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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
悪役令嬢の新たな日々
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第27話 血の雨降る六月(8)

随分とお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

 この国には……いえ、ブリタニア王国だけではなく、この世界には『懲役刑』や『禁固刑』、及びそれらに類する刑罰がありません。

 ゲームでグレイシアが迎えた結末にもある『修道院送り』や、『蟄居幽閉』がそれらに近いかもしれませんが、それらとて貴族にしか適用されていません。


 それは何故かと言えば、犯罪者を収容する施設、つまりは刑務所に類する施設がないからです。


 では、どうしてそんな重要な施設が国に、世界にないのかと言えば、その理由は二つ。

 「なぜ、良民の血税で罪人を保護しなければならないのか」、「どうして、税収(俺の財布)で犯罪者を養わなければならないのだ」という意見が示す通り、一つ目は費用の問題。

 そして、二つ目にして最大の問題が、「反省を促し、罪を犯した者を赦す」という文化がないためです。


 まっとうな為政者(前者の意見)であれ、そうではない為政者(後者の意見)であれ、「罪を犯した者は切り捨てる」のみという訳です。


 ……何故こんな話をしたのか?

 その理由は…………。



「はぁ……」



 ガラティーン騎士団所属訓練大隊の本営天幕。

 その真ん中で盛大な溜息を漏らしたのは他でもない、私自身です。


 公爵家の令嬢にあるまじき醜態ではありますが、ここにいるのは私を含め三人のみ。

 見ているのは護衛小隊隊長のニールと、試験中に負傷して意識不明の状態に陥った私を心配して……いえ、その世話をするために来てくれた侍女の二人だけ。

 二人とも、溜息の理由は分かっているので見逃してくれています。


 そして、丸一日ベッドの住人だった私が、意識を回復して早々に突きつけられた厄介事がこの溜息の原因……即ち、目の前に広げられた、たった一枚の紙切れという訳です。

 その紙切れの正体は──



「……はぁ」



 ──斬首刑執行の命令書です。




 遡る事約8時間前。早朝の6時頃。

 ガラティーン騎士団訓練大隊所属の騎士12名が重傷を負って救護天幕に運び込まれたそうです。


 彼らの口から下手人として挙がったのは二人の女性教官。

 そう、アイリーンさんとブリジットさんでした。


 ……が、調べを進めると何の事はありません。

 訓練地に向かう途中の彼女らが乗っていた馬車を待ち伏せし、襲い掛かったところを返り討ちにあっただけでした。


 あっさりと彼らの企みが露呈したのは他でもありません。

 彼女らが持っていた魔導具『見守る君』が車載カメラの如く、襲撃の一部始終を映像・音声共に記録していたからです。


 さらに彼らの思惑は外れていきます。

 彼女達の所属が、本日付でクレフーツ男爵家からアンブロシウス伯爵家に移っていたのです。


 聞いた事もないような弱小男爵家の使用人と、王族にも連なる伯爵家の使用人ではその扱いに雲泥の差があります。

 何より、その紋章を掲げた馬車を襲ったと言うのが致命的ですね。


 ……まぁ、どちらにせよ、アシュフォード侯爵家の縁者を襲った事に変わりはないので、我が家の力を持ってしても揉消せませんが……。


 いずれにせよ、彼らは騎士の資格を剥奪され、処断……おそらくは鉱山などの危険地帯で強制労働となる事でしょう。

 ですが、問題はそれだけでは終わりませんでした。

 いえ、むしろ、ここからが救いようのない展開となりました。


 12名の犯行が、彼ら個人によって計画、実行されたものであったなら、指揮官──つまりは、私が監督不行き届きの責任を負うだけで済む話だったのですが、残念ながら私は意識不明の状態に陥っており、責任能力がありませんでした。

 そのため、次点の責任者──つまりは、この訓練大隊を率いてきた副団長の責任という事になったのですが……何て事はありません。実行を許可した……どころか、命じたのが他でもない彼だったのです。


 つまるところ、事は一部の素行不良が起こした事件ではなく、訓練大隊が組織的に実行した『作戦』という扱いになる訳です。


 何故こんな重大な事が分かったのか?

 それも、魔導具『見守る君』に記録されていました。

 尤も、こちらを所有していたのはアイリーンさん達ではなく、護衛小隊の隊長であるニールでしたが……。


 時系列順に事の次第を追っていけば……。


 まず、昨夜。

 私がベッドの住人であった頃、訓練大隊に所属する小隊長以上の隊長格を集めて開かれた会議の場において、アイリーンさん達への報復が提案されました。

 非常に残念な事に、ニール以外は積極的に賛意を示し、反対したニールを残りの隊長達が拘束。ニールは営倉に連行されてしまいました。


 しかし、ニールによって仕掛けられていた稼動中の魔導具が、他の参加者に気付かれる事なく残され、その後の様子も全て記録されます。


 明けて本日早朝、選ばれた12名による襲撃が行われ、返り討ちに。

 彼らの理想としては、この奇襲によってアイリーンさんらを捕らえ、攫う事が出来ればよかったのでしょうが、僅か二人で大隊500名を壊滅させる相手にそれは無理な話。

 結局、根拠のない自信で襲撃を行った12名は、襲撃された側であるアイリーンさん達に引き摺られて救護天幕に放り込まれ、すぐさま意識不明であった私を除く、各責任者が集められ取り沙汰されました。


