その10
日用品の買い出しは早々に切り上げ、工房の隣、これから私が住む事になる『先生寮』の前まで戻って来た。早々に切り上げたと言っても買い物だけで軽く二、三時間は掛かってしまったのと、途中いくつか寄り道を挟んでしまったので時刻はもう夕方過ぎになってしまっている。
ヘアブラシなどの身の回りの品の形は前世と全く同じだったので、特に驚きも目新しい事もなかったので詳しくは割愛する。
さらには『洗浄』のほかいくつかの、あると便利だろうという日常スキルも登録してきたのだが、こちらは全部説明するのが面倒なので割愛します。
ちなみに先生たちが住んでいる寮みたいな建物だから先生寮と勝手に名付けさせてもらった。名前は住んでいる三人とも家としか呼んでいなかったみたいだし、見た目も昔ながらの木造の学生寮その物なのでピッタリな名前でいいと思う。レナ先生は多分これから寝泊りするだけの寮としてではなく、自分の帰る家だと認識してほしかったんだと思うけどね。
ライカさんとアデラさんとは今日はここでお別れ。また明日、と思いきや、明日は星曜日なので工房はお休みらしい。それぞれ出かける予定があるんだそうだ。
聞き慣れない星曜日という言葉は事前説明で教わっていたので特に疑問に思う事はなかったが、やっぱり一瞬戸惑ってしまったね。
この世界の一週間は六日間。曜日の名前と順番は『星曜日』、『火曜日』、『水曜日』、『風曜日』、『土曜日』、『金曜日』だ。今日は金曜日で明日は星曜日となる。
星曜日は世間一般的にお休みという訳ではなく、ただ週に一度は決まったお休みを作らないと先生たちが大変だから、スキル影響が一番少ない星曜日をお休みにしただけなんだそうだ。それは確かに。
曜日とスキルの関係は、それっぽい属性名称にもちゃんと意味があって、例えば火曜日は火や熱関係のスキルが成功しやすくなったり、品質のいい物が出来やすかったりする……、気がするらしい。
気がするだけかい!!
ちなみに金曜日は金物関係の意味で、お金とは多分関係ありません。
レナ先生の話では鍛冶スキル全般に影響するみたいなんだけど、鍛冶スキルには火も熱も冷やすための水も関係していると思うんだけどな……。気にするだけ無駄か。
寮の中に入る前に、私とカリンさんの進入許可の設定の時間が少しあった。防犯対策が意外としっかりしている事に驚きを隠せない。
許可無しで進入するととんでもなく酷い目に遭うとのことだが……、知らない方がいい事は世の中には沢山あるんだよ、うん。という訳で突っ込んで聞くのはやめておいた。
足を踏み入れた瞬間に頭がパーンとかなるんじゃなかろうなと、ビクビクしながら入る事になってしまったじゃないか……。マジ震えてきやがった……、怖いです。
細かい間取りは割愛。地下一階地上二階の基本木造の建物で、一階と二階が生活スペース、地下は作業部屋と物置になっているからあまり入らない方がいいらしいとのこと。自動生産をする場合でも工房の方が何かと都合がいいので、地下室がある事自体忘れておく事にした。
一階部分は主にキッチンやダイニング、お風呂やトイレなどの共用の空間。二階には九部屋もあって、現在使われているのはその内のたった三部屋のみ、私とカリンさんに一部屋ずつ割り当ててもまだまだ余裕がある。
そして最後に、この寮の中の全ての部屋にはある一つの共通点が存在している。
それは……、それぞれの部屋は外からの見た目どおりの広さではない、という事。なにそれこわい。
空間の広さを弄るという、本気で訳の分からない超魔法的な仕掛けが施されているんだという話だ、が、勿論理解不能だった事は言うまでも無いだろう。
簡単に聞いた話だと、二階の個人の部屋は建物全体の大きさと部屋の配置などから考えると宿の一人部屋程度のスペースしかない筈なのだが、実際中は平均的な一戸建ての家相当の広さがあって、さらには個人用のお風呂やトイレ、キッチン、寝室、作業部屋までもが備え付けられているらしい。なにそれすごい。
まあ、確かに凄い話なのだが……、そんな家一軒と言ってもいいスペースを、はいどうぞ、と与えられても、私一人で管理なんてとてもできそうにない。
そんな訳でカリンさんと二人でレナ先生のお隣の一室を借りるという事で落ち着いたのであった。
……が、ベッドは一つしかないので寝るときは二人で仲良くくっ付いて! しかもレナ先生からも、たまには一緒に寝ましょうね、とお誘いを受けてしまった!!
これは冗談抜きで天国に一番近い場所と言っても過言ではないのではなかろうか……!? 楽園はここにあったんだ! ハーレムですよハーレム!!
