その8
「ふふふ。そろそろお昼にしましょうか? スノーとカリンさんはお昼はどうされる予定なんですか?」
「ぷっ、くくくっ……。あ、私? んー、どうしよっかなー。スーちゃんの案内がてら外で適当に食べて来るかな。お昼からもまだ続けるっしょ?」
「スノー最っ高……! あ、ちょっと待ってカリン。私がいれば調理部屋で安く買えるから、パパッと行って買って来ましょ。レナ先生はその間にスノーにスキルの使い方を教えてあげてて」
「はい、それがいいですね。お願いします。スノーは何か食べられない物はありますか?」
「ううう、辛すぎなければ何でも大丈夫だと思います……」
「私のもお願い。スノーと先生を見ていたいから」
「はいはい可愛いもんね。それじゃ、カリン」
「うん、行こっか! そんじゃねスーちゃん! 大人しく待ってるんだよー? んふふふ」
ああもう、みんなニヤニヤしちゃってー! いってらっしゃい!!
くっそう、油断してた! しかも丁度みんなの言葉が途切れた時に鳴らなくたっていいのにさ!! そういえば今日は飴を少し舐めてジュースを一杯飲んだだけで何も食べてなかったな……。ぐぬぬぬ。
とりあえずレナ先生のおっぱいを揉みまくって心を落ち着けよう。慈愛の眼差しがとても気になりますが!
カリンさんとライカさんがお昼の買出しに出かけている間、その時間を使ってウィンドウ内での自動生産のやり方を教わる事になった。
そんな短時間で伝えきれるとなると、どうやら自動生産の名前の通りに相当簡単な仕様になっているらしい。
「はい、胸から手を放して、机の方を向いてくださいね。後でいくらでも揉ませてあげますから、あ、今日は一緒にお風呂にも入りましょうか? ふふふ」
「は、はい」
うわあ、レナ先生はもう完全にお母さんになっちゃってるわ……。アデラさんがいなかったらもっと遠慮なく可愛がってきそう。でも一緒にお風呂とな? それはつまり生で揉み放題という事ですよね? レナ先生の生おっぱい、とても興味があります。
体を机の方に向け直すと、また後ろから両手を取られてしまった。肩に当たるおっぱいの感触を楽しみながら机の上に目を向ける。
乳鉢と乳棒、水の入った小瓶、リフリ草、マナミの葉、ストアの花がそれぞれ一つずつ残っている。
先程私が作った肉体ポーション、略して『肉ポ』は、レナ先生が自分のインベントリに入れてしまった。大切に保管しておくんです、と嬉しそうしていたのが印象に残っている。
「まずこれを全部インベントリにしまってしまいましょう」
と言いながら私の右手を動かそうとするレナ先生。
「あの、自分でできますから……」
「そうですか? 分かりました……」
ああ、ちょっと寂しそう。何故か悪い事をしてしまった気分だ。
レナ先生からの頬擦り攻撃のくすぐったさに耐えながら、ひょいひょいと全部インベントリに放り込んでしまう。本当にこれは楽でいい……。しまいたい物に手を触れてさえいれば念じるだけでも収納してしまえるらしいし、そっちの方法も後で試してみようと思う。
「インベントリは開いたままで結構ですよ。順番は先程の手作業と同じです、まずは水質変換のスキルの実行準備ウィンドウを表示させてみてください」
「え? あ、ああ、はい」
一瞬何を何にどうやって? と思ったが、何となくインベントリに意識を向ければいいと思い当たった。どうもこの何となく分かってしまうという感覚には中々慣れる事ができない。
水質変換、と念じてみると、インベントリのすぐ上にウィンドウが一つ現れた。手作業では念じるのではなく実際に魔力を注ぎ込んだのだが、今の状態はその一歩手前の対象を決めるところでストップしている感じに近いだろうか。
「現れたウィンドウにインベントリから水の入った小瓶を移動させてみましょう。慣れない間はインベントリに手を触れながらか、実際に取り出してから直接入れてみるといいかもしれませんね」
「はい。水を移動、と」
まずは自動生産の流れを教わる事を優先するとして、念じるだけで移動させる練習も試す事もやめておく。表示されている小瓶に人差し指で振れ、水質変換のウィンドウに移動、と言葉に出しつつ念じてみる。
するとインベントリから小瓶が消え、水質変換のウィンドウに変化が現れた。
そこに表示されたのは、無色透明の液体が入った小瓶が上下に二つ。上から三分の二辺りで横に線分けをされている。見た目は同じだがこれは水とベースポーションだなと一目で理解できた。ちなみに上がベースポーションで下が水だ。
