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第一章 疫病神と戦場姫/003

 残念ながら、人生は思い通りにならないのが実にリアル的で妥当だと思う。

「……あ、あははは……まぁ。まぁ。まぁ。

 こうなっちまうことはどこかで想定済みだったんですけどね……。

 わかっちゃあいたんだよ、わかっちゃあ………」

 久方ぶりのナンパにハッスルしまくった結果がコレだった。

「………世の中の神髄って、何だか不快ですよね………あーもう……今年こそ期待して勇気振り絞って…みたのに―――――その結果がこの有様だ――――――駅ビルにいる女の子たちを……片っ端からナンパしかけてみたが……みたが……ああ、こんなもんだよなー。わかっていたことだけど……けど…そんなに僕って普通にモテなかったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! はー今更だけど……あー畜生……ルックスで人を判断するなよなー……たく」

 見事に撃沈されたような人の愚痴。そんな魂が抜けた顔をする鳴神の言い訳エピソードは誰も心配してくれないような――しょぼい、それだけでまとめられる内容だった。

 それどころか。

「あれ、そーいやあ…………ここどこだっけ……?」

 どこをどう足を運んだのかまったく覚えていない。

 そのぐらいど忘れしてしまうほど記憶に残っていなかった。

 きっと、精神的にダメージが大きかったに違いない。

 まるで自分のヒットポイントがこのまま毒で削られているそんな気がしてならないのだが。

 気――といえば。

 気がついた時には鳴神の存在はどこへ向かっていたのだろう。実はここにあるのにそこにはない錯覚が一瞬頭を過る。

 鳴神は《独り迷子》になってしまっていた。

「―――」

 ぐったり脱力しながら、あたり一周見渡してみる。

 瞳に映る景色には、見覚えがあった。

 万遍なく塗りつぶされているかのようにビルがいくつも聳える中央街(セントラルシティ)から二〇分ほど歩き、少し離れたところに、ゆったりとした、その空間がある――そこは大広場だった。

 実はこの場所、休日の寛ぎポイントに最適といわれるくらい評判がよい。ここ大広場には、ここの象徴ともいえるダイナミックな噴水が湧き出ている。それがここの最大の特徴であり、最大の魅力とも言える。

鳴神情はここにいた。

 大広場を面しているタイル張りの上に、ぽつんと置かれているベンチがそこにはある。そのベンチに腰を掛けていた鳴神は昼下がりの空を眺める。

「ぶっちゃけ、ここ宇都宮市は……まぁ、今は新・宇都宮市だが………。ぶっちゃけ、こんな街がえらそーに科学都市って言われているけど――何だかなって思う……」

 落胆した顔で鳴神は、パチモンを見透かすように目を細めた。

 第二回東京オリンピック開催から五〇年が過ぎた。以来、日本は経済全体の活動水準である景気において、循環的に見られる変動が景気の波へと突入することになった。波――そう津波のように急速な経済成長を遂げた後はご想像通り、再びバブル景気と呼ばれる好景気に沸いた。

 主に資金を関東地方につぎ込み、世界的に進む未来都市化を見据え、日本はこれからの国の将来性を重視することで持続可能な経済社会システムを実現する都市・地域づくりを目指すこととなり、そうなった結果――二〇七〇年の街は科学の発展により街はどこもかしこも科学パワーに満ち溢れていた。

 この『新』と付いた宇都宮市も例外ではない。

 そしてこの情報は一般的なものであり、表の住人の知識。

 そこで鳴神は正面を向いた。鳴神はもう一度、瞳を青く光らせて正体を暴くような目つきに切り替わる。

 と。

 意図的に鳴神は何かに向かって観察をし始める。現在、目の前に居る数機のお掃除ロボット(ルンバ3(サン))は一生懸命に枯葉を拾い、ガムや缶瓶類やらプラスチックのゴミなどなど片づけている最中だが、鳴神はあの中身を知っている。

 率直に言ってしまえば―――アレを動かしている正体はユウレイだ。

 実はこんな街は科学都市でも何でもない。ただの裏でユウレイ働いているおかげで機能している街なのだ。

 ユウレイが死んでなお地域活動に没頭する姿は鳴神的にはあんまし冗談に見えない。

 こうした経緯は闇に隠されているんだなって思う、鳴神である。

 別に世間に公表する気はさらさらないが。ユウレイが見えない奴らに何を言っても無駄なことは鳴神自身馬鹿でもわかることだ。きっと、科学都市っていうよりユウレイ都市の方が超お似合いって思える人はきっとこの場で自分ひとりだけであろう。

 それよりも、鳴神は胸中で軽く失望した。

「…………つか、自分の誕生日くらい良いこと的なサプライズ的なもんは起きないのかよ」

(コレじゃあいずれカラス共に慰められちゃう………)

 うぎゃあああああ、と黒髪を掻きむしる。この事態をなんとかしようと焦る。

 それだけは何としても避けたい、鳴神は無理やり前向きに考えると頭を振って余計な心配事を捨てた。

「よし、もう一勝負挑むか! ちょ、そのまえに~ジュース、ジュース、と……喉乾いちまったぜー」

 自らに喝を入れる鳴神は背後に設置してある自動販売機に、そっちの方へと視線をやった――のだが、そこに。

 そこには、一人の女の子が大の字で、しかも――うつ伏せで寝ていた状態で発見。

 ナニか見てはいけないものを見てしまった罪悪感が込み上がってくるのは間違いない。

「?????」

 出し抜けられた鳴神は突然のことと意外なことに一瞬おどろくさまになる。

 一度振り返るのをやめ、少し気持ちを引き締めてからもう一度振り返る。

 と。

 やはり。

 すでに鳴神へのサプライズが用意されていた。

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