その3
体育館、じゃなくて工房の中に入ると、そこは広めのロビーの様な空間だった。真正面には受付だろう小さなカウンター、その後ろの壁の左右にそれぞれ奥へと続く廊下が目に入る。他には学校の購買の様な販売所と、数組のテーブルと椅子も確認する事ができた。
しかしここで疑問が一つ。これだけ大きな施設にしては中にいる人の数が少なすぎる。各スキルの生産部屋に篭っているとも考えられるが、この広いロビーに私たち以外誰もいないのはどういう事なんだろうか?
「観察は後で後で! まずは登録だけしちゃおっか。はい、行くよー!」
「あ、はい」
何も知らない私がいくら考えたところで答えは出る筈もないか……。それよりもまずは、自分の事を何とかしないといけないんだった。とりあえず今は忘れておこう。
カリンさんに手を引かれて受付のカウンター前までやって来た。
「あーらいらっしゃーい。買取かしらー? 注文かしらー? それともクレームかしらー? クレームは受け付けたくないわー。うふふ」
私たちが話しかけるよりも前に、カウンターの中にいた受付嬢のお姉さん(巨乳)が口を開く。普通の人間種族のようだ。
なだろうこの人……、超癒されるんですけど。語尾を延ばす喋りはのんびりさを感じていいね。
「んーん、この子の登録で私はただの付き添い。説明とかは無しでいいからパパッとやっちゃって」
「あらあら珍しいわー、エルフの子ー? 可愛いわねー。ふふふ。はーい、この板に両手の平をぺタッと押し付けてー?」
「え? 説明はさすがに……、あ、はい」
口を挟む間もなく目の前に真っ黒な長方形の板が差し出される。私の背が低めなのでお姉さんにはカウンターから身を乗り出させてしまった。
説明は後でしてもらえばいいか、と、言われたままにその板に両手を押し付ける。見て触っただけではなんの素材で出来ているかは分からなかったが、ひんやりとしていて中々気持ちがよかった。
「はーい、ありがとー。もういいわよー」
ほんの数秒後、そう言われて手を放すと、私の手が触れていた部分が白く変色していた。
体温に反応して? 指紋とかの採取? まあ、どうだっていいか。しっかりとした組織だろうし、こんな程度で不審に思う事も無いだろう。
「手もちっちゃくて可愛いわー。お名前はー?」
「あ、私ですか? スノーホワイトです」
お姉さんは自分の手元、恐らくさっき手形を取った板に目を落としていて、さらには独り言の様な言い方だったので自分に向けられている質問だったと理解するのが遅れてしまった。どうやらかなりマイペースな人らしい。
「はーい、スノーホワイトちゃんー、と。お年はー?」
「分かりません」
「はーい、分からないー、と。エルフってみんなそうよねー。出身はー?」
「分かりません」
「はーい、また分からないーっと。森って書いておきましょー。魔法はどれくらい使えるー?」
「魔法? あー……、まだ試してないです」
「はーい、これも分からないー、でいいわねー? エルフなら多分大丈夫よー、気にしないでねー。うーん? こんなところかしらー? 登録完了よー。うふふ、職人ギルドへようこそー」
ぽわんぽわんと微笑みながら歓迎を表してくれるお姉さん。
はやっ! こ、こんな簡単にでいいんだろうか? 名前以外全部分からないも同然なプロフィールが出来上がったと思うんだけど……。まあ、ゲームだからという事で納得しておこう。
「もう中を自由に歩いてもいいわよー。でもお暇なお姉さんとお喋りしてくれると嬉しいわー」
やっぱり暇なのか……。これはまさか、職人の数も仕事の数も少ないんじゃないだろうな……? しまった、早まったか!? ここでしっかりと問い質しておかねば!
