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調査1 猟犬と猟師 その1

ジリリリ・・・!!!


けたたましい非常ベルが鳴り響き、小さな商店街にある宝石店から、袋を抱えた男が飛び出してきた。


彼はそのまま、商店街をまっすぐ走る。その逆方向の車道から、ひとりのスーツ姿の男が車から出てきた。彼は、クラウチングポーズ取ると、ドンッっと走っていった。


彼の名前は、犬飼。学生時代陸上10種目で全てのメダルを獲得した、陸上のエキスパートだ。特に走りでは、日本新記録を樹立している。


彼は、その高すぎる正義心が故に、学生時代に数多くの大学推薦を断り、警察学校へ入学した変人である。


ト、ト、ト、トッ


犬飼は、美しいフォームで軽快に走る。その走りには、まだ余力があるようだ。そうこうしていると、あっという間に、犯人の背中が近づいてきた。彼は手を伸ばすと、犯人の襟を掴んだ。


「捕まえ・・・た!!」


「ウッ!!」


襟を勢いよく掴んだせいで、犯人の首が詰まったが、命に別状がなさそうなので、犬飼は放っておくことにした。


車を降りて、犯人までの距離は約500mあったが、物の数秒で追いついた。犬飼に息切れはない。


「はい!現行犯ね〜」


犬飼は、犯人の襟を掴んだまま、応援を呼ぶために通信機を操作するため、一瞬目を離した。


その瞬間。


犯人が持ってた果物ナイフがきらりと光り、犬飼に向かっていった。それに寸前のところで気づいた犬飼は、犯人の襟から手を離し、防御体制をとった。


チャッ


犯人の振りかざした果物ナイフは、犬飼の服を切り裂く、咄嗟のことで犬飼は少し怯んでしまった。


犯人はその隙を見逃さず、そのナイフを使って通行人を脅し、バイクを奪って逃走した。


「あ!待て!」


犬飼の静止を聞かず、犯人はそのまま、商店街を突っ切り、車道に出て逃走を開始した。犬飼もその後を追うが、犯人が車道に出たタイミングで、足が止まってしまった。


「・・・うーん、どうしよ・・・」


犬飼が頭を数回かくと、耳につけていた通信機から声がした。


「犬飼。待てだ」


「二階堂さん!」


犬飼は、二階堂の指示を待ってましたとばかりに受け取る。しばらくすると、二階堂のスポーツカーが犬飼の前に止まった。


スポーツカーのドアが開き、犬飼は素早く乗ると、シートベルトを閉め、パトランプをスポーツカーの屋根につける。


「星は?」


「国道沿いをまっすぐ、走行していきました」


犬飼の手短な報告に、二階堂はレバーを動かしながら、呟く。


「犬飼が見逃した秒数と方向から、あの辺り・・・かな」


そう言い終わるや否や、アクセルを強く踏み込んだ。


「うわわわ・・・!!!」


いきなり襲ってきたGに戸惑いながらも、犬飼はパトランプをオンにする。


スポーツカーの屋根に赤いランプが光り出した。そしてけたたましいサイレン音も、しかし、その車の影を目で追えない。


二階堂の精密なハンドル操作と予測で、避ける車の間を縫うように進んでいく。しばらく飛ばすと、犯人の背中が再度見えてきた。


「犬飼。口閉じてろよ」


「ヒャい・・・」


二階堂はそういうと、広い交差点目掛けてアクセルを思いっきり踏む。犯人を追い越したその瞬間。ブレーキを思いっきり踏み、ピンカーブのような動きをする。


「うわッ!」


犯人が驚いたのも束の間、二階堂のオープンカーに激突し、横転した。すぐさま、オープンカーのドアが2枚開く。


「はい。窃盗及び道路交通法違反で逮捕です」


犬飼が罪状を言うと、今度はしっかりと手錠を犯人にかける。それを横目に、スポーツカーの屋根に肘を置きながら、本部と連絡を二階堂が取っていた。

ー警視庁捜査一課ー


窃盗事件の犯人を担当者に渡し、報告書を作成後、自分たちの部署がある。警視庁捜査一課に戻ってきたふたり。


犬飼と二階堂は大きなヤマを捜査していた。


4ヶ月前の野球スタジアム爆破事件についてである。犬飼は捜査資料を見返した。


あの事件は、大惨事だった。


死者87人。重軽傷者に至っては、1万人を超えている。そして何より、将来メジャーを約束されていたバッターも犠牲になった。


この悲報は、多くの野球ファンを悲しみのどん底に陥れ、連日そのバッターを惜しむ会と称して、爆破されたスタジアムでお通夜を行っている。


「やっぱり・・・酷い話っすよね」


犬飼は今回の事件に、静かに怒りを露わにする。二階堂は現場検証の資料に目を通す。


「そうだな。しかも、電光掲示板の裏から、複数の小型爆弾が発見されている・・・つまり、事故ではない」


「!!」


二階堂の追加の事実に犬飼は驚きを隠せなかった。そして怒りも。


「〜ッ!許せないっす!!こんな!こんな残酷なことをやってのけるなんて・・・外道っす!」


「犬飼・・・落ち着け」


二階堂は静かに、冷静に、犬飼に声をかける。その手は、捜査資料を片っ端からまとめ、その目はその内容を一字一句見逃さない、鋭い眼光を資料へと向けている。


「怒ることなら、一般人でもできる・・・俺らは、それを牙として研ぎ、奴ら(犯人)を捕まえられる」


「二階堂さん・・・」


