以上、余計な事は言わないに限る。



「なるほど……第一級の禁制品『魔薬』ですか……そんな物を使われ、挙句にそのような目に遭えば、我が娘といえど冷静な対処は難しいですな……して、公爵閣下はこの件をどのように対処なさるおつもりですかな?」



 下手な事を言えば、今すぐ素っ首叩っ斬る。と目で語りながら、アシュフォード侯爵が尋ねてくる。



「それについてなのですが……魔薬を服用した者を治療できる、という者がおります。その者をここに喚び、治療法について説明させます」


「ほう」



 アシュフォード侯爵達が興味を示したその時、会議室の扉が四度叩かれる。

 まるで図ったかのような……いや、あの男の事だから、実際にこの会議室の状況を把握しているやもしれん。


 内容が内容だけに、この会議室の中には使用人や護衛の類は一切いない……という事になっている。

 なので、扉一つ開けるのも、我々が手ずから行わなければならん。



「失礼致します」



 そう言って、エクトル侯爵が開いた扉から現れたのは、赤毛の男。キャストン・クレフーツだ。

 そして……。



「ほっほ。儂も邪魔するぞい」


「マーリン先生?!」



 何故かキャメロット学園の長であり、魔法研究の第一人者でもあるマーリン学園長がいた。



「非常に面白い話が聞けそうだったので、儂も参加させてもらうぞ。心配せずとも、ここでの話は口外せんし、何より儂の学園で起こった事件。儂にも、事態を把握する義務があろうて」



 ここにいる者の中で、キャメロット学園に通っていなかったのは、武官である第二騎士団団長のバーナード男爵のみ。

 つまり、彼以外全員が一度はマーリン先生の教えを受けているという事。

 それ即ち、研究者としての先生の性格と、その力を理解しているという事。



「……わかりました。どうぞ、こちらへ」



 エクトル侯爵に案内され、その隣の席に座るマーリン先生。

 ほぼ全員が追い返す事を諦めた顔だ。



「お初にお目にかかります。自分はキャストン・クレフーツと申します。お忙しい中恐れ入りますが、しばし自分の話にお付き合い下さい」



 そんな中、抜かりなく、最低限の作法で一礼するキャストン・クレフーツ。

 この状況下で、杓子定規に長々と礼を尽くした挨拶などした日には、逆に不況を買うからな……。


 そして、そんな挨拶に反応した者が一人。



「クレフーツ? 君はコンラッド・クレフーツの縁者かね?」



 そう発したのは、内務省財務局次長のリーランド子爵だ。

 反主流派との激戦区である内務省で高い地位に食い込んでいる、今回集まった被害者親族の中でも、上から三番目か四番目に重要な人物だ。



「はい。コンラッドは父です。リーランド様には常から父がお世話になっております」


「う、うむ。気にしないでくれたまえ」



 まぁ、一財務局職員で無所属のクレフーツ男爵に、子爵が世話を焼いた事などないのだがな。

 それどころか、反主流派貴族の職員による、クレフーツ男爵への嫌がらせじみた行為を見逃している始末だ。

 あぁ、確かに世話になっているな。悪い意味で。


 それを反主流派への攻撃材料にして欲しいくらいなのだが……もしかして、リーランド子爵も嫌がらせしている連中同様に、クレフーツ男爵夫人(あの女傑)に懸想していた口か?



