第五話:俺とヒナとのラブライフ!
白いカーテンを突き抜けた朝の光に、俺は目を開ける。さっとカーテンが開いて、青白い空が眩しくて俺は目を閉じた。
「ちょ、眩しい……」
「だって空気入れ替えたいでしょ?」
ヒナが俺に笑いかける。
あれから一週間。
俺は確かに、あの時車にはねられた。記憶なんてないけど。ヒナを突き飛ばして、走り込んできた車に今度は俺が突き飛ばされて。しかし奇跡的なことに俺は頭を強く打っただけで、あとはかすり傷程度で済んだ。やはり日頃の行いが良いと、こういう時も神様に贔屓されるんだな。うん。
半日ほど意識を失っていた俺の視線の先に、泣きはらした顔のヒナがいた。
「何、泣いてんの」
手を伸ばしてヒナの頬に触る。普段ならとてもじゃないけどできないことを、あの時はできる気がした。むしろしなきゃいけない気がしてた。そんな気持ちが通じたのか、それとも同じ空気を感じたのか、ヒナはそれを嫌がることなく受け入れて。
「死んじゃうかと、思った……」
そう言って、また静かに涙を流して。
「俺が、ヒナを置いて死ぬわけないだろ?」
言うと、こくんと頷いた。
「純ちゃんが、いなくなっちゃ、嫌だよ」
「ヒナ?」
「私、純ちゃんが傍にいないなんて、絶対、嫌だよ……!」
涙をぽろぽろとこぼしながらそう言うヒナが、あまりにも可愛くて愛しくて、俺は思わずヒナを抱き寄せた。
「純、ちゃん?」
「そんなこと言うと、俺、一生ヒナにつきまとうけど」
ヒナが顔を上げた。まだ涙は浮かんでいたけれど、勝ち誇ったような笑顔で。
「私こそ、一生離れてなんか、やらないもん」
そう言って抱きついてきたヒナを、俺が逃すはずないじゃん。当たり前。
「なーに笑ってんの?」
一週間前の事を思い出して、俺は一人にやけていたらしい。ヒナが俺を覗き込んでくる。
「やー、ヒナ可愛いなあって思って」
「はいはい、寝言は寝て言ってね」
顔を赤くして言っても意味がないってことに、ヒナは一生気がつかなくて良いと思う。心の中でにやけながら、俺はヒナを抱き寄せる。
「ちょっと純ちゃん、朝ご飯食べようっておばさんが」
「んー、ちょっとだけ」
「もう……」
最初こそ不満そうな顔で睨んでいたヒナだが、ぎゅっと抱きしめなおすとしょうがないなぁと笑った。
俺はヒナを見つめて。
ヒナは俺を見つめて。
そうして二人の距離はどんどんと縮まって行く――。
「純ー!? ヒナちゃんも、早くしないとご飯冷めるわよー!」
母親の声が階下から響く。
ヒナが思いっきり俺を突き飛ばした。
「はーい! おばさん、今行くねー!」
……あと数センチ。時間にして三秒。おいおいお袋、タイミング良すぎだから。そんくらい待ってくれたって良いじゃねーか!
「じゃ、純ちゃん、先行ってるね!」
耳を赤くしたヒナは、するっと襖から出て行ってしまった。
突き飛ばされた俺は、突き飛ばされたままそれを見送って。
「……結局このオチかよ!!」
きっと俺の声は、隣三軒まで響いたに違いない。
これが俺たちの始まり。俺とヒナとのラブストーリー。
え? この後どうしたかって? そんなの決まってるじゃない。ヒナが短大卒業すると同時に俺と結婚。二年後には可愛い男の赤ちゃんが家族に加わって、更に二年後、今度は可愛い女の赤ちゃんが家族に加わる。ヒナの父親は最初こそ渋った顔してたけど、結局結婚式では一番浮かれていたかもしれない。根岸は俺たちのことを手放しで喜んでくれて、まさに俺たちは順風満帆、天下無敵のラブラブカップル……なんてね。
話はまだまだ始まったばかり。俺とヒナはこれから新しい未来を切り開いて行く。たぶんまだまだ乗り越えなきゃいけない壁があるはずだから。それでも俺は、ヒナとの未来を夢見たい。
……え? なんで急に真面目になるんだって? いやだなぁ、俺はずっと真面目だったじゃないか。ってごめん。ごめんごめん、ごめんなさい! だからその石は降ろそうね?
ええと、うん。それでさ。だから俺はヒナが好きなんだよ! 文句あるかこの野郎!
いや、文句はない? うん、そうだよね、ごめん。
そんなわけで、俺とヒナのお話はこれでおしまい。この先のことは俺とヒナの二人の秘密。勿体なくて、あんたらなんかにゃ教えてやんねー。うへへ。
そんなわけでお送りしました中編スペシャル『Love Me, Baby!』 スポンサーは俺、赤峰純でお送りしました。ナレーターも俺、赤峰順でお送りしました。
それではみなさん、良い週末を!