アミールの過去と雷の閃光
巨大な火山爆発を放ち、カグラ騎士団を吹き飛ばしたアドナン。
一瞬、戦いは終わったかに見えた――
だが、クララだけは“違和感”に気づいていた。
彼女の巨木が爆発を包み込み、仲間を守り、戦況を完全に覆したのだ。
――そして今。
アドナンは窮地に立たされていた。
イヴリンの蜘蛛糸が、彼の身体を完全に拘束する。
“蜘蛛の女王” イヴリン:
「あなたはもう、私のものよ……ふふ。」
アドナン(余裕の笑み):
「どうかな。」
背後では――
アミール:
「ナダ……アナス……お願いだ、目を覚ましてくれ……」
ルーカス(嘲笑):
「おい、雷の坊ちゃん。さっきまで偉そうだったよな? 今こそ見せてみろよ。」
仲間二人を見下ろし、拘束されたアドナンを見るアミールは――
一歩、後ずさる。
三人の敵を前にして、
完全な“孤独” を感じてしまったのだ。
そして――
✦ 回想 —— アミールの過去
幼い頃から、アミールは自分の影すら怖がる少年だった。
だが家族や友人の前では、常に“勇敢な仮面”を被っていた。
彼はリコーザ一族の名門に生まれた。
その家は――
傲慢
強い選民意識
清潔と見た目への異常なこだわり
常に貴族服
戦いを嫌い、庶民を避ける
そんな環境。
アミールは、部屋の灯りが消えるだけで眠れないほどの“闇恐怖症”。
もちろん誰にも言えなかった。
ある雨の夜――
突風で蝋燭がすべて消えた。
アミールは凍り付き、震えながら部屋の隅で縮こまる。
そのとき――控えめなノック。
「坊ちゃま……入ってもよろしいですか?」
優しい女性の声。
返事ができない。
怖くて声が出なかった。
「……アミール?」
必死に声を絞り出す。
「入って……明かりをつけてくれ……」
入ってきたのは、18歳の侍女・リナ。
油壺を持ち、静かに灯りをともす。
縮こまるアミールを見ても何も言わず、そっと去っていった。
翌朝。
アミールは食事中、視線を合わせることもできない。
母:
「どうしたの? 疲れているみたいね。」
アミール:
「だいじょうぶ……母さん。」
そこへ入ってくるリナ。
彼へ向けた、あの優しい微笑み。
その瞬間、
アミールの鼓動はふっと静まった。
後で、庭で水やりをするリナを見つけ、勇気を振り絞る。
アミール:
「どうして……昨日のこと、誰にも言わなかったんだ?」
リナ(穏やかに):
「私は皆さまが安心して過ごせるようにお仕えしています。
秘密を広めるためにいるわけではありません。」
その言葉は、
アミールの心の奥に強く響いた。
それから彼は彼女を特別に扱い、
“坊ちゃま”ではなく**「アミール」**と呼ぶよう頼んだ。
しかし――
その関係を快く思わない一族は、
密かにリナの追放を決めた。
雨の夜。
荷物を抱えて屋敷を去るリナ。
アミールの部屋の灯りを見上げ、涙を浮かべて呟く。
「あなたにお仕えできて……本当に幸せでした。ありがとう。」
そして去っていった。
翌朝。
アミール:
「リナはどこ?」
母:
「実家に帰ったわ。」
父(冷たく):
「もう戻らん。二度と名前を出すな。」
テーブルを叩く音。
怯えて縮こまるアミール。
その日を境に――
彼は“傲慢”という仮面を身につけた。
自分を守るためだけの鎧だった。
✦ 現在へ戻る
アミールの頬を伝う涙が地面に落ちる前に――
彼の姿はふっと消えた。
次の瞬間、ルーカスの真下へ。
ルーカス(驚愕):
「なっ……いつの間に!?」
雷をまとった拳が直撃し、
ルーカスは巨木に叩きつけられ、木が粉々に砕け散る。
イヴリンとクララが息を呑む。
アドナン(小声):
「よくやった……だが、まだ足りん。
この糸から抜け出す方法を……」
✦ 一方その頃 —— 滝のそば
修行を終え――
シャーメル:
「いいか、ヤズン。最初に暴走した時、お前は“青龍花”で助かったんだ。」
ヤズン:
「はい……とても珍しい薬だと聞きました。」
シャーメル:
「人の体には“氣の門”が七つある。
調和して流れればいいが……暴れれば門が閉じて崩壊する。
前のお前がそうだった。」
真剣に頷くヤズン。
シャーメル(心の声):
(半分くらいしか理解してねぇな……)
シャーメル:
「二度目に助かったのは、三年成長したこと、鍛えたこと、そして戦いすぎなかったことだ。」
ヤズン(キラキラ):
「師匠! もっと強くなります!」
シャーメル:
「よし、都に戻るぞ。」
✦ 再びアミールの戦い
クララ(衝撃):
「どうしてこんな速度と力が……!?」
イヴリン:
「ほんとに……アルマザの騎士って底なしね。
隊長を焼いて遊んだと思ったら、今度はこれ?
……まあいいわ。“先生”に任せ――」
操糸の指を動かす。
だが、糸は動かない。
イヴリン:
「は? なんで……動かないの……?」
振り返ると――
アドナンが微笑んでいた。
アドナン:
「ふっ……」
イヴリン(震える声):
「まさか……足に重心を全て……!?
この体重で動かせないように固定して……!?
嘘でしょ……!」
ルーカスが怒り狂って立ち上がる。
ルーカス:
「てめぇ……ぶっ潰す!!」
アミールは少し下がり、倒れた仲間に叫ぶ。
アミール:
「アナス! ナダ! 起きてくれ!!」
✦ 王都
病院に駆け込むヤズン。
ラカンの部屋をノックすると、マヤが出てくる。
マヤ:
「いらっしゃい、ヤズン。」
ヤズン:
「師匠は……大丈夫ですか?」
ラカンはヤズンを見て驚く。
ラカン(心の声):
(外見が……変わっている。
シャーメルは何をした……?)
ラカン:
「心配ない。すぐ退院できる。」
そのとき――
廊下の奥から、弱いが濃密な“気配”が近づく。
ラカンは即座に立ち上がる。
扉を開けるヤズン。
現れたのは――シグラン。
しかし以前とはまるで違った。
圧倒的な力をまとい、雰囲気すら変わっている。
ラカン(戦慄):
「こ、これは……強すぎる……
ハーマン……お前、何をした……?」
ヤズンは微笑む。
ヤズン:
「シグラン……前よりずっと強くなってるね。」
マヤは目を丸くして呟く。
マヤ:
「シグラン……こんなに……
前よりずっと魅力的になって……」




