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元騎士様と精霊に愛された錬金術師。  作者:
元騎士様と少年アルフォンス。
2/7

迷える剣士と、答えを見つけた少年。

 アグニスの話は、ゆっくりとした口調で始まった。

 静かな優しい語り掛ける様な、それはアーガスの唄とは違う物だ。

 アグニスの低い声は不思議と良く通る声だった。


 話の節々に抑揚を付けながら語られる物語は、僕の頭の中でそれは鮮明に思い浮かべる事が出来る程だった。


 彼は、僕達と同じように自分も子供だったんだ、と語り始めた。

 付け加えるように夢に憧れる一人の子供だった、と。


 東の大陸の辺境の村で育ち、王都で見た騎士に憧れて、剣の道に進むと決め、元冒険者の父親に護身術を学び、盗賊団に攫われ、村に偶々来ていた冒険者である、後に彼の師匠とも呼べる人物に助けられた、と。


「大切なモノを守るのが本当の強さだ」


 アグニスが師匠に言われた言葉らしい。

 短い期間しか共にすることは出来なかったが、師匠に学んだ事はアグニスにとって、何よりも大切な時間になった、と。


 その時、盗賊団から奪った魔剣が業物で、今も使い続けているとも語った。


 何よりも、孤児院の女の子達が興味を持ったのは『エルフの姫』の話題だった。


 しかし、アグニス本人はエルフの姫、リーシアの事を妹のようにしか思えないと語っており、その恋は一方通行であるのが分かった。

 孤児院の女子達からブーイングを受けながらも、苦笑で誤摩化したアグニスだったが、恋の話題になると女子達は手強い。

 その勢いに負け、今度エルフ姫に出会ったら、デートを申し込むという言付けを取られるに至ってしまった。


「と、とにかくだな、俺が言いたい事は、夢を持つのは良い事だって事。そして、それを叶える為には努力をすること。俺だってそれをしなかったら騎士になんて成れなかったんだから」


 アグニスはそう言って話を纏めたのだった。

 僕もアグニスの言う事は正しいと思った。


 アグニス本人も、それは地の滲む努力をしたのだからこそ、騎士になれたのだろうから。

 自らの経験を語る彼は、思い出話だ、と笑っているが、彼の話す体験談はとても貴重な物だと僕は思う。


 経験とは、簡単に得られる物ではない。 

 実際に見て、感じて、考える。

 それは本人だけの物だ。


 それを彼は僕達に語った。僕達に教えてくれたのだ。


「アルフォンス、お前の守りたいモノって何だ?」


 話終えたアグニスが僕に近付いてきて言った。

 憧れの人が目の前にいるという現実に僕は緊張を隠せない。


「そんな事言われても、いきなりは答えられないです」


 僕の大切なモノ、とは何だろう。


「俺も分からない。自分が大切だと思う物が未だに分からないんだ」


 アグニスにすら分からない物が僕に分かる訳が無いじゃないか。


「あ、今お前、俺が分かって無い事が自分が分かる訳ないって思ったろ」


 僕の顔を覗き込むようにして語るアグニス。

 その吸い込まれそうな薄赤の瞳に僕はたじろいだ。


「図星か」


「……図星です」


 今度はにかっと笑って、僕の背中をその大きな手で一度強く叩いて、


「俺にとって大切だったのは『夢』そのものだった。でもな、俺はその夢を叶えた後、どうすればいいか分からなくなっちまった。いざ『騎士』に成ってみて、気付いたら最強だなんて言われてな。『次』に何をすればいいか分からなくなったんだ」


