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【なろう版】私を拾ったスケベ野郎がタイムリープ中の運命の相手でした。  作者: 白米


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始まりの食卓

2話目です。よろしくお願いします。

虚ろな瞳で両手を天に掲げると、今しがた空いたばかりの大きな穴はしゅるしゅると小さくなっていく。

床に散らばった建材が吸い寄せられるように元あった位置に組み込まれていく。

なんだったら壊れる前よりも綺麗な塗装を施して屋根の修復は終わった。


最後に指を一振りして、バラバラになっていた家具や小物類をしゅるんと配置し直す。

ふうと息を吐いて、手をはたいた。


よし。終わり。


「違う」

「はあ?」


現場監督よろしく腕を組んでその様子を見物していた例の男は、私が一仕事終えたタイミングで茶々を入れてきた。

当然、完璧な仕事をした私としては受け入れ難い。


「なにがよ」

「物の位置、勝手に変えないで。その小瓶はこっちの玄関、人形は、そこ。その布も勝手に畳まないで」

「なんでよ?このほうが綺麗じゃない!こんなところに香水瓶なんか置いといたらひっくり返すわよ?」

「ちゃんと、理由あって各々必要な場所に置いてるんで。そっちの美的感覚を押し付けないでほしい」


はあ?むっかつくーーー


「そんなに重要なんだったんなら、自分でその位置に戻せばぁ?私、忘れちゃったー」

「嘘だろ、それ」

「なんでよ」

「家の構造なんていう複雑なものはここまで完璧に覚えてて、目の前にあった物の位置を覚えてないなんてあり得ない」

「ぐっ…。てかさ、こんだけの魔法を目の前で見せたのにアナタ全然動じないわね。なかなかお目にかかれないわよこんなの。どうして慣れてるの?アナタ何者?」

「……別に。さっき、馬鹿でかい雷を落とされて、もうこれ以上なにも驚かないっていうか」

「あっそう」


けっ。可愛くないわね。

大規模な修復魔法まで見せたんだから、もっと目を輝かせて感動してほしいもんだわ。

仕方がないから、せっかく整理整頓した小物を元の場所に戻していく。

赤い香水瓶は玄関のすぐ横の椅子の上、人形はソファの端。

画材らしきものも、床に元通りに散らばせてやる。


「そうよ。そもそも、なんで私が雷落とすほど狼狽えたと思ってるの?!あなたが悪いんだからね!ブツクサ言わないでよ!善意で無報酬でやってやってんのよ!」

「あれっくらいで災害級の魔法を喰らって、家を大破されるのは割に合わないと思う」


あれくらい、だとう?!


