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三叉路

シスコン兄貴怪談話

作者: 恵/.

「やっぱ時代は怪談だよね!」



 幼馴染が放ったその一言で、俺たちはみんなで集まった。と言っても、その幼馴染がうちに来ただけだが。

「……って、何なんだよ? 突然押しかけて」

「いいからいいから」

 半ば強引に押し掛けて来たのは、俺―――浜荻琢矢の幼馴染である貝塚絵美那。高校生にしては低い身長とショートカットの髪型、そして不細工な面構えが特徴的。……実は化粧で態と不細工にしてるとか、素顔は超絶美人っていう裏設定があるんだが、今は割愛。

「絵美那さん、何する気なの?」

 俺の妹である浜荻優香も、絵美那に対して不信感全開。この中学生とは思えないダイナミックボディとか、端整で可憐な顔立ちとか、萌えポイントである茶髪のツインテールなど、彼女の魅力は語り尽くせないのだが、今回は関係ないのでこれも割愛。

「あら、楽しそうじゃない。花野もそう思うでしょ?」

 一方、優香の親友である鶴野光子は、自身の執事である山田花野に対してそんなことを言った。茶色でウェーブが掛かった髪が特徴的な女の子で、執事がいることからも分かる通り、いいとこのお嬢様である。なのに、何故か執事と共に、うちに居候していたりするのだが、それも今回は割愛。

「はい、お嬢様」

 主の言葉に、執事の花野は恭しく頷いた。常にスーツを着用し、学校にもその服装で通っている彼は、中々の美少年。格好を変えれば女の子に見えるだろう。そして花野は、主である光子に対して忠実で、彼女の言葉に異を唱えることはまずない。……こういう下僕が一人くらい欲しいな。

「光子ちゃんはノリノリみたいなのに、どうして琢矢君たちはそんなに消極的なの?」

「いや、何でこんな時期に怪談なんだよ?」

 今は十二月。冬休みに入ったばっかりだ。怪談は普通、夏にやるものだと思うんだが。

「海外では冬にするものもあるみたいだよ? それに、最近流行ってる感じだったから」

 ……絵美那よ。お前って、そんなに流行に敏感だったか? 絶対に思いつきだな。なんかその手のテレビでも見たんだろう。

「さ、ともかく始めよっ!」

 しかし、彼女がこうなってしまえば、俺にはどうしようもない。ここは大人しく、絵美那の気が済むまで付き合ってやるか。



  ◇



「……で。どうしてこうなった?」

「え? 折角だから、百物語風にしてみました」

 十分後。俺たちはリビングにいた。カーテンを閉めて照明を落とし、真っ暗になった部屋の中、光源は微かに灯る五本の蝋燭のみ。確かに雰囲気はそれっぽいが。

「本当の百物語だと時間が掛かるから、今回は五本の蝋燭でやるね。ルールは簡単。一人一つ、怪談を話して、終わったら蝋燭を一本消す。そうやって、全員が話し終わったら終了。こんな感じかな」

 百物語は、部屋に百本の蝋燭を灯して行う。けれども、この人数でそれは難しいので、数を減らしたのだろう。これなら一人一話で足りるし。

「まずは私から行くね。言いだしっぺだし」

 絵美那はそう言うと、近くにあった蝋燭を手に取って話し始めた。

「―――そう、あれは去年の夏。親戚のお葬式に出たんだけど、そこで知らない子に出会ったんだ。古びた浴衣を着た、ちっちゃな女の子だった。親戚の誰かの子供だと思って、私は声を掛けたんだ。他に子供はいなかったし、私も丁度暇だったから、それからその子と遊んだの。偶然携帯ゲーム機を二つ持ってたから、それで一緒にゲームをしてね。その子、ゲームをするのが初めてだったみたいで、最初は戸惑ってたけど、最後には格ゲーで対戦したりしてたんだ。……その後、とうとう火葬場に移動することになったから、私は一旦その子と別れて、火葬場まで行ったの。だけど、火葬場ではその子に会えなかった。火葬が終わって式場に戻っても、その子はどこにもいなかった。気になったからお父さんにその子のことを聞いてみたんだけど、そのときいた子供は私だけだって言うの。……それから、亡くなって人のアルバムをみんなで見てたんだけどね、その人が子供の頃に撮った写真があったの。見てみたら―――私が出会った女の子だったの」

