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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
敵は眼前にあり!
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第1話

  初恋の人は画面の向こうの王子様でした――

  二度目の恋は画面から出てきた王子様――

  そして、三度目の恋は――




「シア、君との婚約は白紙とさせてもらう。君にも言い分はあるだろうが、私にそれを聞く気はない」



 私の名前はグレイシア・ガラティーン。ガラティーン公爵家の長女にして、たった今、幼馴染であり婚約者でもあるアーサー・ペンドラゴン王子に、年の瀬に行われる舞踏会の中で婚約を破棄されそうになっている女です。



「アーサー様、私に何か落ち度がありましたか?」



 本当は凄く泣きたいです。でも、これでも一応生まれてから17年間に亘って公爵令嬢として、そして、未来の王妃としての教育を受けてきたのです。こんな衆人環視の中で、ボロボロと泣く訳にはいきません。

 何より、こうなる事は予め分かっていたのですから、ある程度の覚悟はしていました。


 はい、もうお分かりかもしれませんが、私は所謂『悪役令嬢に転生』した者です。

 中学3年の夏休み。学校に呼び出された私は、誰かに階段から突き落とされてしまいました。

 世に言うところの、イジメを受けていたんですよ。

 そして、気が付いたら赤ん坊になっていました。


 最初は凄く混乱しました。沢山、泣きもしました。

 言葉が話せるようになってからも、不安で不安で仕方がなく、いつもおどおどしていました。

 そして、私が5歳になってすぐに、アーサー様と引き合わされ、私は理解しました。

 ここが、唯一プレイした乙女ゲーム『救世神子(きゅうせいみこ)虹模様(ラブカラー)』の世界であると。そして、主人公の神子に、散々意地悪をした挙句、転落する悪役令嬢が私である事を。


 この事を理解した時の絶望感は今でも忘れられません。

 それから暫くの間、私はそれまで以上に周囲に怯えるようになりました。

 そんな私に、アーサー様をはじめとした幼馴染達は、優しく接して下さいました。


 第一王子で婚約者のアーサー様。

 その妹で、私と同い年のグィネヴィア。

 ガラティーン公爵家と並ぶアロンダイト公爵家の継嗣にして、グィネヴィアの婚約者のランスロット様。

 皆さん、神子の視点で拝見させて頂いた通りの人格者で、もしかしたらゲームのような事にはならないのではないかと思いました。


 ……ですが、結果はご覧の通りです。

 多少、ゲームよりも、アーサー様の台詞が優しくなっている程度の改変しか、私には出来ませんでした。



「落ち度だと? よくもまぁ、ぬけぬけと……我が妹ながら、あきれて物も言えぬ」

「己が所業を恥じるならば、せめて潔く認められよ」

「綺麗なバラには棘がある……って言うけどさ、流石にそれはねーんじゃないの?」

「所詮、公爵令嬢として、蝶よ花よと育てられた貴女には、踏みつけられる者の痛みなど分からないのでしょうね」

「如何に公爵令嬢とて、相手が悪過ぎましたね。我らが神子様を害するなど、まさに神をも恐れぬ所業です」



 5人の男性が一斉に、私を責め立てます。

 順番に説明すると、私の兄であり、現宰相の長男でもあるガウェイン・ガラティーン。

 辺境伯家の継嗣であり、学園で名の通った武人でもあったトリスタン・リオネス様。

 侯爵家の三男で、令嬢方に人気の貴公子でもあったケイ・エクトル様。

 平民の出でありながら、天才的な魔法士にして錬金術士でもあったガラハッド・エレイシス君。

 神子の召喚を取り仕切った神聖教会に所属し、未来の枢機卿とも言われていたパーシヴァル・エル・ペリノア君。

 皆さん、趣は異なりますけど、いずれも劣らぬ美男子、美少年。分かり易く申し上げれば、ゲームにおける攻略対象の皆さんです。

 そう、現在、私にとって、ゲームの中では2番目に悪いルート、逆ハーレムルートの途上にある訳です。



「皆、それまでにするんだ。シアは……いや、グレイシア嬢は婚約者ではなくなっても、私の幼馴染だ。彼女のした事を思えば許し難いだろうが、私の顔を立ててくれないだろうか?」



