第16話 ダンジョンの日々は続く
前回から1週間後のお話です。
話は飛んでいますが、そこまで進んではいないと思います。
……今回から新章にするか、次回から新章にするか悩みます。どうしましょ?
俺が異世界に来て、10日が経った。
よっ。今日ものんべんだらりな群城火狩だ。
最初のうちはトラブルが起きたり、なんやかんやと騒動ばかりが続いていたが、最近はそれらも落ち着き、侵入者も野生動物くらいなものだ。
例の野盗は未だしぶとく生き残っている。どうやら全ての宝箱の場所を把握したらしく、一日中その辺りばかりウロウロしている。たまに虫達をけしかけるが、返り討ちにあってしまった。
倒される前に撤退するのだが、野盗のレベルもどんどん上がっている。撃退だけでも経験値が入るらしい。
おかげで手に入る魔力が少しずつ増えているので助かる。
適当に2階層も作り、拠点をそっちに移した。この階層は、1階層の普通の洞窟とは違い、アリの巣……『コロニー』をイメージして作ったため、主に蟻人族達に働いて貰う事にする。
1階層にはゴキちゃんやハエちゃん等と、あとは蜜蜂人族達の巣板が残されている。
2階層は主に育成に使用するため、蜜蜂人族に魔力を減らされるのは少し困るからだ。
さて、そんなこんなでゆっくりまったりダンジョンを成長させているのだが、やはり誰も来ないというのはいいな。こんな平和な日々が、いつまでも続けばいいのにと、切に願う。
『……平和というか、堕落した日々ですよね』
俺は布団を頭まで被る。
「お母さんうるさい。休日ぐらい休ませてよ」
『誰がお母さんですか。というか、ダンジョンマスターに休日はありませんよ』
こいつ、直接脳内に……! 布団ガードが無意味と分かった俺は、暑苦しいのでフカフカの羽毛布団をはだけた。
「……あー、眠い」
『いつも寝てるからですよ。ほら、起きた起きた』
本当にお母さんみたいになってきたこの声はガイドちゃん。
いつも俺のサポートをしてくれるチュートリアル用の音声だ。
身は無いが、いつも俺のために親身になって協力してくれる。
『……ほら、ハクビも何か言ってあげて下さい』
「……♪」
「ハクビは俺の分まで働いてくれるってさ」
『あなた達は…………』
そして、前より若干広くなったこの拠点の隅に置かれた事務机。そこで現在のダンジョンのモンスター数や、1日毎のダンジョン内魔力消費量、1日毎の魔力収穫量などを計算してくれているのは、俺の秘書となった『蛾人族』のハクビ。
真っ白な肌に、真っ白な膝まで届く長い髪。目だけは漆のように艶やかな黒目だ。
服装は、白いワンピースと白い長手袋、白いブーツに、白くフサフサな襟巻き。
襟巻きは口元を完全に隠してしまっている。
額からは、くし状の触覚を生やし、たまにピョコピョコと揺らしている。
全身が真っ白づくしな、カイコガのモンスターだ。
『ほら、例のダンジョンマスターが出品しましたよ』
「あー、ゴキちゃん達の生みの親の? 全部買っといて」
『こ、この駄目マスターは……。許しません。ほら、起きて下さい』
「やー」
「……♪」
『やー、じゃ、ありません。ハクビもこんな男の寝顔なんか見てないで起こして下さい、ほら』
今日もダンジョンは、通常運行だ。
「……で、新しい子達は……と」
結局アリシアを呼ばれて引っ張り出された俺である。
……前まではあんなにキョドってた子が、今やボロアパートの大家みたいにガミガミだもんなぁ。
『……アリシアに報告ですね』
「ねえ、待ってくれないかな? 俺、今声に出してた? 何か言ってた?」
『大体わかります』
「わお、俺とガイドちゃんの信頼関係はすでに以心伝心レベルか」
と、冗談を言いつつモニターを弄る。掲示板も久しぶりに入った気がするな。
さて、今日はどんなスレがあるかな……と。
▼
【獣人の美少女ゲトwww】ちょっと服を脱がしてみたところ……
1:名無しのDMさん ID:19871
ようこそ魔物腹筋スレへ!
美少女獣人ちゃんは、強い男を所望している!
ここは自分のダンジョンの魔物の数だけ腹筋をするという、過酷なエクササイズスレです!
