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第7話 敗戦 妹 VS 最終兵器・改 & 真・姫騎士

微グロ注意。

男性諸氏は……気をつけてください。

「もちろん、出来ませんわ!」



 それが出来れば、お兄様が房中術を使う必要などありません。

 通常、気功を習得する上で、『オド』と『気』の見分け方を覚えるのは必須です。


 ところが、彼女達は『気』を汚染されている為に、その二つを見分ける事が非常に困難となります。

 なので、自力での気功習得はほぼ無理です。



「そう……やっぱり、ボクは……ボク達は……」


「ですが、貴女は死にません」



 先程しまった『お守り』(神話級魔導具)を首にかけ直しながら断言します。



「え?」


「貴女は死にません。アイリーン様も死にません。他の皆様も死にません」


「ほ、本当、に?」



 信じたい。信じさせて欲しいと、怯えながらも目が語りかけてきます。



「ええ。先程もお見せしたように、自力で助かる方法もあります。しかし、弱い貴女(・・・・)ではその方法を使えません。お兄様に縋るより他にありません」


「ぐ……」



 やはり、戦闘一族の端くれとしては、『弱い』というのは堪えるようで、唇をきつく噛み締めています。



「貴女のお兄さん……キャストン殿なら、アイリを助けられ、る?」



 おや?

 自分ではアイリーンさんを助けられなかった、という点が一番の泣き所だったのでしょうか?

 んー、と言うよりも、その辺りがご自身でもよく分かっていない……と言った所ですかね?



「ただし、条件があります」



 まぁ、それは私にとってはどうでもよい事です。

 私は私の目的を果たすのみ。



「じょう、けん……」



 あらー、何やら、面白いくらい顔が青褪めていますね。

 そこで転がっている肉袋どもにも、色々と言われたんでしょうねー。



「わ、わかt」

「強くなりなさい」

「た……え?」



 うん。何だか、物凄く理不尽な要求をされると思っていたようですので、先に条件を突きつけます。



「貴女は弱いです。何が弱いか分かりますか? LV? ステータス? 魔力? それ以前の問題です! 貴女は圧倒的に心が弱い!! 覚悟がまるで足りていない!!!」


「そ、れは……」



 当然、本人にもその自覚はあったのでしょう。

 バーナード家の強さの秘訣は、端的に言ってしまえば『脳筋である事』です。


 殴ってから考えるのが……いえ、殴った後はアシュフォード家に丸投げするのが、あの家のありかた。

 まずは持てる全てを自己の鍛錬に振り分け、後はアシュフォードが上手く使ってくれるという『剣』たる事が本分です。


 なのに、理由は分かりませんが、この方は自分で考えて行動しようとしています。


 『考える』という事は非常に重要な事です。ですが、それ故に『迷い』も生じます。

 斬るべき時に斬るべき相手を斬る事に、迷いを持つような剣が使い物にならないのは道理。



「そのように弱い人間が『騎士』を名乗るのですか? 誰かを守るなどと胸を張って言えるのですか? 同じような目に遭った時、また何も出来ずに蹂躙されますか?」


「ぁ、ぅ……」



 また俯いて逃げようとするので、そうはさせじと両手で顔を挟んで目を合わさせます。



「それとも、折れた剣として棄てられますか?」


「い、嫌ッ! それはイヤッ! 棄てないで!!」



 涙を浮かべながら、ジタバタと暴れだしますが……そんな事で脱出できるほど、私も柔ではありませんので逃がしません。



「ならば! その心の中に溜まった澱を吐き出しなさい!」



 そう叱り飛ばし、転がったままの肉袋の傍に放り投げます。



「あう!」



 両手を突いて上体を起こしたところで、彼女の頭を掴んで肉袋の方に向けます。



「目を逸らさずに見なさい。この期に及んで『倒れた相手に追い討ちをかけるのは卑怯』などという騎士道(綺麗事)は、他者に傷付けられる覚悟を持たぬ者の戯言です。『復讐は何も生み出さない』などという聖者の論(知ったかぶり)は、大切なものを何一つ持たぬ者の放言です」


「う、ぐ……ひっ、ぐ……」



 彼女の目から、溜まっていた涙が流れ出します。少しずつ少しずつ、彼女の心を凍らせていた何かと一緒に流れ出します。

 その証拠に、目に力が宿り始めています。“生きる”という力が宿り始めています。

 ここまでくれば、あと一押しでしょうか?



「言いなさい。コレは貴女の何ですか? 隣人ですか? 友人ですか? 家族ですか? それとも……愛しい人ですか?」


「!? そんな訳ない! そんな事あるはずがないッ!! コイツは、コイツらは、アイリを傷付けた! ボクの大切なアイリを穢した!!」



 あっれー、自分の事よりそっちが先ですの?

