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【なろう版】私を拾ったスケベ野郎がタイムリープ中の運命の相手でした。  作者: 白米


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新たな日常

4話目よろしくお願いします〜

ルカとの新生活は思いのほか順調に進み、はじめ不安まじりだったのが嘘のように快適なものになった。


第一に、こじんまりとした小屋の中の設備が想定外によろしい。


本人は生活の中で魔法を使うことはないようだったが、設備に魔法鉱物がふんだんに使われている。


火焔石を使用した焜炉。

氷結石を内蔵した倉。

蛍光石を削って作った室内灯。

湧水核と呼ばれる、水の湧き出る希少な鉱物まで家の設備に使われているようで、料理にも風呂にも困らない。

今は季節柄使っていないようだが、暖炉も火を焚べなくてもよい、火焔石を加工した素材が使われているっぽい。


とにかく見た目と生活水準とのギャップが半端ない。

なんでも揃っている。

更になんと地下室まである。


入ったことはないが、画材やなんかをそこから出し入れしているを見かけたことがあるので、本格的なアトリエが地下にあるのかもしれない。


なかなか凝った作りの小屋だ。


果ては、小屋を囲む素朴な木製の柵には結界石が埋め込まれていたことまで判明した。

それによって、そこに小屋があると知らない者には、絶対に認知されない高度な結界が張られている。


道理で魔物たちがこの小屋を完全スルーしているはずだ。


そうは言っても、彼らもルカの住まいがどの辺りにあるかは何となく認識しているらしく、敢えて結界に寄り付いてくるものもいないのだが。


とにかく、こうなってくるとルカの正体がますます謎だ。


どの魔法鉱物も、この質でこの量は入手も困難だ。

自分で採取するような上級の冒険者ならともかく、一般人で一揃え整えようとするとかなり高額となる。


裕福な商人や貴族の家でしかお目にかかれないだろう。


そんなものが、この人里離れた森の中の、薄汚れた小屋に詰め込まれているのだから不可解極まりない。


実は高名な画家なのか、かなり羽振りの良いパトロンが付いているのか、どこかの坊ちゃんの道楽なのか…。


なんにしてもこんな立派なものを揃える力があるのに魔窟の森に篭っているだなんて、変人以外の何者でもない、というのは確かだ。


拠点の提案をした際に教えられた菜園も、これまたかなりの好環境で、食べるものには困らない。

いじっていいと言われたので適度に肥らせ魔法をかけて、腹を満たす扶けとしている。


その日も、畑で朝の水やりを終え、魔法で適度に土を肥えさせていた。

朝と夕方の土いじりは、最近の日課となっている。

そして大体、その横でルカはスケッチをしている。


初めの頃は、こうやって横に付かれて絵を描かれるとむず痒い気持ちになっていたが、1ヶ月もの間、それが毎日続くとさすがに慣れた。

今は毛ほども気にしていない。


「あっ、そうだ!」


ふと思い付いて、立ち上がる。

いそいそと自分のテントへ行って、いそいそと戻る。


「なにそれ?」

「以前の依頼先でもらって、そのまま持ち腐れていたハーブの種。試しに植えてみるのはどうかと思って。…新しいのは、植えない方がいい?」


「どれ、見せて。」


ゆらりと立ち上がったルカは、自分の長い薄灰色の前髪をうざったそうに耳にかけて、種を観察するべく身を屈めた。

こいつ、貧相なくせにタッパはあるのよね。

見下ろされるの、なんかむかつく。

「ああ、この種なら他の野菜に害はないだろうから、植えてもいいよ。スープや煮物に深みが出るから、使える」

「ほんと?!やった!」

いつもの日課なら、朝の畑が終わると狩りに出るのだが、その日は結局、ハーブの種を植える為の試行錯誤で終わった。


食糧は潤沢にあるし、昨日ちょうど、鈴打灰熊ベルグリズリーの小さいのを狩ったばかりなので肉もまだある。

子どもとはいえ、丈2メートルはあるこの外来種は、成長期に寝ぐらの森を出て、一日に5トンもの草花、木の実を食べる。森の若木から順に喰らってあっという間に枯らしてしまうので放っておくと森が数週間で潰れる。


