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俺が育てたモンスターでダンジョンハーレム  作者: どげざむらい
第一章 蟻集まって木揺がす
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第29話 狩人の戦い方

 またデータを消してしまった……。

 まあ、今回は直ぐにリカバリが効いたので良かったです。

「はぁ……一時はどうなるかと思ったが、まともに指揮してくれて良かった」

『コマトも1人の武士。己が身を持って戦いたいという意思はあって然るべきかと』


それもそうか、もう少し、性格面を考慮して、補助となる虫人を、1人くらい付けておくべきだった。


……というか、ガイドちゃんが武士道精神を理解している事が意外なんだが……。


『……なんですか? そんな、まるで私が予想外の発言をした事に驚き動揺を隠せないと言った感じの表情は』

「まさにその通りだよ」


最近、ガイドちゃんは本当に人の気持ちを汲み取るのが上手くなった。

これはいい変化であると同時に、イヤミが増えるからそこまで喜べる事でもない。



って、こんな雑談は後回しだな。今はあいつらの戦いを見守らなくては。

 Aランク冒険者というものを多少なりとも警戒はしていたが、そこそこに戦えるレベルだった事は僥倖だな。これなら、念入りな準備があればなんとか戦える。

 今後も油断はしないようにしておかないとな。



まず、最初の重戦士の男だが、 今はまだセルと戦闘中か。

手数で攻めるセルには、あの大盾を突破する手段は限られているし、重戦士の攻撃も、素早く回避するセルには一撃も当たっていない。

なので、現在は双方とも防戦一方という、なんだこれ状態。誰かセルと変わってやれよと思うが、誰もいないから仕方ない。



次に、水中戦の魔法使い。

ゲンゴロウ型モンスターの幼虫であるところの、『ダイバーインセクトラーヴァ』。ヤゴ型モンスターの『ジェットドラゴネア』では、魔法の一撃で吹き飛んでしまうので、今は撤退し、2対1の戦闘になっている。

下からは、気の狂った笑い声と共に襲いかかる大鎌。上からは、時折突き出してくるレイピアが、頭の上を掠める。

稀にも見ない、上下を固めた挟み撃ちに対応し、攻撃を受け流している女性に対して、素直に感嘆する。



次に忍者の男。コマトによって戦闘力をほぼ倍程度になるまで上げられたアイアンビートル4体の攻撃も受け流し、数いる分身で少しずつ装甲を削ろうと頑張っている。もう既にアイアンビートルの1体は、動きがかなり鈍くなっているようだ。コマトも全力で指示を出しているのだが、まだ生まれたばかり。そう直ぐに的確な指示が出せるようになる訳ではないのだから、それもまた仕方の無いことだ。


 もう少し成長させる時間があれば良かったんだがな……。



 ま、ここは今後の課題って事にしとくか。

 コマトの奴、号令練習せずに素振りばっかしてたからな。



『火狩。あとは弓使いと神官、リーダーらしき立ち位置にいた片手剣士ですね』

「あー、そうだな。『闘技場の三試練の間』『水面下の支配者の間』『葬場までの直線上』『若武将の戦の間』。あと3部屋は……ほぅ、面白い事になりそうだな」


 さて、もうそろそろ『アイツら』と出会うであろう、弓使いの女性に視点を向けるとしよう。



 ☆



 弓を引く。


 射る。



 真上に向けた矢は、予想も外れず真上へと向かって飛んでいき、天井の見えない真っ暗な闇に飲まれていく。

 しばらく経つと、上から落ちてくる大きな影が1つ。


 それは、天井で出番を待っていた1匹の『ビッグローチ』だ。

 その女性の目には、暗闇の中で息を殺して潜んでいた、黒い生物が見えていたらしい。

 さらに言えば、ビッグローチは危険を察知するのが得意な魔物だ。矢が飛んできても這って避ける事など普通は容易く行えるはずである。


 それでも逃げ切れなかったという事は、それだけ女性……ルサリカの射た矢が疾かったという事であり、ビッグローチ自身が気付かなかった、ほんの一瞬の気の緩みを正確に狙って射たという事であり、ビッグローチの死角をよく知っていたという事でもある。