 その席に於いて、副団長は公爵家の名を背景に、逆にアイリーンさん達を糾弾しようとしました。

 彼の幸せな脳内では、当人達以外に目撃者がいない以上、公爵家の力で小娘の意見など捻じ伏せられると考えていたようですが、魔導具によって物の見事に現実を突きつけられ、その責を問われる事になりました。


 そして、一応の決着をもって会議は解散となったのですが……ニールが営倉から脱出した事で追い詰められた副団長は、あろう事か武装蜂起。

 私の護衛小隊を除く訓練大隊が“王の剣”たる第二騎士団と干戈を交える事に……。


 尤も、戦闘は一時間と掛からずに終息。


 第二騎士団に若干負傷者が出たものの、死者や再起不能の重傷者は出なかったのがせめてもの救い。

 対して訓練大隊はというと、100名以上の死傷者を出す破目に……。


 その後、そう時を置かずして私の意識が回復。

 怪我よりも、魔法を暴走させた事が意識不明に陥った原因だったために、私の看護を担当してくれていたアウロラさんと、侍女の二人からお説教されました……。

 そんな最中に一連の出来事の報告を受け、公爵家側の現場における最高責任者として後始末に追われている……という訳です。



「気が進みませんか?」



 溜息ばかり吐くのを見かねてか、ニールが尋ねてきました。



「それは……」



 斬首刑執行の命令書には、後は私が署名するだけで即時執り行われるところまで出来上がっています。

 日本のように、時間を掛けて裁判所で審議するような事はありません。


 何せ、王都南の草原地帯で、公爵家所属の騎士団が正規騎士団と戦闘になったのです。

 今すぐにでも対処しないと、余計な干渉を受けて最悪、「国家反逆罪でガラティーン公爵家は一族郎党連座で死刑」という事になりかねません。

 それを回避するためにも、可及的速やかにこの一件を終息させる必要があります。


 彼らを王家に突き出し、あちらに裁いてもらう事でこちらに叛意がない事を示す……という方法は取れません。

 それをやると、我が家は自浄能力がないと見做され、公爵家としての面目が丸潰れです。


 何より、これは、この一件は……王家と我が家との……いえ、陛下とお父様との間で仕組まれた、私に対する試験でもあると思われます……。


 何故かと言えば、一連の出来事があまりにも出来過ぎているからですよ。


 ガラティーン騎士団内でも兄に近しかった問題のある人員で訓練大隊を編成し、それを兄に代わって次期領主となった私が率いる……とても円満に訓練をこなせるとは思えません。

 そこに、か弱い女性にしか見えないアイリーンさん達が教官として参加しているとあっては、何か起こしてくれと言っているようなものです。


 そして、彼ら自身に取り返しようのない失態を犯させる事で、彼らを処分する機会を作り出し、それに私がどう対処したのか……いずれ領主となれば、領内における司法の長は私という事になる以上、死刑を言い渡す覚悟があるのかを見定めようという事なのでしょう……。

 そう、テレビで「死刑が執行されました」というニュースを見るのとは違い、私自身が()()を命じる立場に立つという事です……。


 「気が進まない」どころの話ではありません……。

 それでいて、避けて通る事もできません……これを避けるという事は、領主としての義務を、責任を放棄するのと同義。



「……他に、方法はないの?」


「私は文官ではないので、法に精通していませんが、それでも『責任者たる各小隊長以上の斬首、及び彼らに従った者達の強制労働送り』というのは破格ではないかと。事は国家反逆罪にまで及ぶ以上、反乱に加わった全員を、親類縁者も連座の上で斬首刑……にしないだけでも温情かと思われます」



 それでも何か方法はないかと、搾り出すように尋ねてみるも、返ってくるのはニールの言うような現実でした。


 分かっているんです。分かってはいるんです。これが最大限()()対して譲歩された物だという事は……。

 そして、これ以上の減刑を望めば、ガラティーン公爵家の立場がそれ以上に悪くなるという事も……。

 他でもない、兄ガウェインによる国家反逆罪を、一度は見逃してもらっているのが我が家の現状。


 そうである以上、叛意を疑われるような真似を私がすれば、次期ガラティーン公爵たる資格はなしと判断され、即座に目の前の紙切れは取り上げられるでしょう。

 その代わりに、お父様の署名がなされた命令書が取り出され、直ちに彼らの親類縁者をも連座で処刑され、私は継承権を剥奪される事になるでしょう……。



「お嬢様、意識が回復したばかりで無理はなさらないで下さい。そもそも、お嬢様が必ずしも領主となる必要はないのですから……」



 どうやら、よほどに酷い顔色なのでしょう。

 侍女である彼女に、そうまで言わせてしまいました……。


 それもこれも、実務能力さえあれば何とかなると思っていた私の責ですね……。

 領地を、領民の命をその背に負うという事がどういう事なのか、その覚悟を軽視していたツケが回ってきた結果です。


 『王妃』と『領主』では、全く役割が違うのだと改めて痛感させられました……。

拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。


出来が気に入らず、プロットごと変更しているうちに、一年数ヶ月ぶりに腰をやらかしました。

半月ほど碌に動けず、更に一週間ほどリハビリしている間、よそ様の作品を見ていたら……影響を受けて約三年ぶりに提督業に復帰していました……。


という訳で、一応生きてはおりました。

更新も再開致しますので、よろしければまたお付き合い下さい。

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