騎士試験 謎の力の出現
試験は二時間続いた。
最初に倒れたのはマヤだった。彼女は力を使い果たし、地面に崩れ落ちる。次にシグランが、まだ余力があるふりをしながらも息を切らして座り込んだ。
しかし、イェザンだけは目を閉じたまま、師匠と同じように微動だにせず立ち続けていた。
ラーカンが声を張り上げた。
「時間だ!」
イェザンは静かに目を開け、足を下ろした。その顔には一切の疲労が見えなかった。
マヤは目を見開き、驚きの声を漏らす。
「どうして…疲れていないの?」
シグランは唇を噛み、悔しげに吐き捨てた。
「くそっ…」
ラーカンはイェザンに歩み寄り、肩を叩いてにっこりと微笑んだ。
「よくやったな、坊主。これで最初の実技試験は合格だ。」
そして手を振り上げ、楽しげに叫んだ。
「ご褒美は…俺のおごりで晩飯だ! 街へ行って串肉でも食おうじゃないか!」
マヤは飛び跳ねて喜んだ。
「お肉?! 行きましょう!」
イェザンは照れくさそうに微笑み、シグランは無表情のまま黙っていた。
街の食堂で三人は串肉を食べた。
その夜、イェザンは寝床でようやく実感した。自分はもう孤独ではない…仲間ができたのだ、と。
――翌朝。
イェザンは新しい一日に胸を躍らせ、部屋を整えてから宿を出て食堂へ向かった。
彼はいつもの席に座り、常連の朝食を注文する。待っていると、マヤが笑顔で現れた。
「おはよう、イェザン。」
不意を突かれた彼は顔を上げて答える。
「マヤ…おはよう。」
彼女は向かいに座り、尋ねた。
「よく眠れた?」
「うん、昨日の訓練は楽しかった。」
「私もよ。同じく…ところで、卵は好き? いつも頼んでいるから。」
「うん。」
「私もよ。」
そう言ってマヤは自分の皿を並べ、彼の隣に腰を下ろした。
イェザンは信じられない気持ちで胸を高鳴らせた。マヤがこんなに自然に隣に座っている…。鼓動は速くなるが、平静を装おうと必死だった。
その時、「アミール」が仲間を連れて現れ、嘲るように笑った。
「ここにいたか、落ちこぼれ第三班。」
マヤはうんざりした様子でため息をつく。
「朝から邪魔しないで、アミール。あっちへ行って。」
だがアミールは不機嫌そうに近づいてきた――その瞬間、背後に立ったシグランの冷たい声が響いた。
「どけ、下らない奴…俺の前に立つな。」
アミールは振り返り、シグランの鋭い眼光とぶつかると、思わず一歩後退した。動揺し、震える声で捨て台詞を残して逃げ去る。
「ザラン一族の息子め…俺はこの一族が大嫌いだ。」
マヤは安堵して息をついた。
「ありがとう、シグラン。」
だが彼は顔を背け、冷たく言い放つ。
「勘違いするな。お前らを助けたわけじゃない。あいつが邪魔だっただけだ。お前たちは煩わしい。」
イェザンは黙ってその姿を見つめた。
シグランの強さはただの力ではない――立ち姿からにじみ出る威圧、言葉の重み…その自信が、傲慢なアミールすら怯ませたのだ。
心の奥で、イェザンは痛感した。これが大族ザランの後継者と自分との差なのだ、と。 第二の訓練 ― 鋭い岩
座学の授業を終えると、それぞれの班は自分たちの訓練場所へ向かった。
第三班の三人が森に到着すると、しばらく待たされた末にラーカンがようやく姿を現した。両手をポケットに入れ、のんびり歩いてくる。
彼は眠そうな笑みを浮かべて言った。
「やあ、坊主たち。遅れて悪いな。途中で…つまずいたんだ。」
軽く笑ったが、三人は呆気にとられて見つめた。
マヤは腕を組み、皮肉を込めて言う。
「そんなくだらない言い訳、初めて聞いたわ。」
シグランは眉をひそめて吐き捨てる。
「俺たちを子供扱いしてるのか…ふざけやがって。」
一方イェザンは素直に微笑み、心の中で思った。
(先生はすごい…どこか自分に近い気がする。)
ラーカンは大きな鋭い岩の前に立つと、言葉を続けた。
「今日の訓練は二つ目だ。難しくはない…だが、お前たちの本質を暴くぞ。」
彼は軽やかにその岩に飛び乗り、片足で立つ。両手を合わせ、頭から爪先までまっすぐな姿勢を取る。
「こうだ。たった三十分だ。やってみろ。」
マヤは目を見開く。
