第28話 でござる
少し早いハロウィンということで、カボチャシチューを作ってみました。
いざ食べようとしたら、スプーンですくったシチューに大きな蛾が突っ込んできました。
そんなに食べたかったのか……(歓喜)。
蛾はしっかりと頭を拭いて窓の外にリリースしてあげました。
スプーンは洗ってまた使いました。
全国の……全世界の虫好きの皆さん。
『ハッピーハロウィーン!(なんか違う?)』
今年のハロウィンは、虫のコスチュームで彷徨う事をお勧めします。
「…………」
「……(……)」
『……』
よし、気を取り直していこう。
あの通路に罠は無かった。いいね?
「ハクビ。今度は走るだけじゃ逃げられない罠で頼む」
[ピアノ線を張っておく d(^―^)]
「そこまでは求めてない」
顔文字付きのフリップを突き出してきたハクビの目は、まるで愛しい人を亡くし、復讐を誓う人みたいになっていた。
[私のトラップ達の仇]
「お前、意外と罠作りハマってたんな」
何気なく頼んでみた罠設置の仕事だが、どうやらかなり罠に対して愛着を持ってしまったようだ。……なんでだ?
『反省はいいですが、それより今は対策を講じましょう。このまま全ての罠を素通りされては堪りませんからね』
ガイドちゃんに言われて、それもそうだと気付く。突破された通路の改正案より、まだたどり着かれていない通路の方をどうにかしなくては。
「あんま意味ないかもしれないが、あのCランク冒険者の進行ルートにゴキちゃんを開放。あと、移動の妨害も兼ねてハエちゃん飛ばしといて」
『了解です。指示を出しておきましょう』
「ああ、それと、その通路の守護担当誰だっけ?」
『たしか、スティルのはずです』
スティル……あいつか。……………………不安だ。
「キリノを向かわせてくれないか? 今、うちで最速はあいつだろ?」
『わかりました。あの速さに追いつけるかはわかりませんが、向かわせましょう』
「……(賛成)」
こっちはもう敵が特殊すぎて、これ以上できる措置が無い。
あとは、別の場所の様子見に徹しよう。
走り続ける少女と、高速で泳ぐ女性。その次に通路を進んでいるのは……やっぱ、あの忍者だよな。
☆
狭く薄暗い、凹凸のある地面を迷わず駆け抜けているのは、黒い覆面で顔を隠した1つの人影。
不安定な足場にも関わらず、その行動は一切阻害された様子はなく、まさに実力を発揮しているといった様であった。
そんな忍者の様な姿の青年……レイシンは、仄かな明かりの灯る広い空間へと滑り込んだ。
左右対称に並べられたいくつもの松明に照らされた部屋。天井は見えないくらいに高く、通路と変わらずボコボコとした足場。歩き難く、そして、空からの奇襲も警戒しなくてはならない。
侵入者であるレイシンにとって、この場での戦いは不利。できることなら避けたいとすら思うだろう。
だが、それは叶わぬ事だということは、この部屋に入る前から、既にレイシンは気付いていた。
「ふっはっは、よく来たでござるよ! 曲者め!」
何故なら、部屋の出口らしき通路の前には、胸を大きく張り、腕を組んで仁王立ちした、鎧武者が立ち塞がっていたからだ。
背負う旗には達筆な『夏虫の陣』の文字。漆塗りの艶やかな曲線を描く兜には、一本の尖った角がそそり立ち、顔は怒りに顰めた様な形の表情を表した面で隠していた。腰に下げたのは左右3本ずつ計6本の打刀。
まさしく、大和魂溢れる武士の姿が、そこにはあった。
……だがしかし、レイシンにとっては、そんなことよりも気になる事があった。
「…………小さいでござるね」
「ち、小さいいうな!」
その鎧武者は、身長130もない、とても小柄な……子供であったのだ。
「えぇい! 馬鹿にするでないわ! 拙者を誰と心得る! 恐れ多くも『超』大将軍! 『将軍甲虫人族』のコマトでござるぞ!」
ババーン! と、効果音の聞こえてきそうな名乗り文句ではあったが、実際のところ、『こまーん』といった音しか鳴っていなかった。
「……お、お主は、敵……でいいのでござるか?」
そして、そんな自称『超』大将軍、コマトに対し、動揺を隠しきれないレイシン。
あまりにも幼いその外見に、戦う気力すら沸かない様だ。
「無論! 我らは敵同士でござる! 先程の敵には遅れをとって、仕留め損ねたが、今度こそ、拙者の刀の一刀にて伏して見せようぞ!」
そういうや抜かれた刀は、刀身50cmの短い刀。
しかし、見る者が見れば直ぐにでもわかるだろう。
その刀が…………ただの模造刀であると。
「とりゃー!!」
小さな刀を両手に握り、勢いよく駆け出すコマト。途中つまずいたりしながらも、棒立ちのレイシンまでトテトテと辿り着く。
「拙者の機敏な動きに着いてこれぬか、阿呆め! 覚悟ー!!」
