第2話 チュートリアル
ようやくダンジョンに近づいてきました。
次話からは冒険者との戦いが始まる!
『ようこそ、火狩様』
機械質な女性の声が耳に届き、俺はゆっくりと目を開ける。
まず最初に見えたのは、壁に突き刺さっている一本の松明の火。ゆらゆらと揺れていて、俺のいる部屋全体を若干赤く照らしている。
次に天井。どうやら部屋全体が土に覆われているようで、天井も茶色や灰色の土が固まって作られていた。
俺は硬い地面で寝ていたせいで、固まってしまった背骨をポキポキと鳴らしながら体を起こす。
……何もない、ただの正方形の密室だった。
『おはようございます、火狩様。こちらは迷宮作成用簡易部屋『迷宮主の拠点』となっております。ダンジョンの操作、構築などを行う『迷宮作成』は、この部屋でのみ行うことが可能です』
そして、狭い密室に響く声が一つ。先程、俺を起こした女性の声だ。
「あー……、あんた、誰?」
『質問にお答えします。私はダンジョン案内を担当しています。『ナビゲーター』あるいは『ヘルプ』と呼ばれる場合が多いので、そうお呼びいただければ結構です』
「へぇ、ナビゲーターねぇ。つまり、ダンジョンのチュートリアルをしてくれるってこと?」
『その通りです。まずは私からダンジョンを制作するための基本動作を学ぶこととなっておりますが、『迷宮作成』を開始しますか?』
……そうだな。ダンジョンの作り方とか、もうすでに資料読んでるから全部わかるんだけど、教えてくれるって言うんなら断る理由もないか。ただより偉大なものはない。
「じゃあ、お願いするよ。どうすればいいの?」
『迷宮作成実行の意志を確認。只今より、チュートリアルを開始します。まずは、『メニュー画面』を開いてください。『メニュー画面』を開くには、開きたいと念じるだけで結構です』
「メニュー画面ね……おお、なんか本当にゲームチックだな」
メニュー、と念じると、目の前に黒いボードのようなものが浮かび上がり、そこに白く文字や記号が浮かび上がっていた。これがゲームで言う、ステータスやマップを表示するための画面だろう。
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群城 火狩
【種族:人(迷宮人)】
【職業:迷宮主 Lv1】
・ステータス
・迷宮情報
・持ち物
・設定
・掲示板
・お知らせ
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今、表示されているのはこれだ。そして、この内容をタッチすることで、更に詳しい情報を見ることができる。
『では、まずは火狩様の情報を確認しましょう。『ステータス』をタッチし、自分の情報を確認して下さい』
言われた通りに『ステータス』と書かれた部分を指で押す。すると、白い文字が全て消え、新しい文字が浮かんでくる。
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群城 火狩 Lv1
能力値
【HP:100(0)】
【SP:100(0)】
【MP:100(0)】
【筋力:10(0)】
【耐久力:10(0)】
【知力:10(0)】
【精神力:10(0)】
【敏捷力:10(0)】
【器用度;10(0)】
【SP:10】
装備
【普通の服:防寒(微)】
【普通の靴:地形ダメージ減少(微)】
スキル
【迷宮作成Lv1】【魔力変換Lv1】【魔力吸収Lv1】
【技石:残り3個】
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『上から説明していきます。レベルとは、本人の強さを表す数値のことで、敵を倒すことで経験値を貯めていき、経験値が一定値を超えると次のレベルに上がります。レベルが上がると、能力値が増加するなどの利点があります』
ほう。つまり、敵……侵入者を殺して強くならなきゃいけないんだな。
『そしてHP。これはヒットポイントの略称で、生命力を表します。ダメージを受けるとこのポイントが減っていき、0になると死亡します。なお、HPは物理的なダメージと、毒や呪いなどの間接的なダメージの両方を同一のものと扱い、両方共、『HP回復効果』で回復できるものとします。なお、毒や呪いは『解毒』『解呪』の効果を得なければ、ダメージは継続します』
HP……。完全にゲームの世界だな。まあ、おっさんも「ゲームだと思って気楽にやりたまえ」とか言ってたけど……俺、今から人殺すんだよな? いいのかそれで?
