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その2

 なんだかよく分からない内にお姉ちゃん兼案内人をゲットしてしまった。これは幸先がいい。これはあれか、遠い昔に車に轢かれそうだったのを助けたあの子猫が、今恩返しにやって来たのか!? そんな事をした覚えはないんだけどなあ。

 できる範囲で手伝ってくれると言ったからには、私が完全に独り立ちできるまで何年でも付き合ってもらおうじゃないか。


「えと、生産系のスキルってどこで教えてもらえるか分かりますか?」


「うん? 生産系のスキル?」


 およ? まさかスキルっていう言葉が通じないんじゃないだろうな……。

 プレイヤー以外のノンプレイヤーキャラは確か、一人一人がちゃんと生活していてるから普通に人間扱いしていいっていう話だったんだが……?

 あ、人間扱いイコールプレイヤー扱いって訳にはいかないか。しまったな、ちょっと勘違いしちゃってた。そうなるとどう聞き直したものかな。


「調合とか、鍛冶とか、料理とか、そういう何かを、ええと、この中で作り出す技術です」


 インベントリのウィンドウを開いて見せてみる。ウィンドウという言葉は通じないかもしれないが、ウィンドウ自体は通行人も表示させていたので恐らく見れば分かるだろう。

 他にも数え切れないくらいのスキルがあった筈だけど、パッと思い出せたのはこれくらい。始めてから追々覚えていけばいいやと楽観しすぎていたかもしれない。


「ああ! 物作りのスキルの事かー! ふーん、エルフの間だと生産系って纏めちゃうんだ? 分っかりやすくていいねー」


 おお、スキルもやっぱり通じるのか、よし。しかもエルフっていう希少種族のおかげで変な勘違いもしてくれてる。さらによし、だ。


「そういうのは全部工房かなあ……。私は冒険者ギルドに所属してるからさ、そっち方面はさっぱりなのよねー。なんか物作りのスキルって魔力をぐんぐん吸われるらしいし? 魔法が得意な種族じゃないとやってられないと思うよ? ……あ、エルフなら問題ないのか、ごめんね」


 ふむふむ、そこも説明通りだね。

 手作業で作る分には普通に疲れるだけだが、スキルを使って生産するとなると、それがどんなに小さくて簡単な作りの物でも魔力という謎の体内パワーを消費するらしい。確か、数値化はされていないので随時確認は不可能だけど、気疲れをはっきりと感じたら減りすぎの注意信号、だったね。


 ……今更だけどカリンお姉ちゃんは冒険者だったのか……。見たところ巨乳以外の武器は何も持ってないんだけど、あ、インベントリの中にしまってるのか、なるほど。


「工房、ですか? あの、私、森の奥の奥から出て来たばっかりで、町の施設とか国の決まりとか、そういうのが全部分からないんです」


「ふへ?」


 ふへ? ってアンタ……、可愛いじゃないか。


 とりあえず嘘八百並べてみる。


 外の世界に憧れて住処の森を飛び出した私ことスノーホワイト。見る物触れる物全てが初めての物ばかりで、さらには同種族も見当たらない。それで不安になってキョロキョロとしていたという訳だ。

 お金は少しは持っているが、これからの生活費を稼ぐためにまずは手に職が欲しい。勿論飛び出して来てしまった手前、森に帰るというのも避けたいところ、と言うか帰る森がどこにあるかも分かりません。


 こんなところかね。


「いやー、なんか行動力は凄いけどさ、もうちょっと後先考えようよ。奴隷商とかにとっ捕まって変態親父に売り飛ばされたりでもしたらどうすんの……」


「え? そんなのいるんですか?」


 やっべー。このゲームマジやっべーですわー……。ちょっと考えを改めなければならないか。モンスター以外からの安全の確保も目標に追加だ。


「スーちゃんは特に可愛いからね、暗くなってから一人で出歩いちゃ駄目だよ? まあ、エルフは種族同士での繋がりが半端じゃなく固いって言うし、手を出すのもかなりリスキーだと思うけどねー。とりあえず工房に所属しちゃえば大丈夫だと思うよ、職人は保護されるべきっていうのが全世界共通の認識だからね。それじゃ行こっか? はい」


 はい、と手を差し出される。


 あ、手数料ですね、はい。と、冗談は置いといて、カリンお姉ちゃん……、お姉ちゃんは恥ずかしいな。カリンさんと手を繋ぐ。


「うっひょー! 手ぇちっちゃー! やっわらかー! 背ぇひっくー! 髪さっらさらー! お目目くっりくりー! ほっぺふっにふにー!! ……でも胸はぺったんこだね」


「ひゃわわわわわ」


 ぎゃあ! 揉みくちゃにしないでえええぇぇぇ!! 後一言多いわ!!




