救済1 野球スタジアム爆破計画 その5
ースタジアム爆破まで43分前ー
古賀は爆弾が起動しないことを山田に伝えた。山田は彼のその言葉に、頭が真っ白になりかけたが、すんでのところで持ち直し冷静さを保った。
「どういうことだよ!?古賀・・・!!」
古賀は山田の叫びに反応する余裕がないのか、一心不乱にノートパソコンのキーボードやタッチパッドを叩いている。
ピコンッ
ノートパソコンの解析結果が出たのか、古賀は食い入るように画面を見る。その結果を理解すると、古賀はノートパソコンを乱雑に閉じ、壁のもたれかかる形で項垂れた。
そして、歓声に満ち溢れたスタジアムの照明を遠くで見つめた。
「終わりだ・・・もう・・・だめです・・・」
いつもの古賀は控えめだが、自信がある物言いをする。だが今は打って変わっていた。山田は彼がこうなった原因がわからず、苛立ちを覚えた。
「〜ッ!だから!!何が終わりなんだよ!?」
山田はしゃがみ、古賀の肩を掴んだ。その反動を利用して、首が座っていないほど、脱力した古賀と目線を合わせる。
「話せ・・・!!古賀!」
山田と目があった古賀は、その無気力だった表情をくしゃっと歪ませた。
「〜ッ!!親装置が壊れている!原因は4回表!野球マンのターゲットのバッターが打った、ホームランだ!!」
その言葉に山田はハッとする。爆弾起動を見届けるために現場に来ていて、その退屈凌ぎになぁなぁで見ていたのを悔やんだ。
4回表、野球マンのターゲットがホームランを打ったのだ。玉は弧を描くように宙を飛び、爆弾を仕掛けた電光掲示板に当たったのだ。
そのとき、ふたりは一瞬不安になり、古賀のノートパソコンで確認したが、その時点では無事であるシグナルを確認していた。
「盲点でした・・・まさか、時差で誤作動を起こすなんて・・・」
古賀はまた顔を俯かせる。
「これは、野球マンのミスじゃないです・・・油断した僕らのミスです」
そして、頭を掻きむしる。
「あぁあ!!・・・どうせ死ぬなら、金座のパーラーのパフェ、早朝並んででも食べればよかった・・・」
山田は古賀の姿に苛立ちを覚えた。なぜなら。
「まだ!!“終わった”って決まってねーだろ!!」
FBIの工作員として活躍している山田にとって、この状況は危機でもないんでもない。ちょっと道が混んでるぐらいの困難だ。
古賀は、頭を掻きむしっていた手を止めて、絶望の眼で山田を見る。
「終わりですよ・・・爆弾は起爆しない。ミッション失敗した犬の末路を、知らないわけじゃないでしょう?」
真白の天啓を達成できなかった犬は、その日のうちに死を遂げる。これに例外はない。
古賀は震えながら、縮こまる。
「どこに逃げたって無駄です。世界で指名手配されていた脱走のプロだって、逃げきれずに死んでしまったんですから・・・」
山田は古賀の肩を掴む。強引に古賀と目線を合わせる。
「諦めるな!!!お前は世界中が恐れるハッカーだろうが!!!」
「〜ッ!!!」
「今まで、お前が周りから、不可能だと言われていたセキュリティーを突破したことを、思い出せ!!!」
ちなみに、山田の属するFBIは、何度も古賀にセキュリティーを突破され、プロフィールを書き換えられている。山田もその例外ではない。今まで変えられた名前は数知れず。
『ふんどし侍山田』『山田100%』『とにかく明るい山田』などなど。
しかも、すぐに書き換えられないように、古賀自作のウイルスも組まれているので、システムが治るまで、その名前を組織で使うしかなくなってしまうのだ。
古賀は、山田のその様を自宅のパソコンで笑いながら、見ていたのを思い出した。
「・・・そうだね!山田さん!」
「テメェ・・・今しょうもないことを思い出しだろ!?」
山田の言葉に、古賀はいつもの人の良い笑みで返した。
…
ースタジアム爆破まで29分前ー
山田の言葉で落ち着きを取り戻した古賀は、もう一度、ノートパソコンと睨み合う。
「やっぱりダメですね。オンラインで修復可能か試してみたんですけど、スタジアムに人が多すぎて、軽い電波障害が起きてて難しいです」
「そうか・・・無線での起爆は?」
山田の問いに古賀は首を横に振った。
「親機が生きてたら、何かあったときように、こっちで無線使って、遠隔で起爆できるようにしてたんですけど、親機自体が動かないのでなんとも・・・」
山田は、その報告を聞くと意を決したように、古賀の方を向く。
「・・・じゃあ、手動だったら起爆できるのか?」
「現状を踏まえたら可能ですけど・・・ってまさか!?」
古賀の問いに答えることなく、山田は歩き始めた。その方向は、爆弾付きの電光掲示板である。
「待ってください!!!死にますよ!?」
古賀が山田の右腕を掴んだ。山田は歩みを止めない。力の差から考えて、山田の方が力があるので、古賀は立ったまま、少しずつ引きずられる形になる。
古賀は力では止められないと悟る。
「〜ッ!!山田さん!!仮にあなたが手動で押しに行ったって、野球マンがそれを見ていたら、僕らの存在がバレる!どっちみちゲームオーバーです!」
そう、野球マンは、この事態を知らない。爆破時刻になったと同時に、ここが惨事になることをいまか今かとなっている。
当然、電光掲示板も監視しているだろう。
「それでも!!起爆できれば!お前は生きるかも知れねーだろ!!」
山田は、古賀の手を振り払い叫ぶ。古賀は初めて怒りの感情を表情に出した。
「山田さんは、死んでしまうじゃないですか!?」
古賀は今まで出したことない音量に、喉がひりつきながらも、山田の右腕を再度掴む。さっきより力を込めて。
「俺は良いんだ。こういう仕事してるし、命かけることには慣れている・・・だが!これに失敗したら、俺だけが死ぬわけじゃない・・・」
「どういうことですか?」
古賀は怪訝な顔をする。山田は古賀に背中を見せているため、彼から山田の顔は、はっきり見えない。
「古賀は、あの悪魔とどういう取引して、弱みを握られたのは知らねぇ・・・だが俺は、失敗したら死ぬんだ・・・妹が・・・」
「・・・え?」
山田と古賀は一年ちょっとの付き合いだ。しかし、お互いのことは名前と性格とスキル以外は知らない。
山田に妹がいるということと、失敗した際の代償は己の命だけではないこともある、という事実に、古賀は二重の驚きを隠せなかった。
「世界でたったひとりの家族なんだ・・・だから死なせたくない・・・」
古賀の山田の右腕を掴む力が緩む。それを感じ取ったのか、ゆっくりと山田は自分の腕を古賀の手から離す。
「・・・ありがとうな・・・古賀。俺が起爆できたら、命乞いのチャンスぐらいはあるだろ・・・上手くやれよ」
「山田さん!!!」
起爆まで残り10分を切った。
切迫している2人の間に、山田の携帯から着信音が、その空気を切り裂くようになった。
ピリリッピリリッ
その音は、ふたりの運命を変えることが、できるのか。山田と古賀は目を合わせ、山田はゆっくりと携帯の通話ボタンを押した。