「『火遁の初級術 種火』」
「うわっつ! アッツ! アッヅゥイ!!」
そして、頭を抱えながら初期位置に戻っていくコマト。
…………この時、とあるダンジョンマスターと、侵入者の心が1つになった。
(何がしたいんだコイツは……)
「…………ハッ、中々やりおるわ!」
「……ああ、はい」
定位置に戻り、腕を組んで仁王立ちしたコマトに、ついに「ござる」口調すら忘れた様子のレイシン。この精神攻撃が作戦のうちだというのであれば、コマトは信じられない程に優秀な策士であろう。
……が、そんなことはないのが残念でならない。
「さて、準備運動も済んだ事だ。これからは全力で…………殺し合うぞ!」
途端に目の色を変えるコマト。その雰囲気が急激に変わったことにより、惚けていたレイシンも、これは不味いと感じたのか、戦闘態勢に移る。
そして、コマリは今度こそ、レイシンに向かって駆け出し……。
「あうっ」
一歩目で足場のデコボコにつまづき、転んだ。
「…………」
今度こそ、レイシンは言葉を失った。
「お、お遊びはここまでだ。これからが本番だぞ。ホントだぞ」
「あ、はい」
目一杯に涙を浮かべながら、それでもこぼれ落ちない様にと踏ん張り、膝をプルプルと震わせるコマト。そろそろこの茶番にも飽きた頃である。
レイシンがそう思い、いっそ一太刀浴びせてやろうかとも考え始めた時……。
レイシンの背筋に、悪寒が走った。
――――ズズゥウン……
「おお! 待っておったぞ! 我が臣下共!」
大きな地響きを上げながら、空から舞い降りてきたモノは、巨大な金属の塊であった。
光沢のある滑らかな銀色のボディが松明の赤い日を映し出す。刺々しい6本の金属の棒が、鋭い爪で力強く大地を踏みしめる。
見蕩れてしまいそうな、雄々しく凛々しく、こう言ってはなんだがコマトの数十倍は立派な角を頭部に備えている、巨大なカブト虫。
その丸い目は、銀色の体躯に似合わぬほど、真っ赤に燃えていた。
『アイアンビートル』。それが…………4体。
『ギィイイイイイ!!!』
▼
【アイアンビートル】
系統:『虫』『鉱物』
属性:『土』
成長:通常
魔力依存度:低
食事:不要
【初期所有スキル】
『無感情』『自己修復Lv―』『剛力Lv―』『鋼体Lv―』『硬化Lv―』『不快音Lv―』『王威Lv―』『重圧Lv―』『突進Lv―』『闘争心Lv―』
体長5mの、巨大なカブトムシ。外骨格は鉄で出来ており、大抵の攻撃は弾く。体の節までしっかりと金属の甲殻でカバーしており、物理攻撃はかなりの威力がない限り、効果を求めることは愚策。
羽は開くが、飛べない。その代わり、薄く鋭い羽は刃のように使用できるため、敵への攻撃に使用する。
威嚇する時は体中の甲殻を擦り付け、耳を塞ぎたくなるような金属音を出す。
なお、周囲に同族がいると、敵対心から興奮し、戦闘力が大幅に上がる。
▲
「これは……少し不味いでござるな……」
レイシンは、内心焦っていた。
レイシン自身は、Aランク冒険者で、勿論今まで危険な魔物を何体も相手に戦ってきたりもした。
そして、今ここにいる巨大な魔物、『アイアンビートル』は、冒険者の中では、Aランクの魔物として扱われている。
そう、冒険者にランクがあるのと同じく、魔物にもランクがつけられているのだ。
しかし、魔物のAランクと、冒険者のAランクは、厳密には違う。
ランクはそれほどややこしい物ではない。強ければ高く、弱ければ低い。ただそれだけだ。
そんな分かり易い制度に、わざわざややこしさを混ぜることもない。
魔物ランクがAの敵には、冒険者ランクAが対処する。そんな簡単なものだ。
だが、そこには大きな、それこそ単純で大きな違いがある。
冒険者は、基本的にはパーティーを組むものだ。それはもう当たり前のように、常識的に。
生き残るため、効率良くするため、世間の輪を広げるため、新しい戦い方を学ぶため。
弱い者は弱い者同士支え合うために。
強い物は強い者同士高め合うために。
自然と同じランク同士が1つの集団を作り、パーティーとなる。
『Aランクの魔物』に対抗するための戦力は、『Aランクの冒険者』。そして、その冒険者は、必ずと言っていいほど、パーティだ。
自然、『Aランクの魔物』に対抗するのは、『Aランクのパーティ』へと、認識は改められていった。
つまり、この世界において、『Aランク魔物』は、『Aランク冒険者複数人』で対処して然るべき、強力な魔物なのである。
実際アイアンビートルは強い。アイアン……つまり鉄と名乗っておきながら、その体は鋼よりも堅い。
カブト故の怪力。細くとも異常に強力な脚力。さらに言えば、カブト虫は思いの他機敏である。
強く、堅く、そして速い。
角を突き出す一撃は鈍く、響く。