弱い奴は魔物の数だけは揃えるもんなwwざまぁwww
俺は68263回だぜ!
さあ、腹筋したまえ。
2:名無しのDMさん ID:38014
スレ主ぇ……
3:名無しのDMさん ID:73173
スレ主ぇ……
4:名無しのDMさん ID:80113
皆、スレ主に敬礼!
5:名無しのDMさん ID:801
( ̄^ ̄)ゞ
6:名無しのDMさん ID:7921
( ̄^ ̄)ゞ
7:名無しのDMさん ID:89163
(`・ω・´)ゞ
8:名無しのDMさん ID:23736
∠(・`_´・ )
9:名無しのDMさん ID:12345
( ̄^ ̄)ゞ
10:名無しのDMさん ID:9876
>>9
ちょwIDすげえww
11:名無しのDMさん ID:13873
>>10
お前もな
▲
「スレ主ぇ……」
『だから何をやってるんですかあなたは』
……さて、挨拶板に行くか。
▼
【初心者大歓迎!】友達作ろうぜ!【挨拶板】Part156
27:名無しの虫っ娘マスターさん
スレ埋まるの早すぎません? どうも、お久しぶりです
28:名無しのゴブリンマスターさん
お、来た来た。おひさー。
29:名無しのアンデッドマスターさん
エルフ以来? ってことは、一週間くらいか。お久です。
30:名無しの妖精マスターさん
虫さん! お久しぶりです! 聞いて下さい! 私のところにも侵入者が来たんですよ!
31:名無しの虫っ娘マスターさん
そんなんですか。ご無事で何よりです
32:名無しのゴブリンマスターさん
しかも、Bランク冒険者が6人だろ? よく生きてたなほんと。
33:名無しの虫っ娘マスターさん
Bランクって、どのくらいなんですか?
34:名無しのアンデッドマスターさん
個人差はあるけど、基本的に、中級クラスの竜ならポンポン倒せるレベル。
35:名無しの虫っ娘マスターさん
え
36:名無しの妖精マスターさん
運が良かったんですよ! 魔法職の方が上手く催眠にかかってくれたので、後は軽く戦士を混乱させて寝ている魔法使いを襲わせたり、麻痺した盗賊に欲情させた重戦士をけしかけたり、仲が悪そうだった弓使いと槍使いの心に闇を植えつけたりしたら勝手に仲間割れしてくれました!
37:名無しのゴブリンマスターさん
俺はこれほど恐ろしいダンジョンマスターに出会ったことはない。
38:名無しの虫っ娘マスターさん
よ、妖精って言えば、もう少し可愛らしいものをイメージしていたんですが……。
39:名無しのアンデッドマスターさん
甘く見るなよ。伝承の妖精って結構エグくて、怖い魔物なんだぞ。
しかも、妖精ちゃんのダンジョンは『害』属性っていうレア属性で、状態異常を強化するらしい。
40:名無しの妖精マスターさん
私、個人的に虫さんを尊敬してますから! 理由はありませんけどww
同期として、一緒に頑張っていきましょう!
41:名無しの虫っ娘マスターさん
お、おう。
▲
「なんか、妖精さん凄いことになってんな」
『ダンジョンマスターとしての才能に恵まれているお方ですね。よかったじゃないですか。とても優秀な子に慕われてますよ』
「なんでだよ」
寄り道もしたし、そろそろショッピングに行くか。
あ、そうそう。以前生産していた糸は、思いの他売れ行きが良い。
普通に買う絹糸よりも安い上に、素材がしっかりしていると、買ってくれた人からのコメントも得ている。定期的に出品しているおかげか、評価ポイントという物が上がり、今や予約が殺到してしまった。
だが、今日は購入の方だ。……さて、DPは日々の収穫により潤沢だ。
今日は、少し高めのモンスターにも手を出してみよう。
「『虫系統』で検索……おお、またいっぱい増えてるな」
さて、少し強いモンスターを仕入れたいところなんだが……。
▼
【騒々蝉(3匹セット)】600DP
【ポイズンシザーマンティス(メス)】9000DP
【アサシンエッジマンティス(メス)】8000DP
【エイトクローマンティス(メス)】8000DP
【アシッドスロッグ(在庫30匹)】10DP
【弾丸蝿(在庫30匹)】5DP
【ビッグローチ(在庫50匹)】5DP
