第25話 その頃……
前回の続きだと思った? 残念分岐でした!
クライマックスはまだ引き伸ばしますよー。
しかし、これではタンクがボッチではないか?
勧んで攻撃を引き受けるドMなのに、ハぶられているとは、なんと可哀想な人か。
まあ、神官を狙うのに、壁が邪魔だったんで取り除いただけなんですけどね。
「ラインゴッドさん、どうしてますかね?」
ラインゴッドさんが扉の向こうに行ってから、1時間が経ちました。こちらはたまに10匹くらいの集団で、大きなGが襲撃してくる程度で、割と平和です。
「まだ分からないわね。少なくとも、1日はかかると覚悟してるけど」
「そ、そんなにかかるんですか?」
「まあ、ダンジョンだし。慎重に進むんなら、もっとかかるわよ。ただ、今回はあのライだし、時間はかなり短くなりそうね」
「……戻る道が見つかれば、でござるが」
そうですよね。こうして待ってはいますが、ここに帰って来れる確証があるわけではないんですよね。もしかしたら、真っ直ぐ最奥まで向かってしまうのかもしれませんし……その場合、私達はどうずればいいんでしょう?
「まあ、そうなったら、素直に単独行動しかないわよね」
「えぇ!?」
そんな!? それでは私……どうすればいいんですか!?
「あぁ、安心して? 流石に、一度引き返してからまた挑む事になるから、多分、その時は私達だけで向かう事になるわ。流石に、パーティー用の装備しか無い今じゃ、少し心許ないから」
そ、そうですよね。ビックリしました。……でも、そうならない方がいいんですよね。
ラインゴッドさんには頑張ってもらわないと!
そんな雑談をミスティさんとしていたその時、魔物を警戒していたレイシンさんが、目にも止まらぬ速さで、腰に下げた短剣を抜きました。
「……! 来たでござる!」
雰囲気や声色で、ラインゴッドさんが来たというわけではないという事が分かります。
そして、その警戒の高さからは、先程まで戦っていた、Gの魔物とは、比べ物にならない何かが来たということも。
――――……おや、気配は消していたのだが、流石はAランクと言ったところか。
「……!?」
どこからともなく聞こえてくる女の子の声。まだ幼いような、しかし、大人びた落ち着きも持つ、不思議な声。
しかし、声の主の姿形もありません。上か……背後から? いや、目の前にいる方にも感じます。
とても不気味な感覚で、何故だか寒気が止まらなくなります。
なんだか、出会ってはいけないナニかと目を合わせてしまったかのような。
――――ほう、貴方が噂のCランクさん? 主様は随分気にしておられたが、間近で見るとそうでもないのではないか。
「~~~!?」
耳元。生暖かい吐息まで感じる程の近くに、声の主がいました。
驚いて振り返りますが、そこには何もいません。一体、この声はどこから聞こえてくるのでしょうか。
「ぬぅ、気配が掴みづらいでござるよ。隠れてないで出てくるでござる!」
「いや、忍者のあんたには言われたくないんじゃないかしら?」
「…………」
叫ぶレイシンさんに、冷静にツッコミを入れるミスティさん。無言で頷くカトリックさん。
そんな間が抜けた光景ですが、ふざけたように見えるのは態度だけで、実際は、自分達が最も戦いやすい陣形を整えるために移動しています。
後方では、マリネリースさんが詠唱を始めており、いつでも支援魔法を撃てるようにしていますし、ルサリカさんは、油断なく弓を構え、全方位を睨みつけています。
――――……ふむ、戦わずともわかります。貴女方はとても良いパートナー達なのでしょう。チームメイトへの信頼がよく現れた陣形。だが……。
……間違いないです。この声、『どこから聞こえているか分からない』のではなく……『どこからでも聞こえてくる』のです。
――――だが……「「「「「私達のコンビネーションには敵わぬ」」」」」
そして、現れたのは……、レイシンさんが着ているものと、とてもよく似ている、赤黒い『忍装束』と言うものを着た、小さな少女でした。
首には真っ黒の鉄輪、そこから、真っ赤な鎖が、少女の身長と同じ長さまで伸びています。
どうしてこんなところに少女が、とか。どうやって現れたのか、とか。そう言った疑問は、直ぐには思いつきませんでした。
なぜなら…………目の前には、そんな『些細な』問題より、もっと大事な、異様な光景が映っていたからです。
「なんと……道理で気配を掴み損ねたわけでござる。まさか……………………
同じ気配が、こんなにも沢山あったとは」
私達の目の前に現れた少女は、一人ではありませんでした。
少女と瓜二つの別の少女が……『20人』も、私達を取り囲んでいたのです。
