プロローグ まだ日常だった
何年か前に書いたやつが眠ったままだったので、勿体無いと思い投稿しました。
一応手直しはしたのですが、かなり前の作品なのでめちゃくちゃ駄文です(今でもあまり変わらないけど)。
そして完結してないので、これから気まぐれに書いていくと思います。つまり不定期です。ごめんなさい。
「ふわぁ、遅刻しちゃう! あ、お兄ちゃんおはよう。あ、そうだ、お兄ちゃん。私学校行くけど、ミーちゃんが今日具合悪いみたいだからそっとしといてあげてね? 触っちゃダメだからね!」
リンリンと鈴のような高い声が響く。居間の硬いソファで寝ていた俺は、少々イライラしながらも答える。
「あーあー、わかったから。俺貫徹で眠いんだからあんまデケェ声出すなよ」
「んもう! だったら部屋で寝ればいいじゃん!」
「やだよ、二階暑いし」
「だらしなーい」
「うるせーよ。ってか早く行けよ! 追試だろお前」
「うげ! 電車来ちゃうし! もう! 私の夏休みぃ!!」
ドタドタと玄関で暴れまわる音。全く、ほんとに馬鹿なんだからよぉ……。
俺は群城 火狩。今は高校二年の夏休みを忙しく満喫しているところだ。
そして現在、靴紐に手間取って「ウキャー!」とサルになっているのは高校一年生の妹、群城 火借。
名前が一緒だって? よく見ろ、漢字が違うだろう?
兄妹なのに名前が同じ? と思う奴もいるかもしれんが、それには実に浅い理由がある。
実は俺達は義兄妹で、俺の父と妹の母は、高校時代の知り合い。同じクラスで、同じ部活で、同じ家で(おい)、昔から意気投合はしていたらしいのだが、紆余曲折あって付き合うまではいかなかったらしい。そして互いに別々の人と結婚し、俺が中1の時にいつの間にか母と離婚して義母と結婚していたという……酷くね?
俺も妹もポカンとしながら「私達結婚しました」と報告を聞いていたことは記憶に新しい。
まあ、その被害者同士ということもあって、妹とは本物の兄妹以上の親密な関係を築けていると思う。
……まあ、そういうわけで、俺と妹は生まれた経緯はバラバラで、名前なんて計画して合わせているわけじゃない。昔から連れ合っていた父母のネーミングセンスが被っていたというただそれだけの話である。
「あー、そうだ。お兄ちゃん明日空いてる?」
「ん? いや、予定なら埋まってるぞ。午前中は俺の部屋で寝るし昼は夕方までリビングで寝るし夜は風呂入って寝るし」
「ん、特に予定なしね」
「おい」
忙しいと言っているのに、この妹は人の話を聞かないんだ、全く。一体誰に似たのやら。
「はぁ……で、明日がなんだって?」
「えっとね、お買いも「あ、もしもし翔平? 明日遊ぶの? オッケー行く行く」……って、話を聞いてよ!」
兄を荷物持ちに使うとか、図々しいにも程がある。一体誰に似たのやら。
「ん? ああ、お前のうち? いいよいいよ。え、菓子と飲み物? 買い出しは妹に行かせるからいいよ「妹をパシらせるとか何考えてんの!?」……電話中に叫ぶなよ」
「お兄ちゃんが悪いんでしょ!? もう! とにかくミーちゃんには触らない! 明日買い物! わかった!?」
「あいわかった」
「じゃ、いってきまーす」
騒がしい妹が出ていき、早朝の静けさが戻ってきた。
……あ、そうそう。さっきから話に出ていたミーちゃんというのは、妹が部屋で飼っているペットのことだ。
俺はあのミーちゃんの魅力が全くわからないのだが、妹はとても可愛がっているため、見る人によっては可愛いのだろうな……見る人によっては。
俺も同じように部屋で飼っているペットがいるのだが、何故か妹は俺の部屋の前を絶対に通らない。何故だ。
ま、そんなことはいい。今日は一日何もない貴重な休みなんだ。もっとゆったりしようじゃないか。
そう決心しながら、俺はテレビのリモコンを適当に操作する。
『昨夜東京都○○区中央通りで起こった事故の被害者の身元が本日、明らかとなったようです。事故はトラックがコンビニに飛び込み、店を半壊させる大事故でありましたが、死者は一名。店内にいた残り13名は奇跡的に無傷だったとのことです。被害者は顔の判別も不可能なほどに損傷が激しく、DNA鑑定の結果、被害者は事故現場から130m離れたマンションに住んでいた18歳の青年だということが判明しました。そして、捜査の結果、その青年は2年前から世間を騒がせていた通り魔殺人事件の犯人であるという可能性が非常に高いとのことで、詳しい情報を探るため、さらなる捜査が行われることでしょう』
うつらうつらとニュースを聞きながら寝入る体勢を作る。
にしても、通り魔がトラック衝突で死亡ね、通り魔事件被害者からしたら、これほど納得のいかない事件の幕引きもなさそうだな。
っていうかうちの近くじゃねえか。昨日の夜、なんか騒がしいと思ったらパトカーとか来てたわけね。
『次のニュースです。本日未明、東京都○○区内のとあるマンションで、13歳の少女が7階にある自室のベランダから飛び降りる事件がありました。少女は頭を強く打ち死亡。鑑定の結果、飛び降りのものではない多数の切り傷やアザがあり、警察は、少女の両親が少女に対し虐待をしていたものと考え捜査を進めている模様です』
今度は虐待か。って、このマンションさっきの通り魔が住んでたところと一緒じゃねえか。てか映像使い回しかよ。テレビ局仕事しろ。
……にしても、やっぱ最近物騒だな。特にこの辺り、こういうニュース、増えてきたよな。
『次のニュースです。昨日午後6時頃、東京都○○区で、26歳の会社員男性が駅のホームから線路に転落、死亡する事件がありました。ホームに設置されていた監視カメラの映像によりますと、被害者が転落する直前、被害者の背後に怪しい人影があったことから、警察は事故ではなく、事件であると考えている模様です』
本当に物騒だな。てかまたここだし。
あー、やだやだ。俺もニュースに出るような死に方はしたくないね。
☆
フラグというものはいつやってくるかわからないもんだな。
ここで寝入ってしまった俺は気付かなかった。
妹が大切に買っているペット、ミーちゃんが逃げ出し、俺の足元に迫っていたことを。
ミーちゃん……『毒蛇』が寝入った俺の足にその牙を突き立てたことを。
ミーちゃんの体調が悪かったが故、妹が毎日欠かさずやっていた毒抜きを今日だけやっていなかったことを。
『本日の夕方ニュース、最初はペットの蛇に噛まれ死亡した17歳の青年が……』
人は、いつどこでフラグを立てるのか、わかったもんじゃない。
「やあ、よく来たね、新人くん。早速だが君に仕事内容を説明するよ」
「……は?」
これは、呆気ない死に方をした俺が、第二の生を意地汚くも這いずり回る、きっとそんな物語……なのか?
まだダンジョンまで入りません。テンポが悪くてごめんなさい。