「それは、何だか迷子みたいですね」


 アグニスは道に迷っているんだ。

 『騎士』になって、『夢』を叶えてしまった彼は、『次』への道が見えなくなってしまった。

 それまで、その『夢』だけを見てきた彼だ。

 この笑顔の下にどれほどの苦悩が隠れているのだろうか。


「迷子、か。その通りだな。だから俺は冒険者になったのかもしれない」


「『道』を探す為に?」


「あぁ、道を探す為に、だ。案外楽しいもんだしな、冒険者っていうのも」


「剣聖である貴方からしてみれば、簡単なんでしょうけど、僕達凡人の人間にとっては楽しいだなんて思える人自体少ないですよ」


「まぁ、そうかもな『俺』は異常だから」


 その言葉を聞いて、僕はしまった。と思った。

 なんて失礼な事を言ってしまったのだろう。

 アグニスが才能とかの話題を嫌っているのは僕も知っていた筈なのに。


「僕はアグニスさんが、天才だとは思えませんけどね」


 自然と出た言葉だった。


「僕はアグニスさんの事を、照れ屋で不器用な人だって思ってます。才能があるから天才じゃないですよ。努力を惜しまない姿勢を貫ける人を天才って言うんです。アグニスさんは、照れ屋で不器用な天才なんです。悪口じゃないです。褒め言葉です」


 捲し立てるように述べた言葉の羅列。

 でもこれが僕の飾り気の無い本心だ。


 アーガスの唄を聞いて、実際のアグニスを見て感じた事。

 それを踏まえた上での答えなのだから。


「ははっ! お前、面白いな」


 笑いながら面白いと言われ、僕は悪口を言われたのかと思ってアグニスを見た。


「あぁ、俺のも悪口じゃないぜ」


 彼の言葉も僕と同じように本心なのだろう。

 その瞳は笑いながらも、透き通っている。

 誤摩化そうともしないアグニスに、僕は言った。


「僕は、孤児院を守りたい。孤児院を守ってくれてるエリィを守りたい」


「……もう分かってんじゃねえか」


 今度は優しい笑みを浮かべながら、僕の頭の上に大きな手が乗せられた。


「――それが大切なモノだ」


 お前だけの答えだ、大事にしろよ。と言い残して、アグニスはアーガスの居る自室へと戻って行った。


 その姿を目で追いながら、先のアグニスの師匠の言葉を思い出した。


 ――大切なモノを守るのが本当の強さ、だ。


 あぁ、本当だ。

 僕はとっくに見つけていたんだね。





 ――





 孤児院の子供達の部屋は全部で三部屋ある。

 年長組の男の子の部屋と、年長組の女の子と年少組の男女が相部屋の部屋が2つだ。


 年長組の女の子は面倒見がとても良い。

 シスター、エリィの教育の甲斐あって、とても優しい子達に育っている。


 年少組の子達も、そんな彼女達の負担を少しでも減らそうと自分で出来ることはやるという姿勢が、子供達には根付いていた。


 僕は寝る前に、読書をする。

 エリィに見つかると目が悪くなると注意されるんだけど、僕の数少ない楽しみでもある読書を辞めるつもりはなかった。

 昼間でも時間を見つけては読んでいるんだけど、夜の寝る前に読んだ方が、より自然に頭に入ると僕は感じていた。


 僕が今読んでいる本は、僕の亡くなった親が残してくれた形見である。

 本の題名は【特殊錬金精霊防具大辞典―序―】である。

 幾多の防具の絵と、それの素材、作り方。

 最初の目次の次のページには亡くなった父の字で、僕にはまだ理解出来ない事が記されている。

 いつかはこれを解読しようと思っているし、僕はこの本を読みながら、自分が騎士になった姿を想像するのが楽しいのだ。


 しかし、これを読んでいて、僕は一つ疑念に思うことがあった。


 僕が住んでいるレーミス村には数多くの冒険者がやってくる。

 それは村が整地された街道に面しているのも理由の一つだと僕は思う。

 そして、もう一つは、この村から南東へ進んでいくと港町エーノがあるからだ。

 大陸を離れるには船で海を渡る必要がある。

 冒険者は港町への道中の中間地点として、この村を利用しているのだった。


 僕の疑念とは、この本に載っている武器や防具を身につけた冒険者を未だに見かけたことが無いことだった。

 もしかしたらこの本が古いだけかもしれないが、僕にはそうは思えなかった。

 本に記された武具に必要とされている素材は僕でも貴重な物だと分かるし、武具の効果も強力なのも読めば分かるという物だ。


 (なんで、誰もこの武具を使わないんだろう。)