 ダンジョンで使用するため、元々小さいものを更にコンパクトに改造されたショートボウを使用してその威力、その速さ。森で狩人にでもなっていれば、今頃どんな魔物も敵にはならない、伝説の弓使いにでもなっていたのではないだろうか。



 しかし、彼女はダンジョン以外に興味などなく、現在愛用しているコンパクトボウ以外触った事がない。


 伝説の名は遠い過去に捨て去ってしまったのである。



 得意武器を弓にしながら、何故ここまで弓とは相性最悪といっても良いダンジョン探索に固執するのか、それは誰も知らないし、彼女自身、誰にも教えてはいない。

 だが、誰よりもダンジョンに縣ける情熱は熱い。バンダナの下に隠した冷めた表情を持っていても、その事実は変わらない。



 数歩歩く度、矢をつがえる。


 射る度、魔物が墜ちる。



 繰り返し、繰り返し、繰り返す都度、魔物は減り、矢は一向に減らない。



『異空の矢筒』。別空間に収めている矢が自動的に装填されるという、全世界の弓愛好家が欲しがる特級の魔道具マジックアイテムだ。Aランクのアーチャーともなれば、誰でも持っている至極の賜物。


M字に折れ曲がった小さな弓は、今手に持っている物と、背負われたままのもう1つがある。


手に持っている方は、『ダークオークトレント』と言う、闇属性魔法を使ってくる木の魔物の枝を加工した物で、暗闇で使用すると、射た矢に『隠蔽』の効果を付与する能力を持っている。

先端にはシャドーハウンドの牙を付け、発射音を消す効果を付与。

弦は『老山亀』と呼ばれる、山のように巨大な岩亀の尾の毛を使用されており、濃厚な魔力が込められている。

 『影弓 静』。それがその弓の銘である。



 背負っている方は、『純ホワイトミスリル』という、魔法との相性がいい『ミスリル銀』の中でも特に希少な、『聖』属性に適正を持つ『ホワイトミスリル』を100%使用した、かなり貴重な素材を使っている。矢に『聖』属性を付与し、アンデッドなどは基本的に一撃で葬る威力を出す。

 弓の先端部分は『セイントボア』という、大きな白い蛇の毒牙を使用している。強力な幻覚作用のある毒を持っていて、つがえた矢に『不可視』の効果を付与する能力を持っている。

 弦は。かつてこの世界に現れた勇者が『霊龍 レイスーン』と名付けた、純白の巨龍の髭を使用している。

 この弦には実体が無く、射た矢を魔力矢に変換する能力を持つ。

 『幻弓 精』



 この弓は、この世界では『超級』と言われるとても強力な魔道具だ。




 この世界では、冒険者、魔物に飽き足らず、魔道具にもランク付けされている。


 いやはや全く、とことん階級が好きな世界である。




 魔道具とは、魔力を内包、あるいは、魔力を吸収し力を発揮する道具の総称で、小さな種火を付けるものから、凶悪な魔物を吹き飛ばすものまで、その強さはまちまちだ。


 そしてその強さの差がある分、階級も、いくつか分かれている。




 まずは、一番低い階級として、別に魔道具じゃなくてもいいんじゃないかという程の微妙な効果の『劣級』。


 次に、無いよりはマシといったレベルの、お守り程度の効果しかない『下級』


 次に、一般家庭で使われる、生活用品程度の『中級』


 次に、冒険者などが装備品として使い始める、強い効果を持った『上級』


 次に、高ランク冒険者が持つ、強力な効果を持った『特級』


 次に、高ランク冒険者の中でも、極僅かな者しか持っていない、希少な素材を使って作られている、とても強力な力を持った『超級』


 次に、それ1つで軍隊を相手取る事ができるとも言われる、常識外れの『伝説級』


 次に、もはや神殺しすら可能と言われる、人知を超えた『神話級』


 他にも、効果や、力の大きさがあまり知られていない『古代級』などと言った例外もある。




 その中で、ルサリカの持つ2つの弓は、それ1つで小さな城が買えるクラスの『超級』魔道具。

 そう簡単に手に入れられないどころか、『魔道具が持ち手を選ぶ』とさえ言われるレベルの品だが、それを上手く使いこなすことのできているルサリカの力量は、もう疑い様もない。