「こんな岩の上で?! 無理よ、こんな姿勢で立つなんて!」
ラーカンは笑みを浮かべて答えた。
「それが訓練だ。必要なのは岩じゃない、自分自身の制御だ。」
そして彼は岩から降り、手をひらひらさせながら言った。
「二時間後に戻る。それまでに会得しておけ。健闘を祈る。」
そう言い残し、木々の間に姿を消した。残された三人は顔を見合わせ、呆然とする。
挑戦の始まり
最初に登ったのはシグランだった。彼は自信に満ちた足取りで岩に立ち、足裏に気を集中させると、微動だにせず直立した。
マヤは軽く拍手して声をかける。
「すごいわ、シグラン! 本当に立てるなんて!」
だが彼は冷たい視線を返すだけで、何も言わなかった。
次にマヤが恐る恐る登る。目を閉じて息を整える。
「集中しなきゃ…気を…足の裏に…つま先まで流して…」
少し揺れたが、やがて体が安定した。彼女は深呼吸して笑みを浮かべる。
「できた!」
一方イェザンは二人を見つめ、胸が高鳴った。
(また失敗するのか…? あのシャーメルの器の時のように…)
緊張が胸を締め付ける。
彼は勇気を出して登ったが、すぐに大きく揺れて転げ落ちた。
マヤは励ますように微笑んだ。
「足の裏に気を集めて! 怖がらないで…もう一度!」
その言葉に温かさを感じ、イェザンは奮い立つ。再び岩に登り、集中する。
だが――次の瞬間、彼の体から凄まじい気が迸り、足元へと流れ込んだ。
岩は爆ぜ、無数の破片となって吹き飛んだ!
イェザンは地面に落ち、目を見開いて呆然と周囲を見渡した。
シグランが叫ぶ。
「ありえない! どうしてこんな莫大な気を放出できるんだ?!」
マヤも息を呑む。
「これは普通の気じゃない…一体、何なの?!」 第三日目 ― 騎士試験の告知
生徒たちは教室に整然と座っていた。静かな空気を破り、ナシーム・カザミ教師が数冊の本を抱えて入室する。
彼は一人一人を見渡し、穏やかだが力強い声で告げた。
「諸君……大切な時が迫っている。A級騎士試験が間もなく始まる。
世界中の帝国から精鋭の生徒たちが集う。成功すれば、この学園での地位だけでなく、騎士として一段階上の階位へ昇格できるのだ。」
ざわめきが広がり、瞳は熱を帯びた。
カグチ・ライドが誇らしげに声を上げる。
「我らは学園一のチームだ。世界でも一番になる! 誰にも邪魔はさせない!」
リクザ・アミルが冷笑を浮かべて応じた。
「夢でも見てろ。皆知っているさ、頂点に立つのはチーム2だとな。俺たちの力はお前らとは比べ物にならない。」
空気は一気に険悪になり、今にも爆発しそうになる。だがナシームは鋭い声で一喝した。
「静かに!」
一瞬で静寂が戻る。だが、第三チームのシグランが不遜に言い放った。
「お前たちは全員道化だ。頂点は我々のものだ。」
ライドとアミルの怒りが燃え上がる。しかし再びナシームが抑えた。
「やめろ! 決着は言葉ではなく、試験の場でつけるのだ。」
その後方でイェザンは黙って耳を傾けていた。心臓は高鳴り、胸の奥で呟く。
(大きな試練が待っている……期待を裏切るわけにはいかない。)
マヤが手を挙げ、真剣な眼差しで尋ねた。
「先生……でも、その試験はどんなものなのですか? どうやって自分を証明すれば?」
ナシームは穏やかに笑みを浮かべた。
「いい質問だ、マヤ。耳を傾けるだけでは力にはならない。好奇心と理解こそが強さの始まりだ。」
彼は一歩前に出て説明した。
「試験は知恵と速さ、そしてチームの連携を試す挑戦だ。各チームには番号入りのカードが与えられる。
だが同じ番号のカードが、対戦相手のチームにも渡される。お前たちの任務は三つだ。
一つ、己のカードを守ること。
二つ、相手チームが持つもう一枚のカードを奪うこと。
三つ、両方のカードを携えて塔の頂上に到達すること。
それを成し遂げて初めて合格とみなされる。」
教室は緊張に包まれた。誰もが顔を見合わせ、ある者は昂ぶり、ある者は不安を隠せない。
ナシームは言葉を締めくくった。
「忘れるな。これは単なる速さの競争ではない。知恵と力と忍耐を試す戦いだ。守りと攻めを見極められる者が、勝者となる。」