表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元騎士様と精霊に愛された錬金術師。  作者:
元騎士様と少年アルフォンス。
5/7

錬金術の価値と報酬。

 精霊が見えるようになってからというもの、僕の見る世界は一変した。

 どうやら精霊というのはある程度年月を経た建物や、道具に宿るらしい。

 といっても、雪の精霊等はそれに当てはまらないので、一概にはそれが正しいと言えるのかどうかなのだけど。


 とにかく、僕は精霊を見えるようになったと同時に、錬金術を扱えるようになった。

 この一週間は、その錬金術を用いて、孤児院や教会の古くなり、劣化した建物の修復作業を中心に行ってきた。

 外見を弄るのは妙な噂が立つ要因になりかねない為、内部の目立たない所、かつ重要な柱の補強や、建物だけではなく古くなって使えなくなった鍋などの小物の修理など、手元にある素材で賄える範囲での作業であった。


 しかし、噂はすぐに村中に広まる事になり、錬金術を求めて村中の人々が孤児院に押し寄せてきてしまう。

 僕はこの力を独り占めするつもりは元も子もなかった。

 ただ、この錬金術を悪用しようと企む人達がもしかしたら出てくるかもしれないと、それを懸念していただけの隠蔽だった。


 レーミスの村の人々に悪い人は余り居ない。

 肉屋の主人ネイブは、孤児院の子供達の為に肉を分けてくれるし、洋服屋のゼイリは売れ残りであるが、服をくれたりする。

 今まで善意であるそれをただ受けるだけだったのだから、これはその恩を返す事の出来るチャンスでもあった。


 だからネイブには刃こぼれした包丁を、錬金術で新品同然の物へと変えたし、ゼイリには、鍋や服の製作に使う針を作ってあげた。


 二人とも物凄く喜んでくれて、恩返しのつもりが、大層な額ではないがお金を僕に置いていった。

 エリィに伝えてもそれは正当な報酬であるのだから受け取りなさいと言われ、僕はそれをポケットにしまった。


 普段であるならば、他者からお金を貰うなど、エリィは絶対に許さない。

 受け取った際、それがエリィにバレてしまったら、すぐさまお金を返しに行けと言われるのだ。

 僕は昔から人よりも少し手先が器用であった。

 錬金術を使えないときも、その器用な手先を駆使し、簡単な修理であれば快く受けていた。

 その時お金を貰って、エリィに怒られたのだ。


 正当な報酬だ、とエリィは言った。

 正直な所、僕はエリィの言っている意味が分からなかった。

 錬金術を使う前はお金のやり取りは禁止であったのに、錬金術で直した際は、お金を受け取っても良いだなんて。

 だから僕は思った。両方結果は同じではないか、と。


「アルフォンス。錬金術は貴方が必死に勉強して得た『技術』です。それを用いて修理を請け負ったならば、それは立派な商売とも言えるでしょう。その『技術』はただ手先が器用であるからと修理したのとは、全くの別物なのです」


 僕がエリィに聞くと、エリィは説明してくれたが、いまいち良く分からない。


「でも、僕達は今までネイブやゼイリに良くしてもらって来たよ? その恩返しのつもりで僕は修理をしたんだ。それなのにお金なんて受け取れないよ」


 僕は自分の思っている事をエリィに伝えた。

 しかし、僕の問いにエリィは穏やかな笑みを浮かべながら答えた。


「えぇ。勿論それは私も分かっています。そして、お二人もそれを十分に理解していることでしょう。その上で貴方にお金を払いたいと思ったのです。貴方の錬金術という技術は、それ程に価値があるのです。包丁を直してもらったネイブは、それは凄く喜んでいましたよ。『これを店で買うとしたら銀貨十枚はするだろう』と、ね」


 銀貨十枚という価値は以前の買い出しで理解している。


「で、でもだよ? 僕は自分で素材を用意していないんだ。修理をしてくれと頼まれた時、僕はネイブに自分で素材を用意してくれるように頼んだ。用意してもらったのは修理をする包丁と、他には鉄鉱石だけだけど、僕の元手はゼロなんだよ」


