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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
宰相は辛いよ編
25/103

第5話 不快な作業の押し付け方

お待たせしました。


後書きのオマケ小話は少々グロ展開ですので、お気をつけ下さい。

「閣下、ただいま戻りました」



 一通り、キャストン・クレフーツの案を聴き終えた頃、スラム街に向かわせた密偵から報告があったようだ。



「思ったより早かったな。それで、結果はどうだったのだ?」


「は。それが、その……スラム街の施設地下に14名の冒険者らしき……モノ(・・)を発見。尋問したところ、確かにガウェイン様の手の者との事でした。詳細はこちらに」



 そう言って差し出された報告書を受け取り、中を確認する。

 それにしても、何故こやつはこんなに顔色が悪いのだ?


 って、え? えぇ?? えー……うん、これは確かに顔色が悪くもなるな。


 確か、キャストン・クレフーツは妹を溺愛しているという話だったな……。

 そして、この者らはその妹を狙ってきたとも言っていた……。

 うむ、これは口も軽やかになるだろうて……。



「ご苦労だった。あー……確認に向かった者は全員休ませるように」


「は。ご配慮、痛み入ります」



 こんな事で心を病んで、使い物にならなくなっては困るからな……。



「それと、この魔導具に収められている記録も確認せよ」



 未だに、執務机の上に広げられている魔導具を示して命じる。



「……閣下、それは……」


「どうした? あぁ、確認作業は女性にさせよ。その方が角は立たん」



 抗命は認めん。今は一刻一秒を争う事態。

 確認作業を私自らがしている余裕はないのだ。

 決して、この魔導具に記録されている内容を見たくないとか、そういう理由ではないからな。うん。



「こちらが操作方法です」



 魔導具を持って来たキャストン・クレフーツですら、『見たくない』と明言するほどだからな。

 魔導具の操作方法が記された用紙をさっさと渡してきた。



「……かしこまりました……」



 あからさまに嫌そうな顔をして、護衛役の密偵が魔導具を持って退がる。

 直接あやつが確認作業をする訳ではないが、それでも作業を割り振られた者から文句を言われるのはあやつだからな……まぁ、諦めてくれ。



「さて、話を戻すが……来月、12月24日に開かれる学園の舞踏会にて計画されている、我が娘の追い落としを隠れ蓑に、愚息どもを一斉に捕らえるという事だが……それまで被害者達は耐えられるのか?」



 あと一ヶ月以上も彼女達がこの境遇に耐えられるのか……そこが懸念材料となっている。



「正直に申し上げますと、『わからない』と答えるしかありません。現状、アシュフォード様が彼女達をよく纏め、支えていますが……それでも、正気を失っていく方は少なくありません」


「むぅ……確実性に欠ける物のみを頼りとする訳にはいかんぞ?」


「はい。ですが、後々の被害を最小限に抑えるにはこれが一番効果的です。なので、これを着地点として目指しつつ、個人単位で限界を迎えた被害者は自分が確保し、そちらに引き渡しますので保護して下さい」



 現状でも既に十分取り返しがつかないが、自害などされた日には本当にどうにもならなくなるからな……。

 被害者達が思いとどまっているのも、業腹ながら愚息達の脅迫が通じているからだ。

 即ち、『遺体を調べれば魔薬を服用していた事が発覚する』とな。



「また、アシュフォード様達が集団で限界を迎えた時に備え、ご子息の絶縁状をご用意下さい。いざという時は、これを内務省の貴族籍管理局の決済書類にねじ込み、発覚前に公爵家とは無関係の人間であるとしましょう。それで納得する人間はいないでしょうが、何もしないよりはマシです」



 ついでに、愚息の勘当を周知しなかった為、対策に移れなかったと反主流派の職務怠慢を糾弾し、主流派だけでなく連中も巻き込んで弱体化させて、極力両派閥の差が縮まらないようにするという訳か。