「いやはや、お互いとんでもない所に住まわせてもらう事になっちゃったねえ。あ、レナ先生ありがとね! 家賃も無しでいいとか正直すっごく助かるわー!!」
「ホントですよねー。ありがとうございますレナ先生! 買ってもらった日用品とかスキル代も頑張って返していきますからね」
「ふふ、どういたしまして。ゆっくりと焦らず、一歩一歩着実に歩んでいきましょうね。スノーはエルフなんですから多少はのんびりしててもいいんですよ」
カリンさんと二人で軽く部屋を片付け終わった頃には、外はすっかりと暗くなってしまっていた。
今私たち三人がいるのは一階にある一部屋の、応接間兼ダイニング兼談話室だ。
つまりは居間、寛ぎの空間という場所だろう。そこで私はソファーにゆったりと身を沈めている……レナ先生に抱き抱えられるようにして座っている。
いやあ、白衣と眼鏡を外したレナ先生はさらに可愛さが増してるなあ……。でも母性に溢れすぎててセクハラが通じないのは困りものだよ。さっきからおっぱい触りまくりの揉みまくりなのになー。
「んふふ。レナ先生がスーちゃん甘やかし担当なら、私は少しだけ厳しくしていこうかな? 一人で町の外に薬草採取に行けるくらいまでビシバシ扱いてあげるからねー!」
「ビシバシは少しじゃないと思います! でも、甘え癖が付いちゃいますから多少厳しくしてもらった方がいいかもしれないです。怠けていたらきちんと叱ってくださいね」
最終目標は完全に独り立ちできる事、かな。一人前の調合職人として収入を得れるくらい、いや、お店を持つ事も道筋の先に置いてあるんだった。
ふむ、最終目標はちょっと言い過ぎたか。当面の目標は今カリンさんが言った、一人で薬草の採取に行ける様になる事、だね!
「それなら私は甘やかして可愛がって、優しく調合について教えてあげますからね。最終的にはお母さんと呼んでもらうのが目標でしょうか?」
「それはレナ先生の目標じゃ……、あ、お母さんって言えばさ、スーちゃんの家族って皆森にいるの? 一応場所が分かれば一報くらい入れときたいからさー。今頃皆、あの甘えん坊が一人でやっていけてるんだろうか? ってな具合で心配してるって」
えー? カリンさんの中でも私は甘えん坊な子供で確定なんですか。うぐぐ。
「あ、そ、そうですよね。スノーにも本当の母親がいるんですから、私をお母さんと呼ぶのには抵抗がありますか……。残念です……」
本当に残念そうだねレナ先生は! いやしかし、家族? 私の家族ねえ……。
よし! どうせならここは、前世の事実も織り交ぜて話してみるとしようじゃないか。それなら変に怪しまれなくて済むし、二人とも安心できる筈だ。
「私には父も母も、兄弟姉妹だって一人もいませんよ? 天涯孤独の身ってヤツです」
「え?」「は?」
「一応育ての親みたいな人はいるにはいましたけど、事務的な会話しかした事ありませんでしたしねー。あ、そういえば今更ですけどその人の名前も知らないです。まあ、興味ありませんでしたからね」
「ちょ……、スーちゃん?」
「森に帰る事はもう一生ありませんから、知らせとかは全く考えなくてもいいですよ。する必要もないです。それ以前にあの森がどこにあるのか分かりませんし、そもそもあんな所に帰りたいとすら思いませんから」
「スノー? この子まさか……!」
「一人で生きていくのは大変だって分かってましたけど、自由になれるって事の方がはるかに魅力的でしたからね。ふふ、実際は分かってたつもりになってただけなんですけどね。だからカリンさんとレナ先生にはいくら感謝しても全然足りな」
「も、もういいから!! ああー! 何この衝撃の告白!!」
「という事はスノーが女性の胸に拘るのも……」
急に焦ったようなカリンさんに言葉を止められてしまった。そして対照的に静かなレナ先生は、独り言を呟きながら考え込んでしまっているようだ。
あれ? 私何か変な事言ったっけ? 二人に安心してもらうためのただの身の上話のつもりだったんだけど……?