「ですから、貴方の技術はそれを上回る程の物であると言っているでしょう」


 諭すようにエリィは僕に言う。

 それでも僕は、これはおかしいと思うんだ。


「……納得出来ないよ」


「アルフォンス……。わかりました。今からネイブとゼイリの所へと私と行きましょう。そうすればきっと貴方も分かるでしょうから」


 溜め息を吐いて、エリィは言った。

 引き下がらない僕に呆れているのだろう。


「僕は、ネイブとゼイリにお金を返す」


 僕はエリィの目を真っ直ぐに見て言った。


「それは話をしてから決めて下さい」


 エリィも真っ直ぐ僕の目を見て答えた。

 どちらも譲らないという意思を表し、僕とエリィはネイブとゼイリに会いに向かった。







 ――






 まず、ネイブの居る肉屋に向かう。

 向かっている途中で、すれ違う村の人達が僕達に気付くと手を振ってくれた。

 僕とエリィもそれに軽く頭を下げ返事をする。

 中には僕に直接、修理のお礼を言ってくる人もいて、エリィの前だからか、ちょっと恥ずかしかった。

 僕はその恥ずかしさがエリィに伝わらないように鼻を掻いて誤摩化した。


 エリィは横を歩きながら、去って行った村人達を見送ると、僕の方を見て、


「喜んでもらえたようで良かったですね」


 エリィは何だか誇らしげだった。


「うん」


 先程のエリィとの会話で、少し気まずい雰囲気に陥っていた僕は、ぶっきらぼうにそう答える事しか出来なかった。

 喧嘩とまでは発展はしていないが、僕の心は影が差したように、エリィに対しての気持ちに、言葉にできない靄が掛かっているように感じた。


 そうこうしている内に、目的地であるネイブの店に到着した。

 村の中では比較的大きな建物である此処は、四つの施設が連なって出来ている。

 家畜を放している芝生の生い茂る牧場。

 青々とした草を豚や牛がモシャモシャと食べているのが見える。

 そして厩舎がその牧場に隣していて、その奥には育てた家畜を残酷でもあるが命を狩る場所でもある屠殺場がひっそりと建っている。

 命を狩るという行為はとても残酷なものであるが、僕達が生きる為には仕方のない事だ。

 家畜である動物達の飼い主のネイブもそれを買いに来る村人達も、その事はちゃんと理解していた。

 だからこそ、店に並んだ肉の全てが卸したその日には全てが完売する。

 村の人々は命の大切さを、僕達の教会で教わっている。

 孤児院でも食事の前にお祈りするのは、命を食すという行為に感謝を述べる役割も伴っているのだから。


 僕が牧場を眺めていると、先に店に入っていたエリィが店主であるネイブを連れて外にやってきた。

 僕に気付いたネイブは先ほどのお礼を述べてきた村人達と同じように手を振ってくる。

 僕はそれに返事をして、二人に近づいていく。

 牧場から牛の鳴き声が聴こえた。


「やぁ、アルフォンス。この間はどうもありがとう。包丁はとても使い易いよ」


「いえ、礼には及びません。今日は頂いた礼金についてお話がありまして」


 僕は手に持っていた小袋をネイブに見せて言った。

 小袋の中には銀貨が入っている。

 ネイブに礼金として渡された物である。


「あぁ、その話は先ほどエリィさんに伺ったよ」


 エリィから既に大まかな話は聞いているらしい。

 ならば話は早い。


「では、お返しします」


 僕は銀貨の入った袋をネイブへと渡そうとするが、ネイブは首を横に振って受け取ろうとはしなかった。


「それは受け取れないよ。アルフォンス」


 何故? 僕の頭のなかに疑問が浮かぶ。

 エリィから既に話を聞いているなら、僕の言い分は伝わっているはずだ。

 エリィは自分の有利になるように話す事なんて卑怯な真似は絶対にしない。

 だからこそ、僕はネイブの返答に疑問を抱けずにいられない。


 ネイブは小袋を差し出した僕の手に、自分の手を重ねると、優しくそれを僕の方に押し返して、僕の返事を待たずに、尚も言葉を続けた。


「アル坊や。君の気持ちは確かに嬉しい。普段の恩を返そうという心構えも立派なものだと、ワシは思う。でも、それを分かった上で、ワシはこのお金を君に渡したんだ」


 ネイブは昔から時々、僕のことをアル坊やと呼ぶ。

 この呼び方をする時は、叱る時、褒める時、諭す時である。

 きっと今回は諭そうとしているのだろう。


「いえ、納得出来ません。僕が、いや僕達孤児院の皆が今まで生きてこれたのはネイブさんや他の村の人々の優しさがあってこそです。僕がこのお金を受け取らないという意味を正しく理解しているのなら、受け取ってください」


「それはちょっと大袈裟じゃないかな。ワシ達は少し手助けをしただけに過ぎない。君たちをここまで育てたのはエリィだ。……確かにワシも孤児院の優しい子供達の事を我が子のように思っているがね。いや、孫のほうが合ってるかもな。ガハハハ」