「さて、まずは手始めに魔薬に関する説明をさせて頂きたく思います。第一級の禁制品とは言え、皆様は詳細を知らないかと思いますので」



 などと考えているうちに、リーランド子爵との会話は終わっており、魔薬の説明に入っていた。

 これも、私が受けた時よりも詳細な事が判明しているのだが、余計な考えを持たれないよう適度に省き、必要最小限の説明に留める。



「服用者が魔人と化す『魔人薬』ですか……つまり、私の娘は気付かぬ内に魔族にされかかったと、そういう事ですか?」



 アシュフォード侯爵をはじめとした関係者が重苦しい息を吐く。



「いえ、正確には今も着々と変容しつつあります」


「な!?」


「ここから先は、今から配布する資料をご覧頂きながら説明致します」



 侯爵達が驚く間もなく、アイテムボックスから資料を取り出して配るキャストン・クレフーツ。



「あ、それと、この資料は個人的に秘匿性の高い情報が含まれておりますので、後ほど回収させて頂きます事、ご了承下さい」



 などという注文も付け足してくる。



「むむ! ほほぅ、これはこれは……どうしても回収するのか?」



 すかさず資料を読み進め、一人でうんうん唸って感嘆していたマーリン先生がもの欲しそうに抗議の声を上げる。

 貴方は何をしにきたのですか……。



「……学園長。お読みになったのでしたら、それが自分にとって生命線とも言えるほどの重要な情報を含んでいる事はお分かりでしょう?」



 非常に珍しい事に、あのキャストン・クレフーツが困っている。

 よし、いいぞ、先生、もっと言ってやって下さい。



「それ以外にも、万が一にも余人に知られてはならない情報が含まれています。ご理解いただけますね」


「むぅ、確かにのぅ……あい分かった。研究に必要な情報を頭に叩き込むとしようかのぅ」



 貴方は本当に何しに来たんですか?

 学園で起きた事件だから把握しに来た、という建前は何処に行ったんですか?


 まぁ、確かに、被害者の情報が載っているこの資料を外に出す訳にはいかないが……。



「さて、資料の5枚目をご覧下さい。そちらに、今事件の被害者の内、学園の生徒である26名を記し、現時点での『汚染度』を簡潔に示しました」



 キャストン・クレフーツが接触してきたあの夜から一月ほどの間に、学園の生徒は4名、一般でも2名が更に被害に遭ってしまった。


 あれから、キャストン・クレフーツの周辺を洗い直したり、被害に遭っていた平民女性12名を婦女暴行の現場から保護、現行犯で捕えたバカ共を多額の慰謝料で絞ったりもしたが……。

 残念ながらそのバカ共の頭目は我が愚息だからな……こちらも少なくない口止め料を支払う事になった。


 いや、金で解決できるならまだいい。人道という観点からすれば全然良くはないが、まだいいとしよう。

 だが、この26名は……本当にどうしようもないな……。



「その汚染度というのは一体なんだ?」



 アシュフォード侯爵の隣に座る男、第二騎士団の団長にして、現バーナード伯爵の弟であるバーナード男爵が尋ねる。

 バーナード伯爵は現在、自領を直接統治されており、この王都に不在の為、代理として彼が出席している。



「端的に申し上げると、『どれほどヒトから離れ、魔人へと変化しているか』というものを表す数値だと思って下さい。昨夜、皆様のお身内を含む、全26名の計測を法務省の管轄の下行いました。それが、表の左側の数値です」



 配布された資料に視線を落とすと、上から順に数値が高い者が記載されている。

 そして、最も高い数値を表しているのは、アシュフォード侯爵のご息女であるアイリーン嬢だ。



「そして、その右隣の数値が一晩経過して、今朝計測した数値です」



 言われるがまま、視線を右へと滑らせていくと……。



「26名中、14名が増え、8名がほぼ変化なく、4名が減っています。この事から、ある一定の汚染度を超えると、何もしなくとも徐々に悪化しているという事がご理解頂けるかと思います」



 確かに、キャストン・クレフーツの言う通り、この表からはそう読み取る事が出来る。

 しかし――



「だが、私の娘が一番汚染度が高いにも拘らず、ほぼ変化していないのだが、これはどういう事かね?」



 そう、アシュフォード侯爵の言う通り、一番数値の高いアイリーン嬢は一晩経過してもほぼ変化していないのだ。



「それは、この会議に間に合わせる為、昨夜の段階でアシュフォード様のご息女、アイリーン様に初期の治療を受けて頂いた為です」


「な!? 君は勝手に娘を実験台にしたというのかね?!」



 平然と答えるキャストン・クレフーツに、侯爵をはじめとした多くの者がざわめく。

 無論、否定的な感情を見せる者もいるが、数値という目に見える結果で改善が見受けられる事に、希望を見出す者もいる。



「無論、ご本人の承諾を頂いた上で実施しております。それでも、閣下の承認を得てから実施せよと? 或いは、他の誰かに魔人薬を飲ませて実験せよと?」



 どちらも無理な相談だ。

 前者は承認を得るまで時間が無為に費やされ、その分治療の開始が遅れる事を意味する。

 後者に至っては本末転倒もいいところだ。



「そ、れは……分かった、説明を続けてくれ」


「ありがとうございます」



 アシュフォード侯爵は一旦落ち着きを取り戻し、続きを促す。



「26名の内、実質15名が徐々に悪化しているという事になり、また、変化のない7名に関しても、何かしら対処しない事には悪化し始める可能性もあります。このまま放置しますと、法に定める通りの結末となりましょう」



