光
馬の背にて
三人は、麦畑と小さな村々が点在する土道を、風を切りながら駆け抜けていた。
晴れ渡る空の下、風は強く、馬のたてがみが激しく揺れる。
イザンはセイグランの後ろにしがみつき、まるで命綱にすがるようだった。
セイグラン:
「くそっ! そんな掴み方するな! 尻尾の方を掴め!」
イザン(怯えながら):
「な、なに!? 無理だ! 滑るんだよ!」
セイグランは大きくため息をつく。
セイグラン:
「本当に使えねぇな。馬の乗り方すら知らないのか?」
イザン:
「だ、だって……乗ったことあるのはロバだけだし……」
マヤが堪えきれず吹き出し、口を押さえながら笑う。
セイグラン:
「ロバ? まあ、見た目もあんまり変わらねぇけどな。」
イザン:
「じゃあ、君たちは? なんでそんな余裕なんだよ?」
セイグラン:
「こんなの常識だろ!」
マヤ:
「帝国騎士の基本よ。どの一族も、小さい頃から訓練を受けるの。」
イザン(静かに、素直に微笑む):
「僕は……どの一族にも属していない。ただの普通の人間だよ。」
その言葉に、マヤは一瞬だけ彼を見つめた。
素直すぎるその表情に、胸が少しだけ揺れる。
セイグランは気まずそうに視線をそらした。
マヤ:
「鞄の反応は……北ね。行きましょう。」
タジル ― 森林の中心、戦場
村は深い森の端に位置していた。
だが今は、炎と叫びと煙が渦巻く“地獄”と化している。
裂けた木々、舞う灰、影のように木々の間を走る不気味な存在。
アナスがアミールの首を掴むルーカスへと突進する。
黒い〈影剣〉が振り下ろされ、衝撃波が背後の巨木を真っ二つに裂いた。
ルーカスは紙一重で回避する。
アドナン(叫ぶ):
「アナス! こっちだ! この糸を切れ! 締め付けられてる!」
イヴリンの瞳が大きく開く。
アナスの手にあるその剣を見て、血の気が引いた。
イヴリン:
「まずい……その剣なら、私の糸なんて簡単に切られる……!」
クラーラが木の根を跳ね上げてイヴリンをかばう。
クラーラ:
「その剣……嫌な気配ね。交換しましょう。
あなたはあれを担当して。私は隊長をやる。」
イヴリン:
「でも……あいつは危険よ! あなたじゃ——」
クラーラ(強い声で):
「大丈夫。血を吸わせる。」
イヴリンは凍りついた。
イヴリン:
「ロゼッタを……!? 禁断の〈血花〉を使うつもり!?」
内なる語り:ロゼッタの説明
「クラーラの血には“ロゼッタ”の種が眠っている。
人の血を糧に芽吹き、やがて生命を求めて根を伸ばす、禁忌の花だ。」
イヴリン:
「危険すぎる……あなたが壊れる……!」
クラーラ:
「構わない……任務が先よ。」
アドナン ― ロゼッタの罠
大地が赤く脈動し、木の根がアドナンの足へと絡みつく。
次の瞬間、暗紅色の根が足→脚→胸→首へと巻きつき、棘が皮膚に食い込む。
アドナン(息を漏らしながら):
「くっ……血を吸われてる……意識が……遠い……」
アナスがクラーラへ迫り、三本の影剣が彼の周囲に浮かび上がる。
クラーラの瞳が一瞬だけ揺れる。
そして——
アナスの動きが突然、止まった。
ルーカス:
「ハハッ! 俺を忘れるなよ?」
アナスの背中には無数の〈セラフィル〉毒針。
そのまま崩れ落ちる。
イヴリン:
「やったわ、ルーカス!」
クラーラ:
「一人、終わり。」
アミールは自分の痺れた足を見下ろし震える。
アミール:
「一本の針で……こんな……
じゃあアナスは……?」
ルーカス:
「次はお前だ。」
光の瞬間 — ナダ
沈黙の中、ナダの指がわずかに動いた。
ルーカスはアミールにとどめを刺すべく歩み寄る。
アドナンは血花の根に締め付けられ、意識が薄れていく。
その瞬間——
一点から光が弾けた。
森全体を飲み込み、闇を裂く。
眩さに全員が目を伏せる。
光がゆっくり収まったとき——
中心に立っていたのは、目を開いたナダだった。
アドナン:
「ナダ! 逃げろ! ここは……危険だ!」
だが彼女は動かない。
恐怖もなかった。
別の場所 — アズロンとスカイ、海岸にて
砂浜。荒波が岩に砕ける音だけが響く。
アズロンが突然足を止め、険しい顔で海を見つめた。
アズロン:
「スカイ……感じるか?」
スカイは震え、虚ろな目で呟く。
スカイ:
「この気配……知っている……
恐ろしく……そして速い……!」
アズロン:
「構えろ。技を使え!」
だがスカイは恐怖で足がすくみ、一歩も動けない。
砂浜に巨大な影が落ちる。
誰かが、ゆっくりと歩いて来る。
アズロンはその姿を見て、息を呑んだ。
アズロン:
「……お前か。」
章の終わり
光の一族の娘——ナダが覚醒した。
タジルの未来は大きく揺れ動き始める。
マヤ、セイグラン、イザンは森へと近づき——
そして、
ブラックドーンの首領と副官スカイの前に現れた、
あの恐るべき“気配の主”とは誰なのか?




