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第一話:へたれと小悪魔、どっちが上だ!?

 俺、赤峰純。今年、商社マン三年目の二十五……ごめんなさい、サバ読みました。今年四年目の二十六。いや、なんでサバ読もうとしたかって、そりゃあとあと話すけどさ。今はとりあえずスルーしといて。うん。ごめんね。

 で、なんでこんな自己紹介してるかって、そりゃあなた、これは俺とヒナこと佐久間日奈子の心躍るラブストーリーだからさ!

 ……って、ちょっとちょっと、違う違うこっちこっち!

 もう、なに違う方向に歩き出そうとしてるんだよ。え? 色ボケな話なんて聞きたくもない?

 まあそう言うなって。絶対おもしろいから! 保証する。俺があんたたちが楽しいようにやらせ、もとい脚色して話してやるから。

 虚しくないかって? まさか、俺とヒナの愛の奇跡だよ? 多少の脚色もお天道様が許してくれるさ。

 ……って、ちょっとちょっと! 悪かった。俺が悪かったから、頼む、話を聞いてくれよ。な? この通り! ここで会ったも何かの縁さ。聞いていったって損はないだろう?

 さて、そんなわけで、三時間スペシャルでお届けします。……時間じゃピンとこないな。ええと、つまりなんだ? 中編スペシャルでお届けしますってよ、作者さん。いや、こっちの話。

 そしてスポンサーは俺、赤峰純の提供でお送りします。


***


 事の始まりは二年前。俺はサラリーマン二年目で、ヒナは高校に上がった時。

 欠伸をしながら自転車を取り出す俺の元に、真新しい制服を着たヒナが来た。そのことがきっと、俺の人生を変えることになったんだと、今から考えると思う。

「純ちゃーん!」

 ヒナはお隣に住んでる妹みたいな存在。そんな風に思っていた俺は、ヒナの声に笑顔で振り向く。瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、見知らぬ女の子だった。

「え、ひ、ヒナ?」

「そうだよー。見てみて、似合うー?」

 紺色の、えんじの縁取りがされたセーラー服。線の細いヒナは、まるで制服に着られているようだ。けれども白い肌は紺色の制服のせいで余計に白く見えた。普段は降ろしたままの髪を、今日は二つの三つ編み、とは言っても野暮ったい三つ編みではなく、可愛らしく下に行くほどに細くなる三つ編みで結っている。膝よりも少々短いスカートはヒナの足をよりほっそりと見せていた。

 やばい。

 何がやばいのかわからんけど、とにかくやばい。うん。すげーやばい。

 俺は思わず顔を背ける。

「純ちゃん?」

 高い可愛らしい声が、俺の心臓を揺さぶる。「あ、い、いや、なんでも。ええと、今日から、高校?」

 なんつーしどろもどろな俺の質問に、ヒナが笑って答える。なんて答えたっけな。良く覚えてない。

 ……そりゃもちろん、ヒナの可愛さにぼーっとして。

 ごめん。ごめんって! いや、本当だからどうも言い訳できないけど。

 で、それが二年前の話。

 さて、ここから早送りね。キュルキュルキュルー。


 あれから二年。

 俺とヒナの関係は、あの頃のまま幼なじみなわけで。

「純ちゃーん、おっはよー!」

 今日も俺の理性が吹っ飛びそうな声が、部屋に響き渡った。


 寝ていた俺はのっそりと起きあがると、部屋に入っていたヒナを見た。が、次の瞬間目をそらす。なんちゅー格好してるんだ。おいおい、仮にも男の部屋に入ってくるんだから、キャミソールとかミニスカートはいただけないと思うんだ。うん。俺は。

 なんて俺が思って頭を抱えていると、ヒナのさらっとした髪が目の隅に映った。

「どしたの?」

 案の定というか、なんていうか。ヒナが俺を覗き込んできている。いや、その角度ヤバイから。胸、胸が見え……いやいや、見てない見てない。ていうか、ほら、その足とかさ。ちょっとスカート短すぎないか? て、違うだろ、俺。

 ヒナが俺の足下に座る。長い髪を耳にかける仕草に見とれたが、ヒナがこっちを向いたからハッとした。

「あのさ、男の部屋に入るのに、その格好はどうかと思うぞ、お兄ちゃんは」

 そう。俺とヒナは八歳離れてる。お隣さんの、俗に言う幼なじみだ。もちろん最初からヒナが好きだったわけじゃない。さっき話した通り、ヒナが高校にあがった二年前。俺は急に大人びたヒナに恋をした。

 自分の気持ちに気がついた時から、俺はヒナを見守るようにして傍にいた。好きになった当初、何度も気持ちを伝えようかと考えた。だけどその度に、まだ早いと思って我慢してきたのはヒナのためというよりも、自分がヒナを傷つけたくなかったからだ。

 だから未だに、ヒナは俺の気持ちを知らない。あれから二年たって、こんなにも綺麗になったヒナに、どう告げるのか。そもそも告げて良いものなのか。それすら俺はわからなくなっている。

「純ちゃんはお兄ちゃんじゃないでしょ……純ちゃんにとっては、私は妹みたいなもんかもしれないけどさ」

 苦笑気味に言われて、我に返った。違う。妹なんて思ってない。そう言えたら。そうは思ったけど、俺はヒナに気がつかれないよう、頭を振った。

「ヒナ……」

 ベッドに腰掛けるヒナは、不思議そうに目を丸くしながらこちらを見ている。俺は掛け布団を脇にどかすと、ヒナに顔を近づけた。ヒナは俺をじっと見ている。俺もできるだけ優しそうに見えるように笑顔を浮かべてヒナを見た。

 あと三十センチ。

 ドキドキと心臓の音がうるさい。今この場で、ヒナの唇を奪ったら。そしたらヒナは、俺の気持ちに気がついてくれるだろうか?

「も」

 も?

「もう、純ちゃんたら、なに深刻な顔してんのー?」

 ふわっと風が舞って、ヒナが急に立ち上がった。

 いや。うん。えーと。

「純ちゃん、そういえば、朝ご飯食べようっておばさんが」

 きゃらっと悪気無く笑って、ヒナは襖をすり抜けて行った。階段を下りる音が聞こえる。

 俺?

 もちろん脱力っすよ。

 なにこの展開。いや、オーケーオーケー、わかってるって。そうだよな、ここで気持ちを確かめ合ったら、話が終わっちゃうもんな。

 そんなわけで、俺の苦労はまだまだ続く。らしい。

 誰だ、序の口なんて言ったヤツ!

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