「そうすれば、自分が大手を振って連中を始末しても良い訳ですから」



 あ、これ単に愚息をぶん殴りたくて仕方がないだけだ……。



「本当、後先考えなければ、それが一番手っ取り早くて個人的には最善なんですけどね……」



 とは言え、これほどの事を仕出かしたのだ。愚息の死は免れんし、庇う気も起こらん。



「規模が規模だけに、明るみに出ぬよう終息させるには、これしか方法がない……か。となると、残るはこの者達の処分についてか……」


「おや、戦死ではお気に召しませんか?」


「……苟も第一王子の処遇だぞ? 廃嫡も已む無しとは言え、万が一の事を考えれば、生かしておくべきではないか?」



 陛下の血を継いでいるのは、第一王子のアーサー殿下と、第一王女のグィネヴィア殿下のお二人のみ。

 ここでアーサー殿下を戦死させ、グィネヴィア殿下にまで何かあった時、ペンドラゴン王家直系の血筋が途絶える事になってしまう。



「無理ですね」


「何?」


「んー……お伝えした分しか知らない閣下に、理解して頂くというのは酷かもしれませんが……アレが(・・・)生きている限り、閣下や陛下の言う事など聞きはしないでしょう」


「それはどういう事だ?」


「既に、閣下達の知るアーサー・ペンドラゴンではないという事です。無論、これを自分に言われたところで、到底容認出来る話ではないでしょうし、捕えた後の処分なんてそれこそ捕えた後に考えても間に合う事。それらは陛下とご相談下さい」



 言うだけ言うと、キャストン・クレフーツは振り返り、窓枠に足をかける。



「おい、何をするつもりだ?」


「いえ、お伝えすべき事はお伝えしたので、今宵は一先ず退散させて頂こうかと。王太子目前の第一王子の処遇など、閣下お一人で考えられる案件でもないでしょうし、今しばらくは情報を整理する時間も必要でしょう」



 いや、確かに慎重を期すべき案件故、今すぐ私一人で決められる事などないが……そういう事ではなく。



「また、何か大きな動きがあれば伺わせて頂きます。そちらも何かありましたら、ご息女を通してでも構いませんので、ご連絡下さい。それでは、失礼致します」



 暇を告げると、男は窓の外に躍り出る。



「ここは4階だぞ!?」



 慌てて窓に駆け寄り見下ろしてみるものの、人影など何処にもなく、次いで左右を見渡してみるも、やはり影も形もない。

 念の為に上を探してみるが、月が出ているだけで何の変哲もない夜空が広がるだけだった。



「追いますか?」



 魔導具の確認作業を部下に押し付け、戻ってきていた護衛が尋ねる。



「いや、よい。キャメロット学園の学生なのだ。今からわざわざ追いかける必要はないだろう。それよりも、あの男が全ての手札を明かしたとは思えん。まずは本人とその周辺を徹底的に洗い直してくれ」


「畏まりました」



 まー、集団で尾行しても気付かれた相手だ。どこまで情報を集められるか分からんが、やらない訳にもいかんだろう。


 あとは、一刻も早く陛下にこの件を伝え、対策を練らねばならん……。

 はぁ……それにしても、厄介な事になったものだ……あー、胃が痛い……。





 これが、私と目の前の男の最初の交渉であり、二度目の面会だった。



「はぁ……言っても無駄か……まぁ、良い。呼びつける前にここに来たという事は、何かあるのか?」



 何を言っても無駄な労力を払うだけなので、とりあえずこやつの用件を先に聞く事にする。



「幾つかありますが、まずは結果報告から。既にランスロットからの報告を受けたと思いますが、計画は概ね成功しました」



 あ、こやつ、私の前でもランスロットに敬称を付けなくなった。

 まぁ、余計な手間を増やされたこやつにとっても、ランスロットの評価はガタ落ちだろうな……。

 ……世間からの評価は言うまでもない事だろう。



「問題は、やはりリオネス騎士団です。参戦した辺境伯領の騎士100名の内、半数以上が討死。トリスタンも右腕と左足を失い、リオネス辺境伯家を継ぐ事は出来ないかと……」