どうやら下に入れた材料から今のスキルレベルで作れる物を自動的に選出し、上部に表示してくれているみたいだった。便利すぎる。
レベルを上げてレシピを登録していけばここの表示がどんどん増えていく訳か。先が楽しみだねこれは。
「数が沢山ある場合は個数を決めて移す事もできるんですよ。……移動させる事はできましたか?」
と、そうだった。他の人からはウィンドウに何が表示されているかまでは見えないんだったね。失敗失敗。
「はい、できました。水からだとベースポーションしか作れないみたいですね」
「レベル1だとそうですね。レシピが無くても浄化前の水なら水の小瓶も表示されますよ。さて、次もやり方は同じです、念じるか実際に作りたいものに手を触れて、スキルを実行してみましょう」
「はい!」
待ってました!! もう早く試してみたくてウズウズしてたんだよね。
ベースポーションを指で選択し、スキル実行、と念じてみる。鑑定の時と同じで、すたーとー! くらいの感覚だったが。
しかしスキルを実行したその瞬間、水質変換のウィンドウは消えてしまった。
「あれ? 消えちゃいましたね? 今のって失敗したんですか?」
「ふふ、一つだけでしたからもう作り終えてしまったんですよ。インベントリを確認してみてください。それと、スキルでの自動生産は手作業とは違ってまず失敗する事はありえませんから安心してくださいね。魔力の方も本当に何も問題はなさそうでよかったです……。ふふふ」
言われたとおりにインベントリに目を向けてみると、そこにはベースポーションの入った小瓶が自動的に収納されていた。
ああなんだ、そういう事か。自動生産が終われば勝手にインベントリに入れられるんだね。ちなみに星の数はやっぱり二つでした。
同じ流れで肉ポも作ってしまう。
ポーションの生産の場合は、面白い事にリフリ草を直接放り込めばいいだけだった。どうやら磨り潰して混ぜ合わせる事も全部自動でやってくれるらしい。これこそまさに自動生産。
出来上がったところで完成品はまた嬉しそうなレナ先生に取り上げられてしまったが、代わりに今使った乳鉢と乳棒、さらに品質の悪いリフリ草を百枚と水の入った小瓶を十個も貰ってしまった。星の数はゼロだけど、恐らく初級肉ポ十個分にはなるだろうとのことだ。品質の星の最低数はどうやらゼロらしい。
そして体を横に向けられ、顔を見合わせての注意事項のお時間が始まった。ありがたくおっぱいを揉ませてもらいながら真剣に話を聞かせてもらうとしよう。ちなみにアデラさんは邪魔にならないようにずっと黙って私たちのやり取りを眺めていたらしい。いい人だなあ……。
ありがたいお話を纏めると。
手作業では集中しないと魔力注入が安定しなかったりで失敗してしまうらしいのだが、スキルでの自動生産だとそれがまずありえないんだという。その代わり消費魔力が多く、絶対に同じ品質の物しか作れないという制限もある。ポーションの場合は安定した品質で大量生産できるのは逆に強みになると思うけどね。
勿論例外という物は何にでもあって、例えば途中にあるリフリ草を磨り潰すという行程、これはインベントリに乳鉢と乳棒が入っていなければ行われない。よく考えてみれば当然の事か。
必要な生産器具が揃っていなかった場合を今回の例に当てはめると、ベースポーションとリフリ草は消えて無くなり、無駄に魔力だけを消費してインベントリに戻るのは小瓶だけという結果になる。スキルのレベルによっては品質の凄く悪い物が出来上がってしまう事もあるらしいが、ちゃんとスキル上げをしている人がそんな失敗をする訳がないだろうとのこと。確かに。
必要な器具と材料、そして作業工程。これらをきちんと把握するためにも手作業で何度か作って確かめてから、それからやっと自動生産に移るのが安全で確実な方法か。
魔力の少なめな人はほぼ手作業オンリーらしいので、質のいい品を作り上げる職人になる事が多いらしい。が、私はちょっとずるい特別スキル持ちなのであまり拘らなくてもよさそうだ。
そこまで聞いたところで買出し組が戻って来たので、一先ずここまでにしましょうか、と昼食の時間となった。
一向に自分の膝の上から私を降ろす気配の無いレナ先生が少し気になったが……、お腹がもうペッコペコなので何も言わないでおく。
二人とも何も言わなかったけれど、実は話の間中お腹がくうくうと鳴りっぱなしだったのだ。