 僕は村の外から出たことが無いからわからないが、もしかしたら素材の入手がとても難しいのかもしれない。

 貴重であるとされる『光魅の草』の朝露を使うとされる防具もあることだし。


 そして僕は、ページを捲る。

 

 (あったぞ、これだ。)




 【聖精霊のローブ】


 精霊の守りを宿したローブ。

 斬撃をある程度緩和出来、魔法の威力を著しく軽減する事ができる。


 【素材】


 精霊石の粉末(全属性の精霊石の粉末が必要)

 聖なるローブ

 光魅の朝露



 僕はこのページを読んで、改めて先ほどの精霊石を思い出した。

 あれを細かく砕いた物が精霊石の粉末か。

 そして、必要なのは火の精霊石一つだけでは足りない。

 精霊石の種類は、火、水、風、土の大四属性と、光と闇の二属性。


 聖なるローブとはシスター、エリィが着ている物だ。

 聖職者に与えられる聖なる衣服である。


 光魅の朝露は、当然、光魅の草の朝露である。

 この中では一番貴重な素材でもあった。


 作るのは錬金術さえ使えればそこまで難しくない。


 錬金術の知識と、素材の確保さえすれば、時間は掛かるが、誰にでも作れそうな物だ。


 大量の光魅の朝露を用意し、粉末を投入。

 聖なるローブをその液体に浸して二日間放置し、十分に染み込んだのを確認したら錬金術を発動する。


 錬金術の発動には膨大な知識が必要だ。

 錬金術師は世界に数えられる程しかいないとされている。


 その理由は二つ。

 まず、一つ目。

 その知識を得る為に必要な錬金術の資料本が希少であること。

 そして二つ目は、それを自分の知識へとするのに掛かる時間が掛かり過ぎるということ。

 最後にそれを有していても、肝心の素材を揃える段階で無理難題に直面してしまう事が殆どであるからだ。

 錬金術を使えるようになったとしても、その代償に対して、余りにも利点が少なすぎたのだ。

 錬金術で作った装備の性能は確かに凄まじい。

 しかし、それを大金を叩いて買うよりも、既存の良質な装備の方が明らかに安く手に入る。

 実際にそれらの装備も性能も良いのだから錬金武具を態々買う人は少ないのも、不思議ではない。

 昔は、それなりに居たとされる錬金術師は、最近の百年間の歴史の間にこれらの理由から、めっきりとその数を減らしてしまったのだった。


 (あぁ、だから錬金術の武具を身に付けている人を見掛けないのか)


 そこまで、考えるとそれは当然とも言えた。

 錬金術を扱える者はただえさえ少ない。

 そして、素材も高い。

 そのせいで希少価値は跳ね上がり、性能に関わらず、錬金武具というだけで高値が付いてしまう。


 僕はまだ錬金術を扱えるまでの知識は無い。

 でも希少な資料は揃っている。後は、時間と素材だけなんだ。

 僕はもう少しで錬金術を発動出来ると踏んでいる。

 最近、最も簡単な物であるが、錬金術の基礎である、錬成陣の意味を理解出来るようになってきていた。


 錬金術は正直使えたとしても、余り価値は無いかもしれない。

 でも、僕はそれを分かっていてもどうしても錬金術を諦められないんだ。

 両親が僕に残してくれた形見であうというのもその一つだ。


 そして、アグニスのお陰で気付いた僕の守りたいモノ。

 錬金術で、僕の大切なモノを守れるかもしれないから。

とんでもない事に気付いちゃいました。

錬金術師でアルフォンスってまんまじゃないですか。

書いてる途中で気付きました。


でも、錬金術の種類も違いますし、大丈夫ですよね……?

どうしてもアルフォンスっていう名前でやりたいのです。

響きがいいし、可愛い名前だと思うんです。


ということは、エドワードという名前は永遠に使えないのですね……。

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