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イザン:血の継承  作者: Salhi smail


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48/75

氷の叫び

別の場所――タジール村の任務の最中。

アドナンと仲間たちは村へと向かっていた。村に入ると、住民たちは次々に戸を閉ざし、彼らを避けるように姿を隠した。


アドナンは低く強い声で言った。

「我々からそんなに長く隠し通せると思うな。助けに来たのだ。」


彼は戸を叩いた。

中から男が顔を出す。

「はい、騎士殿。何のご用でしょうか?」


アドナンは真剣な眼差しで答える。

「ここで何が起きているのか話してもらおう。私は監察局の命を受けて来た。帝国があなた方の安全を守るために送った者だ。」


男は皮肉な笑みを浮かべた。

「安全を守る?どの口が言うんだ。」


アドナンが詰め寄る。

「では、真実を話せ。」


男は静かに言い、戸を閉ざした。

「何も知らん。何もだ。」


アミールが苛立った声を上げる。

「ちっ、何なんだあいつら。俺たちは奴らのために来たんだぞ。あんな連中、抑えつけてこそ分かるんだ。」


アドナンは振り返り、厳しく言い放つ。

「アミール、そんな言い方をするな。人を見下すな。我々は皆、人間だ。違うのは力ではなく、心と行いだ。人との接し方こそが大事だ。」


ナダが口を開く。

「でも先生、あんな態度を取られても……私たちは彼らを助けに来たのに。」


アドナンは短く息を吐いた。

「理由があるのだろう。別の家を訪ねてみよう。」


その時、アナスが反論する。

「だが話したがらない者に何を言っても無駄だ。時間の浪費だ。俺たちは騎士だ。力で従わせても法には反しない。」


アドナンは彼をじっと見つめ、静かに微笑んだ。

「確かに、力で従わせる権利はある。だがその法の中にも、民を苦しめる条がある。それを許す気はない。暴力で秩序を作ることは、秩序ではない。」


アナスが首を傾げる。

「なぜそこまで言い切れるのですか、先生?」


アドナンは遠くの城を思い出すように言った。

「彼らはかつて酷い圧政を受けたのだ。――あのロック・リコマの城で見た贅沢ぶりを思い出せ。『宮殿が黄金で飾られる時、民の小屋には涙が満ちる』――それが現実だ。」


アナスは黙り込み、考え込むように視線を落とした。


彼らは次の家の戸を叩いた。出てきたのは、かつてアドナンが息子を救った男だった。

中に通されると、母親が暗い表情で藁の人形を抱いていた。彼女は慌ててそれを隠したが、アドナンは気づいていた。


「何か伝えたいことがあるなら、今のうちに。」


父親が焦ったように声を上げる。

「黙れ、それ以上は子どもたちが危ない!」


だが母親が震える声でつぶやいた。

「……森の外れに、工房があると噂されています……シェムラの方に。」


アドナンは静かに頷き、外を見やった。

「……監視されている。家族を守るために、怒っているふりをするぞ。」


彼は戸を強く閉め、外で怒鳴った。

「まったく、こんな村など見捨てて帰るべきだな!」


アミールが小声で尋ねる。

「先生、誰が見ているんです?」


「知らぬふりをしろ。――工房で見たように動くな。」


森の影で、監視者たちの視線が動いた。

ロック・リコマ直属の兵たちだった。


アドナンは進路を変え、突然北の方角へ向かった。

彼の瞳には決意が宿っていた。


――場面は変わる。


ワーイルがアスマを救い出す。

地面に倒れた彼女は、立ち尽くすワーイルを見上げ、かすかに微笑んだ。


「あなた、いつも危険を避けていたのに……今は恐怖を越えてる。」

「……ありがとう。」


ワーイルの脚は震えていたが、顔には出さなかった。彼は涙をこらえながら言う。

「ごめん……僕は臆病者だ。君を置いて逃げた。」

「もういいの、ワーイル。今、あなたがここにいるだけで十分。」


その時、背後から荒い声が響いた。

「裏切るとはな、若造!」――ドライが現れる。


ワーイルは呟いた。

「……戦うのか? 人なのか、怪物なのか……あの爪は……。」


フィクスが叫ぶ。

「このままじゃ騎士たちが集まる!潰して隠れるぞ!」


ドライが一歩踏み出す。

「もういい、俺が片をつける!」


「片をつける……僕たちを?」


返事を待たず、ドライは突撃した。

「まずはお前からだ!」


コルが舌打ちする。

「ちっ、全部自分の手柄にする気か、欲深い奴め!」


ワーイルは動けない。

「どうすれば……!もう来る!」


アスマが叫ぶ。

「ワーイル、逃げて!」


ワーイルは叫びながら氷の弾を乱射した。

だがドライはすべてをかわし、目前に迫る。


「終わりだ!」


爪が胸を裂き、ワーイルは倒れ込む。血が滲み、恐怖に震える。

「血……血が……!」


ドライは笑う。

「ハハハ、臆病者め。少しの傷で怯えるとは。」


その瞬間、彼の脳裏に過去が蘇る。

――幼い日、兄マージドと庭で遊んでいた。

転んだマージドの口から血が溢れ、家に運ばれた。

医師は冷たく言った。

「もう助からん。時間の問題だ。」

母は泣き崩れ、父は壁を拳で砕いた。

数日後、兄は息を引き取る。

幼いワーイルは泣きながら叫んだ。

「兄さん……起きて……一緒に遊ぼうよ!」


――現在。


ドライが倒れたワーイルに爪を振り下ろす。

アスマが悲鳴を上げる。

その刹那、声が聞こえた。


「負けるな、ワーイル……生きろ。俺の夢も、お前と共に――。」


兄の声だ。


ワーイルが目を見開き、咆哮を上げる。

その瞬間、凍気が爆発し、ドライを一瞬で氷漬けにした。


全員が言葉を失う。


アスマが震えながら言う。

「ワーイル……この力、どこから……?」


フィクスが歯噛みする。

「凄まじい氷の力だ……!」

コルも青ざめる。

「まさか……。」


その頃、アルダが遠くで異様な寒気を感じ取った。

「……この冷気、まさかワーイルか……!」

彼は駆け出した。


「何が起きている……急がねば!」――ライドも走る。


凍りついたドライを前に、ワーイルはただ呆然と立ち尽くしていた。


「くそっ、ドライの奴、使えん!」フィクスが唸る。

「アーマズの騎士たちは化け物か……逃げた方がいい!」コルが後ずさる。

「黙れ臆病者!見ろ、奴はもう立つのもやっとだ。今が好機だ!」


フィクスの体が硬化し、額から角が突き出た。

コルの腕は鋸のように変形する。

「俺が女をやる。お前は男だ!」


二人が突進――その瞬間、アルダが現れ、フィクスを殴り飛ばす。

巨木が砕け、フィクスが吹き飛ぶ。


逆側からライドが飛び出し、コルを蹴り倒した。 ――こうして、第48章は幕を閉じた。

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