【ハイドワーム(在庫5匹)】10DP
【大ヤスデ(在庫5匹)】5DP
【ジャイアントローチ(在庫5匹)】30DP
【スパイクハーベスト(在庫100匹)】1DP
【アイアンビートル(オス)】5000DP
【レーシングスカラベ(2匹セット)】400DP
【幻視蝶(5匹セット)】2000DP
▲
「なんか、すごい増えたな」
『本当ですね。他の方の出しているモンスターもですが、それ以前にこの、『悪夢の巣窟』ダンジョンマスターさんは、苦手なモンスターをどうしてこんなにも育てているのでしょうか』
「いや、逆に考えるんだ。実は、好きなモンスターだからこそ、安く売ってるんじゃなかろうか?」
『そういうことでしょうか?』
「そういうことにしておこう」
さて、今回仲間になったモンスターは、これだ。
『騒々蝉』3匹
『アシッドスロッグ』30匹
『弾丸蝿』30匹
『ビッグローチ』50匹
『ハイドワーム』5匹
『大ヤスデ』5匹
『ジャイアントローチ』5匹
『スパイクハーベスト』100匹
『アイアンビートル』1匹
『レーシングスカラベ』2匹
『幻視蝶』5匹
なんかいっぱいいたマンティス達も購入してみたかったのだが、流石に高すぎた。次回に見送りだな。
一応、いつもお世話になっている人のモンスター以外にも手を出してみた。このモンスター達が、どんな活躍をしてくれるのか、今から楽しみである。
モンスター達の説明は、また侵入者が現れたとき、実戦でするとしようか。
「さあ、お前達には1階層で働いてもらうからな! よーし、行った行った!」
ああ、そうそう。そういえば、この虫達も、どうやら卵を産むようだ。
少し目を離した隙に、壁に変なもんがくっついてたり、明らか石じゃない黒い塊が通路に落ちていたりするのだ。
数日間放っておくと、そこの近くで小さなゴキちゃんや、蛆虫が出てきたりして、あの怪しげなものの正体が卵であると判明したり。
まあ、戦力が増える分には問題ない。……必要魔力量を計算してくれているハクビはてんてこ舞いだけどな。
「いや、モンスターが増えると、モニターの映像も様変わりするな」
『そうですね。新しいモンスターを加えたからでしょうか。新鮮な気分になりますね』
「……(コクコク)」
そんなわけで、今日のお仕事は終わり。
しかし時間もあるので、拠点周りの見回りでも行くか。
「チーッス、開いてる?」
「いらっしゃい。開いてるよ」
『居酒屋ですか』
「…………」
カランコロン、と懐かしいような音を響かせる扉を開ける。
最初の部屋は、8畳半程の大きめの木製の部屋。
壁や床板、家具の全てが、昔ながらの喫茶店のような、クラシックな感じを醸し出している。
この部屋の住人は、『飛蝗人族』の少女。例の瞬殺少女である。
本来は戦闘向けな彼女だが、侵入者が全く来ないため、役立たずは嫌だと、せめて何か働かせてくれと頼まれてしまった。
その為、ここで他の虫人のための憩いの場、『虫の一服』という店の営業をしてもらっている。
ちなみに全品無料だ。
「マスター、オススメで」
「マスターはボスでしょう。……では、オリジナルブレンドコーヒーなんてどうでしょうか?」
「……完成したのか?」
「とびっきりのが」
「でかした!」
流石、足のキレがいいだけあって、舌もキレッキレである。実際飲んだら、とても旨いコーヒーだった。
「これ、何をブレンドしたんだ?」
「お客様、それは企業秘密でございますよ」
「キリノ」
「……では、後ほど奥にいらして下さい」
俺が名前を呼ぶと、一切逆らわなくなるキリノに感謝。
ああ、こいつには、進化した翌日、ハクビの件が解決してからすぐに名前をつけてやった。
ハクビに使った魔物用技石を貰えたのはキリノと、もう1人、あいつの働きのおかげだからな。
「……マスタァ~、きたよぉ」
「……いらっしゃい。相変わらずだな、お前は」
「ぅへへ~、また貰いに来たよぉ……ってぇ、ご主人、いたんですかぁ? 珍しぃ~」
「別にいいだろ、俺が出歩いたってよお……カーリィ」
そう、これがもう1人の大金星。
ボロボロの浮浪児のような格好で、髪も肌も傷ついている、幼い少女。
