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第7話・王宮警備隊のディーロとフレッド


 王宮務めの使用人たちは日暮れと共に専用宿舎に帰っていき、夜間は当直などの限られた者だけが残る。そんな中で下働きのティルナがウロウロしていれば嫌でも目立つ。


「そこの使用人、どこへ行く?」

「あ、あの、女官長様に頼まれて、お届け物を」

「ほう?……なるほど、果物か」


 手ぶらでは怪しまれるということで、わざわざ果物をカゴに入れて持ち運んでいた。衛兵に呼び止められても中身を見せれば通してもらえる。ティルナが若くか弱い女性という点も彼らが警戒を解く理由なのだろう。


 しかし、王族の居住区にはそう簡単には入れない。何故ならば、国王の私が何者かに毒殺されたばかりだからだ。犯人はまだ見つかっていない。行政区で働いているティルナはまだ知らないが、居住区勤務の者たちは自国の国王(わたし)が死んだことを当然知っている。


「そこの女、止まれ!」


 行政区から中庭を抜けて居住区に入る手前で別の衛兵に止められ、ティルナは「ひっ」と小さく悲鳴をあげた。


「悪いが今日は立ち入り禁止だ。出直してくれ」


 衛兵は訪問の理由すら聞かずにティルナを追い返そうとするが、そこに救いの手が差し伸べられた。


「ちょっとぉ。こんな時間にわざわざ来た女の子を追い返すなんて冷たくないスかぁ?」

「フレッド様、しかし」

「この子はオレが対応するから、な?」

「はっ、了解しました!」


 間に入ってきた人物は王宮警備隊のフレッド・レクター。右眼を覆う眼帯と柔和な笑顔が特徴的な青年である。彼は部下を持ち場に残し、ティルナの手を引いて居住区内へと導いた。


 あっさり中へと入ることが出来て安堵したのも束の間、誰もいない行き止まりの通路に差し掛かると、フレッドはティルナを壁へと押し付けた。戸惑うティルナに詰め寄る彼は先ほどまでとは異なり、厳しい表情をしている。


「それで何しに来た? 何を企んでるんスか」

「ひぇっ……」


 突然態度を変えたフレッドに怯えたティルナが言葉を詰まらせた。あらかじめ決めていた文言も口から出てこず、抱えていたカゴも床に落としてしまっている。私の声がフレッドに聞こえない以上、ティルナ自身に何とかしてもらう他ないというのに。


 どうしたものかと焦っていると、背後から足音が近付いてくることに気付く。目の前をよく見知った人物が横切っていくが、当然ながら私には一瞥もくれなかった。


「人通りのない場所で女性に迫るなんて意外と情熱的なところもあるんだな、フレッド」

「隊長!」


 隊長と呼ばれた青年はディーロ・フラルフィ。王宮警備隊で隊長を務めており、フレッドと同じく私が即位する前から仕えてくれている家臣である。彼は左頬に残る傷痕をさすりながら、フレッドとティルナの間に割り込んだ。尋問を中断されたフレッドが少し下がった位置で小さく舌打ちをしている。私には見せたことのない態度だ。


「お嬢さんは知らないだろうが、いま居住区(ここ)は立ち入りを制限しているんだ。急ぎの用なら話だけは聞いてあげるけど」

「あ、ありがとうございます」


 にこやかなディーロの対応に、固まっていたティルナの緊張が解ける。


「アタシは行政区で雑務係をしておりますティルナと申します。女官のエルマに伝えたいことがあって」

「へえ、君はエルマちゃんの知り合い?」

「幼馴染です。()()いでいただけますか」

「いいよ、分かった」


 ディーロが目配せすると、フレッドがどこかへ小走りで駆けて行った。エルマを呼びに行ってくれたのだろう。


 ようやく用件を伝えられたティルナが背後に浮かぶ私にチラリと視線を向けてくる。笑顔で返せば、ティルナも笑顔で小さく頷いた。


「時間も遅いし、話をする時は俺も同席させてもらうけど構わないよね?」

「え? ええと……」


 待っている間、ディーロからの言葉に返答に詰まる。幽霊が見えるというティルナの体質を知っているエルマならともかく、ディーロに聞かれたら変に思われないかと不安になったらしい。


 出直して別の機会を探るとなれば時間がかかる。今はとにかく私が置かれた現状と危機を伝えることが最優先だ。多少の懸念はあるが、生き返ることができた暁に名誉を挽回させてやれば問題はないだろうと考え、ティルナに向かって大きく頷いてみせる。私の意図を汲み取ったティルナは「大丈夫です!」と笑顔でディーロに答えた。


 数分後、フレッドと共にティルナと同じ二十歳前後の若い女官が現れた。後ろには女官長ヴィリカも付き添っている。


「ティルナ、どうしたの?」

「ごめんエルマ。伝えなきゃならないことがあって」


 若い女官エルマはティルナの姿を見つけて駆け寄り、笑顔でその手を取った。慣れない居住区でようやく友人に会えたティルナも気が抜けたように表情をゆるませている。


「こんな時間にわざわざ?」

「う、うん。《《今じゃなきゃダメだって言われて》》」

「どういうことよ、誰に頼まれたの?」


 戸惑うエルマを他所に、ティルナは私を振り返った。まずは彼女の友人であるエルマに伝え、そこから女官長や宰相に伝えられれば良いと考えていたから今の状況は非常にありがたい。ディーロもいるのなら警備の強化も頼みやすいからだ。


『ティルナよ。私の言葉をそのまま彼らに伝えてくれ』


 大きく頷いた彼女は、通路に浮かぶ私を背にみなへと向き直った。


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