「な!合うわよ!乙女の純潔をなんだと思ってるわけ?!」

「だから、俺は触ってないって」

「でも、なんかしたんでしょ?!アナタが絵を描いている時だけだもの。どう考えてもアナタが何かしたとしか思えない!」

「描いているだけでそんなことになったのはこれまでないんだけど…君が敏感すぎるんじゃない?」

「アナタねえ…っ」


「ルカ」

「…へ?」

「ルカ、ね。俺の名前。アナタっての、やめて」

「…はあ。…とにかく!私のやったことに恩義を感じないどころか文句ばっかりで…」

「先に君を助けたのは俺だけど」


おほん。


「まあ、そうとも言うわね」

「他にどう言う」


ふーーーー…

いかん。冷静になろう、私。

助けてもらったのは確かなんだから。


と、あれ。

体の力が抜ける。


……ぺたん。


「…?おい、どうした?」

突然しゃがみ込んだ私を、ルカは眉を顰めて覗き込む。

「オナカスイターーーーーーー!」


「は?」


テーブルの前にちょんと座った私の前には、サラダボウルくらいの大きさの器にたっぷりのパン粥が盛られている。

ほこほこと上がる湯気をくんくんと嗅いでみると、チキンスープの香りがした。


「いただき、ます」


木のスプーンは一口には大きいくらいのサイズ。ひとすくいして、ふうふうと息をかけてからそっと口に運んだ。


「…おいひぃ」


トロッとした大きなパンの塊を頬張ってしまったので、ほふほふと口の中で冷ます。

野菜の甘みが滲み出ていて、じんわりと旨みが広がる。


「それはよかった。でも、本当にそんなに食べるの?」


起きがけなのに、とぶつぶつ言いながら、ルカは平らなシチュー皿に同じものを盛って、2人分の水の入ったカップを持ってきた。

一つは木で出来たタンブラー、一つは陶器のマグカップだった。


どこからか追加で持ってきた簡素な木の椅子にルカが腰掛ける。


「あ、私もチキンほしい…」


シチュー皿の横にもう一つ、鶏ハムらしきもののスライスが乗っている皿を目敏く見つける私。


「これは、明日ね」

「えー…」

「君ね、3日も寝てたんだよ?いきなり腹にあれこれ入れたら体に悪いから」

「くう…」


ボウルに盛ると言い張った時もあれこれ文句を言われたが、我を通した。

この燃費の悪い体には、これくらいがちょうど良いのだ。

…チキン、食べたい。

でも、さすがに家主から止められて無理矢理かぶりつく訳にもいかない。


「いただきます」


それから、静かな食事の時間が始まる。

食べながら、時々ルカを観察してしまう。

思いの外、食べ方がすごく綺麗でちょっと見惚れてしまった。


「君、名前は?」

「…ニコリナ」

「ニコリナ、ね。冒険者?」

「そう」

「いつもそんなに食べるの?」

「…そうしないと、もたないの」

「最初にニコリナを拾った時も、オナカスイターってうなされたよ」

「まあ、そうね…その節はアリガトウゴザイマシタ」

「ドウイタシマシテ」


しばらく、カトラリーが静かにぶつかる音だけとなる。


「…アナタここに住んでるの?危なくない?」

「ルカ」

「う…ルカ、さん、は冒険者ではなさそうだけど……この森、魔物が結構出るでしょう?どうしてここに住んでいるの?」


「俺は画家。ここはアトリエ。近くの街に一応家があるけどほとんどここに居る。魔物は、害がない住人であると認めた者には危害を加えない。…たまに例外のやつが居るけど」

「例外?」

「そいつ魔物自体がここの余所者の場合。他のところから流れてきて、住み着こうとする奴なんかは、俺を獲物にしようとする」

「そういう時は、どうしてるの?自分で対処してるの?」


彼は、傍目にはとてもじゃないが戦闘能力が高そうには見えない。


「まあ、大変っちゃ大変だけどね。そこは、まあ、色々と」

「はあ?」

「あ、そうだ。果物とってきたんだ、昨日。それならニコリナでも食えるでしょ。待ってて」


なんか、誤魔化された気がする。

まあいただけるもんはいただきますけども。

デザートを咀嚼しながら睨みつけても、そのあとは目も合わなかった。


持ってきてくれた果物は初めて見たものだったけれど、柔らかくて甘くて美味しかった。


「ふーご馳走さまでした。美味しかったです」

「どうも」

「あ、ねえ。私のエモノ知らない?」

「弓矢のことなら、そこに立て掛けてある」

「ありがとう。じゃ、ちょっと行ってこようかな」

「…安静にしてなくて大丈夫なの?」

「回復魔法もかけたし、ご飯も食べたから大丈夫!ちょっとリハビリがてら、食糧とってきまっす」

「いいのに、そんな」

「いやいや、一宿一飯の礼を欠いちゃあ、冒険者としての名が廃るんでね」

「お礼と言うなら、抱かれてくれたらそれで」

「聞かなかったことにしてあげるから、二度と言わないでね?」

「えー…俺は結構、本気」

「…雷はお好き?」

一狩ひとかりいってらっしゃいませ」

「はーい。いってきまーす」


ざくざくと森を分け入りながら、ふと思う。


ーー結局、『どうしてここに住んでいるか』は教えてもらってないわね。


気怠げな態度をしているが、のらりくらりと大事な話ははぐらかされた。

いろいろと引っかかるところはあったが、とりあえずは命の恩人だ。

悪い人ではない…と、信じたい。

3日も看病してくれたらしいし。


それに、この森にはまだ用事がある。

住人であるというのなら無下にはできないし、関係性は築いておいた方が何かとよいだろう。


森を回ると、確かにルカが言っていたように、元から生息していたであろう魔獣たちによく出会した。


彼らは大抵の場合、群れで活動しているし、何より夜行性なので日中は棲家の近くでのんびりとしているだけだ。

彼らからすると私の方が余所者なので初めのうちはかなり警戒されたが、敵意がないことを示すとあっさりと理解してくれた。


こんな深い森であるのに、人に慣れている。

ルカの存在があるからだろうか。


一方で、迷い込んだらしき魔物は日中というのに森を徘徊して落ち着きがない奴らばかりだった。

目がやたら狂気じみてて、気味が悪い。

正気を失って何かに操られるようにあてもなく彷徨っているようにも見えた。


一応、病み上がりなので、現時点での衝突を避けるべく気配を消して彼らのことはやり過ごした。


これは、忙しくなりそうだ、と舌舐めずりしながら。


討伐対象の魔獣で、食えそうなのが出てくるまで、暇つぶしに薬草やら木の実やらを収穫して回った。


その日の夕方、小山みたいな六角ボアを始めとしたその他の食材をこんもりと背負って戻ってきた私を見るなり、ルカの顔ははっきりと引き攣った。


ありがとうございます。

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