「ひっ……!?」

 絵美那の話に、誰かが小さな悲鳴を上げた。それと同時に、俺の腕に誰かが抱きついてきた。もしかして、優香か? うん、多分そうだ。腕に当たってるこの柔らかい感触は、優香の胸に違いない。……っと、ちょっと変なことを考えてしまった。

「優香、ちょっと怖がりすぎじゃないか?」

「そうよ優香。今の話、そんなに怖くないじゃない」

「こ、怖くなんてないわよ……!」

 俺と光子の言葉に、優香は震えた声で反論してきた。声がちょっと遠い気がするが……まあ、暗いから距離感がうまく掴めないんだろう。

「ざっとこんな感じかな? とりあえず一つ目終わり、っと」

 話を終えた絵美那は、自分の蝋燭を吹き消した。灯りが一つ消えて、部屋が少し暗くなる。

「次は誰が行く?」

「じゃあ、私が行こうかしら?」

 二番手は光子。……因みに、光子と花野は霊感保持者だったりする。なので、案外怖い話を知ってるかもしれないな。実体験とかも多そうだ。

「とはいっても、優香が震えちゃってるし、あんまり怖いのは止めておくわ。そうね……戦没者の亡霊、なんてどうかしら?」

 言いながら、光子は近くの蝋燭を手に取る。……控え目にするつもりみたいだけど、十分怖そうな題材だな。

「あれはそう、私がまだ十歳にもならない頃ね。旅行でちょっと大きな街に行ったんだけど、そこでは昔、大規模な空襲があったらしいの。爆弾で民家が焼かれ、多くの市民が命を落とした。―――尤も、今はとっくに復興してて、凄く賑やかな街になってたわ。でも、戦火に焼かれた人たちの怨念は消えてなかったわ。……その街には妙な噂があってね。なんでも、裏通りにある自販機でジュースを買うと、「水をくれ~……、水をくれ~……」って声が、どこからともなく聞こえてくるらしいのよ」

「ひぃっ……!」

 今度もまた、誰かの悲鳴。それと同時に、俺の腕に掛かる圧迫感も増す。……優香、こういうのに弱いのか。

「あら、まだ途中なんだけど」

「も、もういいわよ……!」

 優香の懇願を受けて、光子は蝋燭の火を吹き消した。……後は三本だが、それまで優香の精神が持つのか?

「次は俺が行く」

 ここは優香の負担を減らすためにも、つまらない話をしてノルマを達成するか。これこそ兄貴の務めだろう。

「あれはそう、夏の暑い日だった。学校から帰った俺は、汗を吸ったシャツを脱いで、そいつを洗濯機の中へ放り込もうとしていた。―――そんなとき、見てしまったんだ。汗を思いっきり吸った、優香のシャツを」

「きゃあぁぁ!?」

 甲高い悲鳴、というか絶叫。ど、どうした……?

「それは……別の意味で背筋が凍るシチュエーションね」

「うん……空気を読まない琢矢君が悪い」

「えぇ……?」

 なんか女性陣から非難の声が。とはいえ、これで俺のノルマは果たした。俺は近くの蝋燭を手に取って、火を吹き消す。これで後二本。

「じゃあ、今度は僕ですね」

 四番バッターは花野。……でも、あんまり凄いのは止めてくれよ。優香の精神が持たない。

「あれはそう、家の掃除をしているときでした。琢矢君の机を掃除していて、ふと、鍵のついた引き出しを見つけました。琢矢君は時々非合法な物品を所持していますから、何かその類のものを隠していないかと勘繰って、中を確かめてみました。すると―――中から優香さんの水着写真が」

「きゃあぁぁ!?」

 またしても優香の絶叫。っていうかおい! 何で勝手に机を開けてるんだよ!? そしてどうやって開けた!? 鍵はどうしたんだよ!?