 アーサー様が、私に発言する機会も与えず、一見慈悲を与えるように仰る。

 ……あぁ、もう、私が恋をした、私を対等の相手として見てくれた貴方はいないのですね……。


 『あの人』が言うには、これは、決して『慈悲』等ではない。

 これは、ただのパフォーマンス。これは、すべて茶番劇。大きな声を上げた者の意が通る、醜い因習。

 婚約の破棄を喧伝し、私を吊るし上げ、私を断罪し、その上で私に情けをかける事で、自分達を良く見せようとする三文芝居。

 ごめんなさい、アーサー様。ごめんなさい、お兄様。ごめんなさい、皆様。




 私のやり方では、皆様を助ける事が叶いませんでした。





 ですので、ここから先は、約束に従って『あの人』のやり方で進めさせて頂きます。



「お待ち下さい。私には、皆様の仰る事に、心当たりがありません。アーサー殿下との婚約が交わされた日から今日まで、第一王子妃として相応しくあるよう努めて参りました。それを突然、このような場で婚約を破棄すると仰られても、納得できません」



 静かに、しかし、はっきりと私が拒絶すると、殿下をはじめ、皆様はまず驚き、次いで、その瞳に怒りを露にされました。

 特に、『殿下』などと本来であれば正しい、でも、幼馴染であった私達の間では今までになかった呼び方に、殿下は衝撃を受けていらっしゃるご様子。

 先に、私を幼馴染の『シア』ではなく、ただの『グレイシア嬢』と呼んだのは、貴方ですよ?



「何を言うかと思えば白々しい!」

「己が罪を認めぬばかりか、殿下の慈悲まで蔑ろにするとは」

「あーぁ、それはねーわ。それはマジでありえねーよ」

「公爵家のご令嬢だからといって、何をしても許されると勘違いなさっているのでは?」

「貴女が行った事は、教会からの『破門』もあり得る事案だと、ご理解なさっておいでですか?」



 またも口々に責め立て、私を威圧し、黙らせようとする殿方達。すると、そこへ――



「みんな、もう止めて!」



 満を持して、一人の少女が割って入ります。

 彼女こそ、この世界における、約束されたヒロイン。

 乙女ゲーム『救世神子の虹模様』の主人公、酒月さかづき ひじり。『あの人』は、「アーサー王物語キャラに聖杯かよ!」と、この世界を評していました。



「みんな、私は大丈夫だから。みんなと協力して、この国を守ることが出来れば、それでいいの」



 『救世神子の虹模様』とは、異世界『アヴァロン大陸』に召喚され、『光の女神』の加護を受けた『神子』として、この国『ブリタニア王国』を『魔族』から護り、『魔族』によって占領された西の隣国『ウェストパニア教国』を解放する為に戦う、『アクション乙女ゲーム』です。

 主人公は召喚されてから3年間、この世界の事と戦い方を学ぶ為に『王立キャメロット学園』に通いながら、仲間となる攻略対象達との恋愛をする事になります。


 本来なら、現在起こっているイベントは、学園が主催する年の瀬に行われる舞踏会、その最後に当たる3年目に起こるのですが……『あの人』のおかげ……いえ、『あの人』のせいで、2年目に起きています。

 ガラハッド君とパーシヴァル君は今年入学した1年生ですから、酒月さんは相当に無茶をしたんでしょうね……。



「聖……我が国の事情で、拉致同然に君を巻き込んだというのに、その上、こんな目にまで遭わせてしまってすまない」


「アーサー様……うぅん、このくらい、あたしは平気だよ」



 熱い視線を交し合う二人に、取り巻きの皆さんも、功を競うように聖さんを誉めそやします。

 最初に一撃を放った後は、反撃されないように牽制しつつ、このように自己完結して煙に巻こうという魂胆です。


 まぁ、これまで、散々に『あの人』にやり込められてきたおかげか、彼らはなかなかはっきりとした攻め方をしてきません。

 このまま、一方的に宣言して周知の事実として、有耶無耶の内に勝手に終わられては、確実に私が各方面から叱られます。

 既に、『あの人』の手によって、根回しも終わってしまっているでしょうから……。


 正直なところを申し上げれば、婚約破棄だけならば、私はされても構わないのです。

 アーサールート、ガウェインルートの修道院送りと、逆ハーレムルートの永蟄居、そして、最悪の破滅ENDさえ回避できるなら、むしろ、婚約破棄はありg……いえ、何でもありません。