買って来てもらった私の分のお昼は、結構大きめのおにぎりが三個。中身は不明だが三個で2ゴールドと格安だったらしい。三個も食べきれないと思うが、インベントリに入れておけば腐る事もないので安心だ。
レナ先生とアデラさんは私と同じおにぎり(アデラさんは六個!)で、カリンさんとライカさんはご飯よりパン派なのかサンドイッチだった。後はみんなで食べる様のサラダの山盛りや、材料がよく分からない焼き料理(コゲ多め)などが並べられていく。
勿論食事中はお行儀よく黙って、などと空気を読まない発言をする人はいない。楽しい、そして興味深いお話は続いている。
「あ、このおにぎり星の数がゼロですね。だから安かったんですか?」
「そうそう、こことは違って調理部屋でスキル上げしてる人は多いからね、そんな風に品質が悪くて安く買い叩かれちゃうのをちょっと色を付けるくらいの値段で譲ってもらえるのよ」
「でもこれ、普通に美味しいですよ? ああ、特別な効果が何も付いてないからですか」
「それもあるけど、オリジナルのレシピを作るために色んな材料を試してるのよ。だから簡単な料理でも星ゼロばっかよ? 特におにぎりなんて怖くて食べられたもんじゃないわ」
「はあ、なるほど、って、ええ!?」
「私はそこが面白いと思うんですけどね。あ、苺でした」
「苺!? あ、ええと……」
「はい、あーんしてください」
「う……。あ、あーん……」
「うはあ! スーちゃん可愛い!! しっかしレナ先生はチャレンジャーだねえ。やっぱり百年も生きてると変わった刺激が欲しくなるもんなのかもね」
「スノー、気になるなら食べる前に割ってみるといい」
「うーん、生温かい苺……。あ! その手がありましたね。……ミニトマトでした。えー……」
「あっはは。後ね、いくら品質が高くてもいい効果が付いてるだけで実際味は悪かったりするから、ただ食べるだけの物なら一々鑑定するなんて魔力の無駄よ? 冒険者はその辺ちゃんとしてるっぽいけど……、カリンは?」
「あー、うん、私はあんまり気にしないけどねえ。たまに奮発してちょっとした効果付きのを買う事もあるけど、それがずっと続く訳じゃないし、美味しくなかったりもするからね。やっぱ効果無しでも美味しい物の方がいいって!」
「食事効果でしたっけ? その辺りもどんな効果があるのかまでは知らないですね」
「森の奥の奥で平和に暮らしてればそれはね。んー、分かりやすく言うと身体能力の一時的な向上、かしら? 体を動かしやすくなるだとか疲れにくくなっただとか、ほんの気休めって言っていいくらいの物もあれば、劇的に変わるっていうのもあるらしいわよ。ま、そんなのは相当高レベルじゃないと作れないと思うけどね。駆け出しのあたしたちに手が出せる代物でもないわ」
ライカさんの言葉が途切れたところで、アデラさんから青っぽい液体の入ったコップを差し出された。
「マナミの葉のお茶。魔力の回復が早くなる」
「あ、ありがとうございます!」
受け取った後、興味を引かれたので鑑定を試してみた。
[マナミティー]
品質★☆☆☆☆
マナミの葉の成分を抽出したお茶。
*魔力の回復速度が僅かに上昇する。
おおお、こんな物まであるのか。立て続けに生産してた私を心配して、かな? アデラさんはやっぱり思いやりのある優しいいい人だ。
実際のところ魔力の減りは全く感じられないが、好意を無下にする訳にはいかない。早速一口飲んでみよう。ううむ、ハーブティーの様な一風変わった香り。
!!?
「にににに苦い!! 苦いですこれ!」
「スーちゃん!? ああ! こぼれるこぼれる!!」
「あっははははは!! っはー……、ふう、実は誰もが通る道なのよね、これ。スノーも毎日飲む事になるんだから慣れときなさい」
「もう、笑いすぎです。スノーはエルフなんですから無理に飲まなくてもいいんですよ?」
「それでも心配。一応飲んでおいた方がいい」
「毎日!? 毎日この量を飲まないと駄目なんですか!?」
「ええ、飲むならそのコップ一杯分は……」
「そんな! あ、水質変換で味を変えるとかは!?」
「できても苦い水かベースポーションになるだけね。諦めて一気にいきなさい」
「はいスーちゃん! 一気! 一気!!」
くっそう、何この新人歓迎会!! やややややってやるわー!!!
スキル一覧
体技
無し
魔法
無し
生活
調合:1 薬草学:0 水質変換:1 鑑定:1
NEW!
スノーの好物は苺。
どこかのお姫様とは勿論無関係です。
スキル一覧は大きく変動があった場合のみにしようと思います。