拒否された勝利
帝国騎士学校の試験場に立つヤザン。
観客の嘲笑、血と汗にまみれた戦い――だがその瞬間、隠された力がついに目を覚ます。
校長は立ち上がり、秘書のアマルに命じた。
「少年をすぐに試験会場へ連れて行け。」
シャーミルはヤザンに静かで威厳のある声で言った。
「ここからが本当の試練だ。忘れるな…決して諦めるな。これが我々の最後の出会いとなるだろう。」
ヤザンは動揺した。
「最後の出会い?どうしてですか?」
「そうだ…しばらくの間、二度と会うことはない。」
ヤザンの目に涙が浮かんだが、シャーミルはすぐに拭い取り、厳しく言った。
「弱さを見せるな。二度と泣くな。」
ヤザンは強く抱きついたが、シャーミルは沈黙を守った。やがてアマルが少年を試験会場へ連れて行った。
予期せぬ参加
到着すると、係員が立ち塞がった。
「名簿はすでに埋まっている。新しい参加者は追加できない。」
その時、別の係員が駆け込んできた。
「参加者の一人が気絶して、戦えなくなった!」
全員が一瞬黙り、最初の係員はヤザンを見て嘲笑した。
「偶然か、運命か?…いいだろう。代わりに出てもらう。」
「名前は?」と尋ねられ、ヤザンは一瞬ためらったが、シャーミルの言葉を思い出し、顔を上げて言った。
「俺の名は…ファドゥスだ。」
係員は眉をひそめた。
「ファドゥス?そんな一族は聞いたことがない。」
だが、アマルは不安そうに小声で呟いた。
「“影の将軍”は彼を甥だと言ったけれど…何かがおかしい。」
参加者控室
ヤザンが控室に入ると、数十の視線が一斉に彼に注がれた。居心地の悪さに座り込むと、鋭い眼差しをした美しい少年が彼を見下ろした。その後ろには、堂々とした気配を放つ美しい少女が立っており、ヤザンの心臓が高鳴った。
突然、扉が開き、係員が告げた。
「参加者よ!観客に挨拶する準備をしろ!」
試験場
参加者たちは一人ずつ巨大な闘技場へ歩み出た。数千人の観客が押し寄せ、声援が響き渡る。ヤザンの足は震え、まともに歩けなかった。
審判が中央に立ち、声を張り上げた。
「第一戦…シグラン・ラザン!」
観客席が歓声で揺れた。
「ラザン一族の者だ!」
だが、ヤザンの心臓は凍りついた。
「ラザン…?父と同じ一族…?もしかして親戚なのか?」
審判は続けた。
「対戦相手は…ファドゥス・ヤザン!」
会場は一瞬静まり返り、その後ざわめきが起きた。
「ファドゥス?そんな一族は聞いたことがない!」
「ただの弱い小僧だろう。」
戦い
二人は闘技場に立った。審判が規則を説明する。
「降参したら試合終了。武器の使用は禁止。違反すれば即失格。」
「構え…始め!」
ヤザンは固まり、一歩も動けなかった。シグランは素早く突進し、軽く一撃で彼を倒した。冷笑して言った。
「退屈な戦いだ。すぐに終わらせてやる。」
ヤザンは苦しみながら立ち上がったが、再び倒された。それでも何度も立ち上がり続けた。
シグランは苛立ちながら叫んだ。
「なぜ降参しない?弱虫め!」
審判すら驚いて呟いた。
「信じられん…この少年の耐久力は尋常ではない。」
怒りを募らせたシグランは炎の球を生み出した。観客が叫ぶ。
「ラザン一族の炎だ!」
「もう終わりだ!」
ヤザンは恐怖で震えたが、訓練を思い出した。器、力を引き出そうとした瞬間、体内から謎の力が流れ出し、透明なオーラが彼を包んだ。
シグランの炎が襲いかかったが、ヤザンは焼かれなかった!
観客席からマヤが叫んだ。
「見た!オーラが彼を守った!」
審判も叫んだ。
「内なる力で自らを守ったのか!」
シグランは冷たく言い捨てた。
「つまらん。訓練用の人形と戦っているようだ…俺は棄権する。」
観客は騒然としたが、審判は宣言した。
「勝者…ファドゥス・ヤザン!」
衝撃
ヤザンは傷だらけで息を切らしながら立ち尽くした。審判の声が再び響いた。
「勝者は…ファドゥス・ヤザン!」
だが歓声はなく、観客の叫びが突き刺さった。
「不公平だ!」
「どうしてあの得体の知れない奴が勝つんだ!」
「最初から追い出すべきだった!」
参加者たちすら軽蔑の眼差しを向けて囁いた。
「“ファドゥス一族”?聞いたこともない。」
「騎士の舞台に立つ資格はない。」
ヤザンは地面が崩れるような感覚に襲われた。勝ったはずなのに、その勝利は拒絶された。
思い出したのは村での囁き、軽蔑の視線、「呪われた子」と呼ばれ続けた日々。
そして今、帝国の中心でもなお、彼は“異端者”のままだった。
心が震え、衝撃は傷よりも重く彼を押し潰した。