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第10話・禁呪と特殊性癖×2


 大司教クレイの禁呪により神殿の奥にある資料室らしき場所に閉じ込められた。これでは生き返るどころか天に召されることすら出来ない。ずっとクレイに囚われ続ける羽目になってしまう。


「クレイ殿、頼まれた品です」


 そこへ現れた王宮医師セオルドは、へらへらと笑いながら胸元から布に包まれた何かを取り出した。手渡されたクレイは包みを開き、中身を(あらた)める。


 包みの中に入っていたものは、金色に輝くひと房の髪。二度目の検死の際にセオルドが切り取っていた私の髪だとすぐに分かった。


『わ、私の髪などどうするつもりだ』

「くふ。これは禁呪をより安定させるための触媒です。生前に採取した陛下の一部……抜け毛や切り落とした爪などですね。それと、死後に採取した体の一部が必要だったのです。そこで、セオルド先生にお願いして髪の毛をひと房入手していただいたわけです」

『なんだと?』


 私の問いに笑顔で答えつつ、クレイは部屋の中央にある台へと向かう。台に広げられた布に描かれた怪しげな紋様、その上に置かれた皿には僅かな灰。先ほど言っていた、私の爪や抜け毛を燃やした跡に違いない。


「本当に陛下の魂を閉じ込められたみたいですね」

「ええ。今ならセオルド先生にも見えるでしょう?」

「薄っすらとではありますが。声も聞こえます」


 セオルドは丸眼鏡のふちを持ち上げ、目をすがめて私を見つめている。先ほどはこちらから声を掛けても目の前に飛び出してみても一切気付かなかったというのに。


「この髪束を燃やせば禁呪は完成します。そうすれば、陛下のお姿がもっとハッキリ見えるようになりますよ」


 言いながら、クレイは皿の上に髪束を置いた。


「それはまあ楽しみではありますが、僕はやはり生身の肉体にしか興味がわきません。長年かけて集めてきた秘蔵の爪を提供し、更に髪まで用意したのです。先ほどの約束、忘れないでくださいよ? クレイ殿」


 セオルドが尋ねると、クレイは肩をすくめた。細い目が弧を描くが、笑っているのに冷たい印象しかない。ていうか、今なんて言った。長年かけて集めた秘蔵の爪ってなんだ。セオルドは私の爪を密かに収集していたのか。いつのまに。どうやって?


「もちろんですとも。葬儀後に墓地に埋葬したように見せ掛けて、秘密裏に貴方の屋敷に陛下のお体を届けて差し上げましょう」


 絶句とは、まさに今の心境だ。恐ろしさで逃げ出したくとも、私は既に禁呪によってこの部屋に縛り付けられている。禁呪が完全なものとなれば解除できなくなるかもしれない。


『魂はともかく亡骸など手に入れてどうする気だ。いずれ朽ち果てるだけなのだぞ』


 肉体は土に還る。きちんと埋葬しなかったらどうなるか、医師ならば理解しているはずだ。亡骸を欲しがる意味が分からず問うと、クレイがまた笑みを濃くした。


「セオルド先生の見立てによれば、陛下は仮死状態だそうですよ」

「ええ。脈は限りなく弱まり体温も低くなっておりますが、まだ完全には亡くなっておりません」


 そういえば、女神からも仮死状態だと言われていたな。


「医学の知識と禁呪の効果を合わせれば老いることも朽ちることもなく現在の仮死状態の肉体を維持することが可能となります。魂が現世にある限り、永久に」


 セオルドが私の体にすがりついて泣き笑いしていた様子を思い出し、ゾッとした。あの時、セオルドは悲しんでいたのではない。私が仮死状態であると再確認して歓喜していたのだ。いま思えば、二度目の検死というのもおかしな話だ。追加で触媒が必要になり、髪の毛を入手するために再度検死の名目で近付いた。


 クレイは魂を。

 セオルドは体を。


 二人は己の権力を悪用し、望みのものを手中に収めようとしている。彼らの立場と能力があれば誰にも気付かれることなく実行できる。


 呆然とする私を放置し、クレイは壁掛けランプから火種を取る。皿の上の髪束を燃やすつもりなのだ。禁呪を完成させるための最後の鍵。


『ま、待て。やめろ!』


 止めるためにクレイの腕にすがりつくが、肉体を持たない私は彼に触れることが出来ない。伸ばした手が虚しく空を掻くだけ。


「さあ、今日は記念すべき日となりますよ。ロトム王国から名君ジークヴァルト・ディグニス国王陛下が消え、わたくし共の手中に堕ちるのですから!」


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