 いや、いいんですけどね。



「ボクの大事なアイリを、ボクの……私の夢見たお姫様を泣かせたッ!」



 あぁ、なるほど。戦闘一族とは言え、彼女も立派に女の子をしていた訳ですのね。


 詳しい事情までは分かりませんが、彼女は彼女なりに、理想の姿(アイリーンさん)に近付こうと足掻いていた。

 それはおそらく、彼女の中では『バーナード家の娘』とは相容れないもの、という認識だったのでしょう。


 何せ、世間一般でも、「バーナードは殴る者、アシュフォードはその後始末をする者」と言われているくらいですからね。



「それなのに、ボクは何も出来なかった……アイリみたいになれないのなら、せめて、アイリを守ろうって決めていたのに、守るどころか足枷になって……もう、どうしたらいいのかわかんないよ、アイリ……」



 ふぅむ、とりあえず、吐き出せるだけ吐き出した……と言ったところでしょうか?

 ならば、ここからが本番ですわね。



「そんなの、簡単ですわ」


「え?」


「貴女はブリジット・バーナードです。アイリーン・アシュフォードには、どうやってもなれません」


「う、ん……そうd」

「なので、まずはブリジット・バーナードを究めなさい」

「よ、ね?」


「第二騎士団の団長。貴女の叔父に当たる方ですわね」


「え? う、うん」



 突然、何を言い出すのか分からないという様相ですね。



「第二騎士団はこの国の最精鋭騎士団。ただの一騎士ならばいざ知らず、団長という管理職に、ただのバーナード(戦闘一族)の人間がなれるはずもありません」


「あ……」



 過去、バーナード伯爵家の次男や三男だったという、名の知れた騎士は多いです。ですが、自領以外の騎士団で、団長にまでなった方はいませんでした。

 彼女の叔父が第二騎士団の団長になるまでは。



「その方と同様に、貴女がバーナード以外の何かになる事は可能でしょう。ですが……自分を確立していない人間が、他の何かになるなんて、地に足が着いていないと思いません?」


「あぁ……そっか。そうだよね……なんだ、ボクって、本当にバカだなぁ……自分がバカな事は、ボクが一番分かっていたはずなのに、あれもこれもって一度に欲張って……そんなの、上手くいく訳ないのにね」



 憑き物が落ちたように、軟らかい笑顔を浮かべて自嘲なさいます。

 うんうん、良い傾向ですわ。



「でしたら、いま、この状況で、貴女は如何なさいます?」


「うん。そうだね、ボクはブリジット・バーナードだ。細かい事や難しい事は、全部アイリに任せちゃおう。だからまずは……」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!??」


「むかつく奴をブッ飛ばす!!」



 あらー…………。

 えー、今起きた……いえ、起きている事をお伝えしますと、ブリジットさんが踏んでいます。いえ、踏み潰しています。

 罵詈雑言を浴びせながら、何度も何度も踏み潰しています。


 そーですわねー……一つ言える事は、ケイ・エクトルは子孫を残せない体になりました。

 まぁ、概ね自業自得ですわね。



「えーっと、一応、死なない程度にして下さいねー? ソレ(・・)の治療とか、私は絶対にしたくないんで」



 取調べとかありますから、今の時点で死なれると……うーん、それでもいいかなーと思う私がいますわね。



「ふぅー……そうだね、いくらやっても限がないし、皆の分も残しておかないとね」



 あらあらまぁまぁ、随分と吹っ切れたようで、上手くいきましたわ。

 私の狙いは至極単純です。


 お兄様の負担を減らす事。

 その為に、彼女の心の傷を彼女自身にある程度ケアしてもらおうと画策しました。

 これで完全に彼女が立ち直れた訳ではありませんが、それでも一時に比べれば大分良くなっているはずですわ。



「フレア、ボクは強くなるよ。ごちゃごちゃ悩むのはボクの性に合わないから、君の言う通り、まずは強くなる。だから、ボク達を助けてくれないか?」


「ええ、しかと見届けさせて頂きました」



 今のこの方なら、私も好感が持てます。

 兄との関係も、キスくらいなら我慢できます。


 え? いや、そりゃ嫉妬は未だにしますよ? 当然じゃないですか。

 何がどうあっても、私だけは兄を巡る戦場に立つ事が許されていないのですから、そこに立てるというだけで嫉妬の対象です。





 一先ず着替えて、移動しながら房中術による治療について説明します。



「えぇぇぇぇぇぇぇぇッ?!」



 と、大いに驚いて頂けました。

 それはもう、一から十まで、お兄様ならば説明しないであろう、お兄様の負う致命的な(・・・・)不利益も含めて説明させて頂きました。


 あ、あの不能袋なら、途中で会った衛兵の方に伝えておきました。



「無論、これは強制ではありません。この治療を受けなくても、ご実家に累が及ぶ事はありませんし、皆様が死を賜る事もありません。ただ、物が物だけに、治療をお受けにならない場合には、子供を産む事は二重の意味で諦めざるをえないかと」


「魔人薬かー……殆どの人は結婚とか諦め……うぅん、いつかこの状況は破綻して、皆捕まって死罪だろうなって思ってた。ボクも、アイリも……。それでも、自分から行動を起こす事は出来なかったんだ。皆が我慢しているのに、ボクだけが勝手に行動を起こして良いんだろうかって……」



 ふむ。そう言えば、お兄様が言ってらっしゃいましたわね、「囚人と看守」がどうのと……。

 それと似たような状況に陥っていたという事でしょうか?