『次にSP。これは、スタミナポイントの略称で、体力を表します。運動しているとこのポイントは減っていき、運動が激しくなるほど、減少量も大きくなります。SPが0になると、気絶状態になります。SPは一定時間で回復しますが、SPには劣化があり、時間が経つにつれ最大値が減少していきます。対策としては、食料を摂取しましょう。スキルの中には、SPを消費して発動するものもあります』
スタミナか。よくあるRPGゲームみたいに、延々と走り続けたりできないってことだな。それに、隠れステータスで空腹ゲージなんてのもあるみたいだ。飯だけは怠らないようにしよう。
『次にMP。これは、マジックポイントの略称で、魔力を表します。魔法などを使用するとこのポイントが減っていき、0になると昏睡状態になります。MPは一定時間で回復します。MPは、特定のスキルを持っていると、別のエネルギーに変換することができます』
魔法……現代に生きるものとして聞き逃せない情報だ。魔法の会得は優先的に行おう。
『次に筋力。これは、攻撃力です。高ければ高いほど、敵に与える物理ダメージが大きくなります。そして、装備品には重量制限がついているものもあり、筋力が一定値を超えていなければ装備できないものがあります』
なお、筋力値が馬鹿高くても、日常生活に支障はなく、戦闘時や装備時に効果が発揮されるらしい。ああ、あとは、日常でも筋力が必要な場面では効果が発揮されるらしい。異世界ファンタジーの不思議能力だな。
『次に耐久力。これは、防御力です。高ければ高いほど、敵の物理攻撃の威力を抑えます。そして、毒や麻痺などの状態異常に対する抵抗力にもなります』
毒への抵抗とあるが、これは毒を完璧に防げるものではなく、若干ダメージを減らすくらいの気休め程度しかないらしい。状態異常そのものを完全に防ぐためには、『毒耐性』などのスキルを取ればいいらしい。しかし、ステータスによる抵抗は確実にダメージを減らせるのに対し、スキルの方は、抵抗に失敗することもあり、そうなると普通に状態異常にかかってしまうため、絶対とは言えない。どちらにも利点と欠点があるようだ。
『次に知力。これは、魔法力です。高ければ高いほど、敵に与える魔力ダメージが大きくなります。そして、装備品には魔法制限がついているものがあり、知力が一定値を超えていなければ装備できないものがあります』
なお、知力が高いからといって実際に頭がよくなるわけではない模様。……誠に残念なことである。
『次に精神力。これは、魔法抵抗力です。高ければ高いほど、敵の魔法ダメージを抑えます。そして、呪いや催眠などの状態異常に対する抵抗力にもなります』
こちらも前述と同様。いくら高くても感情が薄れるとかいうことはないし、状態異常も効果の軽減程度。……というか、精神力で魔法軽減って、どういう理屈なんだろう。ATフィ……いや、やめておこう。
『次に敏捷力。これは、素早さです。高ければ高いほど、動きが速くなります。回避能力も敏捷力に関係しています』
この能力値が高いと常時足が速くなる。……あれ?