「それじゃ、色々とお話を聞いてもいいですか? 私、本当に何も知らない事ばかりなんです」
「いいわよー? 何でも聞いてねー? あー、ここじゃなんだしー、あっちのテーブルに行きましょー? どうせこの時間はお客さんなんて来ないからねー」
「はーい。お願いしますー」
この間延びした喋り方、伝染るわー。
場所を少し離れた所にあったテーブルへと移し、ここ、職人ギルドの工房についての説明をお願いする。
カリンさんはあんまり興味がないみたいで、販売所で適当に飲み物を買って来てすぐ横で寛いでいる。何も言わないのに私とローズさんの分も買って来てくれる辺り、やはりカリンさんは面倒見がいい人のようだ。ちなみにローズさんとは受付のお姉さん(巨乳)のことである。
「まずは、ええっと、ここではどんなスキルを教えてもらえるんですか?」
「うーんとねー。お薬なんかを作る『調合』でしょー? 武器とか色々作る『鍛冶』でしょー? 服を作ったり繕ったりする『裁縫』でしょー? 後は体にいい料理を作る『調理』かしらー? たまに他の工房からこれ以外のスキルを教えてくれる先生が来るからー、ちょこちょこ覗きに来るといいわよー? できたら毎日ねー」
四つか。多いのか少ないのかは比べる対象がないから分からないけど、有名どころが揃っているようでよかった。やはり私は運がいい。
この町の工房でそれ以外のスキルを覚えたい場合は、曜日とか日付限定で起こるイベントに期待しろっていう事だね。ふんふんなるほど、把握した。次に行こう。
「その中でオススメって言うか、初心者でも稼ぎやすいのって何か分かります? 生活するためのお金を自分で稼がないといけないんです」
「スノーちゃんはエルフだからスキルで作るのよねー? それならどこでだって引く手数多だと思うわよー? 魔力の多い職人って全然数がいないからー」
「そうなんですか? え、と、魔力の多い少ないってそんなに影響するものなんですか?」
「うんー。ちょーっと長くなっちゃうけど詳しく教えてあげるわねー。いい暇つぶしになって嬉しいわー」
質問ばっかりで悪い気もしてたけど、喜んでくれてるならよし! だ。腰を落ち着けてゆっくりしっかりと聞かせてもらっちゃおう。
まず生産スキル全てに共通する事は、実際の手作業でとウィンドウ内での自動生産との二種類がある。どうやらここでは、スキル生産とは後者のみを指して使う言葉らしい。
スキル生産は手作業と違って魔力の消費がとても激しいらしい。魔力のそこまで多くない種族は、時間と手間を掛けてでも手作業でやるのが当たり前なのだそうだ。
他にも大きな違いはある。スキルでの生産は用意したレシピ通りの品しか作れないが、短時間での大量生産が可能。手作業はある程度融通を聞かせて臨機応変な作り分けが可能だが、一つ一つの製作に時間が掛かる。と、どちらにも一長一短あって、スキルの方が有利だなどとは一概には言えないみたいだった。
「だから単純に品質を気にしないで沢山作るー、ポーションとか料理なんかがオススメかしらねー? ポーションは手で作っても魔力がごっそり持って行かれちゃうからー、職人が一番足りてないのー。納入の依頼も毎日沢山来てるしー、買取もいつだってここでやってるわよー?」
ああ、消費アイテムの事か、なるほど。ノンプレイヤーキャラのお店の在庫は無限にある訳じゃなくて、ここで仕入れて販売しているのか。直接お店に持っていけば高く買い取ってもらえるかもしれないし、きちんと覚えておこう。
どうやら誰もが大量に使いまくるアイテムなら需要に気を配らなくてもよさそうだ。まあ、魔力をどの程度消費してどの程度の数を生産できるのか、それだけが問題かな。私の新しい体のスペックに期待する他はないか。
「ありがとうございますローズさん。調合から始めてみようと思います」
「ええー!? スーちゃんスーちゃん、やっぱり調理にしない? さっき飲んだジュースだって調理で作ってるんだよ? 材料だけあればその場でパッと作れちゃうなんて便利だと思うけどなあ」
「スキルは一人に一つまでー、なんて決まりはないのよー? 両方覚えちゃえばいいんじゃないかしらー? 色々作れる職人は重宝されるわよー?」
「あ、そっかそっか。ふふーん、これでスーちゃんさえ連れて行けば町の外での食糧事情が改善されるわー!!」
「いいですけど、調合が優先で、ある程度形になって余裕が出来てからその次にですよ? まずは生活費を稼ぐ事、それが第一なんですから」
「スノーちゃんしっかりしてるわー。頑張ってねー、お姉さんもいつでも相談に乗ってあげるからー、毎日でも来てねー?」
「薬草の採取の付き添いとかはお姉ちゃんに任せてね!! ポーション代も浮いて助かるわー!!」
「あ、お友達価格で販売しますからね」
「えー?」「ちゃっかりしてるわー。うふふ」
おっぱいその2 ローズ
ウェーブがかった桃色の腰まであるロングヘア。
カリンに匹敵する巨乳。見た目年齢は二十代前半といったところ。
後は特に決めてません。胸元が大きく開いた服を着ている、くらいですね。