救済1 野球スタジアム爆破計画 その3
ー真白の天啓から11日後ー
野球マンが出社したのを確認し、山田は数人のマンションの管理人と共に、野球マンのマンションにいた。
目的は、野球マンが部屋で作っているはずの爆弾の進捗確認である。
山田は、マンション管理会社からきた真白信者に指示を出す。
「他の住人に怪しまれないように、“彼”の部屋に入れてくれ」
「かしこまりました。全ては真白様のために」
山田は真白信者の言葉に、げんなりしながら、彼らの後をついていく。
彼らは、マンション管理会社からやってきただけあって、住人がいない時間帯を完璧に把握していた。
おかげで誰にも会わずに、野球マンの部屋にたどり着き、中に入る。
「うわぁ・・・警戒心ないな」
野球マンは、まさか管理会社の人間が本人の許可なしに、部屋に入るとは思っていなかったのか、爆弾を数十個作成したままにしていた。
山田は、ゴム手袋越しに爆弾の様子を見る。
「あー・・・こりゃダメだ・・・起爆しねぇ・・・」
山田は、その場でしゃがみ込み項垂れた。頭痛もしているようだ。実際に頭が痛いのだろう。
彼は少し考えて、玄関に待機しているマンションの管理人たちに声をかける。
「今から正しい作り方を教える。隔週で侵入して、バレないように、正しい爆弾を作成しておいてくれることは可能か?」
「ハイ!真白様のためならば!」
(内容はともかく、良いお返事だこと)
山田は信者の真白への信仰っぷりに、引きつつも、彼らに正しい爆弾の作り方を教えてた。
そして、浸入した痕跡を完璧に消して、部屋を出る。鍵をかけ、退散するために廊下を歩いていた。
「あら〜管理会社さんじゃないの〜!?どうしたの〜?」
このマンションに住んでいる住人に、声をかけられた。
(チッ!想定外の爆弾設計修正で、時間がかかっちまった!)
山田が内心焦っていると、管理会社のひとりがにこやかな顔を隣人に向ける。
「いや〜・・・ガス安全装置が誤作動しちゃったっぽくて、様子を見にきたんです〜」
「あ!そうなの!?お疲れ様〜!」
管理会社の人の言い分に納得したのか、住人は部屋に入って行った。山田は小声で、前にいた管理会社の人間に声をかけた。
「助かった・・・」
「いえ、あとは上手くこちらで誤魔化しておきますので、ご安心を・・・」
野球マンより、頼りになる管理会社の人間たちが山田の指示通り、隔週で彼の部屋に侵入して、爆弾を正しく修正してくれた。
一方、野球マンはというと、古賀にカスタマイズされたAIチャットで、調べた爆弾制作の手順通りにせっせと作ったら、完璧な爆弾が出来上がって行った。その結果を得て、彼は自分のことを天才だと、自画自賛したのは別の話。
山田たちのフォローのおかげで、電光掲示板に設置するのに必要な、256個の爆弾を作成することができた。
そう、野球マンの計画が、現実味を帯びて行ったのだった。
…
ー真白の天啓から46日後ー
やっと、野球マンが電光掲示板へ爆弾を仕掛けに行った。
彼は彼なりに、この球場に何度も足を運び、夜間警備員が手薄になる時間を調べ上げたのだ。そして、点検のために電光掲示板が客席に降りてくる時間帯も。
野球マンが、レンタカーで野球場にやってきた。それを見守るように、物陰にふたりがいるとも知らずに。
「一応、ここ1ヶ月ぐらい、警備員を真白信者へ変えて正解でしたね」
「あぁ・・・そうだな」
古賀が携帯を操作している。真白信者へ指示を出しているようだ。
「というか、なんで今日なんだ?」
「・・・山田さんって野球興味ないんですか?」
質問を質問で返されて、山田が不機嫌になっていると、それを察したのか、携帯の操作を止めないまま、古賀が口を開く。
「明日は、黒井さんが言ってた野球マンの因縁のバッターが、試合に出る日ですよ」
「あ・・・」
「・・・山田さん、もしかして・・・忘れてました?」
古賀の疑惑を振り払うように、山田は否定する。だが、FBIとは思えないほど動揺していた。
「ふふ・・・山田さんも忘れることってあるんですね」
山田は恥ずかしさからか、これ以上古賀と会話をするのをやめて、眠気覚ましのコーヒーを口に含んだ。
しばらくすると、野球マンが野球場から出てきた。上手いこと、警備の目を掻い潜り、爆弾を設置できたことに興奮しているのか。バタバタと走っている。
(んなバタバタ走んな、俺が警備員だったら職質してんぞ)
山田が冷ややかな目で、野球マンを見守る。
レンタカーの前で少し転び、鍵を取り出す手は震えていたのか、2-3回落としてしまっていた。なんとかレンタカーのドアを開けて、車を発進させ、その場を去った。
山田はその様子を見守りながら、コーヒーを飲み干した。
「さーて・・・行きますか!古賀〜」
「はい」
ふたりは、野球マンが設置した爆弾が無事に設置できているか、確認するため野球場の中に入る。
まさか、ここから命懸けの行動をするハメになるとは、思わずに。