「次に器用度。これは、手先の器用さです。高ければ高いほど、より高度な道具を制作したり、品質を高くできます」
これで、不器用さは誰にも負けない自信がある俺でも芸術家の仲間入りである。……え? 技術向上と芸術的センスは別物? ははは、わかってますよそんなこと……チッ。
『次にステータスポイント。これは、各ステータスに割り振ることができるポイントです。自分で高めたいと思ったステータスに振るのがいいでしょう』
ステータスポイントは現在10。どれか一つの能力が基礎値の倍になる程度だ。一点特化型にするか、バランス重視型にするか、このポイントが俺の命運を握っていると言っても過言ではないだろう。とりあえず、振り分けは保留。何が必要で何がいらないのか、しっかり判断してから使ったほうがいいだろう。
『装備品は、自分が現在身につけている服飾のことです。装備品には能力値に補正値を与えるものがあり、その補正は、能力値の( )内に加算されます』
装備品にもランクがあり、高いランクのものほど装備条件が厳しく、効果は強力になっていく。少なくとも、強い剣と杖の両手持ちは不可能だろうな。
『スキルは、自分の使用できる能力のことです。スキルにはパッシブとアクティブがあり、パッシブスキルは常時発動、アクティブスキルは任意発動となっています。スキルを増やすには、一定の行動をして自然に発現させるか、技石というアイテムを使用して故意に発現させるか、迷宮主の場合、集めた魔力と引き換えに購入することも可能です。以上がステータスの説明となります』
パッシブスキルで身体能力の向上、アクティブスキルで戦闘における手札の増強。成りたての俺は、ゲームの定石通り、パッシブの習得から入るべきだろう。
「……なるほど、よくわかった(白目)」
うん、取り敢えず自分の強化については後回しだ。俺の本分はダンジョン経営だし、今後どんなダンジョンを作るかによって俺自身の身の振り方も変わるだろう。
『何かわからないことがありましたら、後ほど確認の時間を取らせてもらいます。では、次に『迷宮情報』の説明をします。前のページに戻り、『迷宮情報』を開いてください』
言われるがままにブラウザバック。そして、タッチ。
すると、また画面が変わる。
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【迷宮:名無し:Lv1】
迷宮主:群城 火狩
属性:未定
系統:未定
階層:1階層
迷宮内魔力濃度:激薄
迷宮内魔物数: 0体
マナ保有量:0
DP:10000
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『ダンジョンにはレベルがあり侵入者を撃破、撃退する。または迷宮運営所の出す条件を満たす度に経験値が溜まっていき、一定値を超えると、レベルが上がります。レベルが上がると、作成できる階層が一階層増えたり、新たな魔物を召喚可能になったりと、多くの利点があります』
ダンジョンレベルは俺自身が手を下さなくとも上がっていく。対して、俺のレベルを上げるには、俺が戦闘に参加する必要がある。自然に、俺の強さがダンジョンを追いかける形になるな。そこはバランスよく戦闘を行っていこう。ダンジョンマスターだからといって奥に引っ込んでなきゃいけないわけでもなかろう?
『そして、ダンジョンには属性と系統があります。それぞれ、ダンジョンを作成する前にどの属性でどの系統になるのかを選びますが、選択はランダムです。属性とは、火、水、風、土等と言ったもののことで、この属性に合致した魔物の力が強くなったり、相反する魔物が弱くなったりします。属性は、後に増やすことができ、階層ごとに適正属性を変更することができます。初期選択時に、まれに2属性得ることもあります。属性は、現在持っているものを組み合わせて新しい属性を作ることができます』
属性。ゲームの定番だな。
『系統とは、召喚される魔物の種類のことです。代表的なものは、悪魔系統、獣系統、妖魔系統などです。この系統も属性と同様、後から増やすことができますが、複数の系統を使用すると、召喚できる魔物の種類に制限がかかるなど、多少のデメリットが生じます。初期選択時に、まれに2系統得ることもありますが、この場合は制限はかかりません。そして、初期選択時に2系統出た場合、その二系統に限り、相性が良ければ2系統が合成され、新しい系統を生み出すこともできます』
少し長くてややこしいが、要は属性と種族のランダム決定。ただそれだけだ。
