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俺が育てたモンスターでダンジョンハーレム  作者: どげざむらい
第一章 蟻集まって木揺がす
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第11話 白の闇

 今日はうちの庭の観察をしていました。シジミチョウ、アシナガバチ、大カマキリ……いろんなお客さんが訪ねてくれました。


 ……そういえば、シロアリの女王が軒下から這いずって来るのを見たのは何年前でしょうか?

 ゆっくり……ゆっくり……

 どこかへ向かって歩くその様子を見ていた私は…………。





 そっと、軒下に戻してあげました。


「はい? ハクビとミノをですか?」

「ああ。その2人を呼んでくれないか?」

「わかりました。……ハクビ、ミノ! お兄様がよんでるよ!」

「お兄さん、私、呼んだ?」

「……」


女の子かと思ったら男の子だった。そんなエルフ達を部屋に放り込み(逃げ惑ったが無情な俺は片手でつまんでポイッてしてやった)、今は幼蝶部屋(長いので略称)にやって来ている。


 相変わらずスローペースなミノと、相変わらず無口なハクビ。

 俺がこの2人を呼び出したのは他でもない、この2人にして欲しい事があるからだ。


「実はお前達2人に、『糸』を作って貰いたいんだ」


「……糸?」

「……」


 ミノ虫と言ったら強靭な糸が売りの幼虫だ。そして、カイコと言ったら誰もが知っているあの繊維を生み出してくれる幼虫なのだ。 このアドバンテージ、使わないわけには行かない。



 あ、どもども。気になっていた問題があらかた解決して、心に少し余裕が出来た群城火狩だ。

 俺は、挨拶板でゴブリンマスターさんが餓死寸前までに追い込まれたと聞いたため、DPを枯らすのは良くないと思い、金策ならぬDP策に走ることにしたのだ。



 そして、今もっともDPを稼げるのは、例のダンジョンショッピング。あそこはどんなダンジョンマスターでも、販売許可証を持っていれば商品を出すことができるため、他のダンジョンマスターに物を売ってDPを得るのが最適だと考えたのだ。


 そして、このダンジョンで今、最も価値があるものは……。


「ハクビ、お前の『絹糸』が必要だ」

「…………」


 ハクビは相変わらず無言だ。口元しか見えない表情にも、一切動きがない。

 だが、しばらくしてゆっくりと首肯してくれたので、協力はしてもらえそうだ。


「私も、やる」


 ミノは俄然乗り気のようだ。ローブの袖から僅かに見える小さな手が握りこぶしを作っていて、その気合の十分さを示している。


「そうか、そう言ってもらえて俺はとても嬉しい。……一応『製糸場』の名目で部屋は用意したんだが、移動するか? 他の子と一緒にいたいというのなら、この部屋でやってもらっても構わないが……」

「糸、だす、しゅうちゅうする。いどう、したい」

「……」


 ハクビの反応がよくわからないが、なんとなく了承している雰囲気を醸し出している。


「まあ、そうは言っても隣の部屋だ。何かあったらすぐにここに戻ってこれるから、安心してくれ」

「わかった」

「……」


 さて、これで特産品の確保に成功した。……と、もう一つ用事があったんだった。


「アリシア、アリッサ。幼蝶人族の護衛、よくやってくれた。侵入者の心配はもういらない。だからアリシアは本来の仕事、俺の拠点の警護をしてもらう。アリッサはこのまま、ここの護衛について欲しい」

「了解です(っス)!」


 そう言って、俺の後ろにピッタリと張り付き、周囲を警戒し出すアリシアと、幼蝶人族の布団に潜り込み、チナやヨナとじゃれ合っているアリッサに分かれた。……気を遣いすぎなアリシアと気を抜きすぎなアリッサ、どちらを注意すればいいんだ?


