救済2 世紀の大泥棒参上! その2
ー下野美術館 周辺ー
周囲は警備員が通常より多く配備されていた。その中に混じって警察の姿もちらほらと見える。
山田は、下野美術館の入り口から少し離れたところにいた。彼は、耳についている通信機に話しかける。
「なんで、こんなに人いんだよ」
山田の小さな呟きの後に、古賀の声が耳から聞こえる。
「なんでも、“泥棒キッズ”が犯行予告状を警察に送っちゃったらしくて、警備が厳重になってるみたいです」
「クソ・・・キッズがよ・・・!!」
泥棒キッズというのは、山田たちが便宜上つけた名前である。
余談だが、本当はコパン3世というのが候補にあった。しかし、ジェットが今までのクールな性格からは信じられないぐらいの剣幕で、否定されたので、この名前になった。
青桐の計画は、まず下見をするために、山田が怪しすぎる格好をして、警察の職質を受ける。警察の注目が山田に向かっている間に、青桐が下見に入るという手筈だ。
だから、山田が全身黒づくめで、日差しは強くないのに、黒いキャップとサングラスをかけているのは、おかしいことではない。
(こんなあからさまな格好で、逆に職質してくるやつなんかいるのか・・・?)
山田が不安になっていると、そんな不安は不要だとばかりに、背後に気配がした。彼はその気配に気づいていたが、素人感を出すためにあえて振り向かなかった。
「君、ちょっといい?」
そう声をかけたのは、捜査一課の犬飼だった。山田は無言で彼を見る。犬飼はスーツの内ポケットから、警察手帳を出した。
「僕、こういうモノなんだけど、質問させてもらってもいいかな?」
犬飼が出した警察手帳が、山田の瞳に映った瞬間。彼は勢いよく走り出した。犬飼は周囲の警察に応援を要請する。
「下野美術館周辺で全身黒づくめの男性が逃走!追跡します!付近の警官に応援を求む!」
そう無線機で伝えると、犬飼はクラウチングスタートのポーズをとり、頭の中でスタートを伝える合図を鳴らした。
(((犬飼が追うんだったら応援いらんだろ・・・)))
応援要請された警官は誰もが思ったが、それを飲み込み、それぞれが了承を告げた。
…
「ハァ・・・ハァ・・・ッあっしはえぇな!!アイツ!!」
山田は全速力で走りながらも、後ろを確認する。約30mの距離を犬飼が追跡してきているのが見える。
山田の耳についている通信機から、声が入る。
『警察のデータベース漁ってきたよ。今、山田さんを追跡しているのは、捜査一課の犬飼って人だね。陸上10種目制覇した陸上の猛者だよ』
「なんで警察やってんだ!!!よ!!」
古賀が町にある防犯カメラの情報から、割り出した追跡者の情報に文句を言いながら、露店の棚を倒す。
犬飼の進路を妨害し、追い付かれないようにするためだ。
山田は人混みを避けながら、障害物を増やし、犬飼の追跡を撒こうとしていた。ただ、彼の目論見は外れた。
犬飼は、障害物をハードルのように飛び越え、障害物走の要領で人混みを避けて走ってきた。
「ウッソだろ!!!」
追跡を撒けたと思って、スピードを緩めた山田は深く後悔した。彼は再び走り出す。
「古賀!!!!どうにかなんねーか!!?」
山田は息を切らせながら走る。古賀がノートパソコンを操作している音が遠くに聞こえる。
『もうちょっと頑張ってください!今ルートを解析します!』
『古賀、足ぐらいなら撃っても大丈夫じゃないか?』
ジェットの声がノートパソコンのタイピング音の奥で聞こえる。
(撃ったらバレるだろーが!!)