「……あれ、これは?」



 ルサリカは、今墜としたビッグローチを見て、その体に何かが付いている事に気が付いた。

 不思議に思い拾ってみると、それは小さな黄色いバッジだ。


「……『物品鑑定』」


 『遺跡狩人レガシーハンター』としてのスキルを活用し、手に持つバッジについて調べると、これが『中級』魔道具だという事に気が付いた。




 ▼


【絆の証(複)】


 効果:本体に魔力を流す事で複製された。同種族が装備している『絆の証』1つにつき、能力値が1つ、ランダムに0.01%上昇する。


 ▲




 効果自体はそこまで強いものではない。しかし、それはこの魔道具を持っているビッグローチの数にもよる。

 今までは急所を突けていたから良かったものの、思いもよらぬ力を持っている可能性もある。


 ルサリカがそう思いながら、弓を構え直した、その時だった。


 遠くから、とてつもない速さで『殺意』が飛んでくる。



「……っ!?」

「出会いましてはトドメの一撃ってな!!」


 気付いた瞬間には、その拳は目前まで迫っていた。


「くっ……!!」


 しかし、ルサリカは上体を後ろに反らす事で、その音速の攻撃を躱す。

 元より短い前髪がチリチリと音を立て、宙に舞うが、そんな事を気に留めている暇はない。

 ルサリカは最小限の動きで体勢を立て直し、襲撃者に矢を向ける。



「アァ? 躱しただと? ははっ、おもしれぇ……気分が変わった。殺すのは少し遊んでからにしてやる!」



 ルサリカの視線の先、地面から5mも離れた『空中』にいたのは、見た目17歳程度の少女。


 長いスカートに、前の開いた短ラン、スポーツブラを着けたスリムな体型で、肌は白。翠色の目はツリ目で、黒く、身長より長い髪はポニーテールにしている。結んだ髪には、黄色いリボンが螺旋状に巻かれていて、髪の先端部分を縛っている。

 その両手には、3本の爪の付いたメリケンサックを握っている。

 時代遅れの不良少女そのままな格好なのだが、現代世界の学ランなど知らないルサリカからしたら、変わった格好だな、としか思えなかった。


 しかし、それ以上に、ルサリカには気になったところがある。

 それは、少女の背中。高速で振動している、細く、薄い、2対4枚の透明な翅。


 ついさっき戦闘を行った分身少女、カムラとの戦闘から薄々気付いてはいたが、どうやらこのダンジョンには人間が味方しているらしい。

 ルサリカは、腰に手を当て、不敵な笑みを浮かべる上空の少女を、自分の敵と認識し、その正体を探ろうとしていた。


(一体何者? ダンジョンに手を貸す……亜人? 羽があるということは『鳥獣人族』の……いや、あの羽の形状は獣人というより……)


 色々考えを巡らせるルサリカだが、その必要は、直ぐに無くなった。


「アタシの初陣。派手に行かせてもらうぜ! 『蜻蛉人族ドラゴノイド』のキオ。夜露死苦!」


 少女は、キオと名乗り、その拳を真っ直ぐに突き出した。

 その目には、純粋な闘志が宿っていたが、その奥には、隠しきれない殺気も見え隠れしている。


(『竜人族ドラゴノイド』!? 秘境の奥深くに隠れ住んでいるという、伝説の!? 亜人種の中では最高の戦闘力を有し、魔力はエルフをも上回る。空の支配者にして、全ての獣人の王。……まさか、実在していたなんて!!)