「我ら、数いれど」「意思は1つ」「さあ、一心同体にして」「三位一体」「それでいて」「予測不能」「縦横無尽で」「変則的な我らの動き」「捉えきれるか?」
少女達……少女は一斉に、櫛形の凹凸のついた特殊な形状の剣(『ソードブレイカー』と呼ばれるもの)を構えた。
☆
それは、前日の事だ。
新しい虫人を召喚しようとしたら、魔法陣の中に現れたのは、巨大な影。
「…………これ、虫人だよな?」
『そのはずです』
こんな疑問が浮かんでくるのも無理はないだろう。虫人は、いくら虫が混ざろうとも、そのベースは人間だ。人の枠を外れた大きさの種族がいることは、おかしい。
俺が勘違いしているだけかもしれないが、俺の3倍……いや、もっとある、こんな巨大な影が出てくることは絶対にありえない……はずである。
そして、遂に影が色付き始め、俺の気になる、正体が明かされようとしていた。
そこにいたモンスターの正体とは…………。
「我ら」「主様のお呼びに応え」「疾風迅雷」「今ここに参上」
……なんの事はない。ただ、大人数の人が固まっていただけのようだ……って、何?
「お、俺が呼び出したのは、3人だろ?」
DPの都合上、俺が呼び出したのは3人のはずだ……それがどうして……『50人以上』もいるんだ!?
「我らは群にして個」「21の群に1つの意思があります」
「我らは32の群」「人数には個体差があります故」
「我らは15の群にて」「最低人数であります」
召喚されたのは、年端もいかない少女達だ、それぞれが、日本人の憧れとでも言うような格好、『忍装束』を着けている。
黒い忍装束の少女は15人。覆面で隠れているが、よく見ると、その顔つきは全員そっくりである事が分かる。
赤黒い装束の21人。あまり、前の15人と変わりない様な体格と顔つきで、やはりこちらも同じ色の装束同士、瓜二つだ。
白い装束の32人。こちらは、他の少女達より、一回り程小さく見える。
この3集団……3人? は、それぞれ、首に真っ黒な鉄の輪を嵌めており、そこから伸びた真っ赤な鎖が、彼女達の首輪同士を繋ぎ止めている。
まさに、一心同体といった感じだな。
「……で、お前達の種族はなんだ?」
俺が一番気になる所はそこだ。召喚された人数はそこまで気にしていない。むしろ、得した気分なので、そこは置いておこう。
だが、せめてなんの虫なのか、それが気になる所である。
「我らの種族は」「闇より忍び寄る者」「まさに暗殺者」
「捉えた獲物は逃さぬ」「喰らう姿は獰猛」「まさに暴虐の化身」
「その毒牙は獣でさえも怯える」「我が力は」「まさに地上の暴君」
「「「我ら、その名を…………」」」
★
「隙ありでござる!」
「ない」「あったとして」「我らがフォローする限り」「その隙は突かせない」
「くっ! 周りの奴らが厄介ね!」
「数が多くて……魔法の詠唱が……!」
「…………」
戦闘が始まってから、10分が経過しました。
未だに襲撃者の少女は1人も数を減らしていません。
そして、こちらは早々にレイシンさんが武器を失いました。
彼女達が持っている特殊な形の剣。あれは、どうやら鍔競りあった剣の刀身を破壊する作りになっているらしく、それを知らなかったレイシンさんが、斬りつけを短剣で受けてしまい、真っ二つに折られてしまったのです。
代わりの武器を取り出す暇もなく、敵は攻め立てて来ます。その為、今レイシンさんは手刀で戦っているのです。「なんと面妖な!」と、割と本気で悲鳴を上げていたレイシンさんの声が耳に残ります。
ミスティさんは、攻撃魔法を撃つ前に、少女達に邪魔をされていて、自分の周りに障壁を張って耐えるので精一杯のようです。
マリネリースさんも、ミスティさんよりは詠唱が短いようで、いくつかの魔法は発動していますが、詠唱に時間がかかるような上級魔法は使えないみたいです。
ルサリカさんは、素早い猛攻を躱しつつ、矢をばら撒いていますが、相手の動きが早くて中々当てられません。
私は逃げ回っています。
「ふん、その程度か」「いかに実力者といえど」「数の差には勝てまい」「なお、その数が」「一糸乱れぬ連携を見せれば」「なおさらの事よ」
「むむ、言ってくれるでござる! 確かにお主達の連携は目を見張るものでござるが、拙者らも中々捨てるものではないでござるよ!」
「……『クレッセントシールド』」
カトリックさんが、黄色い光の膜に包まれていきます。
……なにげに初めて声を聞きましたが、意外と渋いんですね。
「何をしたのか知らぬが」「我らの前では無意味と知れ!」
何かのスキルを発動したカトリックさんに、3人の少女が襲いかかります。しかし、カトリックさんは、一切動こうとしません。これでは、カトリックさんが斬られてしまいます!
