救済1 野球スタジアム爆破計画 完遂
ースタジアム爆破まで後9分ー
野球マンのターゲットであるバッターが放ったホームランは、電光掲示板の裏にある起爆の親機に不具合をもたらした。
命をかけて、手動での起爆を試みる山田と古賀に1通の着信がかかってきたのだ。
山田は、着信が来ている携帯をゆっくり出すと、スピーカーモードにして通話を始める。
「なんだ?」
「爆弾の親機が起爆しないんだろう?助けてやる。親機の位置を教えろ」
挨拶もない物言いに、山田は眉を顰めたが、古賀は違ったすかさず、山田の携帯のスピーカーに顔を寄せた。
「電光掲示板の裏!正面右斜め上のポイントです!唯一赤いランプが点滅しているので、わかるかと!」
古賀の正確な案内に、しばらくの静寂の後、スピーカー越しに声がする。
「・・・発見した」
山田と古賀が一斉に安堵する。しかしその後、声の主はとんでもないことを言い出した。
「で?報酬は?」
起爆まで残り4分前。
「ハァ!?後でで良いだろそんなもん!!」
山田がスピーカーに向かって叫ぶ。通話相手は冷静だ。
「こういうのは先に決めるのが俺の主義だ。それにお前らの命を助けてやるんだ。当然だろ?」
「このやろ〜!!!」
山田が臨戦体制を取ろうとしたそのとき、古賀が横から話しかける。
「僕たちがもらうはずの、今回の真白ポイントを半分渡します!!」
信者にも真白ポイントがあり、貯まると真白に会える権利と交換できるが、犬たちは違う。
設定されたポイントに達すると、願いをひとつだけ叶えてくれる。つまり、真白の犬から脱却できるのだ。
電話の相手は、今回もらえる分を渡せと言っている。
起爆まで残り2分。
「・・・足りないな・・・」
その発言は、ふたりを絶望させるには十分だった。山田は叫ぶ。
「じゃあ、いくらだったら良いんだよ!?」
通話相手は、わざと回答を溜めているようだった。しばらく待つと回答が返ってきた。
「・・・真白ポイント⅔だ・・・。お前らのミスが原因なんだから当然だろ」
起爆まで残り60秒。
「んな!?」
山田は驚愕して、言葉が詰まってしまった。頭が白くなっているようだ。そこに、古賀が叫ぶ。
「それで良いです!!!」
起爆まで、30秒。
「・・・交渉成立だ」
パヒュッ
風を切る音が一瞬したと思ったと同時に、爆弾の親機が爆発した。それに誘爆されるように他の子機が炸裂する。
さっきまで、興奮に溢れていた歓声は今は絶望の叫びに変わっている。
「古賀!巻き込まれる!ズラかるぞ・・・!」
山田と古賀は、爆発の怒号と火薬の匂い、電光掲示板が崩れる音、人が逃げ出す足音が混ざり合っていた。
逃げる最中に山田は確認するために振り返る。炸裂した爆弾は計画通り電光掲示板を落とし、野球マンのターゲットのサポーターをすりつぶすように落ちていった。
そして、バッターボックスに立っていた、あのバッターも巻き込まれていった。
(・・・任務は完了だな)
山田は安堵したら良いのか、悲観すれば良いのかわからない感情を抱えながら、その場を後にした。
ふたりは入り口付近にいたため、すぐに脱出することができた。
しばらく歩き、駅の反対側まで行くと、先ほど山田たちに連絡をとってきた男が立っていた。
あんなあやとりの橋みたいになっている、鉄の柱に針の糸を通す精密さで、標的を打ち抜く芸当ができるのは、山田達が知る中では、1人しかいない。
「いるなら言えや・・・ジェット」
ジェットは、黒いキャップを深く被り直し、山田たちと合流する。古賀は相変わらず、人が良い笑みをジェットに向けた。
「助かりました。ありがとうございます。ジェットさん」
ジェットは、口をモゴモゴさせている。山田と古賀は彼の言葉を聴くため、顔を近づけ、耳を澄ます。
「・・・次元⚫︎介なら、もっと正確だった。中心から2mmズレていた・・・」
(聞かなきゃよかった)
山田は今日一番後悔した。
そう、ジェットは無類の次元⚫︎介オタク・・・否、信者である。彼は次⚫︎大介のことを、師匠と本気で崇めている。⚫︎元大介の言葉が、彼の教典である。
そこまで敬愛しているジェットだが、山田が納得できないことがひとつある。
「次⚫︎大介に憧れてんなら、帽子もおんなじのかぶれや!!」
「次元大⚫︎さんが、愛用してる同じ帽子なんか、恐れ多くてつけれるわけないだろ!!」
今までのクールな印象はどこへやら、ジェットは次⚫︎大介のことになると、冷静さを失ってしまうのだ。
「相変わらずですねー、ジェットさんの限界オタクぶりは」
古賀はいつものことなので、そう言って受け流している。そうしていると、ジェットの次元大⚫︎愛に火がついたようだ。
「お前も!あんな体たらくを晒して、⚫︎元大介さんの相棒、ルパン⚫︎世だったら、あんなヘマはしない!
「そもそもアニメのキャラと、俺らを比べんなや!」
「次元⚫︎介さんを、その辺のアニメキャラと一緒にすんじゃねぇ!!!」
山田がすかさず言い返す。ジェットも間髪入れずに返す。その様子は、高速餅つきのようだった。
山田とジェットのしょうもない喧騒は、爆発し排煙を撒きながら崩れる野球スタジアムと、観客の悲鳴とパトカーのサイレンにかき消されていった。
…
ー野球スタジアム爆破事件から1週間後ー
「ん〜!美味しいです〜」
古賀は上機嫌で、金座にあるフルーツパーラーで、幸せそうに限定のパフェに舌鼓を打っていた。古賀からは景色が見えるので、それも合わせて最高の味わいである。
山田はその様子を、コーヒーを飲みながら眺めている。
「そーかよ。朝から並んだ甲斐があったな」
その様子は、ぶっきらぼうに見えながらも、笑っているようだった。古賀は、限定パフェをゆっくり味わいながら、山田を見る。
「妹さんも連れてくれば、よかったのでは?」
古賀の問いに、山田のコーヒーを飲む手が止まる。
「妹は・・・病院で寝てるんだ・・・かれこれ2年起きない」
「それって・・・」
古賀が神妙な面持ちで尋ねる。隠しても無駄だと観念した山田が重い口を開く。
「もともと難病だったんだがな・・・俺が天使の手を取っちまったから、悪魔が死ぬギリギリまで妹の病気を進行させたんだ・・・」
「そんなことが可能なんすか・・・?」
山田は自傷気味に答える。
「さぁな。未開の部族にまで信者がいるんだ。何をされても不思議じゃない」
古賀は、真白の想像を超えた影響力を目の当たりにし、思わずパフェを食べる手が止まってしまった。彼は目を伏せ、紅茶の紅を見つめる。
「じゃあ、ポイントを貯めたら願う願いは、僕たちとは違うんですね」
「あぁ」
山田は諦め気味に、しかし強く言う。決意を表明するかのように。
「俺はポイントを貯めて、妹を自由にする」
そう宣言した彼は太陽を味方にしているように、輝いて見えた。
「僕は応援しますよ・・・山田さん」
「ありがとな。古賀」
ピコンッ
日常が終わりと告げんばかりに、黒井からメッセージが届く。
さて、次は何をさせられるのか?全ては、真白様の御心のままに。
つづく