 なお、解りきっているとは思うが、『ドラゴン』と『蜻蛉ドラゴンフライ』は全くの別物である。


「……さぁ、アンタは名乗らないのか?」


 不敵な笑みを崩さず、挑発的な物言いでルサリカと目を合わせるキオ。


 だが、ルサリカは何も言わない。




 彼女は狩人だ。剣士のような騎士道精神なんて持ち合わせていないし、格闘家のように正々堂々を売りにはしていない。

 警戒を解いた獲物の急所を狙い、一撃で葬る。それがハンターの戦い方だ。


 だからルサリカは警戒を解かず、名乗らず、敵を睨み続ける。



 そんなルサリカの様子に、名乗る気がないと悟ったのか、キオの表情は一転。

 笑みは消え、その顔は不満に歪んでいた。口はへの字に曲がってしまっている。



「……まあ、いいけどよ。じゃ、せめて、楽しく殺り合おうか!」

「来るか……!!」


 高速で飛行する相手。狙撃は難しい。しかし、それでもルサリカは目にも止まらぬ速さで装填した矢をキオに向ける。


 真っ直ぐ向かってくるキオに、矢を射る…………直前、『後ろ』から発せられた殺気に、ルサリカは咄嗟に体を横に転がした。


「取り敢えず一発喰らっと……ハァ!?」

「隙アリy……ぅえ!?」



 正面から突っ込んできたキオと、後ろから襲いかかってきた別の少女。


 衝突事故を起こす事は…………必然であった。








「イッッッテェェエエエエ!! 何すんだテメェ! っていうか、なんでここにいやがる! テメェの区域は隣だろうが!!」


 両手で頭を抱えながら、キオが怒鳴り散らす。その怒りの矛先にいたのは、やはり少女であった。


「イツツツ……いやー、ウチの所、だーれもきぃひんから、暇で暇でしゃーないんやよ。ちょっとだけでいいから、ウチにも戦わせてーな。ほれ、このとーり」


 尻餅をついていた少女は、額に筋を浮かべて怒るキオに手を合わせてそう言う。


「な? ほら、ウチがアンタに対してこんなお願いする事、もうないで? 貴重な経験やおもて、譲ってーな」


 だがしかし、懇願の中で、若干キオに対して、対抗心を燃やした目をしているのが、気になるところだ。



 関西弁の少女は、キオと同年代くらいで、裾の長い文旦に長ラン、胸にはサラシを巻いている。所謂特攻服という服装。真っ黒のバンダナからは、短い黒髪を僅かにはみ出させている。耳には真っ黒な牙のイヤリングを付けている。細身で、褐色の、活発な少女だ。

 その手には木刀を持っていて、キオとは別種の、しかしやはり時代遅れな不良像がそこにはあった。


「『斑猫人族タイガロイド』のエマゆーて、ほら、虎の子は寂しがり屋やし? 退屈なんはアカンやろ?」


 大阪弁少女……エマは、そう言いながら笑う。


「虎じゃねえし寂しがりじゃねえだろ。一生閉じ篭ってやがれ」

「そんなん気分的な問題やん。な?」

「ウゼェ……っていうか、コロス……。テメェ、いつもいつもアタシの邪魔ばかりしやがって……」

「イヤやわぁ、キオちゃん。ウチ怖いわぁ。そんな目で睨まれて、ブルブル震えちゃうわぁ。……やんのかボケ」

「その喧嘩、買ってやるよコラァ!」


 こうして、2人は戦闘を始めた。




 …………始めて……しまった。



 『空のドラゴン』と、『陸のタイガー』の激しい喧嘩が、勃発してしまったのだ……。



 侵入者を置いてけぼりにして。










(……なにこれ?)



 ルサリカは、目の前で繰り広げられる戦闘……喧嘩に、状況が上手く把握できていないようだった。


(……ええと、取り敢えず『竜人族ドラゴノイド』と『虎人族タイガロイド』は知り合いで、仲が悪くて…………仲間割れ?)


 今の状況に説明をつけようと脳を回転させるが、いま自分がやるべきはそれじゃないと、ふと気づく。



(取り敢えず…………両方倒して考えよう)



 ルサリカはふぅ、と息を吐き、『両手に』弓を持ち直した。


「『双弓 星』」


 闇と光を併せ持つ2本の矢が、今まさにぶつかろうとしている、2人の『虫人インセクトロイド』に迫る。





 あ、解りきっているとは思うが、『タイガー』と『斑猫タイガービートル』は全くの別物である。

 龍と虎ってよく対立してますよね。丁度いいところに龍の名を持つ虫と虎の名を持つ虫がいたので、仲悪い設定にしてみました。

 『エンマハンミョウ』のエマちゃんと『オニヤンマ』のキオちゃんです。

 両方共ヤンチャしてそうなイメージですし、なんか、インスピレーションにビビッてきました。


 ……不良少女っていいですよね。普段オラオラなのに、家ではかわいいお人形さんとか乙女チックな趣味を……萌えますわぁ。


 …………萌えますわぁ(大事なことなので…)

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