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【なろう版】私を拾ったスケベ野郎がタイムリープ中の運命の相手でした。  作者: 白米


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5/8

真夜中の目覚め

5話目です。よろしくお願いします!

*****









「……………!!……ふぁっ?!」


なんだか背筋がぞくりとするような気配を感じて、がばりと身を起こす。


…………暗い。



暫くして目が慣れてくると、ここがいつもの小屋の、ソファの上であることが分かった。

どうやらまた、食事のあとに寝こけてしまったらしい。


「なんだ…、びっくりした」


意識するよりも早く、あえて声に出していた。

それで日常に帰ってこれるような気がしたから。


「……ゆめ?」


なんだか酷くリアリティのある夢だった気がする。

なのに、具体的なことは何も思い出せない。

さっきまで手元にあったものを、釣り餌のようにさっと手早く引かれてしまったような感覚。

すぐそこの脳内で起きた筈の出来事なのに、目覚めた瞬間に霧散してしまうのだ。


夕食に飲んだ酒が変に回って、悪酔いでもしたんだろうか。

背筋を嫌な汗が伝う。


どっどっどっと、内側から心臓が肋骨を強く叩いている。


身体が極度の緊張状態にあるのが分かる。

自分よりも格上の魔物に出会した時のような張り詰めた感覚。


ぎしり。


部屋の奥で音がして僅かに身を竦めた。

まるで、獲物に見定められた小動物のような心許なさだ。


ゆっくりと、静かな足音で、ひとりの男の影があらわになる。


「………なんだ、ルカ、か」


暗い中のせいか、ルカの表情もいつもより昏く感じる。

私が緊張した顔をしていたから、彼も警戒しているのかもしれない。


「なんだ、びっくり。あは、なんか、…こわい夢?……見ちゃって。子どもかよってね、は、はは。…わっ?!」


クンっと視界が揺れて、その一瞬で硬い胸が私の頬に押し当てられていた。

こいつも酔ってんのか?


「何?!…ちょっ、痛いって!」


何も言わないままのルカに、胸元に引き寄せられたことにハッと気が付いて慌てて身動ぎするが、しっかりと両腕で抑えられていて解くことができない。

こいつ…!こんな細っこい身体のどこにそんな力があったわけ?