 結局、どちらもすることなく俺はただ嘆息した。


「……そういえば、また大きくなったな、そいつら。さっきより2周りくらい成長してないか?」


 俺が指したのはカエデとマシロの抱く幼虫人の姿。

 うっすらと緑がかった肌をしていた方は、あまり大きさが変わっていないが、胴体が大きく膨れていた方が、今は先ほどよりも明らかに大きく、水風船のようになっている。

 ……一体何の虫に進化すると言うんだ。


 体が膨れる、その情報だけで種類を特定するのは至難の業だ。俺とて全ての虫を知っているわけじゃないからな。俺の分かる範囲で答えを出すとすると……。

 そういえば、アリには蜜を腹部に貯めて、肥大化する奴がいたな。……だが、蜜なんてここにはないから絶対違うよな。

 ……やはりわからん。


「あ、あの……マスター」


 俺が頭を抱えながら悩んでいると、後ろからアリシアが俺の名を呼ぶ。

 振り返ると、アリシアは俺の耳元で囁きこう告げた。


「あの幼虫人の件で、少々お話が」

「……わかった、後で聞こう」


 声を小さくするあたり、ここでは言えないことなんだろう。俺はそれだけ伝え、視線をミノとハクビに移した。


「じゃあ、付いてこい」

「はい」

「……」


 徒歩2秒もかからないが、俺は辿り着いた先の木製扉を開く。


「ここがお前達の仕事場だ」

「おぉ~」


 ミノが大きく反応しているが、実際は机と椅子を置いただけの質素な部屋だ。

 作業に嫌気が差さないように、いくつかの甘味や休憩中に遊べる遊具(パズルなどの簡単なもの)も購入し、置いている。

 サボることはないと信じているため出来る事だ。ついでに、何かあった時の為にハエちゃんを数匹、スタンバイさせている。


 ……そういえば、俺は自分のモンスターに鑑定を使った事がなかったな。

 やってみるか。




【弾丸蝿Lv1】


属性:風


能力値


【HP:120】

【SP:70】

【MP:20】

【筋力:7】

【耐久力:12】

【知力:3】

【精神力:3】

【敏捷力:20】

【器用:6】


スキル


『繁殖』『寄生』『飛翔Lv5』『複眼Lv5』『触覚Lv3』『高速Lv5』『硬化Lv1』『速度上昇Lv5』





レベル1でこのステータスか。スキルレベルももう上がってるんだな。

 やはり、頼りになるな。こいつらがいなければ俺達のダンジョンは成り立たないと言ってもいいぐらいだ。




【アリシアLv1】


種族:蟻人族アントロイド(クロオオアリ種)