羽で切り裂く攻撃は鋭く、刻む。
刃は通さず、魔法も弾く。
走りは遅いが、範囲を決めての相撲であれば速い。
シンプルなヤマトカブトの見た目とは裏腹に、ドラゴン以上に恐れられていたこの魔物に、小刀一本、珍妙な『忍術』もって対抗しようとするレイシンには、到底敵うはずもない敵であった。
しかもそれが4体と来たら、きっとパーティーメンバー全員で挑んでも、完全に倒しきる事は不可能だ。
それが分かってなおレイシンには、引きの一手は無いも同然だった。
引いても辿り着く先は開かない扉。
今まで通ってきた道に分岐はない。
あの狭い通路で戦う事はそれこそ絶望的に絶望しかない。
逃げるより戦う方が生き残る可能性が0.000001%くらい高く、占めて3%程だとは、なんの冗談なのか。
「我臣下よ! その力を発揮せよ! 『将の号令』『狂宴の鼓舞』『奮起の恫喝』『先陣の覇気』『怯まぬ具足』『闘牙の侵域』!」
小さな武士の号声が、広い部屋に響き渡る。
その瞬間、ギリギリと金属音を鳴らしていたアイアンビートルの動きに変化が起こる。
まるで力が増したとでも言いたげに、その体に炎の様なオーラを纏う。
4体が発していた野性的な威嚇行為は成りを潜め、今は冷静に獲物を狙う、狩人の様な、理性的で、統一された気迫を持っている。
あの子供将軍がアイアンビートル達を統率している。そう理解するのは早かった。
「今一度名乗ろう! 『将軍甲虫人族』のコマト。特異個体の特性として、同種を連ねる力は、拙者の右に出る者なしでござる!!」
声高々に名乗りを上げた少年。その背中には『夏虫の陣』の文字。
それは、青年……レイシンが憧れた和の国で使われているものと、全く同じ文字で書かれていた。
「……拙者はレイシン。全ての忍びを束ねる頭領が1人、『忍頭領』のレイシンでござる! 『影遁 分身』『影遁 影分身』『水遁 霞身』『水遁 水分身』『風遁 光折分身』『火遁 煙噴身』『土遁 泥人形』」
そして、レイシンを中心に立ち上る煙。
しばらくして、その煙が消え去った時、コマトの目の前に広がっていた光景は、異様なものであった。
目の前を隙間なく埋め尽くす人、人、人。
それはレイシンとそっくりな、分身であった。
その数は50、60……いや、100を超える。
ある分身は雫を滴らせ、ある分身は残像を残し、ある分身は熱を吹き出し、ある分身はパラパラと砂を落とす。
様々な分身は、しかし、実体を持ち、アイアンビートル達を睨みつけている。
「拙者もAランクの端くれ。そして最年少でAランクに上り詰めた男! 年若さがなんでござるか。経験の差がなんでござるか……!! ここまで至るのに経験した苦節苦難は……こんな所で、こんな苦境で散っていいほどの物ではないのでござる! 拙者は絶対に…………生きて帰るでござるよ! こんな若造にも手を差し伸べてくれた……皆の元へ!!」
「やってみるがいいでござる! この戦、勝つのは拙者でござるよ!!」
ここに、『第一次ござる大戦』が始まった。
最近見た化物が出てくる語る感じのアニメのせいか、話の内容に影響が出てしまっているかもしれません。主に地の文に。
……マイマイ以外に、この作品で出せる怪異はいないものか……。
それと、最近ホラー映画ツアーを始めまして、着信があるかもしれない系のホラー映画の最終作辺りで、メガネに転送されたヤンキーがしんぢゃうシーン。その人の死因、なんか…………寄生虫が好きになっちゃいましたね。
ああいうの、嫌いじゃないですよ。
ござる大戦……これがやりたくて「ござる」を被せた。……悪いか!?
ちなみに、小さなカブト虫ッ子君は男の子で、特異個体で、「コカブト」です。小さくて可愛いあのコカブトです。オスなのにメスに間違われるあのコカブトです。今は兜のせいで、顔が見えないということにしていますが、兜を脱げばきっと男の娘になるのでしょう。
エルフを男の娘にしてしまったせいで、大々的にコカブト男の娘設定を出せないことが悔やまれます。……いっそエルフ消すか(おい)。
男の娘が何人いてもおkという方は擁護して下さい。早くコマト君の兜を外したいです。
あ、コマト君の名前は、『小さい大和魂』を文字ったものです。可愛らしい。
はっ! こんなにコマト君アピールしてしまっては、私のお気に入りだとバレてしまう! これはいけない。自重しなくては……(今更感)。
レイシンさん、なんでカムラ戦の時に分身使わなかったん?
「え、だって分身キャラは被ったらカオスでござろう?」
…………(ござるはいいんだ)
これからもこの作品とそのキャラクターの虫々様方、おまけについででいいんで多少なりとも記憶の端っこにとどめておく程度で私の事をよろしくお願いします!