『階層は、ダンジョンレベルと同数設置することができ、階層が多いほど、吸収する魔力量は多くなります』
なお、階層の配置は割と自由で、上に積み上げてもよし、下に掘り下げてもよし、上へ下へと順番に増やすもよし、そもそも順番なんて知るか! とあちこちに散らばらせようが、階段? 何それ食えんの? と前の階層と繋げて面積の広い特大ダンジョンを作り上げることもできる。そしてどうやら階層には、1階層ごとの最大面積が決まっているようだ。
『迷宮内魔力濃度とは、ダンジョン内に充満する魔力の量を表しています。魔力は魔物の食料でもあるので、枯渇させないように気をつけてください。魔力濃度を条件に召喚可能になる魔物もいますので、なるべく濃くした方がいいです。しかし、魔力濃度を高めるには、マナを消費する必要があるので、ご使用は計画的にして下さい。迷宮の成長に合わせて、徐々に濃くすることをオススメします』
実は今の俺はこの魔力だけで生きられる体になっているらしい。が、それはSPを犠牲にした場合の考えで、本当に生き延びるためだけの救済処置である。戦闘を行うためにはちゃんとした食料が必要なようだ。
『魔物数はそのまま、ダンジョン内の魔物の数を表しています。なお、ダンジョン外から侵入してきた魔物はこの数には換算されません。侵入した魔物は、そのまま侵入者として撃破することもできますし、生かしておいて冒険者の妨害に使用することもできます』
1階層における魔物の最大数は特に指定されていない。小さいのをウジャウジャもできるし、ドデカイのを1体ドンと置くだけでも大丈夫だ。魔物の種類によって魔力の消費量は差があるようなので、残存魔力と相談して数も個体も決めていくことになる。
『マナ保有量はその名のとおり、現在保有しているマナの量を数値化したものです。このマナは、ダンジョン内に放つことで魔物の食料にしたり、DPに変換するなどの使用方法があります。マナの回収方法は、侵入者の撃破、ダンジョン内侵入者からの吸収、時間経過による自然吸収の3つの方法があります』
マナを集めるのがダンジョンの目的。故に、俺は効率よくこのマナを集める方法を考えなくてはならないのか。
『DPは迷宮内魔力の略称です。このポイントを消費して、ダンジョンを拡張、構築、魔物召喚など、ダンジョンを育てていくことができます。DPを増やすには、マナを変換。アイテムや魔物を還元(売却)などの方法があります。現在は初期ボーナスとして10000DPが用意されていますので、これを使用してダンジョンを作っていきましょう』
これだ。これが迷宮作成に最も重要となるポイント。いかに効率よくこのポイントを集め、使っていくかによってダンジョンの運営がかなり変わってくる。
『さて、現在しておかなければならない説明は以上です。ステータスとダンジョンについての説明のみですが、その他の機能はまだ使用不能であったり、説明の必要がないものです。よって、これから迷宮作成を実行します』
どうやらダンジョンを作るらしい。初めてだと何事も緊張するものだな。
「もういいのか。それじゃあ、最初にやることは……運試しか?」
『はい。まずは属性を決定します。準備が整いましたら、現在閲覧中の画面より、『属性』をタッチして下さい』
迷宮情報の中の『属性:未定』をタッチ。すると、属性変更を行いますか? の文字。と、『はい』『いいえ』の選択肢。
迷うことなく『はい』を押す。すると、どこからか小気味良い音楽が流れ始め、目の前の画面で色とりどりの文字がグルグルとスロットのように回り始めた。
……これ、ゲームで言うガチャ的なやつか?
赤色の『火』、青色の『水』、茶色の『土』、緑色の『風』、そしてたまに『氷』『雷』などの、レアっぽい文字も出現する。……さて、どんな属性がでるのやら。
グルグル……グルグル……ピタ、グルグル……
時にフェイントをかけながら回っていたスロットが最終的に止まった文字は、驚くことに二文字であった。
『おめでとうございます。2属性の同時出現率は2%です。2属性はバラバラに使用することもできますし、混ぜ合わせて新しい属性を作ることも可能です』
へえ、かなりのレア物らしい。なんかキラキラ光ってるし。それで、属性の内容は……と。
白い神々しい輝きを放つ『光』と、黒く禍々し瘴気を放つ『闇』。
……光と闇が合わさり最強に見える! ってか? いやいや、そんな馬鹿な。相反する属性として、相性は最悪。こりゃ組み合わせもできないな……。
『光属性と闇属性。組み合わせは最強レベルです』
「できるのかよ!」
え、なに? マジで光と闇が合わさり最強になるの?
