痩せる食べ物
流血・カニバ表現あります。
苦手な方はバックプリーズ。
途中で視点が変わります。
「ねぇ、私面白いことを聞いたのよ」
「面白いこと?」
いつになく楽しそうな声音に、俺は興味のあるそぶりを見せた。
目の前にいるこいつは、付き合って半年経つ、一応恋人だ。
なんで一応かって?
俺は詐欺にあったと思ってるからだ。
だってさ? たかだか半年で20kgも太るとは思わないだろう、普通は。
俺と初めて会った時に着てた服なんて、絶対着られなくなってる思う。
突き出た腹にも、ぶよぶよで脂肪線の浮いた足にも興味はない。
「漢方によるとねぇ、その人の体形って、食べたものに似るんだって」
「へえ」
なるほど。豚肉好きだもんな。ケーキやらお菓子も。確かにこいつの体型はそれに似てるし、あぶらばっかりだ。
「だから、食べ物にさえ、気をつければ、痩せられるのよ」
なんだ。一応太ったこと気にしてたのか。今だってスナック菓子ぼりぼり喰ってるから、全然気にしていないのかと思ってた。
「ダイエットもいいけど、体に気をつけろよ」
俺は優しい言葉をかけた。勿論、本気じゃなく、単なる保険だ。
もともと見目は悪くないし、前みたいなプロポーションになるんなら、なにも別れる必要はない。だめだったら、そんとき別れりゃいいや。
「ありがとう」
気がついていないみたいだ。あいつはにっこり微笑んだ。
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最近、彼の態度が冷たい。
話しかけても生返事だし、傍に行くと嫌そうな顔をする。外では特に。
街でも、痩せててプロポーションのいい女ばっかり見てる。人間の価値は中身だなんて言ってた癖に。
今日だって。私が痩せようと思ってることをほのめかしたとたん、態度を変えて。私が気がついていないと思っている。
私がもう一ヶ月も前からダイエットをしているのにも気付いてない。まだ痩せてないけど、体重は増えなくなったのに。
でも、もう大丈夫。いいことを知ったもの。
生クリームみたいに白くてふかふかな物は、やっぱり白くてふかふかの脂肪がつくの。言われてみるとその通りよね。ごぼうとか、海草とか、痩せそうな物って、太った体形とあんまり共通点ないもの。だから、もう大丈夫。ダイエット、きっと成功する。
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俺は新しい煙草タバコに火をつけながら思った。
結局、あいつは痩せなかった。いや、一応痩せたには痩せた。でも、あんだけ太った後に少し痩せたって、焼け石に水。全然駄目だろ。
肌だってがさがさになったし、腹すかせてんのか、異様に目つき悪くなった。
どうみても不審人物。あんなのと一緒に歩いてたら、俺まで変な目で見られる。
別れて正解だったな。
あんな女が好きだとか思われるなんて、恥だろ、恥。
その点、今の女はいいよな。
他の男共の目が面白いこと。俺に対して向けられるやっかみと羨望が心地良い。
俺みたいないい男には、やっぱりいい女が似合うってことだよな。
しかし、おかしい。
色々と考え事で時間をつぶしたけど、まだ来やしねえ。
単なるデートならいざしらず、今日はクリスマスイブだ。食事だって、その後のホテルだって予約を入れてある。
あいつだって楽しみにしてたんだし、すっぽかすとは思えないんだが。
遅れるにしたって連絡は寄越すはずだ。
何かあったのか。
その時、俺の携帯が鳴った。
その連絡かと思って誰からの電話か確認する前にとって後悔する。
前の女からだった。取らずに切ればよかったか。
だが、妙なことを言ってきた。
逢いたいってのは、まだいい。でもなんであいつがデートに遅れてることを知ってるんだ?
しかも、絶対に来ないって断言しやがって。まさか、変なことでもふきこんだのか?
折角の俺にふさわしい女を、あんなデブのせいで失いたくは無い。
俺は、随分久しぶりにあいつのアパートに向かった。
鍵はかかっていない。言ってた通りだ。
中に入る。暗い。いないのか?
いや、いた。
前みたいに、いやそれ以上に痩せたあいつが。笑ってる。
目線が変だ。
あいつの顔が随分上にある。いや、あいつだけじゃない、家具の位置も、高い。
いつの間に俺は座ったんだ?
足に力が入らない。
あいつがゆっくりと近づいてくる。
冷たい手が頬に触れた。
じっとりと濡れていて気持ち悪い。
「折角痩せたのに。あなたったら、ほかの女なんかと付き合って。いけない人。今日は折角のイブなのに」
笑いながら、楽しそうに言う。
ああ、こんな表情、初めて見る。
俺は声が出ない。
「でもね、もう大丈夫。ほかの女のところになんか、行かなくていいの」
くすくすとあいつが笑う。
口唇が赫い。
濡れたようにぬめっている。
いや、本当に濡れている。手と同じように。
「私が中々痩せなかったから、他の女で妥協なんかして」
手だけじゃない。服だってまだらに赤黒く染まっている。
「ほら、食べたから」
あいつの足元には、血まみれの物体が転がっている。
あれは、おそらく……
「まだ食べきってないけど、全部食べおわるころには、そっくりになるわ。だから、ね?」
まだ声が出ない。俺は、金魚のように口をぱくぱくさせるだけ。
それなのに、魅入られたようにあいつから目をそらせない。
「大丈夫。またほかの女に目移りしても、また食べてあげるから」
顔が近づく。
恍惚としたした笑みを浮かべている。
ああ、痩せてさえいれば、こいつは美人だったんだっけ。
赫い口唇を、ぬめる舌が生き物のようにゆっくりとなぞる。
微かに開いた口から覗く歯が、白い。
「だから、ね?」
鉄ノ味ガシタ…………
夜月 瑠璃さまのヤンデレマス企画参加作品。
以前書いたお話の焼き直しです。
ヤンデレのデレどこいった!?