 うぅん、なかなかに侮れませんわね。



「だから、完全に破綻する前に助けてもらえただけでも、満足するべきなのかもしれないね……。まぁ、それでもやっぱり、修道院送りは嫌だけどね」



そう言うと、ブリジットさんは薄く苦笑いを浮かべます。



「まぁ、そう落ち込まないで。とりあえず、ボク達の命は助かるんだから、後はなるようになるよ。ほら、もうすぐそこだし」



 落ち込……んでいるんでしょうね、私も。

 やはり、どうにもこう……接する時間が増えると、情が湧いてきてしまいます……むぅ、私もまだまだ甘いです。



「ただいま、アイリー」



 そうこうしている内に、アイリーンさんを待たせている部屋の前まで戻ってきました。

 ブリジットさんはノックをして声をかけると、返事も待たずに扉を開けて――



「お待ちしていました、バーナード様」



 お兄様に迎え入れられます。

 ……拷も、けほ……お花摘みに時間を取り過ぎて、お兄様とアイリーンさんが二人きりになるという失態をををッ!



「あ、ぅ……きゃ、キャストン、殿? えっと、待たせてしまったみたいで申し訳ありません……」



 ちょっ?!

 なんで口調が固くなってるんですの貴女!?

 あれですよね? 不意に殿方と遭遇したから緊張しているんですよね?

 房中術の話を聞いたから、ちょっと意識しちゃっただけですよね?!

 顔が赤いのも、そういう理由で紅潮しているだけですよね? ね?



「いいえ。自分の方は問題ありませんよ。ただ、アシュフォード様お一人で男の自分に応対して頂いたので、恐い思いをさせてしまいました。面目次第もありません」


「え? あ、いえ、そんな、恐いなんて事は……あ、ありません、でしたわ」



 ちょっとぉぉぉッ?!

 この人、完全に出来上がってるぅぅぅッ!?


 頬は上気して赤くなり、お兄様を見る瞳も完全に恋する乙女のソレです。

 

 なんで?

 そりゃ、確かにお兄様は世界最高の殿方です。

 ですが、それは私だから迷いなく言い切れるのであって、世間一般ではポンコツ王子やらあの不能の方が、良い男という評価を得ています。


 見たところ、お兄様から汚染された気が流れ出ているので、既に最初の『手合わせ』は終わったようですが……それにしたって、転ぶの早すぎませんか?


 そして、隣にいるブリジットさんから「ああ、やっぱり」という呟きが……いったい、どういう事?



「キャストン殿……いや、キャストン様。話は全て彼女から聞いた」


「そうでしたか。お疲れ様、フレア。バーナード様には説明しておいてくれたんだな?」


「う……すみません、本来でしたら、私からお二人にご説明するはずでしたのに……」



 うぅ……男性であるお兄様よりも、同姓から話した方が良いだろうという判断の元、私がお二人に説明する予定でした。



「その件については、アシュフォード様よりご説明いただいたから、怒っていないよ」



 そう言って、お兄様は私の頭を撫でてくれます。

 ただし、これは褒めているのではなく、ちゃんと反省しているか試しているんです。

 ここで、反省の色が見えないと、アイアンクローに変化します。へぅ……。



「うん。それで、条件……という訳でもないんだが、一つお願いしたい事がある」



 お兄様からの試練が終わったのを見計らって、ブリジットさんが続けます。



「リジー?」


「お願い、ですか? 自分に出来る事でしたら」


「そうか、それでは遠慮なく……結婚してくれとは言わない。ただ、ボク達を愛して欲しい」



 ………………………………………………………………は?



「はい?」

「り、りりりりリジー??!」


「うん、『はい』か。よかった」


「え? いえ、それは、え?」

「貴女、突然なにを?!」


「ボク達は……まぁ、ご存知の通り、『乙女』ではないけれど、それでもちゃんと女の子として見て欲しいんだ」


「それは……はい、そうですね」


「リジー……貴女……」


「それにね、アイリの子供の頃からのゆ」

「ちょっと!? リジー、それはダメですわ!?」



 その後も、わいわいぎゃーぎゃーと賑やかでしたが、私の耳が全力で仕事を拒否したため、よく覚えておりません……。

 後先を考えない戦闘一族が、これほどまでに恐ろしい生き物だったとは……不覚でした、わ……。

拙い作品をここまでお読みくださり、ありがとうございます。


必ずしも、最強の存在が勝利を手にする訳ではありません。

最終兵器さんのチョロさの秘密は、いずれ彼女の口から語られるでしょう。


次回、フレア編の最終話となります。

……大丈夫、きっと最終話になるはず!

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