救済3 ステージを盛り上げろ! その2
ー万代田 某所ー
建設中のビル工事現場に入ると、地下に案内された。そこからエレベーターで降っていくと、地下格闘技会場だった。
後藤は、山田に耳打ちをする。
「この前は、偉い大袈裟に言いましたが、山田さんにやっていただきたいのは、八百長ですわ」
「八百屋?」
後藤が所属している組は、この裏格闘技の主催者側である。後藤はあくまで、組関係なく個人的に参加しているという立場をとっている。
しかし、今回はかなり大きな大会なので、賭け金も多い。そのため、山田には決勝まで勝ち進んでもらい、決勝で負けてもらうことで、後藤の組は賞金をもらおうという魂胆なのだ。
(そりゃ、決勝まで行ける実力があるやつが欲しいわけだ)
山田は後藤の方を向き、今回の依頼内容を確認する。
「要するに、大会を盛り上げればいいってことだよな?」
「流石、山田さん。話の理解がお早い」
後藤の返答に、軽い笑みで返すと歓声が響く地下格闘技場へ歩みを進めるのだった。
…
順調に勝ち進む山田、現役FBIを舐めてもらっては困ると言ったように、元プロボクサーをアッパーでダウンさせた。
後藤は山田に拍手を送る。
次の試合、どうせ俊敏さだけで勝てたようなもんだろうと、山田を舐めていたプロレス選手には関節技を決めて、レフリーによる試合続行不能まで持っていき、勝利を収めた。
後藤はその結果にも満足そうに拍手を送る。
そうして試合は進み、決勝戦まで山田は勝ち進んだ。
「いや〜お強いですね。山田さん」
前日までの使えなかったら東京湾に沈めようとする態度とは打って変わって、後藤のその目は尊敬の眼差しに変わっていた。
「とんでもない。相性が良かっただけですよ」
山田は謙遜するが、その態度は得意げだ。後藤は少し神妙な面持ちに変わった。
「次の対戦相手は、俺もよう知らんのですわ。ですが、向こうはこのこと知らへんですし、適当なところで負けてください」
「そうは言っても、何ラウンドまで粘った方がいいとかあるだろ?」
山田は後藤からの依頼を完遂するために、八百長の細かい条件を確認しようとした。何ラウンドで負けるなど、条件が細かければ細かいほど賭けに勝ったリターンは大きいものだと理解しているからだ。
「そうですね...オッズが高いのは“第1試合で勝つ”なんで、それ以外で負けていただければと...」
「わかった」
山田は短く後藤に了承を告げると、準備運動に入った。後になって、これを確認せずに第一試合で負けていればよかったと心底後悔することになる。
…
会場のボルテージは最高潮に達していた。なぜなら、裏格闘技の決勝戦の時間になったからだ。はきれんばかりの感性と、蒸すような熱気はひとりの男を求めていた。
「山田!!!」「山田!!!」「山田!!!」
観客は所詮から勝ち進んできた新星山田に夢中になっていた。
暗闇の中から、レフリーが現れる。漆黒の服に身を包んだ彼は、マイクを持った手を高々に上げた。
歓声が最高潮に達する。レフリーはリングアナウンサーも兼任しているのか、スポットライトが当たる。同時にこの会場のボルテージにふさわしい、BGMが鳴った。
「さぁ!お待たせしました!いよいよ決勝戦です!!」
ワァアアアアアアア!!!!
「赤コーナー!初戦からの快勝!!圧勝!!優勝は彼で決まりなのか!??超新星!!!ヤァアアアマァアアダァアア!!!」
紹介とともに、赤コーナーの入り口では花火が吹き出し、選手を盛り上げる。山田は観客に応えるように右手を天に上げた。そして、リングに進む。
後藤が後ろから、山田に声をかける。
「山田さん・・・分かってるとは思いますが・・・」
「大丈夫、わーてるよ」
山田は後藤の方を向くことなく、リングの中に入って行った。
それを確認すると、レフリーはマイクを口元に持って行った。
「青コーナー!!!・・・え!?、はい、はい、わかりました・・・」
どうやら、インカムから指示が入ったらしく、レフリーはその指示に対して相槌をうっている。
山田はその様子をリングのコーナーに腰掛けながら、観察していた。山田の心境を表すように、会場がザワザワ・・・と先ほどの熱狂はなかったかのように、静かになっていった。
レフリーは、この空気を打破すべく、マイクを握る手に力を入れた。
「大変失礼いたしました!!元々の対戦相手ゴンザレス剣山は、体調不良により欠場となりました!」
会場はその報告にザワついた。山田としては、不戦勝の可能性が出てきたので、気が気ではないと言った表情でレフリーを見つめる。
「そ・こ・で!!!慈悲深きお方から救いの手が差し伸ばされたのです!!!」
「は?」
山田はどこかで聞いたことあるフレーズに違和感を感じた。レフリーは顔の部分に手を当ててそれを覆面マスクをとるように外した。
「ここからは!!真白様の下僕!黒井がお送りします!!」
ワァアアアアアアア!!!
