危機が目覚める時
戦いの灰がまだ空を覆い、灰色の雨が静かに降り続けていた。
イザンは膝をつき、反応しないマイヤを抱きしめていた。
彼女の体のまわりから、かすかな光の残滓がゆっくりと流れ出している。
一方、アルダとラエドはまだ意識を失ったまま。
風のうめき以外に、動くものは何もなかった。
イザンはマイヤの胸に手を当て、かすれた声でつぶやく。
「感じる…鼓動がある! 彼女の心臓はまだ生きている…」
涙が頬を伝い、微笑みが浮かぶ。
「そうだ…まだ、鼓動している。」
遠くで、やっと立っているラーカンが叫んだ。
「いいか…今すぐマイヤを連れて逃げろ!」
イザンは戸惑いの表情で彼を見る。
「どうしてこんな状況で皆を置いていけるんだ? 君やシグラン…みんなを…」
ラーカンは疲れた声で叱りつける。
「まったく、頑固な奴だ。イザン! 教えただろう、任務を完遂することが最優先だ!
今のお前の任務は、マイヤを連れて逃げることだ!」
イザンは拳を強く握り、沈黙したまま立ち上がる。
だが、その瞬間、冷たい声が空気を切った。
「終わりの時だ…貴様ら全員、永遠に消えろ。」
アルゾンが静かに歩み出る。
立っているのもやっとのラーカンが彼を迎え撃った。
強烈な一撃がラーカンの腹を貫き、二歩、三歩と後退させ、血を吐かせる。
「ラーカン!!」
イザンが叫ぶ。
彼は師の苦しむ姿を見つめ、倒れた仲間たちへと視線を移す。
生きている者が誰なのかも分からない。
ただ、マイヤのかすかな呼吸だけが確かだった。
アルゾンが冷ややかに歩を進める。
「まだ立っているのはお前だけか。運がいいな…いや、臆病者か。
初めて会った時の拳、覚えているか? 今度こそ恩を返してやる——お前の命を終わらせてな。」
光を宿した手を高く掲げ、ラーカンへ向ける。
血がイザンの顔に飛び散り、怒りが彼の中で爆ぜる。
——その頃。
ワエルは森の中を走っていた。
顔は蒼白、息は荒く、目は恐怖に染まっている。
アルマザの都へたどり着くと、衛兵たちが叫んだ。
「止まれ! どうした!?」
ワエルは泣きながら息を切らす。
「死が…地獄が来る…援軍を! 部隊が全滅しかけている!」
兵たちは言葉を失い、報告はすぐにハーマンの元へ届く。
彼は机を叩きつけて怒鳴った。
「何だと? 第三部隊が全滅だと!? くそっ…ブラックドーンを甘く見すぎた! 急げ!」
「誰が報告した!?」
「彼です、閣下!」
「今、彼らはどこにいる!?」
「…辿り着けませんでした。敵は…強すぎます。突然、姿を消しました…」
兵士たちは互いに顔を見合わせる。
「そんな…一瞬で? あり得ない…」
ハーマンは一言も発せず、雷のような速さで森の中へ消えていった。
「すぐに部隊を編成しろ!!」
その瞬間——
黒衣に白髪の男が森の奥を静かに進んでいた。
彼もまた、あの戦場へと向かっていた。
——戦場へ戻る。
ラーカンはイザンをかばい、光の槍に貫かれた。
苦笑いを浮かべながらつぶやく。
「まったく…お前はいつだって頑固だな…」
地面に倒れるが、まだ意識は残っている。
イザンはその姿を見つめ、脳裏に祖父マルワンが身を挺して守った記憶が蘇る。
その瞬間、何かが彼の内で弾けた。
白い煙が体から立ち昇り、赤黒い光と闇が混じり合う。
空気が震え、木々が悲鳴を上げ、地面が揺れた。
その目は——地獄のように赤く染まっていた。
「なっ…何だ、これは!?」
アルゾンの声が震える。
次の瞬間、彼の腕が音もなく吹き飛んでいた。
絶叫が煙の中を貫く。
その様子を見たスカイが目を見開く。
「まさか…こんな姿に…!」
彼は時空の力を使って逃げ出し、腕を失ったアルゾンを掴んで消えた。
——イザンは無意識のままラーカンのもとへ歩み寄る。
地面に倒れた師を片手で掴み上げ、その喉を締め上げる。
血が流れ、ラーカンが苦しげに声を絞り出す。
「イザン…俺だ、ラーカンだ…師匠だ…!」
だがイザンの瞳に理性はなく、ただ闇が支配していた。
指がさらに食い込み、ラーカンの呼吸が途切れかける。
その瞬間——
異様な力の波動を感じ、ハーマンが稲妻のような速さで戦場へ向かう。
「この気配…まさか…!」
そして反対側から、白髪の黒衣の男もまた、静かにその地獄へと歩を進めていた。
読者の皆さんへ:
この後、誰が先にたどり着くのか?
ハーマンがイザンの秘めた力の正体を暴くのか?
それとも、白髪の黒衣の男が最後の瞬間に現れ、全てを変えるのか?
次回——『光と闇が交わる時』