山田のツッコミは、脳内に消えていった。彼は声を出してジェットにツッコミを入れる余裕もないほどに、疲弊していた。
遠くで足音と声がする。まるで猟犬が獲物を追い詰めるために、吠えながら山をかけるように。
「そこの黒づくめの人ー!止まりなさいー!」
犬飼はまだ余裕があるのか、息切れせず山田に静止を求めていた。その足音が1秒経つごとに一歩狭まっているのを、山田はひしひしと感じていた。
犬飼以外の警察の包囲網を掻い潜るため、あちこち走り回り、酸欠状態の山田の脳に一筋の光に似た声が聞こえた。
「山田さん!!僕の言う通りに走ってください!頑張れますか!?」
「カッ!!・・・ハァ!・・・おっしゃこい!!!」
山田は喉の奥が血溜まりのような感覚を我慢し、古賀に返答する。
『まず、角を右に曲がってください!立体駐車場が見えるはずです!なんでもいいから、犬飼さんより早く屋上へ出てください!』
「・・・ッ!!ハァ”!!!」
息継ぎなのか、返事なのかわからない山田の返事を聞いた古賀は短く続ける。
『頑張ってください・・・!』
古賀のエールをエネルギーに、地面を蹴り上げる。彼に言われた通りに進むと立体駐車場が見えた。後ろから犬飼の静止を求める声が聞こえる。
山田は迷わず、非常階段の手すりに足をかけてジャンプする。手をかけると、左右に振り子のように動かした反動を使い、ジャンプし上へ登っていく。
犬飼は、そんな山田を地上から眺めていた。すでに10階建ての立体駐車場の4階付近まで登っている。
「SASUK⚫︎かよ・・・!!」
犬飼はそう言うと、立体駐車場の入り口に走って入っていった。
『山田さん気をつけてください。犬飼さんが立体駐車場の車用の坂道を走って登っています』
「体力バケモンかよ・・・!!」
山田は犬飼へ悪態をつくと、非常階段の手すりをうまく使い登っていく。もう8階付近まで来ていた。
耳を澄ますと、犬飼の声が聴こえる。山田は最後の力を使い、残り2階分を上り切る。最上階に着いた山田は、耳にある通信機に声をかけた。
「着いたぞ」
『さすがです。目の前にリモートでロックを施錠したバイクがあります。乗ってください』
古賀のその案内の通りに、バイクを探すとウインカーひとりでに光り、ここだと言わんばりにアピールするバイクがあった。
「あれか!」
山田は急いで駆け寄り、バイクのエンジンをかける。そこに犬飼がやってきた。
「止まれ!!!」
犬飼の静止を振り切るように、バイクのエンジンを噴かしスピードを上げる。
ギュイィイイイイン
「うお!!」
あまりの猛スピードに避けるしかなかった犬飼。彼は、立体駐車場を降りていく、山田の後ろ姿を見るしかなかった。
犬飼は息を整えていると、通話が入る。
「ハァ・・・ハァ・・・すいません。二階堂さん・・・取り逃しました」
『追いかけすぎだ。応援の警官全員おいていくからフォローに入れなかっただろ・・・』
「はい・・・すみません・・・」
犬飼は、怒られた犬のようにしょんぼりした。
…
山田はバイクに乗り、古賀の隠れ家のひとつに合流した。
「お疲れ様でした」
「あぁ、サポートありがとな」
古賀は山田にタオルを渡し、風呂に入るように促す。ジェットは、バラエティ番組を見ているようだ。
「山田、お疲れ」
「ありがとうな、ジェット」
そう言い残し、風呂場に入る。全速力で走った後のシャワーは気持ちがいいと疲労を回復させる山田。シャワーから出ると、青桐がジェットと一緒にバラエティ番組を見ていた。
「おう、青桐、下見はできたか?」
山田の問いに、青桐は細い目を釣り上げてにっこり笑う。
「はい〜おかげさまで。ただ・・・」
「「「???」」」
全員が青桐の懸念点を聞く体制を取る。彼はお茶目に頭をコツンとする。
「泥棒キッズの犯行予告がわかんないので、下見の意味が今の所ないです〜!」
ズコーーーーーーッ
山田は盛大にこけた。古賀やジェットも脱力したのか、少しこけた。
山田は怒りで肩を振るわせながら起き上がる。
「あわ〜山田さん〜怒んないでくださいな〜」
怯える青桐に山田は声を怒りで振るわせながら答える。
「怒ってねーよ。泥棒キッズの犯行予告状がわかればいいんだろ!?」
ジェットはズレたキャップを被り直しながら、山田を見る。
「なんだ、山田、当てがあるのか?」
「あるよ・・・!大アリだよ!いるんだろう!?真白の駒が警察に!」
…
ー警視庁 公安ー
警視庁にある廊下で、スーツをきた女性が電話に出た。
「はい・・・わかりました。お任せください。黒井さん」
そう言うと電話を切る。そして、携帯を胸に当て誰にも聞こえないように、つぶやく。
「全ては、尊き真白様のために・・・」