 だが、それでは誰もが困るのだ。



「では、ここでいう『法に定める通り』の処分とは一体どんなものでしょうか? ご存知ですか、マージョラム伯爵様?」



 指名されたのは法務省刑事局総務課課長を務めるマージョラム伯爵だ。

 当然、法を司る法務省の人間なのだから、知らぬはずもない。



「そ、それは……その……第一級の禁制品ですので……」


「はい、残念ながら、一族郎党全て打ち首。という処罰になります。何故それほど厳しい処分になるかはご存知ですか?」



 歯切れの悪いマージョラム伯爵の回答を、出題者が途中で引継ぎ、更なる問を繰り出す。



「いや、そこまでは……」


「まぁ、ほぼ適用される事のない非常に珍しい案件ですからね。時間の経過と共に、理由までは忘れられていったのでしょう。では、折角お出で頂いたのですから、学園長は解りませんか?」


「む? 儂か?」



 どうやら、本当に知らないと見た出題者は、新たな回答者としてこれまでずっと貪るように資料を読んでいたマーリン先生を指名する。



「はい、貴方ですよ、先生。人が秘匿していた知識を、タダで手に入れようなんて浅ましい事を、賢者と名高い先生が考えているはずありませんよね? 多少はこの会議に貢献して下さい」



 うむ。もっと言ってやってくれ。

 本当に貴方は何をしに来たんですか?



「やれやれ、仕方ないのぅ……お主の配布した資料を読み込めば自ずと解るわい。要するに、魔人の大量発生を防ぐ為じゃろう」


「「「「「な!?」」」」」



 あまりにも荒唐無稽な断言に、私を含む全員が驚愕に包まれる。



「魔人薬を服用すれば、人間は魔人に変化していく。その状態で通常の人間と交配しても、異種交配となりそうそう子孫は出来んが、それでも可能性は0ではない。そして、生まれた子供は潜在的な魔人の因子を持つ事になるじゃろう」



 キャストン・クレフーツ一人が、マーリン先生の高説を呆れた顔をしながら聴いている。



「そんな人間が、またも魔人薬を服用すれば……いや、そうでなくとも、突然変異として最初から魔人として生まれる事もあり得るじゃろうな」


「ならば、服用した当人と、その子供だけ処分すれば良いのではありませんか?」


「ほっほ。お主も解った上で聴いてくるのぅ。答えは否じゃ。魔薬の検査は属性判定の魔導具を用いるのじゃが、5歳になって最初の属性判定を行う際に、隔世遺伝的に発現していたのが発覚したのじゃろうな。当人は勿論、親族一同も先祖がそんな物を服用していたとは知らんかったじゃろうから……それは悲惨な結末となったじゃろうな……」


「はぁ……これだけの資料で、そこまで予測を立ててくるとは……これだから、天然チートは……」


「ほっほっほ。言葉の意味は解らんが、そう褒めるでない。お主の資料が秀逸過ぎたのじゃ」



 そんな、荒唐無稽と思われた回答がどうやら事実らしく、私達は開いた口が塞がらなかった。

 いや、それとも、魔法の深淵に全身突っ込んでいる人間と、魔法に関しては無能と蔑まれている人間とが、遠慮なしに論じている事をこそ驚いているのだろうか?

拙い作品をここまでお読みくださり、ありがとうございます。


マーリン学園長は作品中トップクラスの天然チートキャラです。

年季がある分、妹ちゃん以上のチートキャラです。

そんな彼が、次話では今回以上に大暴れします。


……まぁ、つまりは次回も説明回という事です、はい。

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