『はい。両属性とも出現率は0.8%の激レア属性です。2属性に加えてこの二つを出現させるなど、頭がおかしいレベルで幸運です』
……褒めてるのか貶してるのかよくわからん。
『しかし、その分、この二つの組み合わせで作られる属性は強力の一言では言い表せないほどのものです』
「……一体、どういう属性になるんだ?」
『その前に、属性の働きについての説明が必要となります。本来の属性は、例えば『火属性』の場合、その階層に存在している全ての火属性魔物、及び火属性魔法、火属性を含む装備品の能力は1.5倍となり、逆に火属性と相性の反する属性、『水属性』『風属性』の能力は半減します』
「反する属性って二つあるのか」
『はい。『火属性』は『水属性』『風属性』に強く、『水属性』『土属性』に弱いです。火と水は互いに弱点同士なので、双方に対して、弱点補正により威力が1.5倍となります。なお、風が火に与えるダメージは半減です』
つまり、『火属性』と『水属性』がぶつかり合うと、両方1.5倍の威力で釣り合うが、ダンジョンの属性が火属性になると、さらに火が強化され(1.5倍の1.5倍で1.75倍)、水が弱体化する(1.5倍の半減で0.75倍)、ってことか。……風は悲惨だな(0.25倍)。
ついでに、水属性は『火』『土』に対して強く、『火』『風』に弱い。
土属性は『火』『風』に強く、『水』『風』に弱い。
風属性は『水』『土』に強く、『火』『土』に弱い。
一方的に相性が悪いものと、双方共に相性の悪い属性が一つずつあるわけだな。
『そして、『光属性』は闇属性に対して威力が2倍、そして闇属性から受けるダメージも2倍です。『闇属性』は光属性と真逆の効果があります。それ以外の属性に対する補正はありません』
光と闇は、弱点が1つ。しかし、普通1.5倍のところ、この2属性だと2倍になるのか。こりゃ使いどころが難しいかもな。
『そして、この2属性を組み合わせると、『混沌属性』という属性になります』
「……名前からして中二臭がプンプンするんだが……効果は?」
『『味方陣営』全員の全属性威力が2倍、『敵陣営』全員の全属性威力が半減です』
「強くね!?」
完全にチートじゃねえかそれ!
ちなみに、基本属性の組み合わせの例をすると、
『火属性』と『土属性』で『溶岩属性』。『火属性』『土属性』に2倍の補正がかかり、『水属性』『風属性』が半減する。
『水属性』と『風属性』で『嵐属性』。効果は上の『溶岩属性』の反対。
他にも『火』と『水』で『霧属性』、『土』と『風』で『砂塵属性』。
さらに、『火』を二つ合わせて『炎属性』とか、さらに『炎』を二つ合わせて『煉属性』とか、強化系もあるらしい。属性は後から追加取得することもできるらしいし、いろんな組み合わせを試してみるのも1つ、楽しみではありそうだ。
「しっかし、こんなチート性能属性引くとは、やっぱ俺って恵まれてんのかねぇ?」
『回答しかねます。この結果は全てシステム上起こり得ることであり、適切な確率は維持されています。奇跡等の、神による上位存在の介入は見受けられませんが』
「あ、いや……まあいいや」
『それに、最も大切なことは、今から決める『系統』ですので。この選択がこれからのダンジョンの方針を決定すると言っても過言ではありません。では、『属性』に引き続き、『系統』の選択をお願いします』
「……これもガチャ?」
『ランダムで選択されるという意味では『ガチャガチャ』『ガシャポン』『カプセルオモチャ』と名称されるそれと同義かもしれませんね。では、これよりこのシステムを『ガチャ』と名称しましょう』
「あ、うん」
どうやら、名称とかの、システム内部に影響のない部分は、基本的に俺の自由に決めていいみたいだな。……じゃあ、呼ぶのが面倒な名前とかあったら変更しよう。
「……なあ、ガイドちゃん」
『……『ガイドちゃん』とは、私のことを称しているのでしょうか?』
「そうそう。『ナビゲーター』とか少し言い方硬いからさ。『ガイドちゃん』でいいでしょ?」
『了解しました。これより、私の呼称を『ガイド』で登録します』
「ガイド『ちゃん』で」
『……了解しました。『ガイドちゃん』で登録の上書きをします』
……なんか楽しいなこれ。
