第10話『確認は不要』
朝のホームルームは、予定通り始まった。
連絡事項は少ない。
提出物の期限。
行事の再確認。
注意喚起と呼ぶほどでもない補足。
どれも、
すでに一度は聞いた内容だった。
彼は、
ノートを開かない。
書き留める必要がないからだ。
確認は、もう済んでいる。
担任が教卓の前で言う。
「何か質問はありますか」
少し間が空く。
誰も手を挙げない。
「では、このまま進めます」
確認は不要。
そう判断された。
授業が始まる。
板書は整っている。
進行も滞りない。
彼は、
理解しているかどうかを
確かめようとしなかった。
理解していない場合、
何かが起きる。
だが、
何も起きていない。
それで十分だ。
昼休み、
委員会の連絡用アプリに通知が入る。
《本日は特段の対応なし》
簡潔な文面。
誰の判断かは書かれていない。
書く必要がないからだ。
彼は、
通知を開いて閉じる。
既読は付く。
それだけで処理は完了する。
委員会室には行かなかった。
行く理由がない。
代わりに、
校内を一周する。
特別な用事はない。
巡回でもない。
ただ、
いつもの動線をなぞる。
階段の踊り場で、
二人の生徒が小声で話している。
内容は聞こえない。
声量も問題ない。
通報基準には、
引っかからない。
彼は、
足を止めない。
通り過ぎる。
確認は不要。
そう判断した。
放課後、
顧問からメッセージが届く。
《今週は安定していますね》
返信は求められていない。
評価でもない。
状況の共有だ。
彼は、
スタンプも送らない。
反応しないことも、
一つの対応だ。
帰宅後、
机に向かう。
ノートを開く。
昨日と同じ白さ。
今日は、
何も確認していない。
だが、
何も問題は起きていない。
それは、
正しい状態だ。
彼はそう理解している。
それでも、
確認しなかった判断が、
少しだけ残っている。
使われなかった確認。
それが、
どこに行くのかは分からない。
分からなくても、
確認は不要だ。
彼は、
ページをめくらず、
ノートを閉じた。