「だから、地道でも捜査するぞ。犬飼、今も悲しんでいる遺族のために」


二階堂は長年の徹夜で、少しやつれ気味だが、その目は死んでいない。犬飼は、血色のいい肌をさらに良くさせ、腹から声を出した。


「はい!!!」


「・・・うるさ・・・」


いつものやりとりを終えた後、ふたりは資料の整理に戻る。犬飼は、疑問を素直に口に出す。


「そういえば、犯人ってどうやって爆弾を仕掛けたんスかね?」


二階堂は、犬飼のその疑問に手を止める。


「確かにな、鑑識の報告では、爆弾は少なくとも200以上は設置されてたんじゃないか?と言う話だ」


「に・・・200!??」


二階堂の話に、犬飼は驚きを隠せず、声を荒げた。それは、二階堂の耳の鼓膜にダメージを与えるには十分だった。


「・・・うるせぇ・・・」


「あ!すんません」


犬飼は、すぐに鑑識の資料に目を通す。


「爆弾は、自作っぽいですね。ニュイッチの半分ぐらいの大きさって感じっすね」


「ニュイッチ・・・?」


二階堂が、犬飼の例えがわからず、眉を顰める。犬飼はその様子をニヤニヤしてみる。まるで、小学生のような悪ガキさで。


「え〜?二階堂さん、ニャンテンドーのニュイッチ知らないんすか〜?抽選でしか買えないぐらい人気なんすよ〜?」


犬飼は、二階堂の知らないことを説明できるのが、嬉しいのか。口角が上がりっぱなしだ。それを二階堂は、じっと聞いている。


「二課が言ってましたよ〜。転売ヤーが後を経たないって〜二階堂さん知らないんす・・・ブ!!!」


犬飼が、さらに知識マウントを取ろうとしたので、二階堂のアイアンクローが犬飼に炸裂した。


「あだだだだ・・・!!!ギブ!!ギブっす!!!」


その言葉に、二階堂はすぐに手を離した。


「集中しろ」


「あい・・・すいまてん・・・」



二階堂と犬飼は、捜査資料を一通り整理し終わった後、監視カメラの映像を見ることにした。犯人が、いつ頃スタジアムに侵入したか、調べるためだ。


「警備会社のシフト、巡回ルートそしてスタジアム側の電光掲示板の点検の話を重ねると、犯人は午後11時〜午前1時の間にスタジアムに侵入したと考えられる」


二階堂が、ホワイトボードに情報を書き込みながら、整理する。犬飼は、情報解析課の担当者と一緒に監視カメラの映像を見ていた。


「・・・と言っても、スタジアム周辺の防犯カメラだけでも、数十台あるのに、時間絞れてもその時間のカメラをしらみつぶしに探すのは、骨が折れるっすよ〜」


犬飼は涙目で二階堂に悲痛を訴えた。新品だった目薬は、半分まで減っている。


「だから、場所と細かい時間を割り出してるんだろうが」


二階堂は、ホワイトボードと睨いあいながら、ボソボソと自分の考えを整理していた。


「犯人は、最短でスタジアムの電光掲示板に向かったはず、とすると考えられる侵入経路は・・・」


二階堂のホワイトボードに情報を書き込む音だけが、部屋を占拠していた。そして、その音が止まる。


「犬飼。出入り口F側にある従業員出口周辺の防犯カメラの映像を確認してくれ、時間は午前12時からでいい」


「あ・・・?は、はい!!」


犬飼は二階堂の指示の通りに、指定された場所の監視カメラの映像を、その時間帯に合わせる。


「二階堂さん!!ビンゴっす!午前12時7分ごろにでっかいバックを持った男が侵入しています!」


「よく見つけた」


二階堂は犬飼が作業しているデスクまで歩くと、そこに座っている犬飼の肩にポンッと手を置いた。


「見せてくれ・・・」


二階堂の指示で犬飼は、映像を巻き戻し、侵入の瞬間を彼に見せる。彼の眼光は鷹のように鋭くなっていく。


「そのまま早送りしてもらえないか?」


キュルルル・・・


早送りを開始し、録画が表示している時間が午前1時49分ごろに差し掛かった頃。侵入したドアから犯人と思しき男が出てきた。


「君、この映像を拡大できないか?犯人の顔を知りたい」


二階堂は顔を上げて、情報解析課の担当者に声をかける。担当者はすぐに立ち上がり、彼の元へ向かう。


「はい、やってみますね」


犬飼とすぐに席を交換し、担当者は着席すると、慣れた手つきでパソコンを操作した。すると、顔がしっかりと見えた。


「これを共有いただきたいんだが、可能かね?」


「はい!すぐに二階堂さんの端末に送っておきますね!」


担当者はそういうと、流れるような手つきで操作し、画像を二階堂の端末に送った。


「ありがとう。いくぞ、犬飼」


「はい!!」


二階堂は情報解析課の担当者に、この映像から犯人の足跡を辿り、新しい情報があったら共有してほしいと指示を出し、その場を後にした。



ふたりは署内のパソコンから、過去の逮捕者のデータベースを洗っていた。


「うーん・・・この顔での照合はできないっすね」


「と言うことは、初犯か・・・?」


二階堂は、最初の違和感を覚えた。


(こんなに大胆な事件を起こしたと言うことは、経験者かプロの犯行かと思ったが・・・)


後にその違和感が輪郭を持ってくるとは、二階堂は思いもしなかった。


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