『些末な変更はまた時間があるときにすることをオススメします。今は系統を決定し、ダンジョンを少しでも開放できる状態にしなければいけません』
「そういえば、『魔物』って言い方、ちょっと仰々しいし、『モンスター』にできない?」
『可能です』
「にしても、ダンジョン、DP、マナ、魔物。すげえ定番すぎる名前だよな。何番煎じ?」
『ダンジョンマスターになる人間は、ゲームに関する専門知識を持っている者ばかりとは限りません。何も知らない方になるべく分かりやすく説明するためには、ひねりのない簡単な名称になってしまいます。お望みならばすべての名称を変更可能です』
「いや、面倒だからいいや。あ、そうだ。ガイドちゃんの名前、やっぱり『たま』にしない?」
『不可能です』
「なんで!?」
ガイドちゃんが軽く中の人の気配を漂わせたため、おふざけの時間はここで終了することにする。
「さて、それじゃあ、『系統』を決めようかね!」
『やり方は先ほどの属性と同じです。一度決まったらやり直せないので注意して下さい』
「注意ったって、運ゲーなんですがね……じゃ、ポチっと!」
グルグル回り出すスロット。さて、何が出るかな……。
『獣』『魚』『植物』『鉱石』『死霊』『妖精』『粘液』……様々な系統が行ったり来たりするなか、ついに俺の目の前でピタリと止まった名前……それは…………。
「……『竜』……だと……?」
『『竜』系統は全種族中でも最強種と言われています。出現率は0.02%。激レアです』
「マジかよ……やべえな俺」
『ちなみに、初期属性が光属性と闇属性であるため、召喚できる初期魔物は『下等子竜』『子光竜』『子闇竜』となります。子光竜、子闇竜は、上級竜の成長体と同等の力を持っています。召喚コストは下等子竜と同値の30DPです』
「え、下等子竜いらねえじゃん」
何気に酷いことを言っている? 事実だからしょうがない。
「上級がどんなもんか知らないが、結構強いんだろ? それ」
『上級竜成長体が現れた場合、ランクC級冒険者の6人パーティが派遣されるレベルですね』
お、おう。そのランクとか冒険者パーティがわからないから結局基準もわからなかったぜちくせう。
「ともかく、とんでもないものということはわかった。……じゃ、いよいよ、迷宮作成に取り掛かろうか!」
『ダンジョンは基本的に自由な形を作ることができますので、罠、宝箱、モンスター、そしてそれらを配置する部屋を迷宮組合から購入していただき、階層を作成してください』
「購入?」
『はい。ダンジョンに配置する設備やモンスターは、収集したマナを通貨として、迷宮組合からDPを購入していただき、さらにそのDPをもう一つの通貨として、別の製品などの取引に使用されます。ただ徴収するのではなく、こうして回収したほうが、ダンジョン側のモチベーションも上がるからとか』
「へぇ、そう。完全にシュミレーションゲームだな、これ」
『これは現実ですが』
「ああ、そう言う意味じゃ、シュミレーションじゃなくてリアリティか。……わらえねえ」
通路は1m四方で1DP消費。人の通れる通路を作るには最低2×1マス必要だから、2DP消費か。
部屋は最小で5m四方の10DP。通路に比べて格安で、通路に置けない設備が置ける。
しかし、部屋同士を繋げることはできないし、階層ごとに置ける部屋数は決まっているので、通路代わりに置くことはできない。
魔物も配置していこう。体長1m程の小さな白い竜と、黒い竜を点々と通路に置く。
宝物は……割と安い『龍の鱗』とかにしておこう。どうやら系統によって買える商品の値段も変わってくるみたいだ。竜種は召喚できるからか、それに関連する商品は安くなっている。
「ん~、最大面積まで作るとなるとかなり時間かかりそうだが……やってやるか!」
こうしてモニターと向き合い3週間。俺はようやく満足のいくダンジョンを作り上げ、この広い世界に繋がる門を開くこととなった。
「ついに来たな、この日が!」
『そうですね。私があなたにダンジョンの説明をしてから3週間ですか。もっと長いと感じてしまいましたね』
心なしか、ガイドちゃんとの距離も近づいている気がする。……そうだ。このダンジョンは俺とガイドちゃんの二人で作った最高傑作! 絶対に負けはありえない、最強のダンジョンだ!