何度か抜け出そうとするも敵わない。

けれども、人の腕のぬくもりの中に居るだけで、先ほどまでの緊張感が緩んでくるのが分かる。

静かに呼吸を繰り返して、つい、いつの間にか、ゆるゆると身を預けていた。

骨ばっている身体は、ごつごつとして居心地は決してよくない。

それなのに私は、頬に触れる胸から伝わる少し早い鼓動のリズムに、じっと耳を澄まして、おとなしくなってしまった。


きっと、さっきまでの夢のせいだ。

なんだか分からないけど不穏な感触だけは残っている。

抵抗を止めて身を任せてしまっていると、つつ…と、ごく自然な動きで顎を持ち上げられる。

その手は、ガサガサとしていて、触り心地はよくない。

けれど、すらりと細く長く、優しい。


そのまま上を見上げるかたちになる。

骨ばった指先が両頬を包むようにして置かれる。

私の赤毛を漉くように指が後ろへと回る。

ふわりと。まるで、空気のように、とても静かに、近づく気配。


首筋に暖かな呼吸が触れた。

すり、と指が髪を、頬を、耳を静かに撫ぜた。

こそばゆい感覚に、背筋がぴりぴりする。


ひやりと、首に柔らかな感触。

人の身体とは思えないほどの冷たさに、抵抗するよりも驚いてしまって、拒む機会を逸してしまった。


「……っぅ……な?……」


ふっと顔が上がる。

僅かな月明かりを反射する青銀の瞳が、髪の隙間からチラリと覗く。

その二つの光が、じっと私の瞳を覗き込んでいるのが分かる。


瞳が、薄い唇が、近づいてくる。



「……………っ」

「…………………?」

「……………ごめん。…間違えた」

「……………っはぁ?」


唇同士が触れるか触れないか、の瀬戸際。

ルカから放たれていた緊張感がパッと霧散した。

手を離し、あっという間に二人の距離はいつものものに戻りる。

踵を返して自分の寝床へ戻っていく後ろ姿。


「なっ…!………なんっ?!…?…??」


ばくばくと心臓が激しく鳴っている。

けれど、それは先程、夢から目覚めたばかりの時の居心地の悪いものとはまるで異なっていた。


一人残された私は未だ混乱する頭を抱えて、リネンを被ってソファに蹲った。




翌朝。

…とりあえず。抵抗出来なかったのは。

…抵抗をしなかったのは、悪い夢のせいだということにしておこうと思う。

いや。あれは、夢だ。

あれこそが夢だ。

なかったことにしましょう。

そうしましょう。


「おはよう」


びっくーーーーーーん!!


「わ、な、…っあ、お、おは。よ、ごじゃいマス……」


狼狽えるなっっ、狼狽えるな私ぃ!

こんな態度を見せたら、また馬鹿にされるに決まってるわ…


分かりやすく視線を逸らす私を、胡乱げな視線が見つめているのが分かる。


「ナニ?まだ酔ってんの?」


「…はあ?!酔ってたのはそっちでしょう?!あ、あんな…」

「は?」

「人を誰かと間違えて抱き締めたりして!

どーせ寝惚けてたとかって碌に覚えてもないでしょうけど!!」

「は??」


………はっっっ!!


しまった。

無かったことにしようとしてたのに。

思い切り糾弾してしまった!


あまりにも腹立つ目付きだったから、つい!!


それなのに、ルカはかっと目を釣り上げて、顔を赤くしている。

え?なに、怒ってんの?


「ちがっ……………!…いや。………なんでもない」

「は?」

「悪かった」


は????

ルカが素直に謝った。

なにごと?


絶対に、『寝惚けてた』『酔ってた』『なんのことか忘れた』とかってすっとぼけられるか、

『あれくらいごときで生娘が煩い』だの、『あんなの愛撫のあの字にも満たない』だの、なんやかんや御託並べて有耶無耶にするか、

『人ん家のソファで勝手に寝る方が悪い』『だったら出てけ』とでも言って開き直られると思っていたのに。


「ああ、いや、ま。…私も、勝手にいつも寝ててスミマセン…」


こうも正直に返されると逆にこちらの対応が困ってしまう。

結果、何故か謝罪してしまった。

やっぱり自分も忘れたふりをしてスルーを決め込むべきだった。

私の謝罪をきくと、それで終いというようにルカは台所で朝食の片付けを始めている。


う〜んと唸りつつ、足は自然と畑に向かう。

最早、朝の日課となっているので体に染み付いている。


新たに耕したエリアのハーブがあるべき場所を見ると、そこには萎れかけた葉っぱと何も生えていない土肌がみえた。


「…なんで?」


唸り声を上げていると、ルカがやってきた。

今日も、前髪を後ろで括って顔をきちんと見せている。

ベンチに腰を下ろしたルカは、「どうしたの?」と興味なさそうに尋ねてくる。


「せっかく生えてきたと思ったら全部萎れちゃったの。こっちは芽すら出てない」


腰を上げてハーブを撒いたエリアの前で屈み込んで、ルカもまた、畑を観察する。


…ぶちっ


「あ!」

「これは、ある程度育ってきたら間引かなきゃいけない種類だ。湿度に弱いから、群生してると蒸れてしまって茎を駄目にする。間引いた小さい葉はサラダに出来る。」

「そうなのね!詳しいのね、ルカ。」

「まあね。」

「じゃあ、こっちは?」

「これは、植える前に種を割って水に漬けとかないと育たないよ。残ってる分を植え直そう。これは一年草で、摘んでもすぐ葉が伸びてくるし、花が咲いたら種がたくさん収穫できる。種も料理に使える。…やってみる?」