その口には、黒い革製の拘束具、口枷が付いていて、どうしてこれで喋れるのか不思議だ。
彼女は『壁蝨人族』のカーリィ。邪神の生き血を貪ったとされる女神の名前から名付けた。そして、口の拘束具は名前と一緒に渡した『暗殺者の仮面』である。
「ほら、お待たせしました」
「わぁ~いぃ」
彼女は、グラス一杯に入った赤黒い何かを、ストローで吸う。
「ん~、美味ぃ」
「……豚の血でそんなに喜べるならありがたい話だがな」
彼女の主食は血である。
「おっと、そこのお嬢さんには、『魔蜜』を混ぜたアロマキャンドルはどう? 香りと一緒に、濃厚な魔力をどうぞ」
「♪♪♪」
ハクビも喜んでいるし、この店を作ったのは正解だったかもな。
普段交友のない種族でも、ここなら集まることができるし。……ほら、噂をすれば。
「全く、アリシアは少し厳しすぎるっス!」
「まあまあ、アリシアちゃんはちゃんとお仕事してるだけだから」
「確かに、あの子は働き者よね」
「……それ、あたしが仕事してないみたいに言ってないっスか?」
「えぇ!? そうじゃないよぉ」
「え、違うの?」
入ってきたのは、黒い鎧の3人。戦闘訓練でも行っていたのか、その鎧はあちこちに土埃が付いている。
「いらっしゃい。今日は……だれ?」
「アリッサっス」
「あ、アリエルです」
「アリアンヌよ」
「そう。今、『魔蜜乳』を入れるわ」
「お願いするっス!」
キリノに名乗った少女達は、『蟻人族』の3人である。かつては10人だった彼女らは、アリスという『女王蟻人族』の能力で、1日に1人ずつ、数を増やしている。
……その全員に名前を付けてやっている俺も大概だな。
「あ、マスター、こんにちはっス!」
「あっ、こ、こんにちは!」
「どうも」
「ああ、3人ともしっかり働いてくれているようで何よりだよ」
「……3人とも?」
「……しっかり?」
「なんスか!? なんで2人してあたしを見るんスか!?」
……アリッサは、相変わらずみたいだな。
「……あら、お兄様ではないですか」
しばらく蟻娘達と談笑していると、後ろから声がかかる。振り向くと、そこには……美女がいた。
黄色と黒の美しい刺繍の施された豪華な着物を着付けた女性。その背中には、着物と同じ模様の蝶の翅が生えている。
顔立ちはかなり整っている、この世の美の象徴とも言えるかなりの美人さんだ。
「よう、アゲハか。今日も踊っていたのか?」
「踊りではなく舞ですわ、お兄様。……ええ、お兄様に褒めて貰えるよう、舞の練習をしていましたの」
そう、それは、当時あんなに幼く、子供らしかったあの少女、アゲハである。
蛹の期間を終えて、羽化した途端に、こんなにも姿形が変わってしまったのだから、あの時腰を抜かさなかった自分を褒めたい気分である。
「コクイやユカリ達も変わりないか?」
「ええ、皆元気ですわ。特にミノなんかが、元気すぎて困ってしまいますの」
「ははは、いいじゃないか。元気なことは良い事だ。……それに、そうか。ミノがはしゃいでいるか」
「ええ、それはもう」
ミノとは、オオミノガの幼虫だった少女。ハクビと共に、糸を作っていたあの子だ。
他の子達と進化の日を合わせるため、好物をたくさん与えたりしていたが、無事進化が合わせられて良かった。
それにしても……ここはたくさんの虫娘達が集まってくれているな。
もう少し品数も増やすか。……はは、ダンジョンの中にこんな喫茶店があるなんて、誰も思わないだろうな。
「マスター! 『魔蜜』の入荷、終了しました!」
「ああ、ありがとね! 今度は『ロイヤルゼリー』も頼むよ!」
「はーーーーーい!!」
騒がしい蜂娘達も相変わらずだな。
……この平和が、いつまでも続けばいいのに。
『火狩、侵入者ですよ?』
「……そうも、言ってられないんだよなぁ」
全く、人は、いつどこでフラグを立てるか、わかったもんじゃない。
今まで出た子達の今の様子となっています。また、今回登場しなかった他の子達も、これからちょくちょく出していきます。
うちで飼い始めたオオゲジが可愛くて仕方ありません。どうしましょうか、いや、どうしてくれましょうか……。