「行くぞ! ガイドちゃん! 共にこの世界で戦うんだ!」
『…………』
「……ガイドちゃん?」
『……私はそちらにはいけません』
萎んだ声で、俺にそう告げるガイドちゃん。俺は驚愕を隠せず、声を荒げる。
「な、なんでだよ!? ここは俺とガイドちゃんで作った……」
『私の役目はあなたにダンジョンの作り方を教えるところまでです。これ以上は、あなたが自分で進んで行かなくてはなりません』
「そ、そんなの……そんなのおかしいだろ!? だって……だって俺達は今まで……!?」
『……すみません。火狩』
「……っ!?」
初めてだった……。彼女が俺を呼び捨てで呼んだことは……。
その初めてが……こんなところでなんて…………あんまりだろ。
『わかって下さい火狩。あなたは絶対に一人でもやっていけます。それに、私がいなくなるわけでもありませんから。ずっと、あなたの作ったダンジョンを、ここでずっと見守り続けます』
「…………ガイドちゃん」
『だから……わかって……下さい』
……………………。
「……わかったよ。俺、やるよ」
『火狩……?』
「俺、やってみせるから。この世界で最強のダンジョンになって、マナを全部集め尽くして、絶対ここに帰ってくるから。だからガイドちゃん……」
『…………』
「俺がここに帰ってきたとき……笑顔で、迎えてくれよ」
『……ふふっ、わたしはただの音声ですよ? 笑顔なんて見せられません』
「いや、見えるよ。俺には……見える」
『……火狩。……はい、わかりました。では、笑顔の練習をして待っていますね』
「ああ……それじゃあ、行ってくるぜ!」
こうして、俺のダンジョン生活は、本格的に始まったのだった。
あれから、どれくらいの月日が経ったのだろうか。1年、10年? ……いや、体感だと100年は経ったか。
今俺が立っている場所は、懐かしさを感じる、ジトジトした真っ暗な洞窟。壁には一本の松明が刺さっている。
「ついに……帰ってきたのか」
感慨にふけり、ついつい溢れた独り言。ここには俺以外の人影はない。しかし、絶対に返事が返ってくることは明白だった。
『……火狩? ……火狩ですか?』
「…………ああ、そうだよ。俺だ。……ついに、帰ってきたよ」
そうだ、俺は帰ってきたんだ。この洞窟に、彼女と初めて出会ったこの場所に。
『火狩……ひかりぃ!!』
「ガイドちゃん!」
そして、俺達は感動の再会を…………。
『あれからまだ一日も経っていませんよ!? 一体何があったんですか!?』
「殺されちった♪ てへ☆」
この後めちゃくちゃ怒られた。
次話で戦うといったな。あれは嘘だ。
皆さん、短い間ではございましたが、こんな駄文駄作者の作品をお読みくださり、ありがとうございました。今作の主人公は早くも死んでしまいましたが、素人の運営なんてこんなもんですよね。
では、私の次回作にご期待下さい。
あの、冗談ですよ? まだ続きます。ごめんなさい。