「うん!」

「じゃあ、小皿取って来る。」

「分かった」


ルカは淡々とした様子でさっさと部屋に戻っていく。



間引いたハーブと野菜がたくさん採れたし、小麦もたくさんあることだし、何か作りたいと思たった。

出来ればパン、とくにピザが食べたい。


実は私がきた当初にたらふく食べたパン粥は貴重なものだったらしく、ここ1ヶ月ほどパンを食べていない。


さすがに罪悪感がある。

あと、自分も食べたい。

パン食べたい。

美味しいシチューに、パンを浸したい。

そんな訳で、竃を生成することにした。

畑の横でごそごそと準備をしていると、ルカが画材を手にやって来た。


こればっかりは、ちょっと見てもらいたいと思っていたので、つい不敵な笑みを浮かべてしまう。

ぱちりと目が合うと、ルカはなんだか随分と優しい目をして笑っていて、私の次の動きを待っている。

なんだか気恥ずかしくなる。


手慣れた順序で土と他の材料を並べると、手を翳し、ごうっと火を焚いて、竃を完成させる。


にこにこと拍手するルカの前で畳み掛けるように小麦を粉へと精製し、水と油と塩を混ぜて捏ねる。


なんだか今日は随分と機嫌がよくない?

え?こんな和にこやかな顔なんて、見たことない気がするんだけど。


野菜とハムを刻んで、先日採れたハーブで仕上げて、出来たばかりの竃へと放り込む。

火加減を調節して暫く。

いい匂いがしてきて取り出すと、いい感じのピザらしきものが完成した。


ここまでざっと10以上の魔法を使いました。

どうよ、この手際の良さ。


ルカはデッサンをしながら、私がひょいひょいと宙で色々なものを操って食事を整える様を見ていた。


調子にのってきたので、小屋の中から、葡萄酒の入ったカラフェ、水差し、グラスを2つ、器にクロス、昨日のシチューをスープ皿に掬って、と。

カトラリーを二人の前に綺麗に並べたところで、ルカにドヤ顔を見せつけると、ものすごく柔らかな顔で笑っている。


え?なにその表情。


「…すごいな。手品か大道芸でも観ているみたいだ」


そんな突然、大事なものを見るような目で見ないでほしい。

なんなの?人格変わっちゃったの?