「……『クレッセントシールド』は、斬撃攻撃の無効化。……数は、関係ない」
「なに?」「しまった!」「これでは……!」
「……懐に、入ってくれたか」
カトリックさんが、集まった少女達に、長剣を一閃。すると、避ける間も無く、その胴体は横一列に切り裂かれてしまいました。
「……敵に、情けは無用」
「左様!」「我らに情けはいらぬ!」「たかが3人」「我らはあと17いるぞ!」
少女達は3人もの仲間がやられたにも関わらず、動じていないのか、先程までと変わらぬ態度で攻めて来ます。
「っ!? ……だが、斬撃攻撃は……! しまった!」
カトリックさんが、焦ったように声を荒げます。い、一体何が?
「今更遅い」「このソードブレイカーは斬撃攻撃ではない」「逆刃は貫通攻撃だ!」
刃になっている方ではなく、武器を折るのに使用した峰。そちらも、普通の剣とは違い、ただの峰打ちで終わるような形ではありません。思い切り振り下ろされたら、櫛状の先端が針のような役割をし、体に食い込んでしまいます。
「任せて下さい! 『セイントフォース』!」
後方から響く声。マリネリースさんが、カトリックさんに物理反射の防御障壁をかけました。
それと同時に、その障壁に阻まれ、攻撃を弾かれた少女。
「おっと、ダメージの反射か」「また1人死んだ」「だが、それだけだ」「分かっていれば怖くはない」「まずはあの神官をやろう」「詠唱の隙を与えぬ」「……主様は神官最優先と言っていなかったか?」
「「「「「あ」」」」」
……彼女達は、若干抜けているようです。
それにしても、彼女達がたまに出す、『主様』とは、一体誰の事なんでしょうか? ダンジョンの最奥にいる『ダンジョンマスター』とかですかね? しかし、ダンジョンに人間が味方するとは思えませんし、やはり、彼女達はダンジョンとは無関係?
「させぬでござるよ!」
「『シャイン・ソード』、『シャイン・シールド』」
「慈愛の光よ、かの者を癒す力を……」
「私も忘れてもらっちゃ困るわね! って、だから邪魔よ!」
「…………」
全員がマリネリースさんの周囲に集まり、防衛の陣を築き始めました。
レイシンさんはようやく取り出した小太刀を逆手に構え、カトリックさんは光り輝く盾を前に突き出して、ルサリカさんは弓で牽制しつつ、ミスティさんは……杖で殴りながら、徐々に集まっていきます。
私ですか? ずっと走り回っています。
「ちょ、止まって……」「くれない……かなぁ」「もう……無理、走れない」
私をずっと追いかけていた少女達は、どうやら限界のようです。私はあと5時間は走れるのですが……。
「さあ、これからが本番」「我らの力」「この程度でない事を」「教えてやろう」
「「「「「『蜈蚣人族』がカムラ。いざ、尋常に!」」」」」
壁を取り除いた理由は、神官を守られると厄介である事の他に、手数(頭数)が武器の新入りにとって、ノーダメ確定の壁は鬼門過ぎたという所もあります(じゃあなんでパーティーに入れたし)。
なので、壁は残りの9人に任せましょう。……あれ? あと合計で48人くらいいた気が……ゲフンゲフン。では、また次回をお楽しみに。
……ルサリカさんが無口すぎて存在が消えます誰か助けて下さい(小声)