属性:土


能力値


【HP:200】

【SP:160】

【MP:10】

【筋力:40】

【耐久力:30】

【知力:5】

【精神力:20】

【敏捷力:10】

【器用:15】


スキル

『槍術Lv1』『精神武器具現化』『連携Lv1』『掘削Lv4』『養育Lv3』





 こちらはもっと強かった……。

 しかし、よくわからないスキルがあるな。


「なあ、アリシア」

「は、はい……」

「『精神武器具現化』ってなんだ?」

「ふぇえ!? み、見ないで下さいよぉ!」


 両手で精一杯体を隠そうとするアリシアだが、そこを隠したところでステータスは丸出しだと気が付かないのか。


「まあ、いきなり見たのは流石にまずかったか。すまん」

「ふぇえ!? あ、謝らないで下さいぃ!!」


 どうしろと。


「え、えと……精神武器、具現化……は。私の精神が生み出した武器を……、物質として存在させるスキルです。つまり、頭に思い描いた武器を、出現させるんです」


 ……簡単に言えば想像の実現ってことか。


「しかし、このスキルで出せる武器は……さ、最初から決まっていまして。私は、槍を出せるんです」

「出せる武器の形は自分で決めるのか?」

「い、いいえ。確か……潜在意識とか、心象とか、そういう無意識的なものから武器が生み出されるみたいで、どんな武器が具現化するかは、発動者の本質によるんです……」


 本質か。すごいスキルだな。


「はぁうぅ……恥ずかしいです」

「そんなに恥ずかしいか? 結構強いし頼りになるステータスだったんだが」

「違うんですぅ! く、『掘削』とか、『養育』とか、そういうスキルのレベルが地味に高いのが恥ずかしいんです!」

「……そういうものなのか?」

「そ、そうなんです! 誤解なさらないで下さいね! 私、穴掘りとか、子育てとか……まだ未経験ですから! これは種族特性! デフォルトなんですから!」

「あ、ああ。分かってる。分かってるから」

「……うぅっ!」


 ……今度から、鑑定する時には一言声をかけよう。そう誓った俺であった。



「私、ここで糸、つくるの?」

「ああ、そうだ。……無理強いするわけじゃないから、飽きたらやめてもいいぞ?」

「だいじょーぶ! えすぴーが、なくなるまで、やる」


 ほう、糸を作るのに『SP』を消費するのか。……まあ、そうだろうな。無限に糸が出てくるなんて、そんなご都合主義ありえないよな。


「じゃあ、SP回復用に食料を用意しておくか?」

「うん。ありがと、お兄さんのために、がんばる」

「……(コクリ)』


 そうなると、食費にまたDP消費か。……いや、待てよ。


「ミノ。今、限界まで糸を出せるか?」

「……うん。やってみる。……ん~~~~~……………プハァ! できた。これがげんかい、だよ」


 ミノが小さい両手を机にかざして、数度念じると、机の上にパラパラと細い糸が落ちてきた。

 ……意外と長い。一般的に売られている裁縫糸と同じくらいの量はある。つまり、100mくらいだ。……よくわからんが、きっとそのくらいある。


「ハクビもこのくらいの量か?」

「……(コク)」


 ハクビが実践した結果、量に違いはなかった。


「ミノ、能力を鑑定していいか?」

「いいよ」




【ミノ】


種族:幼蝶人族キャタピラノイド(幼虫)

属性:風


能力値


【HP:30】

【SP:20】

【MP:2】

【筋力:1】

【耐久力:5】

【知力:1】

【精神力:3】

【敏捷力:1】

【器用:1】


スキル


『擬態Lv1』『糸生成Lv5』




 これは酷い。

 過去最低の能力値である。……だからこそ、幼虫の時は、天敵に見つからないことを第一に考えるのだ。


 そして、糸はどうやら、1SP消費で、レベル×10mの長さが出るらしい。


 となると、この100mの長さで一個の商品と考えて、ミノの糸の売値は10DP。絹糸は50DP。食費は……確か『巨大樹の傘葉』が一枚1DP。2枚で満腹らしいから、それで儲けは出るな。よし。


 さぁこれでいいかな。彼女達の目の前に傘みたいに大きな葉を何枚も積み重ね、糸を作らせる。

 作った糸は、ハエちゃんが前足で器用にクルクルと纏めている。


 製糸場、完成。


「金策とは、なんと面倒なことなんだろう」

『またうまく考えましたね。SP回復のために食事をすると、成長に必要な栄養が補えないので、この子達は進化することなく働き続けられます』

「……それはマズイな」

『まあ、普通の虫モンスターとは違い、彼女達は人間ベースですからね。本来進化後は使えないスキルであっても、彼女達の知能があれば。忘れることなく使えると思いますので、進化しても問題はありませんがね』


 ガイドちゃんのその一言で、俺はあることを思い出す。


「進化……成虫か」


 ひたすら糸を作っている幼蝶達をジッと見つめる。


「……なあ、ガイドちゃん」

『……なんでしょう」

「あと、アリシアちゃんも」

「は、はいっ!?」

「……あいつ、なんで話さないんだろうな」


 瞬く間に重なっていく糸の束を眺めながら、そんな疑問を口にする俺。


『あいつ……とは』

「……ハクビちゃん、ですよね?」

「……ああ。俺、最初は喋れない種属なのかと思ってたんだけど、今見てると、そうじゃない気がするんだよ。なんか、喋れないっていうより、喋らない? 的な」

「そう、なんですかね? ごめんなさい、私にはよくわからないです」


 ……そうだな。普通はそんなのわからない。アリシアは、いくら幼虫時代を彼女と過ごしていたとしても、交流という意味では、今日が彼女との初対面と言っても過言ではないし、そうじゃなくてもまだ出会って二日目なのだ。そんなに深く心を理解し合っているはずがない。


