23.燃ゆる秋(3)
「純ちゃんの分も取って来てあげたよ。すっごい美味しいよ」
「それ、なんぼなんでも取り過ぎやろ」
皿にどっさり盛られた料理を旨そうに頬張る直美を呆れ顔で見た。
「あっ、ヤバ! 二人でこっちに来はるわ」
車椅子を押しためぐみが二人のところに近づいてくる。
「きょうは二人揃って来てくれて、どうもありがとう」
「いえ、こちらこそ、お招きありがとうございます」
慌てて口の中のものをジュースで流し込むと、直美はいつになく神妙な
面持ちで挨拶した。
「ケン、紹介するね、ポールの画廊で働いている仁科純一くんとガール
フレンドの戸倉直美さん。主人の有賀健介です」
めぐみは少しはにかむように二人に夫を紹介した。
「ワイフから聞いたんだけど、すっかり引越しの手伝いをさせてしまった
ようで申し訳ない。でも本当に助かったよ」
「いいえ、とんでもないです」
純一は恐縮するように手を大きく左右に振った。
「力仕事やったら、いつでも使ってやってください」
直美が二人の会話に割り込んできた。
「健介さん、ほんまに日本語お上手ですね。なんか、外見と凄いミスマッチや
けど……」
「ありがとう、素敵な日本のお嬢さんに褒めてもらって光栄です」
健介の言葉に感激したように直美はぽーと頬を染めた。
「じゃあ、ゆっくりしていってね」
めぐみは二人に微笑みかけると夫の背を押し次のゲストのところへ向かった。
「うわぁ~ 健介さんって、超かっこええー! 背は高いし、どうみても
純ちゃんに勝ち目ないわ。めぐみさんも綺麗やし、美形のカップルって並んでる
だけで絵になるなぁ~」
直美は二人の姿をうっとりと眺めている。
確かに二人は似合いのカップルだ。健介の彫りの深い端正な顔立ちと日本人形の
ようなめぐみの可憐さは、まるで映画の中の主人公たちのように美しい。
医者として社会的地位のある有賀健介は、直美が言うようにとうてい純一に
太刀打ちできるような相手ではない。
仲睦まじく寄り添う二人の姿が目に入るたびに、この場から消滅したいような
居たたまれない気持になった。
* * * * * * *
その夜、純一はなかなか寝付けなかった。
頭にちらつく昼間の光景を打ち消すように、狭いカウチの上で何度も寝返りを
うつ。が、いっこうに脳裏から離れようとはしない。
キッチンの戸棚からケビンが残していった飲みかけのテキーラのボトルを
取り出し一気に呷った。純度の高い液体が喉を通過しはらわたに沁みていく。
身体中がカッーと熱くなった。それはまるで火に油を注ぐように有賀健介に
対する嫉妬と羨望を純一の体内でメラメラと燃え上がらせていく・・・
「可哀想な純ちゃん… そんなに 〝あのひと” のことが好きなんやね」
直美がいきなり背後から抱きついてきた。
「抱いて、身代わりでもええから…」
純一の耳元に囁くと熱い吐息を洩らした。
シャワーを浴びたばかりの火照った躰が覆いかぶさる。濡れた髪が纏わりつく。
純一は堪りかねたように直美の躰を床に押し倒しバスローブを乱暴に剥ぎ取った。
露わになった胸の谷間に顔を埋めると乳房にむしゃぶりついた。
そのあまりの激しさに直美の顔が苦痛に歪む・・・
悲鳴を上げる直美を無視し怒号のような声を発しながら、純一は体内に鬱積した
感情を一気に彼女の中に吐き出した。