「レナ先生はどう思う? 私は考えすぎじゃないかなって思うけど」
「ええ、可能性は無いとはっきりと言い切れませんが……、気になるのは少し趣味趣向が偏っているくらいですか。後は基本的には明るくて、素直で優しい考えのできるいい子だと思いますよ。恐らくは思い過ごしですね」
なにやら二人から質問攻めに遭い、そして勝手に納得されてしまった。
説明を求めてみると、少し遠回しな言い方だったが聞かせてもらえたので簡単にまとめてみようと思う。
私の言う森は実は森ではなく、奴隷商の管理している養殖場だったのではないか、と二人は勘違いをしてしまっていたらしい。なにそれこわい。
奴隷の養殖とは、産まれた時から外界と隔てられた空間で育てられ、本来の常識とはかけ離れた知識をそれを当たり前の物として植え付けてから出荷するという、まあ、言ってしまえば顧客サービスの一種の様な物だ。
例えば凄く単純な例だと、女の人同士で愛し合うのは当たり前の事、という常識を植え付けた女の子をそっち趣味の女性客に出荷する、とかだね。
私がおっぱい大好きで一般常識に疎いのは、実は私もそういう知識を植え付けられた奴隷で、養殖場から逃げ出してきたのではないか? でも本人はただ外界に飛び出しただけのつもりなんじゃないだろうか? と思われてしまったという事か。なるほど。
「誰が奴隷ですか、もう。確かに私はちょっと常識知らずのところもありますけど、ただのおっぱいが大好きなだけの普通のエルフです!」
「おっぱい大好きな女の子が普通かどうかはとりあえず置いておくけどさ、養殖された奴隷ってのは本当に自分では分からないんだって! まあ、さっき聞いた話から考えるとそれは無さそうだからいいんだけどね」
「そうですね、過去を苦にしていない様ですし、むしろ私がスノーの母親ですと公言しても問題が無いと分かりましたから、個人的にはそれでよかったと思ってしまいます。でも、今みたいに勘違いされたり、それなりに重いお話ですから、これから一緒に暮らす事になる私たち二人と、そろそろ帰ってくる頃だと思うんですけど、例のもう二人以外には気軽に話してはいけませんからね?」
「はい! レナ先生!」
「うう、残念です……。でも諦めませんからね、ふふふ」
まあ、過去を苦にしていないかと聞かれると素直にはいとは答えられないんだけどね。ただもう本当にどうでもいいだけだからねえ……。
「今帰ったぞオラァ!! 飯だ飯ぃ!! クリス様が美味い飯作って帰って来てやったぞコラァ!! 腹を空かせたガキはどこだあ!!?」
「あら? 噂をすれば……」
急に恐ろしいんだか優しいんだかよく分からない大声と、ドスドスとした足音が部屋の外から聞こえてきた。
どうやらクリスティーナ先生その人らしいが、やけに声が若々しい。と言うか子供の声みたいに聞こえる。
「ここかっ!? っせい!!!」
その荒々しくも可愛らしい声の主は部屋の前で止まると、バンッ! と大きな音を立てて部屋のドアを蹴り破った。
いきなりな行動に驚いて声が出せなかったが、その姿を確認する事はちゃんとできた。
……なにこの人、超可愛いんですけど!
背は多分150cmくらいかな? 長いポニーテールに大きな赤いリボン、そして真っ赤なワンピースが似合ってて可愛すぎる!!
口は悪いけどおっぱいも言われてた程小さくないし、普通に美少女じゃん! これは確かに驚いちゃうわ……。
「お帰りなさいクリスさん」
「今帰ったぜ。お? おお!? やっぱりここにいやがったなこのクソガキとクソ巨乳が!! ククク……、たらふく食わせてやるから覚悟しとけよお!? って、あん? ソラの奴はまだ帰ってないのか? あたいより先に出た筈だぜ?」
「クソガキ!? ……あたい?」
「私もクソ巨乳はやめてほしいなあ。ソランジュ先生のこと? こっちにはまだ来てないから自分の部屋にいるんじゃないの?」
「チッ。インベから出したら飯が冷めちまうだろがクソが!! っているじゃねーかオイ。いるならいるで何か言葉返せや」
「ふふふ、ただいま。それとお帰りなさい。ごめんなさいね、ちょっと疲れちゃって……」
「えっ?」「えっ?」「あらいつの間に」
真後ろから聞こえてきた、やけにか細い声に驚いて振り向くとそこには……。
フリル多めのふわふわとしたドレスに身を包んだ、
あれ? ソランジュ先生? その服ちょっと透けてません? いや、服と言うか全身ちょっと透けちゃってませんか!? それ以前に少し浮いちゃってませんか? 服装じゃなくて体が! 物理的に!!
どこからどう見ても貴婦人の幽霊がそこにいた。
お、お、お、お化けだー!! でもおっぱいは大きいからお化けでも大歓迎だー!! やったー!!
……お化け? え? まさか揉めないんですか!!? やだー!!
おっぱいその6 クリスティーナ
ボリュームある真っ赤なロングヘア、基本はポニテ。大きな赤いリボンで纏めています。服装も赤で統一。
胸はしっかりとありますが、身長の低さから小さく見られがちなだけです。
外見年齢は十三か十四か、それくらいになると思います。
調理スキルの先生。
おっぱいその7 ソランジュ
まるで透き通るかのような銀色の髪の持ち主。実際透けちゃってます。長さは腰を過ぎ、お尻を覆うくらいです。
中世の貴族令嬢が絵画から飛び出してきたような、まさに絵に書いたような美人。
胸はカリンには届きませんが、かなりの大きさがあります。
外見年齢は二十代前半くらいですね。
裁縫スキルの先生。