 それを言ってしまえば、俺だってハクビを召喚したのは昨日のことだ。会話は一度もしていない、どころか、1対1で接した事すらない。


 だが、何故かわかってしまうのだ。……あの子は何か、きっと、生まれながらに大きな問題を抱えている。


『……私には人の心情は分かりませんから、その辺の違いはよくわかりません。ですが……機械的な考えとして述べさせてもらいますと、喋らないということは、『喋りたくない』、あるいは、『喋る必要を感じない』などの理由があるのではないでしょうか?』


 いつも変わらないガイドちゃんは、今もまた、いつもの調子で、簡単に俺の質問に答えてくれる。


 そう。喋りたくない、これだ。

 彼女は人と言葉を交わさないようにしている。人と接することをしないでいる。


 彼女は、他人ひとを遠ざけようとしている。


 理由は……予想がつく。

 俺の思い上がりでなければ、彼女の闇は意外と深刻だ。

 それこそ、俺の一言程度で問題は解決しないだろうことは予想できる。


 重すぎて、深すぎて、彼女の心は……真っ暗だ。




「……なあ、アリシア」

「はい、なんでしょう」

「もしもだ、もしも……自分の命が今日までと言われて、なおかつ、その日に君と友人になりたいと言ってくる人がいたら、君はどうする?」

「え、なんですか、その質問」

「いいから答えろ。……友達になるのか、ならないのか」


 俺の質問の意図が読めないのだろう。かなり不審な表情をしながら、アリシアは静かに答える。


「……友達には、なりません」

「どうして?」

「どうしてって……だって、当然でしょう? その日のうちに死んでしまうのですから、折角友達になっても、逆にその人を悲しませる結果になっちゃうからですよ。友達が死んでしまうなんて、悲しすぎますから」

「そうだよな。普通はそうだ」


 そう、人が死ぬと悲しい。特に友人家族、自分に近い人程、いなくなった時のショックは大きい。

 もしそれが、世界の裏側にいるなんの血縁関係もない人、とかだったら、まだわからないけどな。


「……マスター? 質問の意味が理解できません。それとハクビちゃんと、どう繋がりがあるんですか?」


 急に変なことを聞かれて、今更ながら苛立ち始めたアリシアがプク、と頬を膨らませる。

 ……そうだな、これは、知っておいた方がいいかもしれないな。


「……なあ、アリシア。君は知らないかもしれないから、教えておこう」

「……なんですか?」


 前世では、絹糸を生産していたのはカイコだった。

 カイコは人間によって飼育され、そして世界で唯一、人間の手がなければ生きられない……野生回帰能力を失った、唯一の生物だ。

 そして、家畜として飼われていた唯一の理由が絹糸。その絹糸は、幼虫しか出さないのだ。


 故に、人にとって幼虫ではないカイコは『要らない』。そして、野生回帰能力のないカイコにとって、人に必要とされない成虫は『要らない』のだ。よって……カイコは、『人に操作された』進化の過程で……羽を捨てた。








「カイコガ……。ハクビの成虫体は、『10日しか生きられない』んだよ」




 人を悲しませたくない優しい少女の、精一杯の抵抗。


 それが、人と接しないこと……言葉を交わさないことだったのだとしたら……。







 ……さて、『生きることを諦めている』少女に、俺が出来る事は……何が残されているのだろうか。

 ……おかしいな、もっとシリアスになるはずだったのに。

 文才が残念すぎて何も伝わりませんねこれじゃ。


 もっと深刻に悩んで欲しかったのに、『なんとなく』でハクビに問題があると悟ってしまう火狩はやっぱり主人公体質でした。

 主人公体質っていいですよね。ストーリーの「繋ぎ」が苦手な人は。勝手に主人公に悟らせればいいんですし、この恋愛フラグ、もっと引き伸ばしたい! って場合には、「鈍感」になってもらえばいいわけですし。

 主人公の行動はいつでも私の味方です。


 まあ、そんな主人公作者の奴隷論は置いといて、ようやく出てきた虫っ娘がヘビーなお悩み持ちです。今すぐ相談所に駆け込んで欲しいレベルです。

 さあ、この問題、主人公火狩はどう対処するのか!!


 ヒント:主人公体s「それ以上はいけない!」


 まあ、そんなこんなで続き、頑張りまーす。

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