 生やした無精髭と、白髪交じりの深い茶色い髪を揺らしながら笑うネイブ。


「そのお金は、お礼であると同時に、君への報酬でもある。お礼と報酬。同じような言葉ではあるが、意味は全然違う。ワシも上手くは言葉で説明できないが、君は報酬に値する確かな仕事をしてくれた。錬金術の事はワシにはよく分からんが、君が私の包丁を直す際に使い勝手が違わなくならないように心がけてくれたのは、受け取った時に、すぐに分かった」


 子供の棒を直した時もそうだったが、僕は錬金術を使って物を直す時、その人が長年使ってきた感覚が狂わないように注意を払っている。

 本来、錬金術とは素材を一度全て分解し、一から全てを構築するという工程故に、素材の癖等を残すことは出来ないとされている。

 でも、僕には不思議とそれが出来る。

 理由は分からないけど、アグニスに言われた『イメージ』が大切だという事を意識したおかげだと僕は思っている。


「この包丁は俺が店を開いた時に女房がくれた物なんだ。それから何度も刃毀れしては研いでの繰り返しで、なんとか持っていたが、遂に使い物にならなくなっちまって、新しい包丁を買いに町に行こうとしてた時、お前さんが直してくれたのだよ」


 確かに、ネイブに渡された包丁は、何度も研いだせいか磨り減り、包丁というよりもナイフと言った方が良いんではないかという程の物だった。

 予備の包丁と共に見せられなくては、本来の包丁の姿をイメージするのは無理だっただろう。


「ワシにとって、この包丁はただの包丁ではない。今までの思い出が詰まった大切な物なんだ。ワシの命の次に大事な物と言っていい程の包丁を蘇らせてくれた。だからこそ、アル坊やにお金を払いたいと思った。ワシは本当なら金貨でも良かったんだが、女房に怒られちまってな。ワシが払えるのはその小袋に入った少ない額になってしまったが、是非とも受け取って欲しいと、ワシは心から願っておるよ」


 僕はそのネイブの言葉を聞いて、自然と頷いてしまった。

 ネイブの包丁への思いは確かなものだ。

 その大切な包丁を僕に託してくれたということに僕は嬉しく思ったし、何よりもエリィが言っていた『正当な報酬』という意味が今の言葉を聞いて理解できた。


「分かりました。ネイブさん。この報酬は有難く受け取ります。ですが、今回だけです。今度また直す際にはお金はいりません。ネイブさんの言ったように、僕も孤児院の皆が大切です。そのお礼として、ネイブさんの包丁は僕が責任を持って、今後も直させてもらいたいと思ってます。それでよろしいですか?」


「いいや、お金はなんと言われようが払うぞ。ワシはもう決めた。アル坊やがなんと言おうと、受け取らなくとも、ワシは孤児院に報酬を置いていく」


 この頑固爺さんめ。

 僕はその答えに溜め息をついて、遂に折れる。


「わかりました。報酬は受け取ります。ですが、修理は一律銀貨二枚です。これ以上は受け取りません。僕が譲歩出来るのはこれが限界です。……無理であるならば、修理の仕事を僕は拒否します」


「アル坊やは頑固だのう」


「お互い様でしょう」


 僕とネイブは二人で笑った。

 そんな僕達二人をエリィは少し離れているところで優しく見守っている。


 僕は手に持った銀貨の入った小袋を強く握った。

 重たいとはとても言えない程の重さだが、僕はその小さな重みがとても心地が良いものに感じた。

現代で言うと資格みたいなものですかね。

資格は取得する段階で、受験料を取られます。

勿論勉強をする時間も必要です。

資格を得れば、それに見合った報酬を頂くのは当然の事だと私は思います。


ぜひ、皆様も資格をお持ちでないならば、取得してみてはいかがでしょうか。



お金の価値について補足しておきます。

この世界では四種類の硬貨が存在します。


銅貨、銀貨、金貨、白金貨。


銅貨25枚で、銀貨1枚。

銀貨50枚で、金貨1枚。

金貨100枚で、白金貨1枚。


日本円で言うと、銀貨1枚2500円相当の価値に値します。

よって銅貨1枚は100円相当。

金貨1枚は12万5000円相当。

白金貨1枚で1250万相当、となります。


前作で、王都に住む人々の月収が約金貨2枚であると明記しました。

金貨2枚=25万円です。


アルフォンスが提示した銀貨2枚という金額は、正直破格であります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