 何にせよ、このまま終わらせる訳には参りませんので、もう少し、彼らを突かせて頂きます。



「殿下方、ご自身で勝手に完結されるのも結構ですが、学園の行事を私物化した挙句に茶番劇を演じられたのでは、生徒会としても、お遊戯会の脚本としても、良識を疑わざるを得ないかと存じます。よろしければ、私をはじめ、この場に居合わせた観客の皆様にも理解し易いよう、私の何が『許し難い』のか、ご教授願えないでしょうか?」



 ちょっと頑張って、『あの人』の芝居がかった挑発を意識してみました。

 すると、効果は覿面で、特に『あの人』とそりが合わなかった兄が、黙っていれば端整なお顔を歪ませて暴発して下さいました。



「貴様ッ! 言うに事欠いて、我らの慈悲を茶番などと!!」



 この場に居合わせただけの方々からしてみれば、私を罪人扱いしつつ、その罪状を仰らないのでは、訳が分からない茶番劇に過ぎないと思うのですが?

 それにしても、ゲームでのガウェイン様は爽やかな好青年でしたのに、私の兄はどうしてこんなに短慮なのでしょうか?



「貴様の今後と、我が家の恥を晒さぬ為に、黙っていてやったというに……斯くなる上は、私自ら貴様を処断し、我が家の汚名を雪いでくれる!」


「おい! 待て、ガウェイン!」



 アーサー様が暴走しだした兄を止めようと、肩に手をかけられましたが、兄はそれを振り払います。

 ……この時点で既に私よりも兄の方が、不敬罪で我が家の汚点ではないでしょうか。

 第一王子の制止を振り払うなんてありえない行為を、重鎮たる公爵家の継嗣がやったものですから、極一部を除いた皆さんは驚いて固まってしまいましたわ。斯く言う私もビックリです。



「グレイシアよ、貴様は浅ましくも王妃となる事に執着し、この国を護る為に殿下と行動を共にする聖に嫉妬。腹いせに彼女を誹謗中傷した挙句、階段から突き落として害しようとまでした! こんな女が第一王子妃に相応しいだと? バカバカしいにもほどがあるわ!!」



 そして、誰もが固まっている間に……。あ、いえ、『誰もが』ではありませんね。

 『極一部』の彼らの暴走を待ち侘びていた方を除いて、皆が固まっている間……ですね。

 とにかく、兄は言ってしまわれました。

 私が行ったという『罪』を。


 私は詳しくないのですが、『あの人』が言うには「『悪役令嬢逆転物』では、兎に角揚げ足を取られる隙を作らず、相手がでっち上げてくる『証拠』を潰す必要がある。これは無罪を勝ち取る為に最低限必要な物だから、絶対に具体例を挙げさせろ。『反証』と『トドメ』の材料はこっちで用意してあるから、お前は何が何でもそれを引っ張り出せ。有耶無耶の内に言い逃げさせるなよ」との事。


 兄の暴走で、あちらは『有耶無耶の内に言い逃げ』する事は叶わず、『誹謗中傷』と『階段から突き落とす』という具体例を引き出させて頂きました。

 ……それにしても、階段から突き落とされて死んだと思われる私が、同様の事件の加害者として冤罪をかけられるとは、因果なものですね……。


 そんな益体もない事を考えていると、後ろの方からコツ、コツとゆっくりと近づいてくる足音が聞こえて参りました。

 ……これから彼らに訪れる『暴虐』と『理不尽』を思うと、茶番劇の被害者であるはずの私ですら、恐怖を覚えます。

 嗚呼、アーサー様、皆様、本当にごめんなさい。

拙い作品をここまで読んでくださり、ありがとうございました。

よろしければ、最後までお付き合い下さい。

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