「……兄貴、後でぶっ殺す」

「は、はは……」

 心なしか、腕からもミシミシと強い圧力が。……血流が止まったりしないよな?

「……次は私よ」

 花野が蝋燭を消した後、最後の会談が始まった。順番から言って優香だよな? 怪談なんて、出来るのだろうか?

「昔、この土地で百物語をしていた子供たちがいたの。彼らは百本の蝋燭を用意して、夜通し怪談をし続けたわ。―――でも、最後の百話目が終わって、丁度夜が明けたときよ。彼らは重大なことに気づいた。自分たちの中から、一人がいなくなってることに。それから彼らは辺りを探したけど、いなくなった一人は見つからず仕舞い。その後、彼女の姿を見たものはいないそうよ」

 話が終わり、最後の蝋燭が消えた。……優香、怖がってる割にはちゃんと話が出来るんだな。

「ひっ……!」

「……うん?」

 と思ったら、またも悲鳴。今度は誰だ? 絵美那か? 光子か?

「ゆ、優香、どうしたの……?」

「ひ、光子ぉ~……!」

 な、何だ? 優香の様子がおかしい。話が終わってすぐ、腕に掛かっていた圧迫感が消えていた。つまり、優香は俺から離れて、光子にでも飛びついたのだろうか? でも、どうして? 自分で怪談を話していただけなのに。

「とりあえず、これで終了だね」

 部屋が真っ暗になったので、絵美那が照明をつけた。部屋に光が戻り、室内を照らしていく。壁際でスイッチを操作していた絵美那、正座している花野、同じく正座している光子と、光子に抱きつく優香、そして五本の蝋燭の残骸。それらがはっきりと見えた。

「どうしたんだよ、急に。っていうか、どうしていきなり俺から離れたんだよ?」

「……え?」

「……お兄さん、何言ってるの?」

 俺の言葉に、優香が呆けたように顔を上げ、光子が訝るような視線を向けてくる。……え? 俺、何か変なこと言ったか?

「優香は絵美那さんの話が終わってから、ずっと私に抱きついてたのよ? 何でお兄さんから離れたことになってるの?」

「え? だって、俺の腕に抱きついただろ?」

「わ、私が抱きついたのは光子よ……蝋燭の明かりで顔が見えたし」

 ……え? ちょっと待って。確かに暗くて顔は見てないけど、あの感触は確かに優香だったよな? ロリ体型の絵美那や、男の花野が抱きついたとしても、あんな感触はないはずなんだが……。

「……それと。私、話してない」

「は?」

「してないの……兄貴が私の写真を隠し持ってるって聞いて、ちょっと混乱してて、怪談なんてしてないのよっ!」

 ……つまり、最後の話は、優香じゃない、のか?

「じゃ、じゃあ、光子か絵美那なのか?」

「私じゃないわ、お兄さん」

「私も違うよ。っていうか、声が違うから気づきそうだけど」

 確かに、普段の俺なら、例え部屋が真っ暗でも、優香の声を間違えたりしない。光子や絵美那の声は聞き慣れているし、彼女たちが優香の振りをしていたら、すぐに分かるはずだ。

「じゃあ、あれは一体……?」

「は、花野、あれってまさか―――」

「幽霊ではないと思いますよ。幽霊だったら、あの暗闇でも気づきますし」

 霊感持ちでも気づかなかった、謎の声。そして、俺の腕を抱いた、あの感触。



 ……その後、俺たちは近所の神社でお祓いをしてもらったのだった。

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