会場の感性が上がっていくのに対し、山田の顔色はみるみる下がって行った。
「真白様!!!」「救世主様!!!!」
さすがは裏世界の住人が主な観戦者なだけはある。真白の名前が出た瞬間、熱狂を取り戻したのである。
「青コーナー!!!超絶!絶世!美少女!!戦うアイドル!!星野ォオオオオ!!ピィイイカァアアルゥウウ!!!」
青コーナーの入り口付近の花火が噴き上がる。入場曲には、星野の可愛らしい代表曲が爆音で流れていた。
「光り輝く一番星!ぴかるだよ⭐︎!」
ワァアアアアアアア!!!
星野の登場に会場のボルテージは再び熱気を取り戻した。彼女は声援に応えるように観客席に手を振りながらリングに入る。
山田と星野はリングの真ん中で、見合う形で向き合った。
「星野・・・別件あったんじゃねーのかよ」
「アハ⭐︎別件が早く終わっちゃってぇ〜⭐︎これは追加の依頼だよ〜真白からのね⭐︎」
そういうと、彼女は可愛らしいアイドルから、獅子を縊り殺さんとする闘志へと顔つきが変わった。
山田も戦闘体制をとる。それを確認したのか、黒井が右手を高く上げた。あんなに熱気に包まれいた会場が一瞬静かになる。
それを切るように、黒井の手が上から下に振り落とされた。
「ファイ!!!!」
その声を皮切りに、先に動いたのは山田だった。星野の左膝、内側に渾身の蹴りを入れる。
バチィイイイ
(硬!コンクリ蹴ったのかと思った)
そう判断すると、星野の一撃を避けるため、後ろへ移動し間合いをとる。その刹那、山田の鼻先の星野の拳が落ちて行ったのを感覚的に感じた。
パァン
振り落とされた拳の音が、会場内に響き渡った。その一幕が終わると、実況をしていた男性の興奮した声が闘技場内に響く。
「見ましたか!?今の一瞬の攻防!山田選手の判断力の差で星野選手のデストロイスマッシュを済んでのところで交わしました!!!」
山田は、冷や汗をかきながら星野を見つめる。星野は振り下ろした拳をブラブラと準備体操のように降りながら、首をかしげていた。
「あれ〜⭐︎今の絶対当たったと思ったのに〜⭐︎山田っち流石〜」
「うるせ〜チート筋肉がよ」
星野の賛辞に山田は皮肉を返す。そう、星野は常人の8倍の筋肉密度を持った特異体質である。
一見すると、少し肉付きのいい女性だが、その全てはほとんど筋肉で、普通に殴っただけでもプロボクサーの脳を揺らすほどの威力を出せる。
「アハ⭐︎」
彼女は短く笑うと、再び拳を作り山田に向かって走って行った。山田は、済んでのところで交わす。
当たったリングのポールがミシッ・・・!と音を立てて揺れた。あと一撃くらったら折れそうなくらいだ。
「避けないで・・・よ!」
山田が回避した先の方へ体を回し、もう一発拳を振りかざす。山田はこれもかわした。
「当たったらゲームオーバーなんでな」
山田は体制を直しながら、星野に向き直る。
「とは言ってもぉ〜私に攻撃当てないと勝てないんじゃない〜⭐︎?」
(星野の言う通りだな、どうやって攻撃を当てるか?)
山田が思考していると、第一ラウンド終了のゴングがなった。セコンドにいる後藤の方へ向かうと、後藤は青ざめた顔をしていた。その手には携帯が握られている。
山田の頭は、会場内のはち切れんばかりの熱い歓声とは裏腹に、冷たく滴り落ちる汗と共に冷えて行った。