相変わらず、ルカの作る食事は美味い。

私が調子に乗って駆除対象とあらばざかざか捕まえてきて調理をせがんだので、冷蔵室の許容を超える量は獲ってこないようにと禁令を出されてしまった。

しょうがないので、最近は狩って余った分は塩漬けか天日干しに加工して近隣の村にお裾分けにいっている。


で、その熊をシチューにしたやつを食べたらこれまた絶品だった。

「はあーお腹いっぱい」

「そう、それは良かった」

「今日もごちそうさまです〜」

「こちらこそ、豪華な食材をいつもどうも」

「あっ、食器は自分で洗うから、置いといて…」

「いいよ別に、これくらい。大した量じゃないし」

「ふおお。ルカはきっと、いいおよめさんになるよ…」

「誰のだよ」


食後のデザートまで平らげて、ソファでごろごろしている私に、低い笑い声で返答される。

このソファでごろごろ、もすっかり日課になってしまった。

しかも、そのまま寝てしまうことが多い。

庭に張った野営用のテントはもっぱら作業場として使うのみになっている。


約束通り、ルカは寝ている間に絵を描くことはなくなった。

その代わり、いろんな現場に着いてきて絵を描いている。

とはいえ女子として気を抜き過ぎている節はあると自覚してはいる。

けれども、ルカははじめの頃の様子と違い、絵を描く以外では本当に接触は皆無。

話しかけてもこないし。

目も合わない。

というか、そもそも、目が見えることが少ない。

髪に隠されていて。


ーー目線が合わない感じが嫌なのよね。


ふと思い立って、台所に立つ背中にそろそろと忍び寄る。


…きゅっ、パチン!


「はっ?!…なに?」

「髪留め。前髪うざったいのよ。画家は目を使うでしょう?よくないわよ。そんな長いと邪魔っ、て…」


にやにやしながら、手が塞がっている隙を突いて男性が付けるには少し可愛らし過ぎる髪留めを付けてやる。

いたずら心で、前髪と横に垂れた髪を全部まとめて後ろに括らせて顔を覗き込むと、逆にこちらの方が不意打ちを喰らってしまった。


「勝手なこと、しないでくれる?」


飛び込んできたのは、薄いブルーグレー。

光の加減によっては銀色にも見える。

目の下にまっくろな隈ができていてその麗しい瞳の色を台無しにしているが、それでも余りあるほどの美形だ。

長い睫毛が影を作っていて、それが憂い顔に拍車をかけている。

すっと通った鼻筋に、薄い唇。

肌色は全体的に青白っぽくて決して健康的ではないが、その儚げな雰囲気には合っているのかもしれない。

薄幸の美人、というやつだろうか。


「……悪くないじゃない」

「は?」


てか、結構かっこいいんでは…?