「法国との国境線を守る辺境伯家の騎士が、50名以上も喪失したのか……」



 おまけに、長男に続いて次男までもが家を継げないとなると、その遠因を生み出した中央に対して悪感情を抱くだろうな……。



「リオネス辺境伯には、まだ幼い三男がいるので、辛うじて家は保てるでしょうが……ま、ここから先は閣下達の領分ですので、発言は控えさせて頂きましょう」



 ぬけぬけと……まぁ、何かしらの補填は必要だろうが、果たしてそれで辺境伯が納得するかどうか……。



「次に、我が軍の被害に関してですが、第一騎士団約5000がほぼ全滅。装備していた魔剣も実数は不明ですが、大部分が鹵獲されました」


「ぐ……そうなるだろうとは思ってはいたが、やはり大部分が鹵獲されたか……」



 魔剣というのは我がブリタニアの軍事における特色のひとつだ。


 我が国は大陸中第3位の国土面積だが、農地に向いた平地が多い反面、鉱物資源を産出する鉱山は少ない。

 逆に、ガリアは最下(第4)位の国土面積な上に、山地が多く農地に適した土地は少ない。だが、その反面、鉱物資源を産出する鉱山は非常に多い。


 そんなガリアに食料を輸出し、鉄などの鉱物資源を輸入しているのが我が国の現状だ。

 戦となれば食料は豊富だが、圧倒的に武器が足りなくなる。

 そこで生み出されたのが、我が国の魔法技術の粋を凝らして開発された魔剣だ。


 簡単に言ってしまうと、金属に魔力を帯びさせ、様々な効果を付与させた強力な剣で、武器の絶対数の少なさを、質で補っている。


 それを、ただでさえ勢いに乗っている魔族に鹵獲されたとなると、いよいよもって教国の敗亡も時間の問題となるな……。



「ついでに、冒険者ギルドから雇った一団約2000もほぼ全滅です。第一騎士団と合わせて、戦場を脱した者は若干いますが、リオネス騎士団以外、帰還できる者はいないでしょう」



 その戦況で国に帰還できるようなら、そもそも無能として切り捨てられてはいない。

 連中よりも、鹵獲された魔剣と、アイテムボックスに収められ、二度と戻ってこない輜重の方が余程価値があるというものだ。



「最後に……戦場に向かう前に、ペリノア子爵領に寄りましたが、子爵家の屋敷内にいた者は全員死亡が確認されました」


「な!?」


「領地そのものには何ら変哲はありませんでしたから、今頃は屋敷付近の領民も不審に思い、異変に気付いている事でしょう。近隣の領主がちょっかいをかける前に、領地を接収しておく事をお奨めします」


「いやいや、待たぬか」


「はい?」



 なんでこの男は何でもない事のように、淡々とそんな報告が出来るのだ?

 あと、その「何言っちゃってんのこの人?」みたいな顔はやめんか。



「あの舞踏会の時点で、既にペリノア子爵家は教会から破門されていました。王都の屋敷からは上手く抜け出し、領地まで逃げられたようですが、それで諦める連中ではありませんからね」


「……それはつまり、教会の連中が刺客を放ったという事か?」


「…………」



 だから、その「今更何言っちゃってんのこの人?」って顔はやめんか!



「まぁ、ご自由に解釈してください」



 本当に腹が立つな、この男!

 ペリノア家を破門に追い込んだのはお前だろうに。



「こちらからの報告は以上です。それで、自分が留守にしていた間の、患者の容態を知りたいのですが、資料はありますか?」



 あぁ、なるほど。

 仕方がなかったとは言え、二週間も治療が滞ったのだ。

 色々と段取りも狂ってしまっただろう。

 新たな治療計画を立てるにも、現状を知る必要はあるという事か。


 それにしても、本当にあんな方法で魔薬の治療が出来るとはな……。

「隊長! この前護衛した娘、超美人だったッスねー! おまけに、あの娘の名前でご祝儀までもらえたッス! いやー、本当、ここで働けて幸せッス!!」

「おー、ソイツは良かったな……が、あんまりあの嬢ちゃんの事は言うなよ?」

「うぇ? なんでッスか?」

「お前な……うちは確かに嬢ちゃん達全員に礼儀作法と、詩なり歌なり踊りなり、何か芸事を覚えさせてから客の前に出しているが……スラム出身の女が簡単に覚えられるモンでもないのは、お前だって良く知ってるだろうが」

