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第4話『参考意見は回収済み』


委員会室に入ったとき、

机の配置がわずかに変わっていることに彼は気づいた。

大きく動かされたわけではない。

角度が少し違うだけだ。


誰かが、使いやすいように直したのだろう。

元に戻す必要はなかった。


その日は、全員が揃っていた。

いつもより一人多い。

臨時参加者がいる、と事前に共有されていた。


理由は説明されていない。

だが、特に不自然でもなかった。


彼は自分の席に座り、

トレーの中の用紙を確認する。

枚数は多いが、内容は軽い。


最初の数件は、

すでに処理済みの事例だった。

念のための確認。

形式的な再確認。


その中に、一枚だけ

文字の配置が少し乱れているものがあった。


書いた人間が、

途中で書き直した跡がある。

消しゴムの痕。

行間の詰め直し。


感情的な表現はない。

だが、筆圧が均一ではなかった。


彼はそれを見て、

用紙を少しだけ横に置いた。


臨時参加者が発言する。

声は落ち着いている。

言葉も整理されている。


「特に問題というほどではないんですが」


前置きとして、十分だった。


内容は、

最近続いている軽微な事例についてだった。

個別では問題にならない。

だが、続くと気になる、という程度の話。


彼は聞きながら、

すでに似た記録があることを思い出していた。


参考意見としては、有効だ。

だが、新規性はない。


他の委員も、同じ判断をしているようだった。

頷き方が似ている。


顧問は来なかった。

だが、議事は滞りなく進む。


「この件については、参考意見として回収で」


誰かがそう言った。

異論は出ない。


彼は、その判断を用紙に反映させる。

必要な箇所だけを修正する。

書き足すことはない。


参考意見は、すでに回収された。

これ以上、触れる必要はない。


臨時参加者は、

少しだけ安堵したように見えた。

だが、それも一瞬だった。


感謝の言葉はなかった。

不要だからだ。


会が終わり、

各自が席を立つ。


臨時参加者が、

彼の近くを通りかかったとき、

小さな声で何か言いかけた。


彼は、聞き返さなかった。

その必要はない。


廊下に出ると、

外の音が一気に戻ってくる。

人の流れに混じる。


帰り道、

掲示板を開く。

匿名の書き込みが、いくつか流れている。


今日の話題に、

かすっているものがあった。

だが、直接的ではない。


参考にするほどではない。

既に回収済みだ。


画面を閉じる。


家に着く頃には、

臨時参加者の表情も、

言いかけた言葉も、

細部は思い出せなくなっていた。


残ったのは、

「処理した」という感覚だけだった。


それで十分だった。


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