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第22話・深夜の仮眠室 2


 ようやくアストが眠ったので隣の部屋に戻ろうかと顔を上げると、寝台のそばにサヴェルが立っていた。幽霊じゃなければ口から心臓が飛び出ていたと思う。


「珍しくアストが床以外で寝てると思ったら、陛下が寝かしつけてたんだぁ」


 目の高さで切り揃えられた前髪から覗く三白眼が私たちを見下ろしている。禁呪の効果範囲に入らねば私の姿が見えないため、近寄って初めて私がアストと共に寝ていることに気付いたらしい。


「あーあ。僕だけ働かせて、自分はこーんな無防備な顔して寝てるとか、ずっりぃの」

『さ、サヴェルも一緒に寝るか…?』

「うん」


 即答して、サヴェルはアストの隣に割り込んできた。この二人は孤児時代から一緒だったので互いに対する警戒心は全くない。他の者が相手ならすぐ目を覚ますであろうアストが眠ったままだということが何よりの証である。


『それで、サヴェルはどこに行っていたんだ』

マティアス(あいつ)が通って来たっていう抜け道を探しに。僕らも知らないなんて有り得ないと思ってさ」


 私も気にはなっていた。本当に抜け道が存在するのなら、アストたちやローガンの隠密が気付くのではないか、と。


「さっきの話からアタリをつけて探したら怪しい場所は見つけたんだけど、なにやっても入り口が開かなくて。鍵穴すらなかったし、別の方法で開閉する仕組みなのかも」


 鍵穴があれば、彼らならば難なく開けられる。腕力でこじ開ける形式ではマティアスには無理だろう。ならば他にどんな仕組みがあるというのか。


「陛下の禁呪みたいなやつじゃないかなぁ。たぶん王族にしか使えないようになってると思う」

『なるほど。クレイに聞いてみるか』


 法術を用いた特殊な抜け道。王宮を建てる際、何代か前の国王と大司教が有事の際の備えとして設置したものだろう。


 使用者を王族に限定するということは、恐らく血が鍵となる。私とマティアスは従兄弟である。つまり、私ならば入り口を開けることが可能。だとすれば、息子であるディアトはともかくパスメナス家から嫁いできたアリーラは対象外になってしまわないか。いや、腹に私の子を宿している今なら問題なく通行できるのか。その辺りを確認しておきたい。


『ご苦労だったサヴェル。おまえも寝なさい』

「……起きたら消えてるってコトないよね?」

『隣の仮眠室に戻っているかもしれん。今の私はティルナからあまり離れられんからな』


 正直に答えると、サヴェルは拗ねた顔になった。


「あーあ、僕にも幽霊が見えたら良かったのに。魔素にも適合できなかったし、やっぱ素質がないと話にならないよねぇ」


 魔素とは戦場跡地などに発生する死者の怨念の成れの果てのようなものである。魔素に適合すると不思議な能力が使えるようになる。先代国王は魔素適合者を増やして戦争に使おうとしていた。アストたちも魔素に汚染された食べ物を無理やり食べさせられたが、拒絶反応を起こして命を落としかけたという。


 先代国王が統治していた頃にアステラ王国との戦争に敗れている。魔素適合者を集め、魔術による復讐を果たそうと計画していたのだ。同じ頃にカサンドール王国がユスタフ帝国に侵攻され、救援部隊の派遣を進言したが全て却下されている。


 非人道的な行いの数々を知った私の父が直談判しに王宮へ乗り込んだが命を奪われた。先代国王と私の父は実の兄弟で、幼い頃は仲が良かったと聞いていた。しかし、弟である私の父を次代の王にと推す声が多かったため、ずっと妬ましく思っていたのだという。その事件が発端となり、私は協力者たちの力を借りて王権を奪ったのである。


『特別な力なんかなくてもいい。どのような生まれであっても、たとえ秀でたところがなくても、誰もが笑っていられる国を作りたいと私は思っている』

「陛下……」


 権力に慣れ、周りの人間が盤上の駒に見えてしまったら終わりだ。他人の権利を奪い、命を軽んじる者に国を治めることは出来ない。


「……でも、死んだら意味ないじゃん」


 サヴェルは毛布に頭を突っ込み、顔を隠した。時折鼻をすする音がしているから、もしかしたら泣いているのかもしれない。


『そうだな。すまん』

「……」


 ああ、やはり体がないと不便で仕方ない。こんな時に涙を拭ってやることすら出来ないとは。


 結局、窓の外から朝の気配が差し込むまで私は二人のそばから離れられなかった。


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