「あー、俺も最低限の礼儀とか覚えさせられたッス……」

「……その割には……まぁ、俺達は荒事向けの部隊だしな……そんな中、あの嬢ちゃんはそんな訓練期間に殆ど時間をかけずに客の前に出された。その意味を考えろ」

「おぉ、つまりあの娘は天才だったって事ッスか?」

「ンな訳あるか」

「いてーッス?!」

「あの嬢ちゃんはどこぞで既にそういう教育を受けてたって事だ」

「マジッスか!? あ、でも、彼女は『白』だったッスよ?」

「……ああ、だから、どこぞの間諜ではなく、時期的に考えて、教国からの難民だろうな……」

「うぇぇッ!? 教国って、あの教国ッスか?! 国民全員が教会の信者だって言う?」

「あのな……一応、このブリタニアも国民全員が教会の信者だぞ?」

「え? 俺、教会なんて毛ほども信じてないッスよ? あいつら、俺達を獣だとしか思ってないッス」

「ばっか、俺達はスラム出身で、ブリタニアの国籍なんか持ってねーだろうが」

「うへー……これがボスの言う格差社会ッスか?」

「いや、そうなんだけど、確かにそうなんだけど……お前にその一言で纏められると何かムカツクな」

「そんな、理不尽ッスよ!?」

「まぁ、とにかく。元……というか、多分現役の教会信者が娼婦やってるなんて事がバレたら、あの嬢ちゃんの命に関わってくる。お前、そうなったら最終的にどうなると思う?」

「最終的にッスか? えー……教会があの娘を破門する。破門された者を始末しに暗殺者がやってくる。ボスがブチ切れる。ボスが教会に喧嘩を売る。ボスが教会を潰す……おぉ、素晴らしいッス」

「ド阿呆!」

「いてぇぇッス!?」

「ボスが喧嘩を売るって事はこういう事だ!」

「おぉ、ここは盗賊ギルドの跡地じゃないッスか……なんでこんなところに? ここがかつてスラム街を仕切っていたとはねー……その時代を知っているはずなのに、全然思い出せないッス」

「そりゃ、お前……盗賊ギルドがボスに余計なちょっかいをかけたからだろうが……あれは本当に酷かった……盗賊ギルド壊滅の日は未だに悪夢として裏社会に轟いているからな……」

「あはは、そッスねー……自分、あの娘の事は外では絶対口外しないッス!」

「おう、そうしとけ。お前だって、あんな戦闘に動員されたくねーだろ」

「うッス! それで、今日はどんな任務ッスか?」

「後ろの荷物を跡地地下にある牢に放り込んで、幾つか仕掛けをするんだよ」

「おぅ……後ろの荷物ってやっぱりアレッスか? 手足のない人間がゴロゴロ転がっているのは夢じゃないッスか?」

「おう、ソレだし、夢じゃねーな」

「うへー……こいつら、何をやらかしたんッスか?」

「手足のない八人が、ボスの妹さんを襲ったそうだ。ま、当然返り討ちで、この様だがな」

「うわ、あの鮮血女帝を襲うとか、命の安売りッスか?!」

「あの方、見てくれは本当に可愛いお嬢ちゃんにしか見えないからな……。こいつらは、自分達の手足が野犬に食われるところを見せ付けろってお達しだ」

「うわー、きちんとどれが誰のものか分かるようにしてあるッス……それで、こっちの六人は?」

「ボスが護衛している公爵家のご令嬢を襲おうとしたようで、ボスがとっ捕まえたそうだ。こっちは、両手と首を外に出るようにガラス板にはめて、箱詰めにしろってお達しだ……こいつらと一緒にな」

「どれどぎゃぁぁぁッス!!? なんスか、コレ?!」

「それは蜘蛛だな。死なねぇ程度の毒しかないそうだ。こっちは蛇で、これもやっぱり毒は弱いそうだ」

「いやいやいや、そういう事じゃないッスよ?! 単体でも気持ち悪いのに、ワサワサって……無理無理無理ッスよ!?」

「お前な……それじゃあ、この蛇やら百足やらを集める方が良かったか?」

「あ、こっちでいいッス。いや、むしろ、こっちがいいッス」

「んじゃ、帰ったらあの嬢ちゃんにたっぷりと礼を言っておけ。あの嬢ちゃんの護衛に行っていたから、そっちに回されずに済んだんだからよ」

「了解ッス!」

「くっ! 犬畜生にも劣る下賤の輩が! ボクはお前達風情が手を触れていい存在ではないぞ! さっさとボクをここから出せ!!」

「かっちーんッス。 隊長、こいつは俺がやるッス! 台所の悪魔を大量にぶち込んでやるッス!」

「な!? なにをする?! やめろ! やめろッ!!」

「両手と首を固定するのはガラス板ッスから、よーく見えるッスよー」

「……ほどほどにしておけよ」

「やめぎゃぁぁぁぁッ!?」





拙い作品をここまでお読みくださり、ありがとうございました。


次回はまた宰相閣下の回想話となります。

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