 カリンさんに可愛がりという名のセクハラを受けまくった後、工房に向かいながらの道すがら、冒険者ギルドや職人ギルドなど、所属しておけば安心という組織について教えてもらった。

 勿論きちんとお返しにおっぱいを揉みまくってやりましたが何か? くすぐったそうに身をよじるカリンさんはとても可愛かったです。いやあ、大変いいモノをお持ちで。ぐへへ。


 私は別に胸のサイズについてコンプレックスを持っている訳ではない、と明言しておこう。指摘されるとちょっと殺意が沸く程度だ。うん、全然気にしてないね。

 おっぱいというものは自分に付いていても邪魔になるだけで得なんて一切無い。あれは他人に付いてるからこそ価値のある物だと私は思う。いい事言ったね私、感動的だな。だが無意味だ。


 ん? なんでおっぱいの話になったんだっけ? まあいいや。


 簡単に纏めると、冒険者ギルドはモンスターを退治しにいったり素材を集めて来たりする仕事の斡旋所で、職人ギルドは生産者の支援組織だね。後は商人ギルドや魔法ギルドなんてのもあるらしい。

 カリンさんは魔法についてはさっぱりらしくてそれ以上詳しく聞く事はできなかったが、エルフの私なら魔法も簡単に使えるんじゃね? とのお言葉を頂いた。魔法を使えるようになる、これも目標に追加決定だ。



「はーい! とうちゃーく!! ここが工房だよスーちゃん! 職人ギルドの登録もここでできる筈だよー。いっやー、可愛い子とのお散歩は楽しいね!!」


 途中買ってもらった棒付きの丸い飴をインベントリにしまい、案内された目の前の建物を見上げる。

 ちなみにインベントリにしまう方法は、空中に浮かび上がるウィンドウに直接アイテムを放り込むだけのお手軽簡単操作だ。慣れれば念じるだけでもできるらしい。


 さて工房に目を戻そう。パッと見は……、工場、かな? 見た目はそんなに大きくはない、学校の体育館程度か。……充分大きいな。


「おっきいですねー。あ、カリンさん、ありがとうございました。えっと、中にも一緒に入ってもらっても……」


 できたらこの先何年でも一緒にいてもらいたいけど、あんまり我侭を言ってしまうのも悪いか。カリンさんにはカリンさんの都合があるからね。


「元からそのつもりだったけど、うーん、どうしよっかなー? カリンさんかあ……」


 おお、そうだったのね。でもなんか乗り気じゃないなあ……。どうしたんだろう?


「ふーん、カリンさん、カリンさんねえ……」


 カリンさんはわざとらしくチラチラとこちらに目線を送ってくる。

 一体何が言いたいんだこのお姉さんは……、はっ!? それか!!


「か、カリンお姉ちゃん、一緒に中に入ってください」


「喜んでー!! やっほう! 可愛い妹ゲットだぜ!! あ、心配しなくても暫くは一緒に行動してあげるから、遠慮なんてしなくていいよ。今のはちょっとした冗談だからねー? んふふ」


 あらやだ嬉しい。ネコミミで巨乳のお姉ちゃんゲットだぜ!! いや、冗談抜きで本当にありがたいわ。意外と運が良かったんだな私って……。


「あ、ありがとうございます、カリンさん」


「えー? お姉ちゃんって呼んでよー? ああ、後ね、敬語なんて使わなくてもいいよ? 子供はもっと可愛く元気よくー!」


 元気っていう言葉は私からは結構離れた位置に存在していましてね……。まあ、それは別として、これだけは言っておかないとね。


「実は私って、結構口が悪いんです。だからこのままでもいいですか?」


 そう、私って敬語を抜くと、悪態とか皮肉とかがポロッと口をついて出ちゃう時があるのよねー。折角出来たお姉ちゃんに嫌われたくないからね。


「そうなの? 礼儀正しい子だと思うけどねえ。まあ、今日はそれで納得しておくけど、その口の悪さとやらを聞かせてもらえる日を楽しみにしてるからね!」


 さらに嬉しい事を言ってくれちゃってもう! 結婚を前提としてお付き合いをお願いしたいくらいだよ。


「はーい。ふふふ」


「あ、やっと笑ったね。そうそう、子供はそうやって笑ってるのが一番って決まってるんだからさ、未来に不安を感じるより、この先に何があるんだろう? って楽しみにしてなよ? お姉ちゃんとのお約束!」


「あ……、はい!」


 どうやら気を使われちゃってたみたいだね……。不安そうな私の気を紛らわすためにわざとおどけた風に振舞ってたのか。


「そこははいじゃなくて、うん! お姉ちゃん大好き!! って胸に飛び込んで来るところでしょー!? はいやり直し!!」


 いや違うわ、これが素だわこの人。




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