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『画面に残る過去』

作者: ミオ
掲載日:2026/06/30

彼の左手首で、スマートウォッチの画面が、ふと光る。


「ねえ、写真変えた?」


何気なく覗き込んだミユキは、その瞬間、言葉を失った。


画面いっぱいに映っていたのは、少し若い彼と、一人の女性。


肩を寄せ合い、幸せそうな笑顔の二人。


「……誰?」


知っていた。


聞くまでもなかった。


彼が少しだけ困ったように笑う。


「元嫁。」


胸の奥が、冷たく沈んだ。


「消してなかっただけ。」


彼は言った。


「アルバムからランダムに写真が出てくる。」


理由は理解できた。


でも、ミユキの心は納得していなかった。


スマートウォッチには、何百枚もの写真が入っているはずなのに。


彼自身の写真でもなく、


家族でもなく、


友人でもなく、


表示されたのは、元嫁と彼のツーショット。


「まだ大事?」


思わず口をついて出た。


彼はため息をつく。


「そんなことない。気にしすぎ。」


その一言が、ミユキには一番つらかった。


気にしすぎ。


その五文字で、自分の傷ついた気持ちまで片付けられてしまった。

そんな気がした。


帰宅してからも、彼からは何の連絡もなかった。


「ごめん」の一言も、


「設定変えるから」も。


ミユキは何度もスマホの画面を開いては消した。


そして気づいた。


悲しいのは、元嫁の写真を見たからじゃない。


私が傷ついていることを、彼がどうでもいいと思っていることだった。



……………



翌日、静かなカフェに彼を呼び出した。


「別れよう。」


彼は驚いた顔をした。


「そんなことで?」


ミユキは小さく笑った。


「そんなこと、じゃないよ。」


「元嫁とのツーショット写真がランダム表示されたことより、それを見た時の私の気持ちを、あなたが軽く扱ったことが、悲しかったからだよ。」


彼は黙った。


「私は、過去に勝ちたいわけじゃない。でも、今のあなたの恋人として、あなたに大切にされているって感じたかった。」


そう伝えて私がそっと席を立つと、彼は焦ったように言った。


「待って。残ってる写真は全部消すから。」


ミユキは首を横に振る。


「写真を消してほしいなんて思ってない。そんなこと、してほしいわけじゃない。」


「少し若いあなたが、別の女の人と親しげに写ってる写真が、突然自分の目の中に飛び込んできた、あの時の私の気持ちを、気にしすぎ、そんな一言で片付けないで、ちゃんと受け止めてほしかった。」


「私が自分の気持ちを整理して、あなたに伝え終る前に、たとえ、あなた自身はそう思ってなかったとしても、私の気持ちに配慮した言葉がほしかった。」


彼は納得出来ないという顔で何かをずっと考えていたが、その後、「ごめん」と一言だけ言った。


店を出ると、六月の風が頬を撫でた。


涙は出なかった。


きっと昨日、スマートウォッチの画面を見た瞬間、心はもう彼との別れを決めていたんだと思う。

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