調査1 猟犬と猟師 報告完了
ー警視庁 情報解析課ー
二階堂と情報解析課の担当者は、一枚のモニターを睨みつけていた。
映像は、野球スタジアム爆破当日の、爆発した電光掲示板周辺のものだった。
犬飼は、二階堂の姿を見つけると、走っていた脚をとめ、彼のそばにやってきた。
「二階堂さん〜!置いてかないでくださいよ〜」
犬飼が泣き言を言っているのに、気づいていないのか、二階堂はジッとその映像を眺めていた。
「犬飼。大谷が供述した時限爆弾の時間は何時だ?」
画面から目を離さない二階堂の様子に戸惑いながら、犬飼は答える。
「えぇ・・・っと、午後3時ちょうどだと言っていました」
「そうか・・・。すまないが、午後3時の映像をもう一回見せてもらえないか?」
「はい」
情報解析課の担当者は、二階堂の指示通り、午後3時の映像を流した。
内容は凄惨なものだった。午後3時になった瞬間。電光掲示板が爆発し、破片が周囲に吹き飛んだ。柱の支えを失った電光掲示板は、スノーボードのように滑り落ちていった。
まるで、おろし器にかけた野菜のように、人が轢かれていった。最終的にバッターボックスのあたりまで雪崩れ込んでいき、大きな土煙を上げた。
「酷い・・・」
犬飼は、思わず感情を露わにした。対象的に二階堂は、ジッとその映像を観察する。
「もう一回、午後3時で止めてくれ」
「はい」
情報解析課の担当者は、再度二階堂の指示通りに映像を操作する。午後3時ぴったりに止めた。
「やはり・・・」
二階堂が納得したが、犬飼はイマイチわかっていない様子だ。
「やはりって何スか!?何がわかったんすか!?」
「映像を見てみろ」
二階堂に促されるまま、犬飼は静止された映像を見る。それは、驚くべき内容だった。
「設定時間に爆発してない・・・?」
大谷の供述では、午後3時ぴったりに爆発するように設定したと言っていた。しかし、実際は・・・。
「爆発はこの後、午後3時00分00秒01で爆発している」
二階堂は冷静に爆発した時間を読み上げる。
「それは・・・誤差の範疇なのでは?」
犬飼は、ひとつの仮説を挙げた。時限爆弾とはいえ、手作りのものだ。多少の誤差は生まれるだろう。
「誤差だと思うのもわかる。だが、今回の件で引っかかることがある」
「引っ掛かること・・・?」
犬飼は、二階堂に尋ねる。その表情は、混乱と不安が混じったものだった。
「ひとつ、犯人の動機があること。ふたつ、その割には犯行計画がずさんなこと。みっつ、爆弾の作り方はでたらめだったのに、しっかり爆発したこと。最後に、ほぼ誤差なく爆発したこと」
「ひとつ目とみっつ目はわかるのですが、最後はなんでですか・・・?」
二階堂の考えを理解しようと、犬飼は彼にさらに尋ねた。二階堂は、鋭い眼光でそのまま答えた。
「完璧すぎるからだ」
「え・・・?」
犬飼は理解が追いつかないといったふうな様子だ。二階堂は彼のために、自分の考えを丁寧に開示する。
「プロでもない限り、ぶっつけ本番の手作り爆弾を誤差なく、爆破させるのは難しい。・・・素人でも専門知識があれば別だが、大谷は根っからの文系・・・事前に専門知識があったとは考えにくい」
「確かに」
犬飼が理解の入り口に立ったと理解した二階堂はそのまま推理を続ける。
「だから、俺はひとつ仮説を考えた。第三者の協力・・・しかもその道のプロの力を借りた。そう思えば、この矛盾だらけの犯行に説明がつく」
「え?でも、大谷は・・・」
犬飼は、すぐに二階堂の仮説への矛盾点を述べた。大谷は、逮捕後すぐに犯行を認めた。その際にはっきりと言ったのだ。“全てひとりで行った”と。
その事実があるからこそ、犬飼は二階堂の主張に賛同できなかったのだ。そこについては、2回ども理解している。
「あぁ・・・嘘発見器やサーモグラフィーでの判定。さらに別室の精神科医の判断でも、嘘はついていないと確認されている」
その事実があるからこそ、二階堂は違和感を覚えたのだ。
「だから・・・違和感なのだ。本人が矛盾や無謀だったと思うことなく、完璧に犯行計画が実行できたことに」
犬飼は二階堂のその言葉を聞いてハッとする。
「この事件・・・ただの偶然の産物じゃない・・・」
二階堂は確信を持って呟く。そのふたりのやりとりを、物陰から監視している人物の視線に気づかないまま・・・。