目付きは悪いけど。


「これからは、顔くらい隠さずに生活しなさいよ。辛気臭いったらないわ」

「…ここ、俺の家なんだけど」

「同居人からの親切なアドバイスよ。素直に受け取りなさい」

「なんだそれ」


その日はなんとなく、ちゃんとテントで寝た。



数週間後。畑にて。


「ええ〜なんでえ〜??」


新たに耕したエリアのハーブがあるべき場所を見て唸り声を上げていると、ルカがのそのそと画材を小脇に抱えてやってきた。


あの日から、ルカは私のアドバイスどおりに前髪を後ろで括って顔を見せるようになった。

お陰で、私のお気に入りの髪留めの一つを失ったが、まあいいやぁという気になっている。


顔が見えるようになってから、ルカの口数も少しばかり増えたような気がする。

元が口から産まれたと言われる程に賑やかな性分なので、話し相手がいることは精神衛生上、大変よろしい。

同居生活が少しばかり快適になった。気がする。


いつものデッサンスポットであるベンチに腰を下ろしたルカは、「どうしたの?」と興味なさそうに尋ねてくる。


「せっかく生えてきたと思ったら全部萎れちゃったの〜。こっちに至っては、見て!芽すら出てない!!」


「ふむ。どれ見せて」


腰を上げて、ハーブを撒いたエリアの前で屈み込んで、繁々と観察している。

ニコリナが当番になってから、畑に寄り付いたのは初めてかもしれない。


…ぶちっ


「あ!何抜いてんのよう!」

「これは、ある程度育ってきたら間引かなきゃいけない種類だ。湿度に弱いから、群生してると蒸れてしまって茎を駄目にする」

「えー…そうだったんだ。でももったいない……」

「間引いた小さい葉はサラダに出来る」

ぷっとふくれ面をしていたら有効活用の方法を教えてくれるので、一転してわたしの気持ちは明るくなった。

「!…それなら許せるわ。ていうか、詳しいのね、ルカ」

「まあ、長く一人で畑やってますから」

「へーすごーい…うーん、じゃあ、こっちは?」

「あー…、これは、植える前に種を割って水に漬けとかないと育たないよ。」

「えーっっじゃあ、もう無理なの?!」

「全部、植えちゃった?」

「…あと、少し残ってる」


「どれ…、ああ、これだけ残ってたら、二人で使う分は大丈夫だよ。これは摘んでもすぐ葉が伸びてくるから。これは一年草で、花が咲いたら種がたくさん収穫できる。種も料理に使えるよ」

「へー!すごいわね!」

「もう一度やってみる?」

「うん!」

「じゃあ、部屋にある小皿でやるか…ニコリナは、大きく育てるのはうまいけど、種を芽吹かせるのは苦手なんだね」


一笑されて、一度浮かれてたのが釈然としない気持ちになった。


間引いたハーブと野菜がたくさん採れたので、たまには自分も何か作りたいと思いたった。

小麦もたくさんあるし、出来ればパンが食べたい。


実は、私がきた当初にたらふく食べたパン粥は貴重なものだったらしく、ここ1ヶ月ほどパンを食べていない。

聞くと、パンは半年に一度ほど街へ行った時に大量に買ってストックしていたらしい。

それを私があっという間に食べてしまった、と。


さすがに罪悪感がある。

あと、自分も食べたい。

パン食べたい。

美味しいシチューに、パンを浸したい。


そんな訳で、竃を生成することにした。


まず、適当な粘土の地層が剥き出しになっている断崖を見つけたのがよかった。

そこに元から棲みついている天空騾馬ラバの許可を得て土を分てもらい、持ち帰る。


畑の横でごそごそと準備をしていると、ルカがやっぱり画材を手にやって来た。


こればっかりは、ちょっと見てもらいたいと思っていた。

ので、つい不敵な笑みを浮かべてしまう。

ぱちりと目が合うと、ルカは曖昧に笑って、私の次の動きを待っている。


手慣れた順序で土と他の材料を並べると、手を翳す。

ごうっと火を焚いて、煙が晴れた時にはそこに竃が出来ていた。


ほー、と珍しく少し驚いた顔をしているルカの前で、畳み掛けるように小麦を粉へと精製し、水とオイルと塩、混ぜて捏ねる。

野菜とハムを刻んで、先日採れたハーブで仕上げて、出来たばかりの竃へと放り込む。

火加減を調節して暫く。

いい匂いがしてきて取り出すと、まあまあいい感じのピザらしきものが完成した。


ここまでざっと10以上の魔法を使いました。

ふふん。どうよ、この手際の良さ。

私だって、伊達に一人で冒険者してないわよ?

料理くらい、できるんだから!


ルカは楽しそうに時々軽いデッサンをしながら、私がひょいひょいと宙で色々なものを操って食事を整える様を見ていた。


調子にのってきたので、小屋の中から、葡萄酒の入ったカラフェ、水差し、いつもの木製タンブラーと陶器のマグカップ、器にクロス、昨日のシチューをスープ皿に掬って、と。

カトラリーを二人の前に綺麗に並べたところで、ルカが笑い出した。


「ははっ、すごいな…!手品か大道芸でも観ているみたいだ」


初めて見るルカのくだけた笑顔に、益々調子に乗ってしまう。

私も気付けば、いつもより饒舌になっていた。


何枚もピザを焼きながら、ご飯を食べながら、これまでの旅の話や、魔法の話、いろんな話をたくさん、たくさんした。

いつの間にか、森に住む子たちが何頭か集まっていたので、食べられるものをお裾分けしてあげたりしてたらなんだか最後はすごい大所帯になった。


いい感じに酔いも回って、けらけらと大声で笑い出してしまう。


ふっと、急に頭上に影が差して、不思議に思って振り向く。


一瞬、丘のような巨体に赤い目が光るのが見えて、氷で刺されたよう鋭く、冷たい、痛み。


そこで、ぶつん。と。




突然に途切れるように目の前が暗くなった。




ありがとうございます〜

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