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迷いの森


相も変わらず面白みに欠ける文章ですが、お読みいただければと思います。


声を頼りに人探し。


お楽しみください。

 誰かが、入った。迷い込んだ。森が、ざわめいている。

 声が聞こえた。誰かに、呼ばれた。だから、目が覚めた。

 深緑。落ち着いた色調の木の葉が、空をかくしている。木立の間を縫って届く光が、足元に複雑な影を作る。風が吹くたびに、形を変える。揺れ動く。

 重たく響く、葉擦れの音。軽やかに過ぎる、鳥の声。厳かに。涼やかに。重なって。重なって。響いていく。

 深い森。視界に入るのは、齢を重ねた大きな木の幹。苔むした岩。踊る陽光。

 道なき道と、果てなき空間。歩めば歩むほど、迷い込む。深く。深く。

 冷たい森。入るはたやすく、出るのは難い。

 どこまでも、どこまでも。自分の足音と息遣いだけが、どこまでも追ってくる。迷い込んだのは、「誰か」か、俺か。

 暗い森。揺らぐ影は夢のよう。現実は、遠い。

 進めば進むほど、日常が遠ざかる。

 迷いの森は、時折優しい。辛い日常を抱える人には。

「ねえ、かくれんぼしよう」

 声が聞こえた。錫の風鈴のような、澄んだ声。どこまでも真っ直ぐに届くような、そんな声。

 思いのほか大きく響いたその声は、何に遮られることもなく、確かな音量で耳に届いた。すぐ後ろから。あるいは、すぐ隣から。

 振り返るけれど、誰もいない。見渡すけれど、人影はない。

 木立の間を吹き抜けていく風に散らされて、声はすぐに掻き消えた。

「鬼は貴方ね。百まで数えたら、私を探してね」

 きっと、探してね。

 澄んだ声だった。涼やかな風に乗って届くその声は、木々の間を渡っていく。人影は、ない。

「いいよ」

 短く答えると、微かな笑い声が耳に届いた。

 手近な木に寄り掛かるようにして、腕で目を覆う。視界は暗くなり、耳が音を拾っていく。梢が揺れる音。鳥の声。言葉は、もう聞こえなかった。

「一、二、三…」

 がさがさと下生えを踏み分けて、誰かが側を走り抜けていった。

「三十一、三十二、三十三…」

 鳥の鳴き声が、遠くなる。

「五十六、五十七、五十八…」

 葉擦れの音が、遠くなる。

「八十四、八十五、八十六…」

 風が、遠くなる。

「九十八、九十九…」

 全てが、遠くなる。

「百」

 足元から、地面が消えた。投げ出された体が、あっという間に落ちていく。迷いの森が、遠くなる。最後に見たのは、重い色調の深緑だった。

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