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第二話:へたれは意外にモテモテだ!?

 さて、所変わって一週間後の会社の昼休み。

 俺は同僚根岸に告白され中。一体何人目だっけか。ごめん、俺すげーモテるんだわ実は。え? 別に謝らなくて良い? いやごめん、だってほら、本当にモテるヤツがモテるんだなんて、嫌み以外の何ものでもないでしょ?

 あ、ああ、だから早く話を進めろと。……ごもっとも。

 根岸のヤツ、普段はおちゃらけたキャラのクセに、今日はすんごい神妙な面持ち。とは言っても、ここは会社の食堂で、周りに人いっぱいいるけどね。

「で、あのね。だから、その」

 そっから話が進まない。俺、もう生卵がけカレー食べ終わっちゃったよ。ちらりと時計を見れば、もう昼休みも終わりに近い。しゃーない、俺から言うしかないか。

「俺が好きだって?」

 そう言うと、根岸はぱっと赤い顔をこちらに向けた。

 さっきからかき回してばっかりの山菜うどん、伸びて不味そうになっている。可哀想に。

「なんかさ、あんたがそれ言うと、嫌みにしか聞こえない」

 なんでだ。なかなか言わないから代わりに言ってやったんじゃないか。

「そう言われても。もう昼休み終わるしさ」

「嘘!?」

 根岸が食堂の柱に取り付けられた時計を見ようと首を捻った。

「マジ? わ、本当だ。ヤバイ、全然食べてないのに!」

 おいおい、それさっきまで告白しようとしていた人の台詞?

 慌てて伸びきったうどんを食べ始める根岸に笑ってしまう。そんな俺に気がついて、根岸がちらっと俺を見た。

「あんたねー、言っておくけど、冗談じゃないからね」

「ん?」

「私の気持ちよ!」

 ああ、根岸の気持ちね。

「いや、悪いけど、根岸をそういう対象で見たことないから」

 ぴたっと根岸の動きが止まった。

 この瞬間は、俺はものすごく嫌いだ。なんとも言いようのない空気。傷つかないように言おうなんて思っていない。どんな言葉で飾ったって、結局傷つけてしまうんだ。だったら傷が長引かないように、一言で言ってしまった方が良い。一瞬で終わった方が良い。

 そう思っているから俺はいつでも曖昧な態度は取らないようにしようと思ってる。けれど、だからと言って、何も思ってないわけじゃない。俺だって辛いんだ。解ってくれよ、頼むから。

 なんて考えていると、根岸が困ったような笑顔で俺を見た。

「……そっか」

 傷ついたんだろう。きっと泣きたいのかもしれない。

 俺はそれ以上なにも言えなくて、根岸も残りのうどんを食べ始めて、俺たちの間に奇妙な沈黙だけが横たわっていた。

 いたたまれなくて、俺は立ち上がる。

「先、戻ってるわ。……ごめんな」

 トレーを返却口に返して根岸の方を振り返ると、黙々と一人、うどんを食べる根岸が見えた。


「で、定期入れ落としたしね」

 帰り道一人。肩を落とす俺。

 根岸をふった罰なのか。なんて結構俺、凹んでるんじゃねーか。

 まあそりゃ根岸とは同期だし。なかなか気があって仲良かったし。いろいろ助け合ったりもしてきた。一緒のチームに組まされて営業成績あげたことだってある。正直根岸は美人で仕事もてきぱきできて、そのくせ家庭料理も完璧にできるらしいなんて噂では聞いていて。好きじゃないなんて言ったら嘘だ。ヒナを好きになる前に、気になっていた人でもあったりする。

 俺を好きだったかなんて興味が無かったから、今まで気がつかなかったけど、根岸も俺に対して他のヤツとは違う感情を持っているんだろうなんて事は今まではっきり解っていたし、他のヤツにも言われたし。だから告白されたことは特に驚くべきことでもないんだけれど。

 俺がヒナを好きな以上、根岸の告白は断らなきゃいけないわけで、これからの根岸との関係を考えると、どうにも溜息が出ることを止められない。

 そんな日に限って定期落とすか、俺。つーか、どこでなくしたんだろうか。全く心辺りがない。駅の落とし物室にもなかったっていうし、知らないヤツが使ってるのかもしれない。

 幸い、定期は一ヶ月分で、それも残りあと一週間ほどだったし、パスネットは百円くらいしか残ってなかったし、スイカも残金は少なかったはず。良いのか悪いのか。いや、悪いんだけど。

 がっくりと肩を落として歩いていると、後ろから背中に小さな衝撃。

「純ちゃん! おかえり!」

 ヒナ!

 俺が勢いよく振り向くと、ヒナが。笑顔で。ヒナも学校からの帰りなのだろう、よれよれの鞄にテニスラケット。

「おー、今帰り?」

 なんて聞くと、嬉しそうにこくんと頷く。

 可愛い。ヤバイ、可愛い。こんな可愛いヒナがテニスなんて、男どもの格好の餌じゃねーか! くそー、スコートはいてるヒナを見れるなんて、なんて羨ましいんだ高校生!

「俺も高校生に戻りたい……」

「え?」

「い、いや、なんでもない」

 呟いた言葉を拾われて、慌てて首を振る。

「なんかあったの? 元気なさそうだけど」

 ヒナ……。ちくしょー、じーんとしちゃったよ。ヒナが。ヒナが! 俺の異変に気がつくなんて。

「定期なくした」

「わー、最悪だ、それ」

 なんて言いながら顔が笑ってるよ、日奈子ちゃん。

「笑うなー」

 言いながら、俺、精一杯のボディタッチ。ヒナの頭を軽くこづく。ヒナは一通り笑ったあと、あ、と声をあげた。

「何?」

「純ちゃん、次の日曜日、暇?」

 日曜? 俺は頭の中でスケジュールをめくる。

「あー、うん、暇だけど」

「わ、じゃあ遊ぼうよ!」

 え、それって、もしかして。

「良いけど……なんかあったっけ?」

 高鳴る胸を隠すように言うと、ヒナが頬を膨らませた。

「もう! 私の誕生日! 祝ってよ、十八歳なんだから」

 忘れるわけがない。ヒナの誕生日。一体何年、隣に住んでると思うんだ。幼なじみをなめんなよ。

「わかってるって。忘れるわけないじゃん。ヒナのことなら、忘れるわけない」

 精一杯の主張。ていうか、気づけ。俺の気持ちに、気づけ……!

 ちらっとヒナを見ると、なにやら神妙な顔を一瞬して、その後笑顔に戻った。

「本当にー? 怪しいな。純ちゃん、モテるしなぁ」

 何だったんだろうか。今のヒナの顔。不機嫌そうな、顔。そんなこと考えて、一瞬答えに詰まって。ヒナが困った顔で俺を見て、俺は慌てて笑顔を作る。

「モテないって、俺。それに俺、ヒナに嘘言ったことないだろ?」

 言うと、ヒナはまた笑って。家までの道、俺は精一杯おどけた。ヒナが、笑うように。俺の気持ちを、隠すように。

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