この間まで、憎まれ口ばっか叩いてたじゃない。

意味分かんない。

居た堪れなくなってサッと視線を逸らしてしまう。

気恥ずかしさを誤魔化すように、何枚もピザを焼き、ご飯を掻っ込んだ。


「これまで、どんなところを回ってきたの?冒険者は何年目?」


これまた珍しく、ルカから私に質問してくる。

そこにやはり違和感を覚えたが、別に隠し立てする話でもないので正直に答えることにした。


「15歳から始めたから、今年で3年かな。元々は北の方出身で、徐々に南下してきた感じ」

「そうか。…じゃあ、今は18歳」


何かに納得するように、ルカは小さく呟きながら私の回答をピザと一緒に咀嚼しているようだ。


「15歳で家を出るなんて、大丈夫だったの?いくら成人の時期とはいえ、早すぎない?」


「私が、人より魔力が多くて、コントロールが難しいって話はしたわよね。家から離れて旅に出たのは、それが一番の理由で。

ま、簡単に言うと、魔力を合法的に発散できてお手軽に人の役にも立てる仕事が冒険者以外に思い付かなかったのよ」


そうすれば、家族に迷惑もかけないし。


「…まだ、……か」


「え?」


「いや。なんでも。……その、魔力を制御することは誰かに学ばなかったのか?そういう方法があると、聞いたことがある」

「詳しいわね。…ある程度は、学んだわ。でも、私の魔力は大きすぎて、師事した人の方法では太刀打ちできなかった。それで、南を目指しているっていうのも、ある」

「旧都カラツへ行くのか?」

「そう。そこでなら、私のようなでかい魔力の持ち主もいるかもしれないし、魔力の制御により長けた人に会えるかもしれないから」

「なるほど」


そのあとは、旅の道中で出会った人や出来事の話なんかをあれこれとした。


あちこちの街のギルドに顔を出しているが、赤髪に赤い眼が珍しいらしく、初めて行く場所でも私の名を既に知っている人がいたりすることとか。

結構人気者なのよ、なんて茶化しながら言っても、揶揄うこともなく、ルカは楽しそうに話を聞いていた。

やっぱ、今日はなんか変。


賑やかな声に不審に思ったか、いい匂いに釣られてか、いつの間にか、森に住む子たちが何頭か集まっていた。

小型の魔獣は気に入った人間には使役されるものもいる。割に人懐っこいのだ。


食べられるものはないかなぁと目をやると、果物がまだ残っていたのでお裾分けしてあげる。

気付けば肩や膝に乗っかっている子もいて、なんだか最後はすごい大所帯になった。

ふわふわの生き物たちに囲まれた私を、ルカが機嫌良くスケッチしている。


あー、なんか今日は最高に楽しい。

いつもこんな風に、ルカもご機嫌でいたらいいのに。

そしたらもっと、仲良くなれる気がするのに。

いい感じに酔いも回って、けらけらと大声で笑っていると、不意にルカの表情が翳った。


なんだ思って見返すと、彼とは視線が合わず、私の背後の更に奥、森の方をじっと見据えていた。


「…ルカ?」

「小屋の柵の中に、寄って」


つまり、結界に入れということ?

様子がおかしいので、膝に乗っていた黒い斑豹をそっと下ろして、素直に指示に従う。


ルカに並んでから森を振り返る。

なんの気配もないが、逆に、無さすぎる。

鳥やその他の生き物の、動く気配までもがなくなっていた。


たしかに不穏な空気を感じ取って、壁に立てかけてあった弓矢を静かに番えて待機した。


ふっと、急に頭上に影が差す。


5メートルは優にあろう巨体に、爛々と二つの赤い光が此方を睨む。

ぐわりと、勢いよくこちらに突進してきた。

が、バチンと大きな音を立てて、何かに弾かれたように後ろに飛び退いた。


私たちは、どうやらこの小屋の結界に守られたようだ。


「…ベルグリズリー…!!」


しかも成体だ。


「あれの親かしら」

「かもね」


私たちは賑やかだった食卓の中心に置かれたシチューを一瞥して溜め息をつく。


子どもが撃たれたのだ。

怒るのも当然か。

けれど、この森を守るためには、必要な措置だった。

ここの木々では、彼らを養うに耐えられないのだ。

ベルグリズリーはそもそも、生育の早い、植物そのものの魔力が強い森にしか棲みつかないはず。

何故この親は、この森に子どもを連れてきたのだろう。


「仕方ない。やるか」


胸は少し痛むけど、それでここの生態系が崩れるのは避けなければならない。

何より、今の私が請け負っているのは、この森の害獣駆除だ。


弓矢の先に魔力を流す。

穂先から、蒼く鋭い冷気が放たれる。

鏃が大きく膨らんでいくようイメージしながら魔力を冷気に替えて武器へと送り込む。


ぐっと胸を張って、再度結界へと突進してきた大熊を見上げるようにして、矢を構え、放つ。


ズバン!!


私の氷の矢は親熊の心臓を捉えた。

それでも尚、矢を引き抜いて抵抗しようとするのだから、この魔獣の生命力は凄まじいものだ。


更に両手にグッと力を込めて、矢の先端を目印にして体内へと私の魔力を送りこむ。


徐々に巨熊の動きは鈍くなり、内側から全て凍りついたとき、ずずんと大きな音を立ててその場に横倒れになった。


…ふは。


じわりと、こめかみから汗が滲んだ。


へたりとそのまま地面に座り込む。

酔っ払った体で、流石に魔力を使い過ぎた。

急激に空腹が襲ってきたので手近にあったハムを一つ掴んで、むしり取るように引きちぎった。

熊から目を離さずに、ガツガツと食らう。


何故だか、鼻の奥がツンとした。




ありがとうございます、

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